ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 12nd episode

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 はぁ、疲れた。ネクタイを外す。どうせこんなやつ、年上だがまぁいい。官位だって言うなら警部けいぶ、一緒だ。
 相手は面白そうに笑い、タバコに火をつけた。銘柄はpeaceだった。

 だが、原田は政宗の背が曲がって完全に見えなくなったのを確認すると、丁寧にも少し頭を下げてきた。

「お預けしてよかったようです。ウチの荒川が、世話になってます」
「はぁ…」

 こうこられては、調子が狂う。
 俺もタバコに火をつけた。

「いや、少しばかり無礼な態度で申し訳なかった。ああでもしないとあいつはまた、ふらふらウチに戻って来ちまうから」
「はぁ、まぁ、」

まぁ確かにあり得る。性格上。

「…だが見込み違いだったようですな。あんたとはどうやらウマが合うらしい。俺なんて、タバコすら付き合ってもらえなかった」
「…あんた、こう言っちゃなんですが、変わってますね」
「ええ。よく言われます。
 しかしよかった。ちゃんとやってるようで。早坂はやさかも、ちゃんとやってるようだし。
 お宅らやっぱ、デカいヤマだから、早坂には、そーゆーのを見せておきたくて。勿論、前回からお宅らとは関わってるから、なんとなく、わかってはいるんですけど。
 早坂は少し感傷的になりやすいんで、引き抜きの話しは驚きましたが、ある意味、そういった意味で有り難かった。多分荒川も、それがわかってて連れてったんだ」
「…何か、あったんですか」
「まぁ、…丁度あの時期、あいつ…早坂の同期が一人死にましてね。捜査中でした。ヤクザの事務所に潜入してたら、バレちまいまして。早坂…しばらく現場復帰出来なかったんですよ。漸く復帰したのがあのホテルの事件でした。
 俺が潜入捜査の話を独断で進めた結果の事故でした。だから、俺、荒川と喧嘩してね」

なるほど。

 確かに諒斗の今までの言動を見ていると、わかるような、わからないような気もする。しかしまぁなるほど、少し端っこは掴めた。

「しかしそれは、果たしてウチで、俺の部下でよかったのですかね」
「何をおっしゃってるんですか?」
「いや…」

俺はわりと仲間を殺してきた側の人間だ。

「あぁ、まぁあんたのことはよく知りませんが、昔、お宅と同じような部署があったんですよ。まぁ取り扱ってる事件がウチと似てるんで、関わりが深い部署だったんですけど」
「はぁ」

そこには俺もいた。

「そこの大将が結構、あんたみたいな人でした。何を背負っていたかは知らないし、まぁなんか、ウチよりデカい案件だから正直彼の気持ちは想像もつかない。だけどいつも何かに…追われているように見えた。
 荒川はそこからウチに来たんですよ。そして今、あんたについてる。後輩を連れて。それって、まぁ、なんて言ったらいいんですかね」

 この人は多分、知っているんだろう。
 俺や、当時を。

「さて、長話に付き合わせてすみませんね。あいつは気が短い。お互い早く戻りましょう」
「はい。あの…」
「スミダさん、」

 原田は、俺の肩を少し叩いてまた軽い調子で片手を上げて背を向け、車の方へ向かう。

「よろしく頼みました」
「あぁ、いえ…」

取り敢えず。

「こちらこそ」

 そう言い返し、俺は俺で二人が待つ車へ歩きだす。

 夜の中のきらびやかさ。相変わらずな街並み。ここはそう、日本の東京の、そーゆー街。
 どこかで喧嘩の声がする。どことなくアルコールも混じった、だけど賑やかで落ち着かない場所。

 車の前で、問答無用に運転席を覗く。助手席から政宗が見上げていた。
 ドアを開けて後部座席を見ると、伊緒がお行儀よく座って寝ていた。

「お待たせしました」
「おう、長かったな」
「うん。まぁ」

 ビールはを本は空けている。まぁ、運転してやるからいいけどさ。

「またかよ」
「あぁ、まぁな」
「やっぱ伊緒はあんたのとこがいいかな」
「なんで」
「不安定要素その1だからだよ」
「…お前よか安定しとるわ」
「はいはい。あんた家どっち」
「泊めろ」
「は?」
「家に」
「嫌です」
「じゃぁ泊まれ」
「なにそれ」

 ふと首筋に手を伸ばされた。

何どうしたのお前は。

「お前なぁ、今回わりとびびったんだぞ」

今俺がわりとびびってるんですけどなんで俺脅されてんのこんなんで。

「いや合法でいいんで。運転変わります降りて」

 運転席から政宗を引っ張り出したら「わーかったよ!」と開けたビールを持って助手席へ撤退。大人しくお縄につくように座ってビールを煽った。

「麻雀じゃねえよバカ!いやそれもだけど!潤だよ潤!」

は?え?なんで今それなの?

「は?」

 発進。酔っぱらいは困るな全く。

「お前なぁ、まずなぁ、俺の話を聞け」
「はい、聞いてます。何?情緒とか大丈夫ですか、不安定?」
「たーっ!
 お前さ、まず、俺あの場に行ったよね、潤血のっ気ないよね、お前首筋めっちゃ血塗れだよね、は?なにこれ、だよね」
「あぁぁ、はい、は?」

やっちまったな。
こいつ絡み癖ハンパないんだ忘れてた。

「てーかさ、お前らと別れたとき覚えてる?なぁ、あいつなんっつった?俺が裏切ったら俺のことぶっ殺すって言ってたよな、あれじゃ無理じゃん!
 で、お宅のサイレントなんだっけ、あのジジイからな、言われるわけだよ病院で!
『ちょっとサプライズゲストみたいな感じで俺が呼んだら入ってきてよね』って。はぁ!?」
「いや、はぁ!?待て待て、それってつまりあんたさ、いつから居たの」
「サイレントと同じタイミングだからお前らがお叱りを受けてるのちゃーんと見てたわい。で、状況把握」
「え、え、なにそれあのクソ野郎」
「なー、ホントな…。クレイジーだわあのジジイ死んだ方が世のためだよな」
「お前もな!」
「俺はなぁ、だからつまりだ!
 まぁなんだ、一瞬嫌な…予感が過ったんだよ…!」
「…はぁ?」

それは。

「どっちの意味で…?」

うわぁ、我ながら大人げない。しかし仕方ない。実際声色通り機嫌が急降下したし。
 だがそれを察知したのか、政宗は、また、首筋に手を伸ばし、耳元で俺の髪を弄んだ。

 運転中ですけどクソゴリラ。

 そういえば病院でこいつが濡れたタオルでひたすら血を拭ってくれたが、まだかさかさとしている。それを眺める政宗の瞳が多分、凄く悲しそうだ。
 居心地が悪くなり、その手を包み込んで、だが払った。

「なんだよ…」
「流星、」
「俺が刺したとでも言いた」
「ちげぇよ、なんでそうなる」

 視線を落とせば、自分の手が震えていることに気付いた。

「お前もわりとびびったかなと」
「…別に」
「俺はびびったさ。潤が死んだら、考えたら、飲まずにいられない」
「…死なねぇよ…あんなやつ」

死なない。

「みんな死なない、そんな弾じゃない。わかんないの?だって、生き残ってんだから」
「…流星」
「うるさい、帰るぞ」
「やっぱ泊まって」
「嫌だ。絡み癖めんどいんだよ」
「…あぁ、そう」

バカだなぁ。

「一杯しか付き合わないから」
「え?」

我ながらお人好しかもしれない。
仕方ないじゃないか、あんな話を、元上司から聞いてしまっては。

 夜の街は、喧騒は、
今や静かな空の下、車は高層マンションに向かっていた。
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