301 / 376
The 27th episode
5
しおりを挟む
それからユミルに、辻井のケータイ番号と場所を教え、現場に向かうように指示をする。
その間の潤は前のめりに手を組み、暗くなってしまったパソコン画面を眺めていた。
政宗は潤に声を掛けるのは自重したらしい。パソコンをカタカタ叩いて仕事をしているが、イライラ時にやるボールペンカチカチは、意識したのかやらなかった。
あまり口を聞くこともなく仕事に取り掛かる。勿論、部署の雰囲気はわりと暗い。
どういった心境変化なのかと言えば、多分俺で、祥真なんだろう。
シベリアでユミルと三人、政治家を射殺した時を思い出す。
結局は少数派、共産主義と社会主義、どちらの思想もあったように感じるその政治家が「非だ」となり、反社会的だと見なされたのだ。
彼がやりたかったことは「平等」。しかし、共産主義よりはもっと深く、宗教差別をなくそうと活動していた。
賛同があまりなく、資金もなくなってきた頃に彼はついにヤクザやら何やら、裏の世界に足を踏み入れてしまった。
しかし、本当を言えばそれは反対勢力の罠であり、まんまと引っ掛かってしまった、というところで。
だが俺たちは罠であるという確証を得られなかった。
その間に火は燃え広がり、ついにその政治家へ暗殺命令が下った。
勿論、疑問しかなかった。納得がいかなかったのも事実だ。しかしそのまま任務遂行日になり、射殺した。
祥真は素直なヤツだった。
というより、祥真が持つ正義やら仕事やらのギャップに疲弊していたのもあるかもしれない。
祥真は知らぬ間に反対勢力側にコンタクトを取り、ボロを引き出し確証を掴んだはいいが、それをネタにして反対派へ一人、乗り込んでしまった。
今でも忘れられない。
議事堂に乗り込み、一人一人冷淡に殺していく祥真を想像すれば、それは狂気だと思う。
任務は終わったはずだった。
当たり前ながら数人殺した時点で祥真は取り押さえられ、殺される寸前だった。ユミルと二人で駆けつけ、任務責任者であった俺にも銃口は向けられた。
祥真がその場で全てを暴露し、俺たちを殺すよりもそちらが騒然となる間に、祥真は自分を捕らえていた警官一人を射殺し、そのまま銃口を自分の蟀谷に当てたのだ。
その時の、祥真の強くも諦めきった瞳に、俺は初めて祥真の後悔を理解した。
祥真は、ただただ平和主義者だったんだ。それに反した任務だったのか、と。
一種の破壊衝動と自殺衝動を見た気もしたのだ。
だがユミルは祥真に容赦がなかった。
「結局君に何が出来たって言うんだ」
その重いユミルの一言と、祥真に向けたレミントン。それが二人にどんな意味があるか。俺は最早身を裂くような思いで、二人を捕らえようとする者に威嚇することしか出来ずに、いて。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
あの時のユミルの泣きそうな、
仲間を思う表情に撃たれなければ、本当にユミルはあの時祥真を殺したかもしれない。
俺も止められなかっただろう。
結局は祥真が降参し、雲隠れのように我々は解散したのだ。
もしも、またそれが起きてしまったらと考える。
あれは辛く苦しかったんだ。だけど俺はあの時、意を唱えるほどには自分も、仲間も見つめられてはいなかった。
祥真だって、きっとそうで。
間違っている、と平気で仲間を裏切るくらいに根は正直なのかもしれない。
物思いに更けていればふと、ケータイが鳴った。
ユミルだった。
現地に着いたのだろうか。
「もしもし?」
『リュウ?ねぇあのさぁ。
前髪って、どんなヤツ?』
「ん?」
『なんか連絡取れないんだけど…』
「は…?」
少し嫌な予感がしてきた。
色々な嫌な予感が考えられる。勝手に辻井が潜入した、潜入がバレたやらなにやら…。
潤のケータイも鳴る。
何事もない澄まし顔の潤が、画面を開いた瞬間に驚いたように目を見開き、「流星、」と短く言った。
「…潤?」
「やられた」
「は?」
ちらっと潤は俺と政宗を見てから、ケータイ画面を少し離して俺らに見えるようにする。
「うわっ、」
画面には動画。
『ねぇリュウ?』と聞こえるケータイをそっちのけにしてしまった。
殴られた痕のある辻井が椅子に縛られ気絶していた。
場所は狭そうだ。多分、Hestia跡地ではない。
「これ、リアルタイムか?」
「確かに前回はリアルではなかったな」
向かわせるには人員配置をどうするべきか。
マトリだった諒斗、愛蘭、政宗は迂闊だろう。しかし瞬は前回Artemis配備で使っている。
伊緒を現“昴振興会”であるArtemisに送るのも危険だ。
「行ってくる」
そう言って潤がジャケットを掴んで立ち上がるが「待て待て待て!」と腕を掴んで制する。
