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The 10th episode
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拳は振り払われて、潤がデスクから足を下ろした。
二人で睨み合っていると、明らかにまわりの雰囲気が悪くなっている。まだ始業前だというのに。
「どする、表出る?」
潤がドアを顎でしゃくって言う。まぁ確かに、こっちも気が立っている。
「あぁ、別にいいよ?あと30分くらいあるしな」
「ふっ、気が立っていらっしゃるな」
潤がデスクをガタンと両手でぶっ叩いて立ち上がったかと思いきや、椅子に掛けていた自分のジャケットをひょいっと取るついでにそれで思いっきりぶん殴ろうとしてきたが避けた。
ついでにエルボーをかましてやったがそれもひょいっと軽々避けられてしまった。
が、拍子に、ふわりと舞った潤のネクタイを引っ張り、潤が体制を崩した隙に俺が立ち上がり、手の平で叩きつけるように頭をデスクへ打ち付けてやった。
振り返るように見上げた潤がそのままぶん殴ってきた。近かったせいか横っ面に入る。ちょっと反動で飛んだ。
ゆらりと体勢を立て直した潤は、睨みながらもニヒルに笑った。
「クソったれ」
「何とでも言え」
「ちょっ…二人ともやめてくださいよ!」
慌てて止めに入ったのが伊緒だった。
調子狂うなぁ。
それを見た潤が左手で片方のシャツの襟首を掴んできたのでこっちは胸ぐら掴んで壁に押し付けてやった。
「いい加減にしろよ」
「てめぇこそ年甲斐もねぇ」
「なぁ、誰が誰に同情したって?」
「あ?」
「てめぇになんか一度も同情したことねぇよクソ野郎」
「じゃぁなんだってんだよ、えぇ?余計なお節介なんだよっ。
てめぇは今やただのここでの上司だろうが。違うか?何を知った気になってんだよ俺の。なんも知らねぇくせに偉そうに指図すんじゃねぇよ」
「あぁそうかそれが本音か。
そうだなてめぇの事なんざ興味もねぇしなんも知らねぇよ。それはてめぇも一緒だろ?俺の何を知ってるっつうんだよ。
んな陳腐な気持ちでてめぇみてぇなバカ野郎を隣に置いてると本気で思ってんのかこの若造が。いっぺんシベリアあたりで凍死して来いよバーカ。んな易いこと言ってるようなつまんねぇ奴、いらねぇっつーの」
「言いやがったなてめえ。上等だよ辞めてやる。経理も出来ねぇただのスナイパーが笑わせんなよ、あぁ!?」
「いい加減にしないか君たち」
落ち着いた声が聞こえた。声の方を見ると、慧さんが出勤してきたとこだった。
「…他の子達がびびっていますけど。大人気ないので二人でタバコ吸ってきていただけますか。はっきり言って朝から気分が悪い」
「…すみません」
「…ごめんなさい」
取り敢えず二人で一度頭を冷やしに射撃場へ向かった。
はっきり言って胸クソ悪かった。
すたすた人の事を置いて早歩きで潤は向かっちまうし、ついたら早々に荒々しく銃ぶっ放すし。
なんなんだ一体。
「おい潤」
「なんだよ」
「せめて話さないか」
「話す事なんてねぇだろ」
「まぁねぇけど」
タバコを一本取り出した。
もういいこんなバカ。
俺も隣で何発か撃ち込んだ。そのうちいつの間にか、なんか勝負っぽくなってて。
「だからお前左っつってんだよ」
「それをサポートすんのがてめぇの仕事なんだよ」
「は?一人立ちしろよ。てか俺いない間どうしてたんだよ」
「なんとか誤魔化してたっつーか意外となんとかなんだよ」
「じゃぁいーじゃん」
「そうでもねぇんだよ。何回か左くらって死にかけてんだよこっちはよ」
「だっせ、死んで来いよ」
「一回くらいなら死んでんだよ!俺が拾われたときにな!」
そう俺が言うと潤は銃を漸く下げた。
「なにそれ」
「あ?」
「それって羨ましいな」
「は?」
急に笑い出して潤もタバコを一本出し、その場に座り込んでしまった。
「俺に出来ねぇことだよ」
「あぁ、そう。別に…」
