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The 14th episode
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「あ、そうそう」
厳粛な空気のなか、祥真は突然爽やかな笑顔でジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
そのジャケットから取り出した何か、を差し出されて反射的に一瞬身構えたが、見てみれば白い封筒。
筆記体、宛名の位置に“Ryusei-Sumida”の文字が見て取れた。消印はどうやら、ルイジアナ。
「ケリーから君に。君、ルイジアナに住民票あるよね」
「…まぁ、はい」
「大統領選挙。うちのボスは是非とも二世政治家クソババアに入れて欲しいなぁってさ」
「げっ、」
忘れていた。
「え、お前これ投票した?」
「したよー。俺テキサスだからねー。残念ながらそれでケリーと喧嘩して撃ち合う一歩手前で側近に止められたよー。あの人気が短いよね」
なんて笑顔で言ってしまうあたり、こいつ本当に大丈夫かと思ってしまう。
この男色々と社会不適合な気がする、国際的に。
「え、それって」
「もー凄いよ。
『You can't ask what I say(貴様俺の言うことが聞けねぇのか)』
なぁんて言いやがるから、
『Fuckin' A(そうだよ)』って中指立てて紳士的スマイルで返したらぶん殴ってきてさぁ、思わず銃抜いちゃったよ」
「…やっぱ政治の話はあんますべきじゃねぇのな」
「そうだねぇ」
染々言ってやがるけどなかなかアナーキーだな。やっぱ。
「お前ってホント変わらんな」
「そうかなぁ、まぁそうかもね」
「てか、どうしてこれお前んとこに?タカダさんからなんも…」
「お宅のボスはウチのボスと犬猿だから」
「まぁ…確かに」
俺の上司、高田創太とこいつの上司であるケリー・マクフォン(見た目が協会の紳士みたいな金髪ロン毛のおっさん)には昔因縁があるらしく、世界各国のFBI幹部や俺たち捜査員の間ですら有名なほど仲が悪い。
高田はケリーを「サイコキャット」と呼び、ケリーはタカダをシンプルに「ラットプロンカー」と呼んでいる、影で。
恐らくサイコキャットは金持ちデブ猫のファットキャットというスラングから来ているのだろう。
対してプロンカーは、語源は貧乏人を蔑むスラングで、ラットもスラング的な使い方で、本来ならばネズミだが、まああちらではあまり良い印象ではない。つまり、そういう間柄なのだ。
ケリーは高田のせいで日本人の大抵が嫌いである。しかし祥真はケリーの傘下にいるので、なんだかんだでケリーに好かれているのだ。同じ傘下のユミルなんて、合わなすぎて最早高田傘下になりつつある。
そう言えばユミルはどうしたか。サポートだしなんだかんだで高田傘下なので捕まるだろうと昨日高田に、欠員もいるし呼んでおけと言ったのだが。
「そう言えばユミル来てねぇな」
部署を見回してもいつものメンバーだけだ。
「へぇ…ユミルねぇ」
祥真はふと俺のデスクに座り、従業員名簿を取り出してぼんやりと眺めた。
「ユミル呼んだのか」
俺たちのやり取りを見ていた政宗が漸く、腕を組んで睨むように俺を見た。
「まぁ、サポートなんで…要請事態はしましたよ」
「ユミルって、あのウィスキーの人…」
諒斗がふと言った。
そうかこの部署では、ウィスキー飲んで射撃場で一課からクレームをもらって以来じゃないか、あいつ。
「そうです。潤がいねぇからな。しかしまぁちょっと詰めてるからサポート呼ぼうかと思って」
「ユミルなら明日くらいには日本にいるんじゃない?いま彼はまさしくついでに選挙にでも行ってるんじゃない?」
「マジか、高田は一言も」
「ケリーが話してないんでしょ」
こんなところで上司抗争。めんどくせぇな。まぁ、別にいいけど。
「選挙に行くついでに流星、ケリーに会ってやってよ」
「えぇ?」
嫌だよ。正気かよこの優男。
「てか俺ら…まぁいまはいいけど別の時にね。
ケリーが君のこと凄く気に入っていてね。プロンカーのとこより俺んとこ来ないかってうるさいんだ」
「あー…」
まぁ前からそうだよなあの人。
「君の父親への贖罪なんだと」
「はぁ?」
父親?
