157 / 376
Past episode four
19
しおりを挟む
「流星!」
潤が叫ぶと、一瞬驚いた顔をして流星は銃を下げた。
「…潤?」
しかし…。
外に追い出されていた信者の数人が銃声を聞き付け、「終わったか公安共っ!」と言いながら銃を構えて入ってきてしまう。
そこからはもう、殺戮でしかなかった。
銀河も潤もそこからは身を守るのに必死で。
だが案外自分達はある意味楽だった。
そこからの流星は最早、人ではないくらいの殺傷能力を駆使して向かってくる全員を殴り、撃ち、殺していった。
それを見ていた樹実は、異変に再び銃を下ろした。
救えなかった、ただ、そういう虚無感が胸を占めていく。
「流星っ…」
政宗が苦しそうに応戦しようとする。それに対し、「やめろ政宗」と、樹実は一声掛ける。
「…はぁ?」
「俺みたいになっちまったな」
「樹実…」
「悪いな政宗。これから俺はお前にまた、重荷を背負わすことしか出来ない」
「何言ってんだ、樹実」
「下がってろ、政宗。俺の最期の償いだ」
教壇から降りて銃を一発、上に向けて撃った。
「流星」
あの日のことを思い出す。曇りのない目。今もそれは変わらない。
樹実に対してはどこか、流星は一瞬の間が生まれるらしい。それは隙だ。
その隙を狙い、樹実は流星の左側を撃つ。
こいつは俺と違って左に癖がある。多分、俺が右が弱いから、気付かないうちに左に片寄って教えてしまったのだろう。
「流星、タバコ。切れた」
左肩を押さえながらも、どうやら流星は正気に戻ったらしい。
流星がポケットから新しい箱を出し、右手で投げる。それを受け取り、樹実がふと笑う。
「バカ、火ぃ貸せ」
力なく流星はジッポを後追いで投げてきた。全然届かなかった。
樹実は拾いに前まで歩く。その場に座り込んで口を炙って箱を叩き、一本取り出した。
咥えてタバコに火をつけ、美味そうに吸っている。
「あぁ、うめぇな」
「樹実、」
左腕を押さえる流星。最後くらい正気で話したい。
「どうして、あんた…」
「お前も野暮だな」
「どうして俺だったんだ、樹実、」
そう聞かれたら、言葉に詰まった。だけど出てきた答えはひとつだった。
「羨ましかったんだよ、お前がさ」
「何よ、それ…」
「夜が羨ましいって言った、お前が」
吐き出す煙が、キラキラ光る。
「多分、理由なんてそんなもんなんだよ、流星」
「だったら、なんでこんなことしてんだよ…樹実、」
「そうさなぁ…。
全部捨てた気でいたんだ俺は。甘かったな。人の情とかそんなん、俺にはどうでもよかったはずだったんだ」
「もっと…だって、」
「違う道かぁ。それもあったかなぁ。俺じゃなかったらきっとあったんだよ、流星」
悲しそうに笑いながら樹実は、デザートイーグルを力なく返してきた。
ジッポをあけ弾を取りだし、雨が使っていたレッドホークの銃弾を回し流星に向け、ハンマーを引いた。
「ロシアンルーレットだ」
「樹実」
「そいつにはたくさん入ってるし弾詰らない。間違いなくお前が有利だ」
「説明になってねえよ、樹実、」
「流星、」
その声の優しさが。
助けを呼ぶようにしか聞こえなくて、返事が出来ない。
「一人を殺したら最後なんだよ、流星」
その目が、声が。
「樹実…?」
あの時の。
自分を拾ったときの目となんら変わりがないほどに寂しげで、そして何よりまず、強さがある擦れ方をしていた。
なのにどうしてそんなに消え入りそうな声で言うのか。優しさを、孕んでいるのか。
「…わかったよ」
樹実は、静かに目を閉じた。
「引いて」
お互い引き返せない。
ハンマーはもう、引いてしまったのだから。
「そう、そして、」
二人とも撃った。だがやはり、倒れたのは樹実の方だった。
登る煙とステンドグラスと火薬の臭いが。
「う、ふぁっ…っ!」
ただただ、朝は、昼間はやはり嫌いだと、そう思うことしか出来なくて。
「流星、流星!」
蟀谷に当てた銃口はただただ熱かった。それだけは覚えていて。
銀河や、政宗に止められて。
最後に潤に殺されかけるくらいぶん殴られて。
ただ、樹実や雨の死に顔はどうにも。
綺麗なまでに邪念がないなぁ、それだけは確かに思ったのだった。
潤が叫ぶと、一瞬驚いた顔をして流星は銃を下げた。
「…潤?」
しかし…。
外に追い出されていた信者の数人が銃声を聞き付け、「終わったか公安共っ!」と言いながら銃を構えて入ってきてしまう。
そこからはもう、殺戮でしかなかった。
銀河も潤もそこからは身を守るのに必死で。
だが案外自分達はある意味楽だった。
