ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode four

10

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 思ったよりも時間と弾を食ってしまった。

「それにしてもさ」
「ドシタのジュン」
「露骨すぎやしないか?」
「そこが詰めの甘いとこなんだろ」

 なんとなく三人は講堂の方を目指している。人質を集めるには一番手っ取り早そうだからという安易な発想なのだが、二階から聞こえた銃声で呆気なくハズレだと知る。

「ハズレー」
「うるせぇな。こっちは情報がないんだよ」
「え?りっくんはちゃぁんと俺に二階って言ってくれてたよ」
「政宗は言ってなかった」
「どこまでも信用サレてないねー」

 そしてこれではっきりしてしまった。

「本気で黒じゃねぇか」
「ですなぁ」

 なんせ、こちらがタイムリーで知らない敵側の事情を知っていて尚且つ、そちらに向かわせようというのは。

「フェイクかな」
「試しに行ってみる?」
「案外フェイクじゃないんだよこれが」

 大階段の前で議論していると、聞き慣れた滑舌の良い、よく通る声が聞こえた。

 声は銃声とは反対側通路から。
 疲れた様子の銀河が、それでもニコッと笑い、汗だか血飛沫だかわからないものを手の甲で拭う。拳銃をぶら下げるかのように力なく持ち、現れた。

「遅ぇな…!」
「すみません、」
「銀河、大丈夫!?」
「よぅ、元気そうだなお前ら…。やっぱそっちのが雑魚かったか。
 俺はなんとか。んなことより樹実は…どうやらあそこらしいな…」
「銀河、あとは任せてください」
「何言ってやがる、樹実がまだやってんだ」
「良い仲間をお持ちですねぇ」

 今度は後ろから声がして。
 振り向くうちに誰かが横を通って階段を登る音がする。

「え?」

 白衣が靡く。これも聞き慣れた落ち着いた声。足元の、サイズが合っているか定かでないスニーカー。

「あっ」
「マジか」

 銀河の前まで来たその横顔はまさしく。

「雨さん!?」
「何で!?」
「誰アノ胡散臭いcoolなdoctorは」

 しかし、知らないルークと銀河は少し戦闘体制。

 だが、ふと銀河は。

「あれ、どっかで見たことある気がする」
「はぁ、どうも。ニュースでしょうね。
初めまして。裏の番長、熱海雨と申します」
「ふっ、」

 思わずウケた。潤が。

「あ、あぁぁ!え?え?」
「はい。元テロリストです」

 にっこりスマイル。「ナンだって!?」と言って銃を構え直したルークを流星は必死に抑える。

「待った!なんであんたいんの!?」
「え?君たち聞いてない?
 裏の番長なんですよ、僕。ここの」
「え?どっちの意味!?」
「あぁそっか。
 うーん、大丈夫、味方のほうです。
 ほら、特テロ部って、役職一個空欄でしょ?」

 確かにそうなのだ。
副部長の座が空欄だった。

「え?え?」
「はい、そーゆーことです。さて、行きましょうか。
 ええっと、君、名前は?」
「…白澤しらさわ
「あぁ、君がね。
 突入ご苦労様。君はなんだっけ、あの人…伊達だてくんのとこで休養を命じます」
「え、誰それ。
 いや、行きます。だって、樹実がっ、」

 雨と銀河がすれ違う。次の瞬間には銀河は、気を失って雨に倒れ掛かった。
どうやら雨が腹パンしたらしい。

「何アイツ…」
「熱情的で純粋な良い人ですね。手荒で申し訳ない。
 えっと…確かサポートの君、ルーカス君。君、この人を伊達くんのところまで連れていってあげてください」
「誰」
「あの車で待ってるガタイの良い髭面の彼」
「雨さん、外人には日本史わかんないよ」
「あぁ、ゴリラか!なんでダテなの?こいつの方がダテっぽいよ」
「あれ、僕名前間違えましたか?」
「ガチ間違えなの?荒川だよ雨さん」
「そうなの?
 …てか、この人見かけによらず重いですね。ルーカスくん、早くお願いします」

 渋々ルークはそれから銀河を引き取り、「ホントだ、重っ」とぼやいて出て行った。

 再び銃声合戦が始まった。今度はもう少し遠い。どうやら樹実は移動したようだ。

「行きましょうか。まだ樹実が生きているうちに」

 そう言われ、流星も潤も雨の背中について行く。
 軽装だが雨は大丈夫だろうか。

「そのスニーカー、政宗からかっぱらったでしょ」

 雨の足元を見つめて潤が言った。

「あの人が、『便所サンダルで行くのはどうかと思う』って言うので。
 健康になれますよって添えてお貸ししました。彼、見るからに不健康そうだったので」
「ついに言う奴現れたか…」

 染々と流星は言う。なんとなく二人のやり取りが目に浮かぶようで、想像しただけで笑いそうになった。きっと今頃政宗は不機嫌だろう。

「あの部屋は恐らく広いですね。と言うより移動してるし、隠し扉でも見つけたんでしょうかね」

 楽しそうに言いながら雨は身体を翻し自分達の背後に一発撃ち込んだ。
 敵を、それだけで仕留める。

 前に見たリボルバーではなく、オートマチックのブローニングDAのファストアクション。

 流石というか。鮮やかだ。

 そうこうしているうちに銃声は一度止む。三人で、樹実がいるはずの部屋に侵入した。
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