ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 13rd episode

2

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 どことなく愛欄の背中が、不穏なような気がした。地下の、射撃場に着いて長い黒髪を結うその情景はスローモーションのようで、綺麗だった。

 それから、スピーディーに腰元のホルスターから銃を抜いて的に的中させたのを見せつけられて。

あぁそうか君は。
あの時から何も変わっていないのか。

「愛欄、」
「…恭太、間違いは、庇えるのは、今しかないから…」
「えっ…?」
「ただ、見方でいるのはこれがきっと、最後だからね」
「何を…、」

あぁ、僕は。

 愛欄が、哀しそうにうっすらと笑ってその銃を僕に向けた。
僕はそれに息を呑む。

 ふと見えた長身の、がたいの良い彼が、愛欄の背後を取りその銃口を掴んで制した。

やはり、僕らの不穏を感じて追ってきたのだろうか。

 驚いて振り向く愛欄の肩に然り気無く置かれたその手と、怠そうに咥えたタバコ、何より優しく微笑みかける上司という存在が少し。

「穏やかじゃねぇな」
「…政宗さん」

 その、なんだかんだで優しいながら、人を射抜くようなどこか空虚な眼差しは凄く、何よりも煩わしかった。

きっと彼は、良い人だ。
しかしきっと、それっきりだ。

「…慧さんが出勤早々、昨日のことでお前を探してる。行ってやってくれ。彼の相方はお前だけだ、愛欄」
「…かしこまりました、副部長」

 そう上司に返すと僕に一瞥だけを寄越し、愛欄は僕と副部長の間を通って先に戻って行った。

 副部長と二人きりになって見つめ合う。彼は、僕が思っているよりも冷めた目で僕を見下ろし、口元だけの薄ら笑いを浮かべていた。

「…今日からご出勤なんですね」
「あぁ。苦労掛けたな」
「いえ…」

 予想以上に彼の復帰は早かった。
 まだ、経理の問題やらが片付いていない。果たしてこの現状を見て副部長は、あの二人をどうするのか。

 確か、あの二人にとってのこの人は先輩だ。前に射撃場で部長から銃を軽く教わったときに、そう聞いた。

 タバコを足下で揉み消してしゃがんで吸い殻を拾い彼はポケットの、ケータイ灰皿にそれを捨てた。

「経理が大変らしいな」

 急に降られた話題がそれだった。
 まぁ、丁度考えていた僕の、動揺のうちのひとつだ。

「…はい」
「なんだか俺がいないうちに、爆弾テロでも起こせそうな事態になっちまったな」
「…まぁ、大変みたいですね。部長と監督官もそれで喧嘩してて…」
「まぁあいつらはいつもだから。最早クセだよ」

そうだろうけど。

「でも、なんか、仲直りするとやっぱりあっさりですよね。あーゆーのが、なんか信頼なんですかね」
「どうかな」

でも。
どうにも僕にはわからない。
共感は出来る。だけど彼らはなんだか。
この、目の前で健やかに、二人を思って優しく微笑むこの人すら、何か、僕には取り憑かれているようにしか思えない。

「なんだ?」

 そんな僕の視線を感じてか、副部長は疑問のような表情で僕を見下ろした。

「言いたいことがあるなら今聞いておく」
「…はい?」
「ないならいいが…」
「はぁ…」

この人は一体。

「いや、今回は、なんか…」
「ん?」
「僕のせいかなって気がしてならないんです」
「何が?」

 僕が経理のことを言わなければ良かった、そんな単純明快な答えではない。
 僕は今、正直目標がない。何をしているのかもイマイチ、わからないのだ。

「いや、しっかりしてなかったなって」
「…まぁいい。始まる。話はそれからしようか」
「それが僕…アポがあるんです」
「は?」
「マークしていたゼウスの鮫島さめじまです」

 副部長は面食らったような顔をしたあと、僕を睨むように見た。
 そりゃぁそうだ。ここにきて鮫島とアポを取れたのは僕だけだったから。

「部長には朝、許可を取ろうと思っていたのですが」
「まず俺が却下だ。何故、今」

それに答えるのは多分筋違いなんだろうが。

「まだわからないからです」
「はぁ?」
「とある研究施設に最近融資をしていることがわかりました。これが、陸軍の施設で…」
「…それ、流星や潤は…?」

 頭を振る。
 ここもまだ捜査段階だ。正直言いたくない。そしてこの人が二人のことをよく知っているなら尚更言えるわけがないじゃないか。

 関東陸軍軍事施設の話なんて。

「尚更許可なんて」
「恐らく理由を告げたところで貴方は良いとは、部長も、星川監督官も良いとは言いませんよ」
「は?」

 僕のデスクワークをこの大人たちは何処かナメている。だが僕も完全ではないから仕方ない。だから、僕は僕のやり方で行くしかない。

「…何を勘違いしているか知らないが。
 俺たちは多分、お前みたいなクソガキが思うほどの野暮用でこんな壮大な博打、やってねぇよ?」
「…は?」
「そうだなぁ…。
 バカはやっちまったら、引き返せるのと、引き返せない重罪があるぞ。引き返せなくなる前には手を打つことも可能だがそれをする気がないなら仕方はない。
 流石に俺もそんなに若くはないからな、自分が出来ることも8割りくらいでしかやらない」
「政宗さん…?」
「さて行くか。
 ちなみに今日は流星も潤も来ない。そして俺は悪いがアポを許可しない。行きたきゃ独断で行け。それくらいにてめぇを信じられるならな」

 そして、先に去ろうとするその背中に。

「あ、そうそう」

 ふと振り返り僕を見る政宗さんは。

「俺、昔あいつらの…元を離れてヤケになって引きこもって麻雀と競馬とあとなんだっけな、さまざまなそーゆーんで食ってた時期があった。それが今やこの様だ。俺はお前ほど純粋な大人じゃないな」

 冷たい氷のような、
いや、連想するなら彼、副部長である荒川政宗の瞳はどちらかといえば狼のように炯々けいけいとしていた。
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