自然の成り行きだよ。そう言おうと思ったけど、なんだか俺を見上げる潤の眼が少し、遠くを見ているような気がしたから。
「良いもんでもねぇよ」
「ふーん」
「変われるけどな」
「変わりたくなかったわけ?」
「別に。いや、変わりたかったんだろうけど」
変わった先なんてわからねぇもんだろ。
「お前って偏屈だよな」
「お前に言われたくないよな、それ」
「俺はぜーんぶ一回捨ててみたいけど、多分捨ててもなんも残んないんだよね。でもそれが一番なんだよ」
「…戸籍でも変えてみたら」
「いいねそれ。嫌味かよ」
「なんでだよ」
「だから捨てられる、忘れられる瞬間がわりと貴重なんだよ。だからやってたんだよスパイ。あれってよーするに潜入捜査ってか、自分じゃないじゃん」
なるほど。
だからお前ってたまに居なくなるんだな。自我が。
そこにとても残虐性があったとしても。
「潤さん」
「なんですか流星さん」
「ふらふらどっか行かれるのはスナイパー側としてはあんま嫌ですね」
「は?」
「スポッターは冷静でいろという話です」
「無理ですね。俺の相方は狂犬ですから」
「うるせぇ」
「努力だけ辛うじてしたら給料上がるかい?」
「経費がちょっと」
「あ、それな」
ふと潤が、入り口付近をちらっと見た。
気付いていたのか。
「盗み聞きは好かないんだけど、呼びに来たの?瀬川」
気まずそうに恭太が姿を表し、こくりと頷いた。
「…やれやれ。帰るか流星」
「そだな」
「あの…。俺のせいですよね」
「そうです。まぁでもこいつとは昔からこうなんで仕方ないです」
呆れたように言う潤に、なんか言ってやりたい気もしたが、まぁいい。
後ろに二人を引き連れて部署まで戻った。途中でなんか潤が恭太に耳打ちをしたのが気掛かりだったが、恭太が妙に嬉しそうだったので、まぁよしとする。
「あ、流星」
「はい、なんだ」
「今日飲み行くよ」
「急だな。伊緒に言っといて」
「えー、お前んとこの野良でしょ」
「お前が急に決めたのが悪い」
「わかったよクソ」
「はいはいクズ」
どうやら俺は今日、久々に潤と飲みに行くらしい。多分、特本部が出来て以来、初だ。
まぁ、たまにはいいかと、しかしながら経費を考え、頭が少し痛くなった。
二人で睨み合っていると、明らかにまわりの雰囲気が悪くなっている。まだ始業前だというのに。
「どする、表出る?」
潤がドアを顎でしゃくって言う。まぁ確かに、こっちも気が立っている。
「あぁ、別にいいよ?あと30分くらいあるしな」
「ふっ、気が立っていらっしゃるな」
潤がデスクをガタンと両手でぶっ叩いて立ち上がったかと思いきや、椅子に掛けていた自分のジャケットをひょいっと取るついでにそれで思いっきりぶん殴ろうとしてきたが避けた。
ついでにエルボーをかましてやったがそれもひょいっと軽々避けられてしまった。
が、拍子に、ふわりと舞った潤のネクタイを引っ張り、潤が体制を崩した隙に俺が立ち上がり、手の平で叩きつけるように頭をデスクへ打ち付けてやった。
振り返るように見上げた潤がそのままぶん殴ってきた。近かったせいか横っ面に入る。ちょっと反動で飛んだ。
ゆらりと体勢を立て直した潤は、睨みながらもニヒルに笑った。
「クソったれ」
「何とでも言え」
「ちょっ…二人ともやめてくださいよ!」
慌てて止めに入ったのが伊緒だった。
調子狂うなぁ。
それを見た潤が左手で片方のシャツの襟首を掴んできたのでこっちは胸ぐら掴んで壁に押し付けてやった。
「いい加減にしろよ」
「てめぇこそ年甲斐もねぇ」
「なぁ、誰が誰に同情したって?」
「あ?」
「てめぇになんか一度も同情したことねぇよクソ野郎」
「じゃぁなんだってんだよ、えぇ?余計なお節介なんだよっ。
てめぇは今やただのここでの上司だろうが。違うか?何を知った気になってんだよ俺の。なんも知らねぇくせに偉そうに指図すんじゃねぇよ」
「あぁそうかそれが本音か。
そうだなてめぇの事なんざ興味もねぇしなんも知らねぇよ。それはてめぇも一緒だろ?俺の何を知ってるっつうんだよ。
