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The 17th episode
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先に構えたのは潤で。
視線は全ての扉に注ぎ。
微かな音、右、
「潤、退けっ!」
流星が叫ぶと同時に潤の真横の扉が吹き飛んだ。すっ飛ぶように流星にアタック。
抱き止められず、二人揃って床にダイブ。どちらかといえば頭を打ったのは流星だった。
「いてぇ…、」
はっと気付いて潤は、下に敷かれてしまった流星を見る。
苦悶の表情。というか、意識あるのかこれ。
「おぃ、流星、生きてっか、お、」
かしゃっと後頭部で音がした。
「動かないで」
女の声。
ビンゴだ流星。てか。
「化け物かよあんた」
てかアクション映画かよ、マジで。
睨み付けて潤はそのまま振り向いた。
やはりそうだ。
中肉中背で案外特徴のない顔。しかし流石はマトリ副部長、肩幅の広い、その肩まである乱れた黒髪。
麻薬取締部副部長、里中栄。
「FBIもとい、高田創太直属の部下、星川潤。元官房長官星川匠のご子息でお間違いないかしら」
「…よくご存じでらっしゃんなぁ、あんた」
「そちらに寝転がっていらっしゃるのは貴方の警察学校同期生で、
海上自衛隊学校関連のお友達、元国家特別テロ捜査本部の同期、現在特殊捜査本部の壽美田流星さん、ですかね」
「さぁ、どうかね」
「まぁ、いいんですけど。どうせ殉職ですから。
そちらのスミスアンドウェッソン、捨ててくださる?」
「やーだよっと!」
離しかけた銃を素早く向ける。
しかし体制的にははるかに不利だ。どう頑張っても腹に力が入る。
相手はしかし、マトリらしい。チーターだ。だがまぁ、額に銃口が当たるくらいでビビりはしない潤である。
元々死ぬ気でやっている。
スライドを引くその腕に一発、相手が引ききる前に撃ち込んでやろうと撃った。
だが相手もマトリ、死線は潜ってきている。潤の腕が動いた瞬間には額から銃口は離れていた。
「…婦女子に銃を撃とうだなんて、わりと嫌な男ね」
「…ジェンダーフリーなんだよ」
互いがスライドを引き、銃口を向ける。
ふと、
「茶番だな」
左の、後ろから声が聞こえて。
銃声がした。
里中が倒れる。ドサッという音に、見れば最早里中の頭がない死体が倒れていた。
マグナム弾か何かか。取り敢えずリボルバーか。
だとしたら非常に分が悪い。
左を見れば、黒縁眼鏡。
この男、覚えている。銀河を、殺した男がそこにいる。
「…お前っ、」
ふと、そいつが笑った。
「無様だな。
立てよ、ホシカワ。それくらいの猶予はやるよ」
なんだこの野郎。
「上等だクソ、」
「待て潤」
ふと、立とうとした潤に微かな声が掛かる。
「は?」と言った瞬間ジャケットを引っ張られ、反動で座る羽目になる。
変わりに立ち上がった流星が手にしたのは、デザートイーグルで。
M18を座りこけた潤に投げて寄越す、狂犬。
「腹の傷開くぞお前」
いや、
「余計開くわ…」
てか、
わりと開きかけとるねん。
「やっと、起きたか狂犬、いや…『ダナエ』」
「…あ?」
「覚えてないかもしれないな。
お前のアホみてぇな記憶だとな、ダナエ。俺ははっきり覚えてるぞ。
『昴の会』は皆平等だったからなぁ、ダナエ。だが、生き残ったのは俺と、お前と…」
「なんの話をしてるんだてめえ」
「お前のお陰で俺は生き残れたという話だ。
お前があの人にベトナムで誘拐されて、生き残った俺は食料難になった。しかし、あんな殺戮のあとだ、血肉は、いくらでもあったんだよ、流星」
「…誰だてめぇ」
「忘れたのか?