そこからの流星は最早、人ではないくらいの殺傷能力を駆使して向かってくる全員を殴り、撃ち、殺していった。
それを見ていた樹実は、異変に再び銃を下ろした。
救えなかった、ただ、そういう虚無感が胸を占めていく。
「流星っ…」
政宗が苦しそうに応戦しようとする。それに対し、「やめろ政宗」と、樹実は一声掛ける。
「…はぁ?」
「俺みたいになっちまったな」
「樹実…」
「悪いな政宗。これから俺はお前にまた、重荷を背負わすことしか出来ない」
「何言ってんだ、樹実」
「下がってろ、政宗。俺の最期の償いだ」
教壇から降りて銃を一発、上に向けて撃った。
「流星」
あの日のことを思い出す。曇りのない目。今もそれは変わらない。
樹実に対してはどこか、流星は一瞬の間が生まれるらしい。それは隙だ。
その隙を狙い、樹実は流星の左側を撃つ。
こいつは俺と違って左に癖がある。多分、俺が右が弱いから、気付かないうちに左に片寄って教えてしまったのだろう。
「流星、タバコ。切れた」
左肩を押さえながらも、どうやら流星は正気に戻ったらしい。
流星がポケットから新しい箱を出し、右手で投げる。それを受け取り、樹実がふと笑う。
「バカ、火ぃ貸せ」
力なく流星はジッポを後追いで投げてきた。全然届かなかった。
樹実は拾いに前まで歩く。その場に座り込んで口を炙って箱を叩き、一本取り出した。
咥えてタバコに火をつけ、美味そうに吸っている。
「あぁ、うめぇな」
「樹実、」
左腕を押さえる流星。最後くらい正気で話したい。
「どうして、あんた…」
「お前も野暮だな」
「どうして俺だったんだ、樹実、」
そう聞かれたら、言葉に詰まった。だけど出てきた答えはひとつだった。
「羨ましかったんだよ、お前がさ」
「何よ、それ…」
「夜が羨ましいって言った、お前が」
吐き出す煙が、キラキラ光る。
「多分、理由なんてそんなもんなんだよ、流星」
「だったら、なんでこんなことしてんだよ…樹実、」
「そうさなぁ…。
全部捨てた気でいたんだ俺は。甘かったな。人の情とかそんなん、俺にはどうでもよかったはずだったんだ」
「もっと…だって、」
「違う道かぁ。それもあったかなぁ。俺じゃなかったらきっとあったんだよ、流星」
悲しそうに笑いながら樹実は、デザートイーグルを力なく返してきた。
ジッポをあけ弾を取りだし、雨が使っていたレッドホークの銃弾を回し流星に向け、ハンマーを引いた。
「ロシアンルーレットだ」
「樹実」
「そいつにはたくさん入ってるし弾詰らない。間違いなくお前が有利だ」
「説明になってねえよ、樹実、」
「流星、」
その声の優しさが。
助けを呼ぶようにしか聞こえなくて、返事が出来ない。
「一人を殺したら最後なんだよ、流星」
その目が、声が。
「樹実…?」
あの時の。
自分を拾ったときの目となんら変わりがないほどに寂しげで、そして何よりまず、強さがある擦れ方をしていた。
なのにどうしてそんなに消え入りそうな声で言うのか。優しさを、孕んでいるのか。
「…わかったよ」
樹実は、静かに目を閉じた。
「引いて」
お互い引き返せない。
ハンマーはもう、引いてしまったのだから。
「そう、そして、」
二人とも撃った。だがやはり、倒れたのは樹実の方だった。
登る煙とステンドグラスと火薬の臭いが。
「う、ふぁっ…っ!」
ただただ、朝は、昼間はやはり嫌いだと、そう思うことしか出来なくて。
「流星、流星!」
蟀谷に当てた銃口はただただ熱かった。それだけは覚えていて。
銀河や、政宗に止められて。
最後に潤に殺されかけるくらいぶん殴られて。
ただ、樹実や雨の死に顔はどうにも。
綺麗なまでに邪念がないなぁ、それだけは確かに思ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
初恋
藍沢咲良
青春
高校3年生。
制服が着られる最後の年に、私達は出会った。
思った通りにはなかなかできない。
もどかしいことばかり。
それでも、愛おしい日々。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓
https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a
※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。
8/28公開分で完結となります。
最後まで御愛読頂けると嬉しいです。
※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる