ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 17th episode

7

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 ユミルが帝都大学に要請の連絡を受け、少し経った頃、マトリと特本部の現場捜査員それぞれ、帝都大学、医療大学共に愛蘭からケータイ着信があった。
 流星を除いて。

 一棟の研究室で、

「ったくあんのクソ鉄面皮、後でkill.あんなクソ野郎死んでしまえっ、」

 とか文句を言いながら
発見した爆弾の線をじゃきんじゃきん切り、「うっし、」とか言いつつ、

「じゃ、テイト大学行ってくるからバイバイ」

 と、颯爽と去っていったアイドルハーフ顔の、レミントンを背負った化け物のような男に唖然としていた諒斗と瞬は、もう、

「すげぇ」
「本当に変人なんだなあの人」

それしか浮かばず。
 そこで入ったケータイだった。
 ふと、瞬がじっと硬直して画面を眺めていたので諒斗はぴんときて画面をにやにやしながら眺めれば、やはり、“山瀬愛蘭”の文字。

「ちょっと瞬ちゃん」

 ちなみに諒斗はケータイを眺めていない。

「開きなさいよほれほれ」

 勝手に諒斗に開かれ。

「うごっ、」

 落とされてしまった。

「あっ」

 しかし、ケータイを落とされた当の本人。
 画面が暗くなってしまったが至ってクールにゆったりと拾い、「あぁ、つかなくなった」と淡々と言った。

「ごごご、ごめんんん」
「まぁ後でケータイ買ってくれればいいや。
 ところでいまのメール。一斉送信だったから内容見せてよ」
「えぇ、瞬ちゃんって変だね今更だけど。
開くのやだ」
「じゃ貸して」
「わかったよ、はい!」

 見た。
 動画付きのメールだった。
----

この内容、部長に見せたらヒントは得られそうなのですが
見せていいのか迷っている為、皆様に送ります。
----

「うわっ」

 動画は酷いものだった。
 写真で見た、里中栄と思わしき人物。背丈、あと、証言と同じ体躯。だが判断つきにくいのが、顔に紙袋を掛けられていることだ。しかしそこから覗く、長い黒髪。
監禁され、椅子に縛られている。
 ぐったりしているのか、身動きひとつない。
 部屋は密閉され、壁はいかにもなコンクリート。
 そして黒い布だか、なんだかを被った、恐らく、身長やら腕の筋肉やらが、男である人物。
 カシャッと音がしてスライドを引き、女の蟀谷こめかみに拳銃を当てる。少し空いた扉、閃光。
 弾と共に血は、貫通するように男とは逆方向に飛び散り、またくたっと女は椅子に凭れたところで動画が終わった。

「これ…」
「マトリ副部長か…。
 最低だな、こんなの…」
「瞬ちゃん」
「あぁそうだね。これ、部長に…
いや、待った諒斗。これ、もう一回流して」
「…えぇぇ?」
「だってこれ、
帝都じゃないのか、これ」
「…なに?」

 そう言われてみれば仕方なくもう一度再生をする。

 蟀谷に拳銃を当てたところで「止めて」と言われ、仕方なく止める。

 最早瞬は機械、弱いのかも。
てか、だからなのかも。

「ほら、これ」
「え、あぁ?」
「これ。このドアの向こう。
爆発してないかこれ」
「え?」
「もしそうだとしたら。
 こっちで建物内爆破は今のところ、ないよな」
「うん、ない」
「だから山瀬さんは、部長に見せようか悩んだんじゃないかなぁ」

…なるほど。

「…これ、潤さんにはメールいってるじゃん?」
「そりゃぁ」
「気付くかな」

 二人は考えた。

「…気付くだろうが」
「メールしとくか…。可哀想だ部長が」

 構図が浮かぶ。
 おら見ろよ流星→やめろってホント殺すぞクソッタレ→ありゃ?
 な構図が。

「てか俺思うんだよ瞬」
「なに?」
「あの二人今いないから言うけど、仲良いよな」
「言うなよ、どちらかに瞬殺されるぞ」
「うまいこと言うなお前」
「まぁいいやメールしといて。早く行こう」

 言った瞬間。
 諒斗の電話が鳴った。

「うわぁぁぁ、」
「なに、誰」
「ぶぶぶぶちょー、」
「うわぁ、怖っ」

 出る。

「はぁい、あき、」
『出たか…、あの、瞬は?』

 声から察するに、部長様はどうやら凄くげんなりしているご様子。

「はい、います」
『死んでる?』
「生きてます元気ですあのケータイ俺がぶち壊しました」
『…マジかアホ。元気ならいい。
 取り敢えず通達。
 マトリーズ案件全部ぶん投げてこっち来い、死ぬ気で』
「…へ?」
『無論、マトリ連中に気付かれんなよ。
 いいか、ムナクソ映像から言わせてもらう。今回の黒は里中本人だ』
「…は?」
『よく見ろ、多分それ里中じゃねぇ。以上だ。マトリ連中はいま潤が一棟にそれっぽいこと言って撤退させる準備をしている。
 こちらの任務は最早、そうなってくると取引だ。しかし、これを見ると多分こちらにもまだ何かしらあるはずだ。しかし、猿芝居やらなんやら、フェイクに違いはねぇ。
 もしかすると、里中があっちにいるなら、政宗とユミルの首は繋がった。つまりやつらは俺らをすっ飛ばす気だ。だがわからない、何故ではここを選んだか』
「なるほど…」
『それには恐らくそう…。
 爆弾やらの被害が少ねぇ地下、ここは丁度良さそうだ。下手すりゃ、こっちを大筋の取引現場にしても、いいかもなってくらい、遮断されている。まぁ可能性は少ないがな』
「…流星さん」
『なんだ』
「あんた、生きて帰る気、ありますか」
『お前らがいるからな。当たり前だろ。嫌なら』
「わかりました。確かに、あんたら二人は危ない。
 霞ちゃんと伊緒は?」
『それも連絡をした。大人しく帰ってくれそうにない』
「…まずは待って」
『だから死ぬ気で来いって言ってんだよ。前回パターンは瞬がわかるだろう。人質全員確保でどかんだ』
「諒斗、変わってくれ」
「瞬?」

 諒斗が瞬にケータイを渡す。そして低い声で言う、「部長」と。

「俺が行きます、そっちに」
「え、瞬ちゃ」
『わかった』
「えぇっ」
「諒斗、まず早く二人を連れて来い。待ってる。二手に別れた方がいいし、お前はマトリにいた。話が早い」
「…そうだけど」
「ただ、危ないから迅速に。じゃないと俺はまた、仲間を葬らなくてはならない」
「…それは」
「返す、前に。
 流星さん、潤さん、それまで、ご無事で」
『…わかった』

 瞬はそれから諒斗にケータイを返し、落ちた自分のケータイを拾ってその手で後ろ手を降り、研究室を一人去って行った。

「流星さん…」
『…なんだ』
「…すぐ行きますから、はい」

 電話を切る。

昔なら。
恐らく、とうに、
辞めていた。こんな、危ない、部署。

 命なんて、掛けなかった。
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