あの、昼間しかない宗教団体で共に過ごした日々を。
そうさなぁ、俺はその頃こう呼ばれていた、メデューサと」
「メデューサ…」
耳鳴りがする。
宗教団体での、あの日々が。
「今では日本に渡り、『高梁銀次』の名を貰う」
「待て、誰だお前は」
「…箕原海の、下僕だ」
「は、」
銃口が向けられる。
「何もイツミは、
てめぇだけを救ったわけじゃねぇんだよ、狂犬」
「お前、」
「流星、」
「うるせえ、黙れ」
リボルバーのハンマーが引かれる。
酷くスローモーションに見えたそれに。
「Lefts,」
潤の冷えたような指示が聞こえて。
はっとして左に避けた。
硝煙がした。嗅ぎ慣れたような、パラベラムの、弾薬の。
パタッと倒れた音がして。
前方からもした。
「潤、」
「はぁぁ、」
生きてる。
「痛ぇ」
だが振り向いた瞬間に右の蟀谷あたりを擦った。
前方見ればまぁ、潤の一発が当たったらしい高梁。腹を押さえながら野獣のような目付きで「ごはっ、」と血を吐く。
その瞬間、漸く吹っ切れた気がした。
「悪いな高梁くん」
構え直して高梁の頭に銃口を向ける。
「俺はまた、死にたくないらしい」
撃った。
最期に高梁は笑ったような、そんな気はした。
肩に来た、その反動は久しぶりで。
高梁が倒れたのを感じて座り込んだ。
潤を見れば痛そうだが、
「バカ」
それだけは声を掛けた。
「開いちまったんじゃねぇか、これぇ…」
腹は確かに押さえていたが。
どうやら血は出ていなかった。
流石、化け物である。
「うん、開いてんな」
「うそっ、ま、マジ?」
「マジマジ」
「死ねよ、クソが」
ふと潤が。
顔の。
額下、目のあたりを怠く腕で覆ったので。
流星は仕方なく、自分のタバコを咥えさせ、火をつけてやった。
一口目で噎せていた。
自分もゆったり、タバコを吸う。
「おい」
「なんだ」
タバコの文句かと思ったが。
「生きてんな」
震える声で潤がそう言った。
「残念か?」
「…わかんねぇな」
「そうか」
何て言うべきか。
まぁ、素直に。
「俺もかもな」
そう答えた。
それから潤は、何も言わなかった。
部下達が地下に駆けつけた頃には。
わりと片付いていたが。
二人の会話だけはどうしても。
聞き取りやすい廊下で。
まぁ雑音があったせい。
聞き取れなかったと。そういうことにして、まずは、着いていかねばこの二人、いけないんだと、痛感したのだった。
視線は全ての扉に注ぎ。
微かな音、右、
「潤、退けっ!」
流星が叫ぶと同時に潤の真横の扉が吹き飛んだ。すっ飛ぶように流星にアタック。
抱き止められず、二人揃って床にダイブ。どちらかといえば頭を打ったのは流星だった。
「いてぇ…、」
はっと気付いて潤は、下に敷かれてしまった流星を見る。
苦悶の表情。というか、意識あるのかこれ。
「おぃ、流星、生きてっか、お、」
かしゃっと後頭部で音がした。
「動かないで」
女の声。
ビンゴだ流星。てか。
「化け物かよあんた」
てかアクション映画かよ、マジで。
睨み付けて潤はそのまま振り向いた。
やはりそうだ。
中肉中背で案外特徴のない顔。しかし流石はマトリ副部長、肩幅の広い、その肩まである乱れた黒髪。
麻薬取締部副部長、里中栄。
「FBIもとい、高田創太直属の部下、星川潤。元官房長官星川匠のご子息でお間違いないかしら」
「…よくご存じでらっしゃんなぁ、あんた」
「そちらに寝転がっていらっしゃるのは貴方の警察学校同期生で、
海上自衛隊学校関連のお友達、元国家特別テロ捜査本部の同期、現在特殊捜査本部の壽美田流星さん、ですかね」
「さぁ、どうかね」
「まぁ、いいんですけど。どうせ殉職ですから。
そちらのスミスアンドウェッソン、捨ててくださる?」
「やーだよっと!」
離しかけた銃を素早く向ける。
しかし体制的にははるかに不利だ。どう頑張っても腹に力が入る。
相手はしかし、マトリらしい。チーターだ。だがまぁ、額に銃口が当たるくらいでビビりはしない潤である。
元々死ぬ気でやっている。
スライドを引くその腕に一発、相手が引ききる前に撃ち込んでやろうと撃った。
だが相手もマトリ、死線は潜ってきている。潤の腕が動いた瞬間には額から銃口は離れていた。