「なに?仲悪いだろ」
「それはタカダさんでしょ。君の兄貴は気付いたら居ないし、やっぱどうにも、タカダは信用できないと、ぼやいてたよ」
「なに言ってんの?」
「え?」
先程までの冗談を言っていたような緩い雰囲気から一変、
戦場に降り立ったときの鋭い目付きで射抜くように祥真は俺を見る。
しかしそれも、しばらくすれば祥真に少しの動揺が見て取れた。
なんだろう。祥真は何が言いたいのだろう。
「ケリーは君のことは凄く気に入っている。日本人なのに。それは君の父親から、ジャパニーズソウルを学んだからなんだと」
「俺の父親は高田だが」
祥真は黙り込み、何かを考える、こちら側を見ようとするように見つめてきた。
しかしこちらも動じない。だってそれはまぁ、ある意味事実なのだから。
「まぁそれは後でいいや。俺はいま君の仕事を見よう。話の腰を折って悪かった」
「…そうか」
あまり納得はいっていないようだが取り敢えず俺は祥真の一言に頷き、部署全体を見渡した。
「長くなったが問題の解決と行こうか。
さて、まずは状況の確認と調査報告を聞く必要がありそうだな」
俺はホワイトボードの前に立ち、マジックを持った。
厳粛な空気のなか、祥真は突然爽やかな笑顔でジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
そのジャケットから取り出した何か、を差し出されて反射的に一瞬身構えたが、見てみれば白い封筒。
筆記体、宛名の位置に“Ryusei-Sumida”の文字が見て取れた。消印はどうやら、ルイジアナ。
「ケリーから君に。君、ルイジアナに住民票あるよね」
「…まぁ、はい」
「大統領選挙。うちのボスは是非とも二世政治家クソババアに入れて欲しいなぁってさ」
「げっ、」
忘れていた。
「え、お前これ投票した?」
「したよー。俺テキサスだからねー。残念ながらそれでケリーと喧嘩して撃ち合う一歩手前で側近に止められたよー。あの人気が短いよね」
なんて笑顔で言ってしまうあたり、こいつ本当に大丈夫かと思ってしまう。
この男色々と社会不適合な気がする、国際的に。
「え、それって」
「もー凄いよ。
『You can't ask what I say(貴様俺の言うことが聞けねぇのか)』
なぁんて言いやがるから、
『Fuckin' A(そうだよ)』って中指立てて紳士的スマイルで返したらぶん殴ってきてさぁ、思わず銃抜いちゃったよ」
「…やっぱ政治の話はあんますべきじゃねぇのな」
「そうだねぇ」
染々言ってやがるけどなかなかアナーキーだな。やっぱ。
「お前ってホント変わらんな」
「そうかなぁ、まぁそうかもね」
「てか、どうしてこれお前んとこに?タカダさんからなんも…」
「お宅のボスはウチのボスと犬猿だから」
「まぁ…確かに」
俺の上司、高田創太とこいつの上司であるケリー・マクフォン(見た目が協会の紳士みたいな金髪ロン毛のおっさん)には昔因縁があるらしく、世界各国のFBI幹部や俺たち捜査員の間ですら有名なほど仲が悪い。
高田はケリーを「サイコキャット」と呼び、ケリーはタカダをシンプルに「ラットプロンカー」と呼んでいる、影で。
恐らくサイコキャットは金持ちデブ猫のファットキャットというスラングから来ているのだろう。
対してプロンカーは、語源は貧乏人を蔑むスラングで、ラットもスラング的な使い方で、本来ならばネズミだが、まああちらではあまり良い印象ではない。つまり、そういう間柄なのだ。
ケリーは高田のせいで日本人の大抵が嫌いである。しかし祥真はケリーの傘下にいるので、なんだかんだでケリーに好かれているのだ。同じ傘下のユミルなんて、合わなすぎて最早高田傘下になりつつある。
そう言えばユミルはどうしたか。サポートだしなんだかんだで高田傘下なので捕まるだろうと昨日高田に、欠員もいるし呼んでおけと言ったのだが。
「そう言えばユミル来てねぇな」
部署を見回してもいつものメンバーだけだ。
「へぇ…ユミルねぇ」
祥真はふと俺のデスクに座り、従業員名簿を取り出してぼんやりと眺めた。
「ユミル呼んだのか」
俺たちのやり取りを見ていた政宗が漸く、腕を組んで睨むように俺を見た。
「まぁ、サポートなんで…要請事態はしましたよ」
「ユミルって、あのウィスキーの人…」
諒斗がふと言った。
そうかこの部署では、ウィスキー飲んで射撃場で一課からクレームをもらって以来じゃないか、あいつ。
「そうです。潤がいねぇからな。しかしまぁちょっと詰めてるからサポート呼ぼうかと思って」
「ユミルなら明日くらいには日本にいるんじゃない?いま彼はまさしくついでに選挙にでも行ってるんじゃない?」
「マジか、高田は一言も」
「ケリーが話してないんでしょ」
こんなところで上司抗争。めんどくせぇな。まぁ、別にいいけど。
「選挙に行くついでに流星、ケリーに会ってやってよ」
「えぇ?」
嫌だよ。正気かよこの優男。
「てか俺ら…まぁいまはいいけど別の時にね。
ケリーが君のこと凄く気に入っていてね。プロンカーのとこより俺んとこ来ないかってうるさいんだ」
「あー…」
まぁ前からそうだよなあの人。
「君の父親への贖罪なんだと」
「はぁ?」
父親?
「なに?仲悪いだろ」
「それはタカダさんでしょ。君の兄貴は気付いたら居ないし、やっぱどうにも、タカダは信用できないと、ぼやいてたよ」
「なに言ってんの?」
「え?」
先程までの冗談を言っていたような緩い雰囲気から一変、
戦場に降り立ったときの鋭い目付きで射抜くように祥真は俺を見る。
しかしそれも、しばらくすれば祥真に少しの動揺が見て取れた。
なんだろう。祥真は何が言いたいのだろう。
「ケリーは君のことは凄く気に入っている。日本人なのに。それは君の父親から、ジャパニーズソウルを学んだからなんだと」
「俺の父親は高田だが」
祥真は黙り込み、何かを考える、こちら側を見ようとするように見つめてきた。
しかしこちらも動じない。だってそれはまぁ、ある意味事実なのだから。
「まぁそれは後でいいや。俺はいま君の仕事を見よう。話の腰を折って悪かった」
「…そうか」
あまり納得はいっていないようだが取り敢えず俺は祥真の一言に頷き、部署全体を見渡した。
「長くなったが問題の解決と行こうか。
さて、まずは状況の確認と調査報告を聞く必要がありそうだな」
俺はホワイトボードの前に立ち、マジックを持った。
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