ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 14th episode

2

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「まず、先程話した谷栄一郎についてだが…。
 政宗、捜査一課と五課へは?」
「あぁ、それなんだがな」

 政宗が慧さんを見れば、慧さんは改まる。

「どちらにも掛け合い、鑑識資料も取り寄せた結果…綺麗さっぱり何も出てきませんでした。
 それこそ、まるで誰かが持ち去ったと暗示させるくらいに綺麗さっぱりと」
「そうですか」

なるほど。
それはつまり。

「てか流星さん、あなた、たまには休んだらどうです?」
「まぁ…いや、たまたま時間が今空いてるんで。お気になさらず」
「…そうですか?」
「いやぁ、知人を4時間ほど待たなくてはならなくて。近くだし暇なんで」
「4時間…」

 慧さんが心配そうに言ってくれる。まぁ、確かに。俺一人非番だったことなんて今までなかったしな。

 しかしどうせ環の手術(仮)まで4時間。ちょうど就業時間。つまりは今日、この話は終息だ。いや、今日には終わらせたい。

「まぁ、それはいいんですが…。
 つまりは第三者が、谷が自殺してから家宅捜索までの間に何かを持ち去っていることをこちらに暗示しているわけですね 」
「恐らくは…」
「最早そうなってくると他殺である可能性は?」
「ありえますね。彼はどこから入手したのかこれまた件のバルビツール酸系の薬物の服毒死ですからね」

 話が見えてきた。というよりは確信に迫ってきた。

「谷の研究室には?」
「読み通り、硝酸カリウムとデバインが大量に見つかりました」
「しかしバルビツールは出て来てない、と…」
「これだけはまぁ、日本では厚労省のマトリ管理ですからね」
「話は繋がったな」

 ホワイトボードに字を一文字ずつ確実に書きながら自覚した。
 やはり裏切りは起こっていたのだ。しかし。
 まさかこんなところであいつの知識が役立つとは、思いもしなかった。

「件のバルビツール酸というのは要するに睡眠薬だ。死刑執行に使われるレベルのな。ほぼ麻薬でこれは死刑執行に使っていたイギリスですらも廃止されている。
 この薬品は睡眠障害やらてんかんやら統合失調症とうごうしっちょうしょう、あとは向精神薬こうせいしんやくに使われていたが現在は依存性なり副作用なり問題もあるのでほとんど使われていない。
 さて、先程出てきたデバインだが…。
 これはまぁざっくり分かりやすく説明するとモルヒネとかの、ケシの実から出来るまぁ、沈痛作用なんかがあるが麻薬性のある薬品、これをオピエートというんだが、デバインはその一種で…。
 つまりは、バルビツール酸もデバインも医療品だが薬物性のある、まぁ取扱注意薬品なわけでだな。
 谷はデバインを所持していた。あとは何かを所持していたが何者かがそれを暗示していそうだ、今この段階に俺たちはいる。
 そして自殺を図ったとされる刑務所ではどうもバルビツール酸の中毒死で死んだ。
さて、もう一度話を戻すと、このバルビツール酸とデバインに何故俺が注目しているかと、言う話だ。
 この二つ、実は掛け合わせると相当相性が悪い。副作用を引き起こしやすい。まぁ、ショック死するかもな」
「え、つまり?」
「しかしどちらも、耐性形成たいせいけいせいが早く、依存しやすい。そして精神離脱と振戦しんせんせん妄になりやすい」
「はい!先生」
「はい、諒斗くん」
「しんせんなんちゃらとは?」
「はい、簡単すぎる説明でいくとジャンキーのあれです。幻覚とか興奮とか悪夢とか錯覚とか」
「つまりは、」
「二つ合わせて麻薬となる」

 ここで漸く一同、気付いたようだ。

「そんな…」

 火中の恭太が、唖然とした表情で焦点定まらぬ視点を向けた。

「そういうことだ」
「つまり形体はエレボスと似ている」
「そうだ。しかしまだ俺たちは予測でしかエレボスの手口を把握していない。最初に押収した薬物には、人間の臓器の細胞が検出されている。だが同時に、コデイン、バルビツール酸、その他医療品関係も多数その臓器に含まれていた。つまりだ」
「はい」
「これもまた予想だ。
 薬物を接種した人間の細胞から新たな何かを作ろうとした、と言うよりは…。
 研究材料として医療機関に売っぱらおうとした、こういう体裁だとしたら?
 あと考えられるのはそうだなぁ…。
 バルビツール酸中毒患者を作るとする。消化やらなんやらでまぁ色々な成分が人間の体内には作られる。
 このバルビツール酸に犯された臓器やら細胞を、コデインに投入してみる」
「それは最早、学者の神秘というかそんなものを感じるね」
「そう!」

 思わず祥真をマジックで指差してしまった。まぁこれくらいの無礼は怒らないやつなのでいいだろう。

「…学者。
 学者支援だとすりゃぁ一流企業や国が金を出しても納得がいく。
 しかしやっていることは腐ってもヤク作りだ。嗅ぎ付けてヤクザがたかりに来る、いや、なんならヤクザに片腹痛いが護衛を任せることすらあり得ない話ではない。そのヤクザがちょっと最近目立ってきてしまった、だから摘発へ…と」
「ただ、流星それは」

 政宗がふと、睨むようにはっきりと俺を見て言った。

「完璧に内部を疑った場合の課程だな」

 嗜めるように言うわりには、政宗の口元の笑みはニヒルだった。どうやら、同意はしたらしい。

「つまりクリーンなところがそうして結局、国のダニとなりテロを起こしていると」

 頭を抱えるようにした政宗のその手が、痙攣のように震え始めた。

「怖ぇな」
「…あくまで非現実的すぎる空想だ、まだ。それだけじゃ数々のテロ行為の証明にはならない」

 まだまだ捜査も捜査権も足りない。本当にただ、数々の相関図や出来事を頭の中で少し組み立てた程度だ。
 第一目的がまだわからない。ここが恐らく事件の核心だ。
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