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The 19th episode
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箱の中で番号を呼び出す。
2コールでがしゃっと音がして『はい』と、伊緒の素っ気ない声が聞こえた。
「伊緒、あのさ」
『はい?』
「…今日から、環、退院するから」
『えっ、』
やはり驚いたようだ。
無理もない。急だった。
『よかったです…。
あの、そうなると俺は…政宗さんの…』
「いや。別にそれはまぁ、お前の好きにして構わない。
部屋は…」
頭をよぎった。
「一部屋、あっただろ…?
あれ、昔俺が使っていた部屋なんだ。まぁ、ずっと使ってないから、掃除が必要だけど」
『俺、居て良いんですか?』
「まぁ、お好きなように。俺は構わない。環も、お前のこと、覚えてたから、まぁ、悪印象じゃないんだ、きっと。
まだあまり会話は出来ていないんだけどさ」
『…そっかぁ』
「まぁ、そう言うことだ」
『…わかりました。
どれくらい掛かりますか?部屋、掃除しますから』
「…うん。まだわからん。いまから委員長と理事長に話すって、担当医が。
まぁ、いつでも退院はしていいと、なっていたようだから、多分それほどは掛からない」
『わかりました。
環さん、何がお好きですか?』
明るいような、穏やかな問が来た。
そうか、3人で、暮らすんだ、あの広い家に。
「…甘いもの、好きみたいなんだけどごめん、俺も初めてで、…環の好み、知らないんだ」
『わかりました。
じゃぁ、帰ってきたら流星さんが、作ってあげてください』
「伊緒…」
『待ってます。では』
電話は切れた。
ありがとう、伊緒。
そのままその箱を出て、見つめる小湊さんに頷いた。
了承したように小湊さんはまた診察室へ歩き出した。
「小湊さん」
「はい」
「環は、…食の好みは、なんですか?」
試しに聞いてみた。
小湊さんはふふっと笑い、「さぁ…でも」と言う。
「多分普通の、なんだろうなぁ…ハンバーグとか、そんなのですよ」
「そうですか」
「壽美田さん、お料理を?」
「はい。今日は、作ってやれって、同居人が」
「…あら」
小湊さんはにっこり笑い、「嬉しいだろうなぁ」と言った。
「頑張って下さいね、壽美田さん」
それが凄く。
「はい」
勇気を貰えた。
診察室に二人で戻ると、いつの間にか環は入院着から外着に着替えてたらしい。足首辺りが絞られた青いズボンと白いロングTシャツだった。
増山先生は「では」と立ち上がった。
「また、この前のところで、ランチでもどうぞ」
それだけ言い残し、二人は去っていった。
あれ?
俺、喫茶店の話、あの二人にしたんだっけ。
環を見つめれば、嬉しそうに見上げていて。
あぁ、もしかすると、話したのかもしれないな。
「環。行こうか」
少しばかり照れ臭い。やっぱ俺も俯いてしまう。
けれど環が立ち上がり、手を差し出されて、俺はやっと顔があげられた。
環は綺麗な笑顔で笑っていた。それにまた、息を呑むような、
なんだかゆったりとしていくような、そんな安定を心に得た気がした。
はぁ…、なんだろう。
手を取って、しかしそれくらいはリードしたい。手を握って先を歩くことにした。
「ふふっ、」
と掠れた、けれども甘い声がした。
楽しみ?楽しいのかもしれない。こんな、小さな出来事が、俺には凄く。
診察室から出るとまわりがとても温かく見送ってくれた。まったく、ちょっとランチだよ。だけど浮わついている。そんなに、俺はわかりやすいだろうか。
エレベーターに入って、二人だけになってみて聞いてみる。
「環、」
「はい」
「…ここまでお疲れ様。長かったね」
あぁ、それじゃない。けどそれも言いたい。
「あの、あの喫茶店、そんなに気に入ったんだね」
わかりやすくはっきりと話しかけてみる。この、環限定の癖に今更俺は気が付いた。
「他には、環、行きたいところは」
「りゅうせいさん」
さっきよりもはっきりと、環は俺の名前を発音した。
「あっ、はぃ」
なんかそれにも、息を呑んでしまった。真っ直ぐ俺を見つめる環の瞳が、少し不安気になったけど。また笑ってくれた。
「たのしそうですね」
「え…」
まぁ。
「今日は、晴れていますか」
おっ。
前回の外出を思い出す。
そうか、今日は。
「さっき曇ってたよ」
取り敢えずパーカーを脱いで肩に掛けてやる。きっと、寒い。
環は俯いて「ありがとう、」と小さな声で言う。俯いてるので肩を掴んで言い聞かせる。
「環、具合が悪くなったら言うんだよ。無理はしないでな」
「…はい」
ちょっとの上目使いに目が合って。
「…、」
俺は何も言えなくなってしまった。
どうしようか、こんな感覚。環に対して抱くこれは。
むず痒いような、優しいような、暖かいような。とにかく照れ臭い。そして無償に抱き締めたくなってしまったが、取り敢えずここは公共だ。
1階で降りて、ゆっくりと、環に歩幅を合わせて出口まで歩く。
横顔がとても嬉しそうで。
素直に、よかったと、感じられた。
この笑顔に俺は今…。
満ち足りていて、色々な希望なんかを敷き詰めて。
ふと環と目が合う。
環はにっこり微笑んで、「よかった」と言った。
「流星さん、少し、元気が、ないような気がしたの」
「え?」
「外は、いいですね」
そうか。
「うん。そうだね」
また手を繋いで二人で歩く。
人の体温を感じる左手に、じんわりとしていく自分がいた。
2コールでがしゃっと音がして『はい』と、伊緒の素っ気ない声が聞こえた。
「伊緒、あのさ」
『はい?』
「…今日から、環、退院するから」
『えっ、』
やはり驚いたようだ。
無理もない。急だった。
『よかったです…。
あの、そうなると俺は…政宗さんの…』
「いや。別にそれはまぁ、お前の好きにして構わない。
部屋は…」
頭をよぎった。
「一部屋、あっただろ…?
