ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
266 / 376
The 22nd episode

3

しおりを挟む
「別に」
「それで胃が痛くなったんじゃないんだ」
「うぜぇ」

しかしまぁ。

 前髪はヘラヘラしていながら少し俯いた。まぁ、俺や部署の連中に負い目を感じるのは仕方がない。その可能性が過ったんだろうか、仕方ねぇので

「別にお前のせいじゃないじゃん」

とは言ったが前髪は「はい?」と返してきた。
そのせいじゃなかったのね、あっそ。

「なんでもない」
「え、なにそれ」
「思い違いだった」
「あぁ、その件?
 その件なら互いさま」

うわうぜぇ。事実だけどうぜぇ。

「…お前絶対B型だろ」
「なんすかそれ。O型ですけど」
「…A型と合わないって聞いたことあるし」
「はぁ、昔流行りましたね。あんたとは多分なかなか誰も合わないでしょ」
「うわうぜぇ」

事実ですけどね、それもまた。

「てかあんたA型なんだ。いやわからなくもないけどほら、やっぱ当たんないってあれ」
「んな女子会話どーでもいいんですけど」
「あんたが振ったんじゃん。あんたってホントさ、」

 前髪はふと笑ってから俺の右肩を緩く抱くように掴んだ。

やっぱお前、ゲイだよな多分。普通やらない。流星と樹実さんと、それに毒された政宗以外やらない。あとユミル。あれ?

「可愛いな」
「やっぱりね!」

 言い切って前髪の手を払い落とし先を歩けば「は?」と、唖然としている前髪。振り向いて、

「俺お前タイプじゃない!」

再び言い切ってやった。
 一瞬ぽかんとした後に腹を抱えるように、堰を切って笑い始めた前髪に俺が唖然。

なに、今の若いの。
まぁ俺もその分類だけど、よくわかんねぇ。ツボわかんねぇ。

「は、は、あ、そう、タイプじゃないか!うん、その方が萌える」
「はぁ!?」
「仕事も恋愛も。つーかあんた性格が破綻してるが正直だね」
「よく言われる」

お前の方が俺よりだいぶ頭が大変だわ。前髪しかり。てか名前忘れたよ。

「つか元気じゃん」
「あ?うんそーだよ」

 厚労省の自動ドアを出てあの通路に行く。
 数人しか居なかった。そこには原田さん?マトリの部長がいて、俺たちを見かけては「なにしてんだ」と怪訝そうだった。
 急に前髪は俺の腰あたりを抱き、「細っ!」と言ってから、

「俺の恋人っすー」

部長にヘラヘラした。咄嗟に「死んじゃえてめぇ。違ぇわ前髪」と睨み付けた。

 原田さんは「はぁ…、」と呆然としていた。

「ども、確か星川さん…」
「…どうも」

 目を反らす。
 互いにまだ、気まずい立場だ。

「先程は大変そうで…」
「あぁ、いや別に」
「情報開示の令は聞きました。
 あの、壽美田さんどーしたんですか」
「あ、あぁ。
 さぁ。なんかストーカーに遭ったらしいですよ」

アホだから。

「はぁ…まぁ、優男ですからね」
「はぁ、そうですか」

 ポケットからタバコを出して一本抜いた。
 細い。くっそマジかよこの前髪野郎。
 仕方なくそれを吸えば「あ、俺のっすね」とか横から茶々が入るが無視をした。

てか。
この雰囲気、コミュ障の俺には辛いんすけど、マジで。

「…その、里中と若林の件ですが」

うわきたぁ。
最近触れないようにしてたやつ。

「…はい」
「あれから、まぁ我々がこう、やることになったんですが」
「…はぁ。まぁ今ウチの副部長が司法解剖立ち会いしてますけど」
「はい。
 その…まぁ、厄介事になってしまって申し訳ない」
「いや、別に…」

まぁあんたのせいだけど、それって立場だけじゃん。いままでフリーだった俺には全然わからんがまぁわかる。仕方ないじゃん。

「…別に俺偉くないんで言いますが、仕方ないんじゃね?とか思いますけど」
「はぁ…」
「却って俺らのが重罪だから謹慎で」
「里中の件は、正直あまり語らないで頂きたいんですよ」

は?

「最期死んだ瞬間を見たのはあんたら二人だ。何を語ったか、そんなのは今やわからない。見解としては犯人から撃たれて殉職と、してやりたい」
「あんた、本気で言ってんの?」
「俺だって不服だ。だが、これ以上我々はその観点以外で捜査なんて出来ない」
「何故、」
「潰されるからに決まってるでしょ」
「は、」

なにそれ。
あぁ、だからあんた。

「…政宗に言ったら?多分殴られるけど。
部下云々よか部長か。ふーん、マトリってもっと死を前にするちゃんとした組織だと俺夢見てたわ」
「…あんたはあの日のあの現場を知らないから」
「あんただってそうだろ」

俺が死ぬ気で守ったもんだって知らない。
政宗一人があそこに残ったのも、仕方ないな、こりゃ。

「俺や政宗が何を守ったかなんて」
「過去だろう、あんたらのそれは」

は?

「なんだって?」

 俺が原田さんを睨めば前髪が「ちょ、待った待った」と言うのに拍車が掛かってしまった。
 最短精神、最早タバコを灰皿付近に投げるも穴には当たり前ながら入らず、足元にまで転がってきたので靴で揉み消した。

「くだらねぇな全部。気分悪ぃ」

 帰ろうと背を向ければ呆れたような部長の溜息。

 しかし続く、「ちょっと待って星川さん」と言う前髪と肩を引かれる手。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...