ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 12nd episode

6

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 ちらっと政宗を見ると、「なんだよ…」と居心地が悪そうにまごついた。

「いや、元気かってさ」
「…部長か」

 うざったそうに政宗は言い捨てる。どうやら喧嘩別れというのは本当らしい。

「てかそうだ、今更だが伊緒、お前眠くない?大丈夫?」
「え?はい…まぁ。明日全休になりましたしね。てか流星さんこそ死にませんか?大丈夫?」
「まぁ俺はわりと寝ないのが丁度良いから」
「伊緒、真に受けんなよ。ガチでこいつぶっ倒れるから」
「わかってますよホント、誰が付き添ったと思ってるんだか。って言うかあのときも潤さんでしたね。なんか腹立ってきた。やっぱ退院したら文句言いましょうね」
「そーだな」

 間もなくしてマトリの連中は現れた。

 茶色いスーツを開けたベストの中年刑事が、いかにも軽いノリで片手を上げる。
 後ろから、新人っぽい、なんか前髪ふさっふさで青いスーツを、深夜のわりにビシッと着こなした青年が着いてきて、深々と頭を下げる。

「先程はどもー。原田です。よう荒川」

 なんて言いながらふらっと手帳を見せてくる。「あんたがスミダさん?」と、愛想笑いに浮いた目尻のシワが、年齢を感じた。多分50はいっているだろう。仕方のないことだが特有のナメた口調がどうも、政宗と喧嘩したのもわかる気がした。

「…特本部部長のスミダです」
「お噂は予々。お宅らとはわりと古い付き合いだからな。
 …さて、ここね。確か何年か前にもお宅らが踏み込んだよな。やはりダメか」

 それはどういった意味のダメなんだろうか。場合によっては、喧嘩を売られていやしないか。

「辻井、そこの中国人と韓国人を乗せろ。話しはあっちでゆっくり聞き出せ。
 明日から坪倉つぼくらとここに張り込め。あいつも麻雀打てんだろ?」
「はい、ただ…」
「え、お前まさか」
「はい…」
「マジか。わかった。
 おいそこのねぇちゃん、日本語OK?」

 原田がチャイニーズ(リ・メイ)に話しかける。俺が、「あぁ、こいつは…」と言おうとしたとき、リ・メイは原田に唾を吐きかけた。

「あらあら日本のマナーを知らないようだなお嬢ちゃん」

 俺と目が合うと、原田は荒々しくリ・メイの左手首を掴んだ。それを引き渡しと了承し、拘束していたリ・メイの右手を離す。

「この案件、ウチでもらっていいわけよね?スミダさん」
「どうぞご自由に」
「まぁ、お宅らの案件でもないよね。お宅らウチよりもう少し夢見てるもんな」
「は?」
「辻井、そーゆーわけだからそのコリアン兄ちゃんも連れてけ。
 確認だけどお宅ら今勤務中?違うよね?」
「一般市民が通報したってんでいいよ。なんなら俺は今なんも持ってねぇし。あんた、相変わらずだな」

 何か一言いってやろうかと思えば、政宗が横から口を出し、捕まえていたコリアン野郎(チャン・リャン)の背を蹴っ飛ばして辻井という新人の方へ預けた。

あーあー、これじゃぁ俺が止め役じゃねぇかよ。

 辻井くんはこけたチャン・リャンを気遣いなが政宗を見上げた。特に避難の色はなく、むしろ気の弱さを感じるような眼差しだった。

「悪いな辻井。久しぶり」
「お久しぶりです。元気そうで…何よりです。諒斗は、元気ですか?」
「あぁ。たまには連絡取ってやってくれ。今回の件、よろしくな」

 辻井くんはぎこちなく、だけど少し微笑んで頷き、車に二人を乗せた。
 その背中を見つめる政宗は、先程より少し柔らかい空気を纏っていた。思いのほかここはなんだか優しい雰囲気だ。

「お前の最後の新人も、立派になったよ」

 しかし問題はこっちだ。

「ふ、当然でしょ。あいつらどれだけ現場に連れ出したか。辞めてないでよかったよ」
「そうだなぁ、お前の下の新人は不思議とみんな辞めちまうからなぁ。お前のように、どっかふらっとな、」
「あんたは人材の墓場だからな」
「よく言うよ。お前が人事移動出してたくせに」
「…あんたと話してると無駄に長くなるな。悪いが俺は寝てねぇんだ。先に戻るぞ流星」
「あぁ、そうですか。あぁはい」

 仕方がないので政宗に千円を渡した。怪訝そうな顔で俺を見ている。

「タバコがないので買っといてください」
「はぁ?」
「あー、喉も乾いたなぁ」
「…可愛くねぇやつ」

 大人しく受け取って取り敢えずその場は去ってくれた。
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