ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
161 / 376
The 10th episode

4

しおりを挟む
「なるほどなぁ」

あの女。
嘘こきやがって。

 機捜隊の名簿を然り気無く(パソコンをジャックするという違法手段)調べるのは、潤が帰ってくるまでに出来た。
 横山暁子なんてやつは存在しなかった。しかしあの女そうすると、どこの誰だ。目的はなんだ。

「部長、」
「うぉぅい!」

 後ろから気配なく声を掛けられ、慌ててノートパソコンを閉じた。
 見れば、先程タバコを吸っている間に出勤していた恭太が後ろに立っていた。

「どうしたんですか?悪いことしてる人みたいですね」
「いや…あまりに気配ないから」
「あ、よく言われます。部長、今月の経費、ヤバいんです」
「はぁ、どれ」

 恭太が持ってきた書類を見てみた。

「げっ」

10万オーバーとか真面目に何に使ったんだよと思って見てみれば。

「ぶふぁっ、」

 思わずコーヒーを吐きそうになった。大体が弾代と難航しているヤク解明の何かの薬品だ。

え?てかマジか。

「副部長がいないので部長、どうにかしてください」
「あぁ、そうですねってかあのゴリラマジでこんな高い薬品使ってんのか」

嘘吐けよ。なんだよニトログリセリンって。
ん?ニトログリセリン?

「は?なんでこんなもん使ってんだよ」
「どしたのぶちょー」

 帰ってきてしまった。面倒なヤツが。

「あっ」

 と言う間に背後から書類をパクられた。そして潤はマジマジと眺め、「あぁ、ニトログリセリンね」と涼しい顔をして言い出した。

「爆薬でも作ってんじゃん?」
「は?」
「てのは冗談だけどさ。
 これ、狭心症きょうしんしょうの薬にも使われてんだよ、お前知らねぇのヤク中なのに」
「語弊がある言い方すんなよ。お前も大差ないよね」
「誰か狭心症でもいるんじゃねぇの。てかこれ購入日いつ?
 あぁ、お前そういえば経理やったことねぇよな。
 あっ、バルビツール酸とか…てかこれもしかして押収したヤツ?」
「は?」
「あー、だから死にかけたのかー、俺」
「え?」
「うわ、でも量が多いな」
「おい姫話を聞けいくらなんでもそんな無視しなくても」
「うるさい」
「はい」

なんだ、なんで俺こんな扱い受けてんだ。

「あの、監督官?」
「ん?あぁ、これあんたが持ってきたの?」
「はい。あの…」
「経費が多いって?大丈夫だよ、んなのこいつの保護者に言えば。問題は中身だな。
 ちょっと確認してきていい?」
「全然ダメ。お前さ」
「なんで?お前経理出来ねぇじゃん」
「頭の中どうなってんだお前!待って説明して!」
「お前バカじゃん」
「え?お前なんなの?カオス過ぎる」
「爆薬系はわかんだろ?
 それ以外はまぁ俺の方がわかるわな。バルビツール酸は睡眠薬とか…今は使われてねぇけどある国で死刑執行の時に使われたヤツだよ」
「うぇ、マジか」
「それらが経費で落とされてんだよ。でさ、薬品俺らで扱ってんのは鑑識か政宗だよな?」
「あぁ…」

どゆこと?

 潤はちらっと恭太を見た。

「これさ、いつから?」
「はい、え?」
「君ずっと経理やってたよね。
 どっちも仮には医薬品。しかもこの額。こんなの一気に買うなんて裏ルートくらいしかありえないよね。あとは悪い医療関係者から買い取る。まぁこれも裏ルートか。
 地道に買ってったんじゃねぇかと思うんだけど、クリーンだったらな。まぁそもそもクリーンだったらなんでこんな関係ない怪しいもん買ってんだよってのは置いといてな。
 購入日とかの詳細持ってきて。あと愛蘭ちゃんと慧さん呼んで」

す、すげぇ。

「早く」
「は、はい」

 恭太は潤に言われ、取り敢えず急いで電話を始めた。
 すると潤は耳元で、「ちなみに俺も鑑識は手伝ってるからなぁ」と、軽い調子で言い出した。

 なんとなく、ぞくっとした。なんなのそのなんか吐息のかけ方。だからタラシなんだよお前。

「ちなみに二人とも見てる範囲じゃ使ってねぇよ?どっちの薬品もな」
「つまり見たところ今、疑いは一本だが…」
「あぁ。まぁ…わかるよな」

あのガキ、なに考えてやがる?

「記入ミスであって欲しいがね」
「んな馬鹿げた話」
「ねぇよな。ただナメられたもんだな」

 そして然り気無く先程閉じておいたパソコンを、潤に開かれてしまった。

「お前も用心深いヤツだな」

やべぇ、気まずい。

「そうそう、俺さ、」

 漸く潤は俺の隣のデスクに座り、機嫌が悪そうに両足を組んでデスクに乗せた。

あぁ、パソコン壊れたらどうしてくれるよ。経費が…。

「お前といない間の俺の経歴知らねぇだろ?まぁ野暮なことは聞かないのが一番いいけど。俺もお前の経歴なんてあの嘘臭ぇ履歴書しか知らねぇし」
「何が言いたいよ」
「まぁ答えてやろうじゃないかって。俺はお前ほど殺されるような生き方してねぇから。
 スパイだよ。流星」

なんだと。

「つまり?」
「自分で考えろ。アキコはその頃の知り合いだ」
「…ふっ、なるほどな」
「だからこんなのは得意なんだよ流星。お前なんかよりはるかにな」
「…あぁそう。それを何故今話した」
「下手な同情はムカつくんだよ」
「あっそう…」

 そのまま裏拳をかましてやろうとするが、当たり前ながら取られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はじまりと終わりの間婚

便葉
ライト文芸
画家を目指す夢追い人に 最高のチャンスが舞い降りた 夢にまで見たフィレンツェ留学 でも、先立つ物が… ある男性との一年間の結婚生活を ビジネスとして受け入れた お互いのメリットは計り知れない モテないおじさんの無謀な計画に 協力するだけだったのに 全然、素敵な王子様なんですけど~ はじまりから想定外… きっと終わりもその間も、間違いなく想定外… ミチャと私と風磨 たったの一年間で解決できるはずない これは切実なミチャに恋する二人の物語 「戸籍に傷をつけても構わないなら、 僕は300万円の報酬を支払うよ 君がよければの話だけど」

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...