ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 10th episode

6

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「な・ん・で・だ・よ!」

 仕事帰りに、潤と共に近くのバーに行ったら。

「よう、待ってたぜ!」

 アキコが3人分の席をご丁寧にも予約してくれていたようで。

「待たせたねぇ」
「…帰」
「にーちゃんやっぱよく見るとかっこいーねー!」

 もの凄い力で肩をがっつり取られて凭れ掛かられた。なにこいつ予想外に重いし強いんだけど。女かよ。てか何一人で早くも出来上がってんだよ。

 そのままよろけて着席。向かい側に座った潤がすげぇ笑ってる。なにこれ。

「おい潤、」
「おねーさん、ビール3杯よろしくー」
「いや、潤さん」
「なんだよつれないなぁ」
「あれ、てかさ、ヨリコは?」
「ん?あぁ、置いてきた」
「なんだよー!久々に会いたかったのに!」
「まぁ日本経つときにな」

誰だよヨリコ。

「てか二人で飲めばいいじゃん!」
「まぁまぁあたしが奢ってやるからよ」
「あんたそんなんだからこんなヒモみてぇなヤツ飼うハメになるんだよ」
「ヒモなのは否定しねぇけどなんかムカつくな」

 とか言ってるうちにビールが来てしまった。

「はいはい喧嘩記念!」

もういいよヤケだよ。
取り敢えず乾杯。

「何?喧嘩?」
「そうそう単細胞だからこいつ」
「うるせぇてめぇの気が短いんだろ。今回どう頑張ってもお前からだよね」
「まーまー、過ぎたことはいーじゃない」

ムカつくな。

 とか言ってるうちに潤は一杯飲み終えている。ムカつくので俺も一気飲みして「日本酒なんでもいいから」と頼んだ。

 それから2時間くらいで計8杯。潤は7杯を飲んで、最終的にお互い何を飲んだかはよくわからない状態になったところでアキコが、「…も、無理ぃ」と言ってトイレに駆け込んで終了した。

「ありゃ」
「いくら男勝りとはいえやり過ぎたな…」
「ちょっと行ってくる」
「何言ってんだよ、流石にそこまでのジェンダーフリーは進んでねぇよ」
「えー?もうええわ」

 と言ったかと思えば場所移動した潤が人の肩に寄り掛かってちょっとぐったりしていて。

「え?え?そーゆー?
勘弁して、ここで吐かないで」
「うーるーさー」
「ちょ、おねーさん、チェイサー…」
「3杯で…」

 そこでげっそりしたアキコが帰って来た。偉く回復が早い。だが俺ら二人を見て、「マジか」と呟く。

「いや違うからな」
「いや実はあたしもな、結婚相手女なんだ」
「おめでとうどこでってええぇぇ!そして違うからな!」
「あんた忙しいな、サイパン」
「ほー、まぁ男っぽいもんなあんた。素直におめでとう」
「ありがとう、あんたらもな」
「ごめん本気で違う。潤も何か言えっておい寝てんじゃねぇよ!」

 それはそれは気持ち良さそうに寝ていらっしゃる。

「はっはー、こいつが人の肩借りて寝てやがるよ!
 まぁ夜風に当たってくるよ」

 先程のグロッキーさはどこへやら、飄々としてアキコは席を立ち、店の外へ出て行ってしまった。

なんだあの女、本気でマイペースだ。そして誤解は解けたのだろうか。まぁいいけど。

「潤さーん、起きてー」
「んー」

なんなんだよ、ガチで恋人っぽいじゃないかこれ。

「今日のは謝れよてめぇー」
「んー…」

ダメだこりゃ。
まぁいいけど。こりゃ家まで送らなきゃいかんな。

 取り敢えず水が3杯分運ばれて来たので一回潤を起こして飲ませた。

「ほら潤、明日仕事だよ」
「わかってるよー。いま何時?」
「んー、21時くらい」
「げっ!」

 急にぴたっとしゃっきりと潤は起きた。そして漸くアキコがいないことに気が付いたらしい。

「あれ、アキコは?」
「夜風に当りに行くって」
「あぁ、そう…」
「何、どうしたの急に」
「いや、なんでもねぇんですけどね。テレビ録画し忘れた。あ、ケータイで出来っかな」
「え?なにそれ。出来んじゃね?わかんねぇけど」
「アキコに聞いてくる」
「は?あぁ、そうですか」

 急にそう言って慌てて潤は去って行ったので俺は一人残されてしまった。

 なんだよ、じゃぁタバコでも吸ってそろそろ帰ろうかな。そう思って少ししてからアキコが一人、帰ってきた。

「あれ?潤は?」
「やっぱ録画の方法がわかんねぇって喚きながらなんか鞄持ってどっか行ったぞ」
「え?」

あ、いつの間にあの野郎荷物持ってったな。

「なんだあいつ」
「ホントにな」
「え、あいつどこ行ったの?」
「さぁ…。帰ったんじゃね?」

 仕方ないから電話してみるが、繋がらない。

「繋がんないんすけど」
「…てか、あんた鈍いな。大体そーゆーときは次に予定でもあんだろ」

その可能性は考えなかった訳じゃないが。

「一応聞くだろう。昼間の後だし」
「あそう。優しいな」
「…お前さぁ…」

イライラしてきた。

「マジメに嫌いだわ」
「お褒めに預かり。だが本当のとこは知らないぞ。あたしは、多分あんたがキレるだろうからやめとけって言ったしあれから情報だってなんもあいつに送ってない」
「信用出来るか」
「兄ちゃん、あいつはな」
「んだよ」
「あんたが考えてるほど生易しくねぇよ。結構…難しいと思う」
「あ?」
「自分では語らない。だからだろうな、こうしてあたしとあんたが今酒を飲んでんのは」

んなこと…。

「わかるかよ」
「あぁ、あたしも、わかんねぇよ」

 そう言って座り、タバコに火をつけるアキコはどこか、切なそうに笑った。
 取り敢えず一度酒を頼んで飲むことにした。

「聞く気になったか?」
「話したきゃどうぞ」

 アキコは面白そうに笑って、「同じのを」と店員にオーダーした。
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