んな陳腐な気持ちでてめぇみてぇなバカ野郎を隣に置いてると本気で思ってんのかこの若造が。いっぺんシベリアあたりで凍死して来いよバーカ。んな易いこと言ってるようなつまんねぇ奴、いらねぇっつーの」
「言いやがったなてめえ。上等だよ辞めてやる。経理も出来ねぇただのスナイパーが笑わせんなよ、あぁ!?」
「いい加減にしないか君たち」
落ち着いた声が聞こえた。声の方を見ると、慧さんが出勤してきたとこだった。
「…他の子達がびびっていますけど。大人気ないので二人でタバコ吸ってきていただけますか。はっきり言って朝から気分が悪い」
「…すみません」
「…ごめんなさい」
取り敢えず二人で一度頭を冷やしに射撃場へ向かった。
はっきり言って胸クソ悪かった。
すたすた人の事を置いて早歩きで潤は向かっちまうし、ついたら早々に荒々しく銃ぶっ放すし。
なんなんだ一体。
「おい潤」
「なんだよ」
「せめて話さないか」
「話す事なんてねぇだろ」
「まぁねぇけど」
タバコを一本取り出した。
もういいこんなバカ。
俺も隣で何発か撃ち込んだ。そのうちいつの間にか、なんか勝負っぽくなってて。
「だからお前左っつってんだよ」
「それをサポートすんのがてめぇの仕事なんだよ」
「は?一人立ちしろよ。てか俺いない間どうしてたんだよ」
「なんとか誤魔化してたっつーか意外となんとかなんだよ」
「じゃぁいーじゃん」
「そうでもねぇんだよ。何回か左くらって死にかけてんだよこっちはよ」
「だっせ、死んで来いよ」
「一回くらいなら死んでんだよ!俺が拾われたときにな!」
そう俺が言うと潤は銃を漸く下げた。
「なにそれ」
「あ?」
「それって羨ましいな」
「は?」
急に笑い出して潤もタバコを一本出し、その場に座り込んでしまった。
「俺に出来ねぇことだよ」
「あぁ、そう。別に…」
自然の成り行きだよ。そう言おうと思ったけど、なんだか俺を見上げる潤の眼が少し、遠くを見ているような気がしたから。
「良いもんでもねぇよ」
「ふーん」
「変われるけどな」
「変わりたくなかったわけ?」
「別に。いや、変わりたかったんだろうけど」
変わった先なんてわからねぇもんだろ。
「お前って偏屈だよな」
「お前に言われたくないよな、それ」
「俺はぜーんぶ一回捨ててみたいけど、多分捨ててもなんも残んないんだよね。でもそれが一番なんだよ」
「…戸籍でも変えてみたら」
「いいねそれ。嫌味かよ」
「なんでだよ」
「だから捨てられる、忘れられる瞬間がわりと貴重なんだよ。だからやってたんだよスパイ。あれってよーするに潜入捜査ってか、自分じゃないじゃん」
なるほど。
だからお前ってたまに居なくなるんだな。自我が。
そこにとても残虐性があったとしても。
「潤さん」
「なんですか流星さん」
「ふらふらどっか行かれるのはスナイパー側としてはあんま嫌ですね」
「は?」
「スポッターは冷静でいろという話です」
「無理ですね。俺の相方は狂犬ですから」
「うるせぇ」
「努力だけ辛うじてしたら給料上がるかい?」
「経費がちょっと」
「あ、それな」
ふと潤が、入り口付近をちらっと見た。
気付いていたのか。
「盗み聞きは好かないんだけど、呼びに来たの?瀬川」
気まずそうに恭太が姿を表し、こくりと頷いた。
「…やれやれ。帰るか流星」
「そだな」
「あの…。俺のせいですよね」
「そうです。まぁでもこいつとは昔からこうなんで仕方ないです」
呆れたように言う潤に、なんか言ってやりたい気もしたが、まぁいい。
後ろに二人を引き連れて部署まで戻った。途中でなんか潤が恭太に耳打ちをしたのが気掛かりだったが、恭太が妙に嬉しそうだったので、まぁよしとする。
「あ、流星」
「はい、なんだ」
「今日飲み行くよ」
「急だな。伊緒に言っといて」
「えー、お前んとこの野良でしょ」
「お前が急に決めたのが悪い」
「わかったよクソ」
「はいはいクズ」
どうやら俺は今日、久々に潤と飲みに行くらしい。多分、特本部が出来て以来、初だ。
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