あれ、昔俺が使っていた部屋なんだ。まぁ、ずっと使ってないから、掃除が必要だけど」
『俺、居て良いんですか?』
「まぁ、お好きなように。俺は構わない。環も、お前のこと、覚えてたから、まぁ、悪印象じゃないんだ、きっと。
まだあまり会話は出来ていないんだけどさ」
『…そっかぁ』
「まぁ、そう言うことだ」
『…わかりました。
どれくらい掛かりますか?部屋、掃除しますから』
「…うん。まだわからん。いまから委員長と理事長に話すって、担当医が。
まぁ、いつでも退院はしていいと、なっていたようだから、多分それほどは掛からない」
『わかりました。
環さん、何がお好きですか?』
明るいような、穏やかな問が来た。
そうか、3人で、暮らすんだ、あの広い家に。
「…甘いもの、好きみたいなんだけどごめん、俺も初めてで、…環の好み、知らないんだ」
『わかりました。
じゃぁ、帰ってきたら流星さんが、作ってあげてください』
「伊緒…」
『待ってます。では』
電話は切れた。
ありがとう、伊緒。
そのままその箱を出て、見つめる小湊さんに頷いた。
了承したように小湊さんはまた診察室へ歩き出した。
「小湊さん」
「はい」
「環は、…食の好みは、なんですか?」
試しに聞いてみた。
小湊さんはふふっと笑い、「さぁ…でも」と言う。
「多分普通の、なんだろうなぁ…ハンバーグとか、そんなのですよ」
「そうですか」
「壽美田さん、お料理を?」
「はい。今日は、作ってやれって、同居人が」
「…あら」
小湊さんはにっこり笑い、「嬉しいだろうなぁ」と言った。
「頑張って下さいね、壽美田さん」
それが凄く。
「はい」
勇気を貰えた。
診察室に二人で戻ると、いつの間にか環は入院着から外着に着替えてたらしい。足首辺りが絞られた青いズボンと白いロングTシャツだった。
増山先生は「では」と立ち上がった。
「また、この前のところで、ランチでもどうぞ」
それだけ言い残し、二人は去っていった。
あれ?
俺、喫茶店の話、あの二人にしたんだっけ。
環を見つめれば、嬉しそうに見上げていて。
あぁ、もしかすると、話したのかもしれないな。
「環。行こうか」
少しばかり照れ臭い。やっぱ俺も俯いてしまう。
けれど環が立ち上がり、手を差し出されて、俺はやっと顔があげられた。
環は綺麗な笑顔で笑っていた。それにまた、息を呑むような、
なんだかゆったりとしていくような、そんな安定を心に得た気がした。
はぁ…、なんだろう。
手を取って、しかしそれくらいはリードしたい。手を握って先を歩くことにした。
「ふふっ、」
と掠れた、けれども甘い声がした。
楽しみ?楽しいのかもしれない。こんな、小さな出来事が、俺には凄く。
診察室から出るとまわりがとても温かく見送ってくれた。まったく、ちょっとランチだよ。だけど浮わついている。そんなに、俺はわかりやすいだろうか。
エレベーターに入って、二人だけになってみて聞いてみる。
「環、」
「はい」
「…ここまでお疲れ様。長かったね」
あぁ、それじゃない。けどそれも言いたい。
「あの、あの喫茶店、そんなに気に入ったんだね」
わかりやすくはっきりと話しかけてみる。この、環限定の癖に今更俺は気が付いた。
「他には、環、行きたいところは」
「りゅうせいさん」
さっきよりもはっきりと、環は俺の名前を発音した。
「あっ、はぃ」
なんかそれにも、息を呑んでしまった。真っ直ぐ俺を見つめる環の瞳が、少し不安気になったけど。また笑ってくれた。
「たのしそうですね」
「え…」
まぁ。
「今日は、晴れていますか」
おっ。
前回の外出を思い出す。
そうか、今日は。
「さっき曇ってたよ」
取り敢えずパーカーを脱いで肩に掛けてやる。きっと、寒い。
環は俯いて「ありがとう、」と小さな声で言う。俯いてるので肩を掴んで言い聞かせる。
「環、具合が悪くなったら言うんだよ。無理はしないでな」
「…はい」
ちょっとの上目使いに目が合って。
「…、」
俺は何も言えなくなってしまった。
どうしようか、こんな感覚。環に対して抱くこれは。
むず痒いような、優しいような、暖かいような。とにかく照れ臭い。そして無償に抱き締めたくなってしまったが、取り敢えずここは公共だ。
1階で降りて、ゆっくりと、環に歩幅を合わせて出口まで歩く。
横顔がとても嬉しそうで。
素直に、よかったと、感じられた。
この笑顔に俺は今…。
満ち足りていて、色々な希望なんかを敷き詰めて。
ふと環と目が合う。
環はにっこり微笑んで、「よかった」と言った。
「流星さん、少し、元気が、ないような気がしたの」
「え?」
「外は、いいですね」
そうか。
「うん。そうだね」
また手を繋いで二人で歩く。
人の体温を感じる左手に、じんわりとしていく自分がいた。
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