ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
233 / 376
The 17th episode

8

しおりを挟む
 錆びもつかないような、薄暗い灰色の滅菌された地下通路。
 足音だけが確かなもので、一直線に、ただ、その先には不自然なまでに静か。ここは不自然だ。

 不自然に、電話が鳴った。
 思わず、流星は持ち主である潤を睨んでしまった。

「サイレントにしとけよてめぇっ、」
「お前が言うか、それ」

 ケータイを眺める潤は「ん?」と疑問。

「なんだよ」
「いや、愛蘭ちゃんからエロ動画」
「はぁ!?」

 思わず流星は潤のケータイを覗き込んでしまい、

「うわっ、」

 目を押さえる衝撃。

「うーわぁ、うぜぇなーにこの南米テロチック胸クソ悪ー」
「お前なんでそう、うぇえ、ちょ、」
「ほらほら見てみろよへいへい。胃液っつーか脳髄出ちゃうレベルの18禁だぜこれ」
「死ねてめぇ殺すぞ女顔」
「じゃなくてこれ帝都じゃね?
 爆発してるし、てかこれ多分副部長じゃなくね?てか元々死んでね?だって血の飛距離あんまねぇし。これ喧嘩売られてね?
 あーあ。
 こりゃあれだな。
 パターンは2つ。
 里中死んでる。これ前回パターンな。だとしたらフェイクで猿芝居しまくってるここで死体が転がってるパターンな。
 だったら疑問は、なぜ帝都でこれ撮ってるか。いずれにしても里中は、ここで殺される映像に写れなかった、と言うことだな」
「…待て、」
「あくまで俺の仮説。はい、どうぞぶちょー」

 笑顔で、
 しかも美人顔でいちいちそれを渡されるドヤ顔に腹が立つがそんなことを言っている場合ではない。
 流星は潤からケータイを奪い取り、嫌々ながら胸クソ画像をじっくり3回くらい眺めてみる。潤のケータイをぶち壊しそうに握りしめながら。

 見終わって流星は、呼吸を止めていたことに気付く。息が荒くなった。

「こぅれはあ、あれやんね」
「誰だお前。呼吸荒ぇけど」
「あちらの3件爆破やねぇ」
「誰だって、冷や汗ハンパねぇけどお前」
「してこれは里中氏やないねぇ」
「誰だよてめぇ、画面ぬめってて気持ち悪ぃけど」
「…返す。
 お前マトリーズに通達しろ。
 やつらに一纏めにそれっぽいこと言って集めて撤退させろ危ない」
「そう来たか流星。つかケータイ汚ぇ。油すげぇよおい殺すぞバカ」
「仕方ないよね!俺意外と28だよ!」
「だからってなにこれ指紋認証しなくない!?つかフツー拭いて返す。そゆとこお前ホント嫌い。お前みたいな奴絶対オナっても手ぇすぐ洗わない奴」
「どうでもいいつかしょうもねぇなお前こんな時にぃ!洗うわ!なんなら全てを洗い流すわ!」
「どうでもいいつかしょうもねぇなこんな時に。最低。ホント生きてる価値ない。爆破されて死ねよ」
「いいから早くしろよ性格破綻の異常性欲!てめぇこっちはこっちで瞬と諒斗と…
伊緒と霞がいんだよクソが!」
「はいはいはいはい!わかってますよこのチンカス野郎!」

 それぞれ背を向けて電話。
 電話が終われば大体顔を見合わせて一息吐き、互いにタバコをつけた。

「つうかさ」
「んだよ」
「…お前、全員生きて帰そうとか、本気で思ってんの?」
「…どうかな」
「…ユミルになに言われたか知らねぇが、ヤケになってねぇか?」
「別に。
 ヤケになれた方がまだマシだわ」
「違いねぇけど。
 帰ったらまぁ、ユミルに殺される覚悟出来てんの?」
「まぁな」
「じゃぁいいや。仕方ねぇな今回ばかりは。
 可哀想だがな、正直」
「何が」
「…何がって。
 わかってんだろ。俺ら今回、本気で生き残んねぇと、てかマトリだってそうだ。マジで犬死にだぞこれ」
「…殺さねぇって言ってんだろ。
 そしてそれは一応、仮説に、まだしておく。マトリも今は撤退してるし」
「優しさも時に残酷じゃねぇか?
 あの人生きてたって死んでたって」
「伊緒みたいなやつだっていたじゃねぇかよ。裏切りが、全てじゃねぇよ。まだそうと決まったわけじゃねぇからあくまで、助けに行くんだ」
「…お前とは気が合わねぇな」
「そうだな、だが」
「あぁ、その方がいいかもな」

 互いを知らない方がいいこともある。
 この男の背負う寂漠はわからない。
 この男の背負う孤独はわからない。
 多分それがいい。

 全てをわかり合ってしまった時には、仕方ないが殺し合う結果が待ち望む。それを目の前にしたときに、それを背負う後世が、いまはいるらしい。

「…水葬で」
「密葬で」
「けどまぁ、たまには逆もいいか」
「どっちでもいいよ、もう」

 少しヒリついているが、まぁ、笑えた。
 いつだってそうだ。

「死んだ後、誰かが決めるよ」

 あの二人、確かそうだったから。
 こちらで決めようだなんて、今さら贅沢だ。

「それは悲しいから。
 じゃ、死んだあとの話すんのは、金輪際やめっか、センスねぇし」
「そうだな」
「クソみてぇに…生きるしかねぇな」
「ん、はい」

 その潤の、
少し悲しそうな笑顔が染みて、流星は案外、何も言えなくなってしまった。

 何もない廊下を曲がり、いくつかの鉄の扉が並ぶ通路に差し掛かり、それも殺気に変わっていく。
 100mほど、正面は扉で行き止まり。ここに何かが、あるはず。

 二人を待ち構えたかのように、
右の2つ先の扉から、爆音がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

処理中です...