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The 27th episode
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それからユミルに、辻井のケータイ番号と場所を教え、現場に向かうように指示をする。
その間の潤は前のめりに手を組み、暗くなってしまったパソコン画面を眺めていた。
政宗は潤に声を掛けるのは自重したらしい。パソコンをカタカタ叩いて仕事をしているが、イライラ時にやるボールペンカチカチは、意識したのかやらなかった。
あまり口を聞くこともなく仕事に取り掛かる。勿論、部署の雰囲気はわりと暗い。
どういった心境変化なのかと言えば、多分俺で、祥真なんだろう。
シベリアでユミルと三人、政治家を射殺した時を思い出す。
結局は少数派、共産主義と社会主義、どちらの思想もあったように感じるその政治家が「非だ」となり、反社会的だと見なされたのだ。
彼がやりたかったことは「平等」。しかし、共産主義よりはもっと深く、宗教差別をなくそうと活動していた。
賛同があまりなく、資金もなくなってきた頃に彼はついにヤクザやら何やら、裏の世界に足を踏み入れてしまった。
しかし、本当を言えばそれは反対勢力の罠であり、まんまと引っ掛かってしまった、というところで。
だが俺たちは罠であるという確証を得られなかった。
その間に火は燃え広がり、ついにその政治家へ暗殺命令が下った。
勿論、疑問しかなかった。納得がいかなかったのも事実だ。しかしそのまま任務遂行日になり、射殺した。
祥真は素直なヤツだった。
というより、祥真が持つ正義やら仕事やらのギャップに疲弊していたのもあるかもしれない。
祥真は知らぬ間に反対勢力側にコンタクトを取り、ボロを引き出し確証を掴んだはいいが、それをネタにして反対派へ一人、乗り込んでしまった。
今でも忘れられない。
議事堂に乗り込み、一人一人冷淡に殺していく祥真を想像すれば、それは狂気だと思う。
任務は終わったはずだった。
当たり前ながら数人殺した時点で祥真は取り押さえられ、殺される寸前だった。ユミルと二人で駆けつけ、任務責任者であった俺にも銃口は向けられた。
祥真がその場で全てを暴露し、俺たちを殺すよりもそちらが騒然となる間に、祥真は自分を捕らえていた警官一人を射殺し、そのまま銃口を自分の蟀谷に当てたのだ。
その時の、祥真の強くも諦めきった瞳に、俺は初めて祥真の後悔を理解した。
祥真は、ただただ平和主義者だったんだ。それに反した任務だったのか、と。
一種の破壊衝動と自殺衝動を見た気もしたのだ。
だがユミルは祥真に容赦がなかった。
「結局君に何が出来たって言うんだ」
その重いユミルの一言と、祥真に向けたレミントン。それが二人にどんな意味があるか。俺は最早身を裂くような思いで、二人を捕らえようとする者に威嚇することしか出来ずに、いて。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
あの時のユミルの泣きそうな、
仲間を思う表情に撃たれなければ、本当にユミルはあの時祥真を殺したかもしれない。
俺も止められなかっただろう。
結局は祥真が降参し、雲隠れのように我々は解散したのだ。
もしも、またそれが起きてしまったらと考える。
あれは辛く苦しかったんだ。だけど俺はあの時、意を唱えるほどには自分も、仲間も見つめられてはいなかった。
祥真だって、きっとそうで。
間違っている、と平気で仲間を裏切るくらいに根は正直なのかもしれない。
物思いに更けていればふと、ケータイが鳴った。
ユミルだった。
現地に着いたのだろうか。
「もしもし?」
『リュウ?ねぇあのさぁ。
前髪って、どんなヤツ?』
「ん?」
『なんか連絡取れないんだけど…』
「は…?」
少し嫌な予感がしてきた。
色々な嫌な予感が考えられる。勝手に辻井が潜入した、潜入がバレたやらなにやら…。
潤のケータイも鳴る。
何事もない澄まし顔の潤が、画面を開いた瞬間に驚いたように目を見開き、「流星、」と短く言った。
「…潤?」
「やられた」
「は?」
ちらっと潤は俺と政宗を見てから、ケータイ画面を少し離して俺らに見えるようにする。
「うわっ、」
画面には動画。
『ねぇリュウ?』と聞こえるケータイをそっちのけにしてしまった。
殴られた痕のある辻井が椅子に縛られ気絶していた。
場所は狭そうだ。多分、Hestia跡地ではない。
「これ、リアルタイムか?」
「確かに前回はリアルではなかったな」
向かわせるには人員配置をどうするべきか。
マトリだった諒斗、愛蘭、政宗は迂闊だろう。しかし瞬は前回Artemis配備で使っている。
伊緒を現“昴振興会”であるArtemisに送るのも危険だ。