「…婦女子に銃を撃とうだなんて、わりと嫌な男ね」
「…ジェンダーフリーなんだよ」
互いがスライドを引き、銃口を向ける。
ふと、
「茶番だな」
左の、後ろから声が聞こえて。
銃声がした。
里中が倒れる。ドサッという音に、見れば最早里中の頭がない死体が倒れていた。
マグナム弾か何かか。取り敢えずリボルバーか。
だとしたら非常に分が悪い。
左を見れば、黒縁眼鏡。
この男、覚えている。銀河を、殺した男がそこにいる。
「…お前っ、」
ふと、そいつが笑った。
「無様だな。
立てよ、ホシカワ。それくらいの猶予はやるよ」
なんだこの野郎。
「上等だクソ、」
「待て潤」
ふと、立とうとした潤に微かな声が掛かる。
「は?」と言った瞬間ジャケットを引っ張られ、反動で座る羽目になる。
変わりに立ち上がった流星が手にしたのは、デザートイーグルで。
M18を座りこけた潤に投げて寄越す、狂犬。
「腹の傷開くぞお前」
いや、
「余計開くわ…」
てか、
わりと開きかけとるねん。
「やっと、起きたか狂犬、いや…『ダナエ』」
「…あ?」
「覚えてないかもしれないな。
お前のアホみてぇな記憶だとな、ダナエ。俺ははっきり覚えてるぞ。
『昴の会』は皆平等だったからなぁ、ダナエ。だが、生き残ったのは俺と、お前と…」
「なんの話をしてるんだてめえ」
「お前のお陰で俺は生き残れたという話だ。
お前があの人にベトナムで誘拐されて、生き残った俺は食料難になった。しかし、あんな殺戮のあとだ、血肉は、いくらでもあったんだよ、流星」
「…誰だてめぇ」
「忘れたのか?
あの、昼間しかない宗教団体で共に過ごした日々を。
そうさなぁ、俺はその頃こう呼ばれていた、メデューサと」
「メデューサ…」
耳鳴りがする。
宗教団体での、あの日々が。
「今では日本に渡り、『高梁銀次』の名を貰う」
「待て、誰だお前は」
「…箕原海の、下僕だ」
「は、」
銃口が向けられる。
「何もイツミは、
てめぇだけを救ったわけじゃねぇんだよ、狂犬」
「お前、」
「流星、」
「うるせえ、黙れ」
リボルバーのハンマーが引かれる。
酷くスローモーションに見えたそれに。
「Lefts,」
潤の冷えたような指示が聞こえて。
はっとして左に避けた。
硝煙がした。嗅ぎ慣れたような、パラベラムの、弾薬の。
パタッと倒れた音がして。
前方からもした。
「潤、」
「はぁぁ、」
生きてる。
「痛ぇ」
だが振り向いた瞬間に右の蟀谷あたりを擦った。
前方見ればまぁ、潤の一発が当たったらしい高梁。腹を押さえながら野獣のような目付きで「ごはっ、」と血を吐く。
その瞬間、漸く吹っ切れた気がした。
「悪いな高梁くん」
構え直して高梁の頭に銃口を向ける。
「俺はまた、死にたくないらしい」
撃った。
最期に高梁は笑ったような、そんな気はした。
肩に来た、その反動は久しぶりで。
高梁が倒れたのを感じて座り込んだ。
潤を見れば痛そうだが、
「バカ」
それだけは声を掛けた。
「開いちまったんじゃねぇか、これぇ…」
腹は確かに押さえていたが。
どうやら血は出ていなかった。
流石、化け物である。
「うん、開いてんな」
「うそっ、ま、マジ?」
「マジマジ」
「死ねよ、クソが」
ふと潤が。
顔の。
額下、目のあたりを怠く腕で覆ったので。
流星は仕方なく、自分のタバコを咥えさせ、火をつけてやった。
一口目で噎せていた。
自分もゆったり、タバコを吸う。
「おい」
「なんだ」
タバコの文句かと思ったが。
「生きてんな」
震える声で潤がそう言った。
「残念か?」
「…わかんねぇな」
「そうか」
何て言うべきか。
まぁ、素直に。
「俺もかもな」
そう答えた。
それから潤は、何も言わなかった。
部下達が地下に駆けつけた頃には。
わりと片付いていたが。
二人の会話だけはどうしても。
聞き取りやすい廊下で。
まぁ雑音があったせい。
聞き取れなかったと。そういうことにして、まずは、着いていかねばこの二人、いけないんだと、痛感したのだった。
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