その間の潤は前のめりに手を組み、暗くなってしまったパソコン画面を眺めていた。
政宗は潤に声を掛けるのは自重したらしい。パソコンをカタカタ叩いて仕事をしているが、イライラ時にやるボールペンカチカチは、意識したのかやらなかった。
あまり口を聞くこともなく仕事に取り掛かる。勿論、部署の雰囲気はわりと暗い。
どういった心境変化なのかと言えば、多分俺で、祥真なんだろう。
シベリアでユミルと三人、政治家を射殺した時を思い出す。
結局は少数派、共産主義と社会主義、どちらの思想もあったように感じるその政治家が「非だ」となり、反社会的だと見なされたのだ。
彼がやりたかったことは「平等」。しかし、共産主義よりはもっと深く、宗教差別をなくそうと活動していた。
賛同があまりなく、資金もなくなってきた頃に彼はついにヤクザやら何やら、裏の世界に足を踏み入れてしまった。
しかし、本当を言えばそれは反対勢力の罠であり、まんまと引っ掛かってしまった、というところで。
だが俺たちは罠であるという確証を得られなかった。
その間に火は燃え広がり、ついにその政治家へ暗殺命令が下った。
勿論、疑問しかなかった。納得がいかなかったのも事実だ。しかしそのまま任務遂行日になり、射殺した。
祥真は素直なヤツだった。
というより、祥真が持つ正義やら仕事やらのギャップに疲弊していたのもあるかもしれない。
祥真は知らぬ間に反対勢力側にコンタクトを取り、ボロを引き出し確証を掴んだはいいが、それをネタにして反対派へ一人、乗り込んでしまった。
今でも忘れられない。
議事堂に乗り込み、一人一人冷淡に殺していく祥真を想像すれば、それは狂気だと思う。
任務は終わったはずだった。
当たり前ながら数人殺した時点で祥真は取り押さえられ、殺される寸前だった。ユミルと二人で駆けつけ、任務責任者であった俺にも銃口は向けられた。
祥真がその場で全てを暴露し、俺たちを殺すよりもそちらが騒然となる間に、祥真は自分を捕らえていた警官一人を射殺し、そのまま銃口を自分の蟀谷に当てたのだ。
その時の、祥真の強くも諦めきった瞳に、俺は初めて祥真の後悔を理解した。
祥真は、ただただ平和主義者だったんだ。それに反した任務だったのか、と。
一種の破壊衝動と自殺衝動を見た気もしたのだ。
だがユミルは祥真に容赦がなかった。
「結局君に何が出来たって言うんだ」
その重いユミルの一言と、祥真に向けたレミントン。それが二人にどんな意味があるか。俺は最早身を裂くような思いで、二人を捕らえようとする者に威嚇することしか出来ずに、いて。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
あの時のユミルの泣きそうな、
仲間を思う表情に撃たれなければ、本当にユミルはあの時祥真を殺したかもしれない。
俺も止められなかっただろう。
結局は祥真が降参し、雲隠れのように我々は解散したのだ。
もしも、またそれが起きてしまったらと考える。
あれは辛く苦しかったんだ。だけど俺はあの時、意を唱えるほどには自分も、仲間も見つめられてはいなかった。
祥真だって、きっとそうで。
間違っている、と平気で仲間を裏切るくらいに根は正直なのかもしれない。
物思いに更けていればふと、ケータイが鳴った。
ユミルだった。
現地に着いたのだろうか。
「もしもし?」
『リュウ?ねぇあのさぁ。
前髪って、どんなヤツ?』
「ん?」
『なんか連絡取れないんだけど…』
「は…?」
少し嫌な予感がしてきた。
色々な嫌な予感が考えられる。勝手に辻井が潜入した、潜入がバレたやらなにやら…。
潤のケータイも鳴る。
何事もない澄まし顔の潤が、画面を開いた瞬間に驚いたように目を見開き、「流星、」と短く言った。
「…潤?」
「やられた」
「は?」
ちらっと潤は俺と政宗を見てから、ケータイ画面を少し離して俺らに見えるようにする。
「うわっ、」
画面には動画。
『ねぇリュウ?』と聞こえるケータイをそっちのけにしてしまった。
殴られた痕のある辻井が椅子に縛られ気絶していた。
場所は狭そうだ。多分、Hestia跡地ではない。
「これ、リアルタイムか?」
「確かに前回はリアルではなかったな」
向かわせるには人員配置をどうするべきか。
マトリだった諒斗、愛蘭、政宗は迂闊だろう。しかし瞬は前回Artemis配備で使っている。
伊緒を現“昴振興会”であるArtemisに送るのも危険だ。
「行ってくる」
そう言って潤がジャケットを掴んで立ち上がるが「待て待て待て!」と腕を掴んで制する。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる