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The 17th episode
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錆びもつかないような、薄暗い灰色の滅菌された地下通路。
足音だけが確かなもので、一直線に、ただ、その先には不自然なまでに静か。ここは不自然だ。
不自然に、電話が鳴った。
思わず、流星は持ち主である潤を睨んでしまった。
「サイレントにしとけよてめぇっ、」
「お前が言うか、それ」
ケータイを眺める潤は「ん?」と疑問。
「なんだよ」
「いや、愛蘭ちゃんからエロ動画」
「はぁ!?」
思わず流星は潤のケータイを覗き込んでしまい、
「うわっ、」
目を押さえる衝撃。
「うーわぁ、うぜぇなーにこの南米テロチック胸クソ悪ー」
「お前なんでそう、うぇえ、ちょ、」
「ほらほら見てみろよへいへい。胃液っつーか脳髄出ちゃうレベルの18禁だぜこれ」
「死ねてめぇ殺すぞ女顔」
「じゃなくてこれ帝都じゃね?
爆発してるし、てかこれ多分副部長じゃなくね?てか元々死んでね?だって血の飛距離あんまねぇし。これ喧嘩売られてね?
あーあ。
こりゃあれだな。
パターンは2つ。
里中死んでる。これ前回パターンな。だとしたらフェイクで猿芝居しまくってるここで死体が転がってるパターンな。
だったら疑問は、なぜ帝都でこれ撮ってるか。いずれにしても里中は、ここで殺される映像に写れなかった、と言うことだな」
「…待て、」
「あくまで俺の仮説。はい、どうぞぶちょー」
笑顔で、
しかも美人顔でいちいちそれを渡されるドヤ顔に腹が立つがそんなことを言っている場合ではない。
流星は潤からケータイを奪い取り、嫌々ながら胸クソ画像をじっくり3回くらい眺めてみる。潤のケータイをぶち壊しそうに握りしめながら。
見終わって流星は、呼吸を止めていたことに気付く。息が荒くなった。
「こぅれはあ、あれやんね」
「誰だお前。呼吸荒ぇけど」
「あちらの3件爆破やねぇ」
「誰だって、冷や汗ハンパねぇけどお前」
「してこれは里中氏やないねぇ」
「誰だよてめぇ、画面ぬめってて気持ち悪ぃけど」
「…返す。
お前マトリーズに通達しろ。
やつらに一纏めにそれっぽいこと言って集めて撤退させろ危ない」
「そう来たか流星。つかケータイ汚ぇ。油すげぇよおい殺すぞバカ」
「仕方ないよね!俺意外と28だよ!」
「だからってなにこれ指紋認証しなくない!?つかフツー拭いて返す。そゆとこお前ホント嫌い。お前みたいな奴絶対オナっても手ぇすぐ洗わない奴」
「どうでもいいつかしょうもねぇなお前こんな時にぃ!洗うわ!なんなら全てを洗い流すわ!」
「どうでもいいつかしょうもねぇなこんな時に。最低。ホント生きてる価値ない。爆破されて死ねよ」
「いいから早くしろよ性格破綻の異常性欲!てめぇこっちはこっちで瞬と諒斗と…
伊緒と霞がいんだよクソが!」
「はいはいはいはい!わかってますよこのチンカス野郎!」
それぞれ背を向けて電話。
電話が終われば大体顔を見合わせて一息吐き、互いにタバコをつけた。
「つうかさ」
「んだよ」
「…お前、全員生きて帰そうとか、本気で思ってんの?」
「…どうかな」
「…ユミルになに言われたか知らねぇが、ヤケになってねぇか?」
「別に。
ヤケになれた方がまだマシだわ」
「違いねぇけど。
帰ったらまぁ、ユミルに殺される覚悟出来てんの?」
「まぁな」
「じゃぁいいや。仕方ねぇな今回ばかりは。
可哀想だがな、正直」
「何が」
「…何がって。
わかってんだろ。俺ら今回、本気で生き残んねぇと、てかマトリだってそうだ。マジで犬死にだぞこれ」
「…殺さねぇって言ってんだろ。
そしてそれは一応、仮説に、まだしておく。マトリも今は撤退してるし」
「優しさも時に残酷じゃねぇか?
あの人生きてたって死んでたって」
「伊緒みたいなやつだっていたじゃねぇかよ。裏切りが、全てじゃねぇよ。まだそうと決まったわけじゃねぇからあくまで、助けに行くんだ」
「…お前とは気が合わねぇな」
「そうだな、だが」
「あぁ、その方がいいかもな」
互いを知らない方がいいこともある。
この男の背負う寂漠はわからない。
この男の背負う孤独はわからない。
多分それがいい。
全てをわかり合ってしまった時には、仕方ないが殺し合う結果が待ち望む。それを目の前にしたときに、それを背負う後世が、いまはいるらしい。
「…水葬で」
「密葬で」
「けどまぁ、たまには逆もいいか」
「どっちでもいいよ、もう」
少しヒリついているが、まぁ、笑えた。
いつだってそうだ。
「死んだ後、誰かが決めるよ」
あの二人、確かそうだったから。
こちらで決めようだなんて、今さら贅沢だ。
「それは悲しいから。
じゃ、死んだあとの話すんのは、金輪際やめっか、センスねぇし」
「そうだな」
「クソみてぇに…生きるしかねぇな」
「ん、はい」
その潤の、
少し悲しそうな笑顔が染みて、流星は案外、何も言えなくなってしまった。
何もない廊下を曲がり、いくつかの鉄の扉が並ぶ通路に差し掛かり、それも殺気に変わっていく。
100mほど、正面は扉で行き止まり。ここに何かが、あるはず。
二人を待ち構えたかのように、
右の2つ先の扉から、爆音がした。
足音だけが確かなもので、一直線に、ただ、その先には不自然なまでに静か。ここは不自然だ。
不自然に、電話が鳴った。
思わず、流星は持ち主である潤を睨んでしまった。
「サイレントにしとけよてめぇっ、」
「お前が言うか、それ」
ケータイを眺める潤は「ん?」と疑問。
「なんだよ」
「いや、愛蘭ちゃんからエロ動画」
「はぁ!?」
思わず流星は潤のケータイを覗き込んでしまい、
「うわっ、」
目を押さえる衝撃。
「うーわぁ、うぜぇなーにこの南米テロチック胸クソ悪ー」
「お前なんでそう、うぇえ、ちょ、」
「ほらほら見てみろよへいへい。胃液っつーか脳髄出ちゃうレベルの18禁だぜこれ」
「死ねてめぇ殺すぞ女顔」
「じゃなくてこれ帝都じゃね?
爆発してるし、てかこれ多分副部長じゃなくね?てか元々死んでね?だって血の飛距離あんまねぇし。これ喧嘩売られてね?
あーあ。
こりゃあれだな。
パターンは2つ。
里中死んでる。これ前回パターンな。だとしたらフェイクで猿芝居しまくってるここで死体が転がってるパターンな。
だったら疑問は、なぜ帝都でこれ撮ってるか。いずれにしても里中は、ここで殺される映像に写れなかった、と言うことだな」
「…待て、」
「あくまで俺の仮説。はい、どうぞぶちょー」
笑顔で、
しかも美人顔でいちいちそれを渡されるドヤ顔に腹が立つがそんなことを言っている場合ではない。
流星は潤からケータイを奪い取り、嫌々ながら胸クソ画像をじっくり3回くらい眺めてみる。潤のケータイをぶち壊しそうに握りしめながら。
見終わって流星は、呼吸を止めていたことに気付く。息が荒くなった。
「こぅれはあ、あれやんね」
「誰だお前。呼吸荒ぇけど」
「あちらの3件爆破やねぇ」
「誰だって、冷や汗ハンパねぇけどお前」
「してこれは里中氏やないねぇ」
「誰だよてめぇ、画面ぬめってて気持ち悪ぃけど」
「…返す。
お前マトリーズに通達しろ。
やつらに一纏めにそれっぽいこと言って集めて撤退させろ危ない」
「そう来たか流星。つかケータイ汚ぇ。油すげぇよおい殺すぞバカ」
「仕方ないよね!俺意外と28だよ!」
「だからってなにこれ指紋認証しなくない!?つかフツー拭いて返す。そゆとこお前ホント嫌い。お前みたいな奴絶対オナっても手ぇすぐ洗わない奴」
「どうでもいいつかしょうもねぇなお前こんな時にぃ!洗うわ!なんなら全てを洗い流すわ!」
「どうでもいいつかしょうもねぇなこんな時に。最低。ホント生きてる価値ない。爆破されて死ねよ」
「いいから早くしろよ性格破綻の異常性欲!てめぇこっちはこっちで瞬と諒斗と…
伊緒と霞がいんだよクソが!」
「はいはいはいはい!わかってますよこのチンカス野郎!」
それぞれ背を向けて電話。
電話が終われば大体顔を見合わせて一息吐き、互いにタバコをつけた。
「つうかさ」
「んだよ」
「…お前、全員生きて帰そうとか、本気で思ってんの?」
「…どうかな」
「…ユミルになに言われたか知らねぇが、ヤケになってねぇか?」
「別に。
ヤケになれた方がまだマシだわ」
「違いねぇけど。
帰ったらまぁ、ユミルに殺される覚悟出来てんの?」
「まぁな」
「じゃぁいいや。仕方ねぇな今回ばかりは。
可哀想だがな、正直」
「何が」
「…何がって。
わかってんだろ。俺ら今回、本気で生き残んねぇと、てかマトリだってそうだ。マジで犬死にだぞこれ」
「…殺さねぇって言ってんだろ。
そしてそれは一応、仮説に、まだしておく。マトリも今は撤退してるし」
「優しさも時に残酷じゃねぇか?
あの人生きてたって死んでたって」
「伊緒みたいなやつだっていたじゃねぇかよ。裏切りが、全てじゃねぇよ。まだそうと決まったわけじゃねぇからあくまで、助けに行くんだ」
「…お前とは気が合わねぇな」
「そうだな、だが」
「あぁ、その方がいいかもな」
互いを知らない方がいいこともある。
この男の背負う寂漠はわからない。
この男の背負う孤独はわからない。
多分それがいい。
全てをわかり合ってしまった時には、仕方ないが殺し合う結果が待ち望む。それを目の前にしたときに、それを背負う後世が、いまはいるらしい。
「…水葬で」
「密葬で」
「けどまぁ、たまには逆もいいか」
「どっちでもいいよ、もう」
少しヒリついているが、まぁ、笑えた。
いつだってそうだ。
「死んだ後、誰かが決めるよ」
あの二人、確かそうだったから。
こちらで決めようだなんて、今さら贅沢だ。
「それは悲しいから。
じゃ、死んだあとの話すんのは、金輪際やめっか、センスねぇし」
「そうだな」
「クソみてぇに…生きるしかねぇな」
「ん、はい」
その潤の、
少し悲しそうな笑顔が染みて、流星は案外、何も言えなくなってしまった。
何もない廊下を曲がり、いくつかの鉄の扉が並ぶ通路に差し掛かり、それも殺気に変わっていく。
100mほど、正面は扉で行き止まり。ここに何かが、あるはず。
二人を待ち構えたかのように、
右の2つ先の扉から、爆音がした。
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