ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode two

7

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 流星が拳銃をしまうと、星川はまたすとん、とその廊下に座り込んだ。

 どうやら、本気で入学式に出る気はないらしい。

 溜め息を吐いて流星は星川の隣に座り、両手を後ろに付いて空を見上げた。

「ひまだなー」
「…出てくりゃぁいいじゃん」
「いや、別にいいや。確かに宗教臭ぇもん、あーゆーの」
「知らねぇよ?怒られちゃうからね」
「お前が言えた口かよ」
「まぁなー」

 お互いがお互いに思ったのは、シンプルに『こいつ、変なやつ』。
 しかしやることがない。サボるとは案外暇である。

 だが、どうやら隣にいる星川潤はそうでもないらしい。ぼんやりと考え事をして、暇そうに廊下に寝転んでみたりしている。

「あそうだ」
「なに」
「あんた名前は?なんで俺の名前知ってんの?」

 ぼんやりした口調のわりに星川の視線は攻撃的だった。

なんだろう、こいつは何かに似ている気がする。

「壽美田流星。教官に星川潤を呼んでこいって言われたんだよ」
「ふーん。ご苦労なこった」
「ホントだよ。来たら絡まれてるしなんなんだ」
「仕方ないだろー。血気盛んなんだよ、まだ10代だから」
「あっそ」

 つれないわりにちょいちょいこう…なんか懐いている訳じゃないがつついてくる感じ。この感覚は何かで覚えがある。

「りゅうせいは、流れ星?」
「そうだよ」
「ドキュンネームかよ」
「は?」
「え?なに?ジェネレーションギャップ?」
「うるせぇ。そんなに違わないだろ」
「いや、19と20の一年はパナいって知り合いが言ってた。まぁ俺17だけどね」
「若っ。今年18?」
「そゆことー。まだお酒もタバコもダメなのー。18禁もダメよ」
「マジか。ぱねぇ」
「だよねー。しかも大体幼く見られちゃうのー」
「確かに。15歳くらいに見えるな」
「ショタコンにおすすめだよ」
「お前ってバカなの?」
「うるせぇ。あんたもわりかし童顔だろ」
「うるせぇ。散々言われて振られまくったわ」
「やーい童貞」
「殺すぞクソガキ。残念ながらわりと遊んでんだよ」
「あー、まぁ男前だよねー」

わかったぞこの靡きかた。

「お前、猫っぽいな」

 そう言うと星川は途端に息を詰まらせる。こんな洋画みたいな反応するヤツ、日本にいたのかと流星が感心していると、「は?あんた何?」と、怪訝そうな顔で星川は言ってくる。

「もしやそっち系?」
「は?何が?」
「違うの?」
「だから何が?」
「え、それ素なの?」
「だから何がなんだよ」
「マジかよぱねぇ!世間知らず過ぎんだろ!」
「あ?なんでお前に言われんの?」
「くっ…おもろい…!」

 そして星川は何故か腹を抱えて笑い出した。
てかおもろいって。

 流星のきょとんとした顔にまた笑い出す星川。いい加減腹が立つ。
 …さっきセンパイが言っていたが、意外とこいつ可愛らしい顔をしてんなぁ。とぼんやりと流星は思った。

「あわよくばちょっと遊んでやろうかと思ったけどやめた。あんた純粋そう」
「そうでもねぇよ。純粋なら今頃おとなしく出てるよ」
「…なんで警官になるの?」
「あ?」
「いや、普通はなんでかなと思って。参考までに」

 考えてみる。
なんでだろう。

「サブマシンガン」
「は?」
「サブマシンガンを持った背中が忘れられないから」

 ふと流星の頭にぼんやり浮かんだ答えはそれだった。

「それってさ、警察じゃなくない?」
「うん、多分違うな」
「はーおもろっ」
「お前は?どう考えても警察の厄介になる側だろ」
「うーん、成り行き」
「成り行きって…」

なんてレールだ。人生レールぱねぇ。

「まぁでもあんたと一緒かもね。船に乗る姿が好きだったから」

船に乗る姿が、好きか。

「それ警察じゃなくない?」
「うん、違うかも」

 思い出す、船の上での雨との会話。

『理由は簡単なんでしょうね。船が好きだったとか、そーゆー。
 恩師を送り届けたとか、多分そんな小さな理由です』

 あの時あの人は少し、心なしか悲しそうだった。
 そして隣のこいつもまた、少し切な気で。

「俺の知り合いも、船が好きだった」
「へぇ。大体そーゆーやつって変人だよな」
「そうだな。変人だった」

 けど、

「ホント、変人だった」

海軍訓練所を潰すくらいには。
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