「行ってくる」
そう言って潤がジャケットを掴んで立ち上がるが「待て待て待て!」と腕を掴んで制する。
その間の潤は前のめりに手を組み、暗くなってしまったパソコン画面を眺めていた。
政宗は潤に声を掛けるのは自重したらしい。パソコンをカタカタ叩いて仕事をしているが、イライラ時にやるボールペンカチカチは、意識したのかやらなかった。
あまり口を聞くこともなく仕事に取り掛かる。勿論、部署の雰囲気はわりと暗い。
どういった心境変化なのかと言えば、多分俺で、祥真なんだろう。
シベリアでユミルと三人、政治家を射殺した時を思い出す。
結局は少数派、共産主義と社会主義、どちらの思想もあったように感じるその政治家が「非だ」となり、反社会的だと見なされたのだ。
彼がやりたかったことは「平等」。しかし、共産主義よりはもっと深く、宗教差別をなくそうと活動していた。
賛同があまりなく、資金もなくなってきた頃に彼はついにヤクザやら何やら、裏の世界に足を踏み入れてしまった。
しかし、本当を言えばそれは反対勢力の罠であり、まんまと引っ掛かってしまった、というところで。
だが俺たちは罠であるという確証を得られなかった。
その間に火は燃え広がり、ついにその政治家へ暗殺命令が下った。
勿論、疑問しかなかった。納得がいかなかったのも事実だ。しかしそのまま任務遂行日になり、射殺した。
祥真は素直なヤツだった。
というより、祥真が持つ正義やら仕事やらのギャップに疲弊していたのもあるかもしれない。
祥真は知らぬ間に反対勢力側にコンタクトを取り、ボロを引き出し確証を掴んだはいいが、それをネタにして反対派へ一人、乗り込んでしまった。
今でも忘れられない。
議事堂に乗り込み、一人一人冷淡に殺していく祥真を想像すれば、それは狂気だと思う。
任務は終わったはずだった。
当たり前ながら数人殺した時点で祥真は取り押さえられ、殺される寸前だった。ユミルと二人で駆けつけ、任務責任者であった俺にも銃口は向けられた。
祥真がその場で全てを暴露し、俺たちを殺すよりもそちらが騒然となる間に、祥真は自分を捕らえていた警官一人を射殺し、そのまま銃口を自分の蟀谷に当てたのだ。
その時の、祥真の強くも諦めきった瞳に、俺は初めて祥真の後悔を理解した。
祥真は、ただただ平和主義者だったんだ。それに反した任務だったのか、と。
一種の破壊衝動と自殺衝動を見た気もしたのだ。
だがユミルは祥真に容赦がなかった。
「結局君に何が出来たって言うんだ」
その重いユミルの一言と、祥真に向けたレミントン。それが二人にどんな意味があるか。俺は最早身を裂くような思いで、二人を捕らえようとする者に威嚇することしか出来ずに、いて。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
あの時のユミルの泣きそうな、
仲間を思う表情に撃たれなければ、本当にユミルはあの時祥真を殺したかもしれない。
俺も止められなかっただろう。
結局は祥真が降参し、雲隠れのように我々は解散したのだ。
もしも、またそれが起きてしまったらと考える。
あれは辛く苦しかったんだ。だけど俺はあの時、意を唱えるほどには自分も、仲間も見つめられてはいなかった。
祥真だって、きっとそうで。
間違っている、と平気で仲間を裏切るくらいに根は正直なのかもしれない。
物思いに更けていればふと、ケータイが鳴った。
ユミルだった。
現地に着いたのだろうか。
「もしもし?」
『リュウ?ねぇあのさぁ。
前髪って、どんなヤツ?』
「ん?」
『なんか連絡取れないんだけど…』
「は…?」
少し嫌な予感がしてきた。
色々な嫌な予感が考えられる。勝手に辻井が潜入した、潜入がバレたやらなにやら…。
潤のケータイも鳴る。
何事もない澄まし顔の潤が、画面を開いた瞬間に驚いたように目を見開き、「流星、」と短く言った。
「…潤?」
「やられた」
「は?」
ちらっと潤は俺と政宗を見てから、ケータイ画面を少し離して俺らに見えるようにする。
「うわっ、」
画面には動画。
『ねぇリュウ?』と聞こえるケータイをそっちのけにしてしまった。
殴られた痕のある辻井が椅子に縛られ気絶していた。
場所は狭そうだ。多分、Hestia跡地ではない。
「これ、リアルタイムか?」
「確かに前回はリアルではなかったな」
向かわせるには人員配置をどうするべきか。
マトリだった諒斗、愛蘭、政宗は迂闊だろう。しかし瞬は前回Artemis配備で使っている。
伊緒を現“昴振興会”であるArtemisに送るのも危険だ。
「行ってくる」
そう言って潤がジャケットを掴んで立ち上がるが「待て待て待て!」と腕を掴んで制する。
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