ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 27th episode

9

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 政宗はArtemis側へ、俺たちが辻井が拉致監禁されている現“昴振興会”へ向かったことを連絡する。
 駆けつけた時丁度、諒斗に肩を借りた情けない辻井と、中曽根を捉えた澄まし顔の瞬が出て来て、事が無事終息したのを知った。

「…お前ら」
「任務完了です、部長。
 あとは護送します」

 まさかこんな短時間で無事に済むとは思っていなかった。
いや、あとはユミルか。

「はっ、はっはっは!大したもんだ!」
「あぁ…」
「もう瞬ちゃんが鬼のようでした」
「いや、諒斗。君は辻井さんを助けたよ」
「…すんません、ホント、」

 辻井が申し訳なさそうに頭を下げる中、静かに潤が辻井の前にすっと立つ。
 暫し見つめ合い、辻井が「あの、」と口を開いた瞬間だった。
 潤は辻井に見事なる左ストレートをかまし、よろけた辻井に「てめぇ、」と低い声で吐き捨てた。

「てめぇなんで生きてんだよ、このクソ野郎が」

 政宗が「あちゃー」と小さく漏らした。今回は止めずに見守るらしい。
まぁ、確かに。

「…す、すんま」
「すんませんじゃねぇんだよおいコラぁ!」

 前髪、鷲掴む。
 こちらまでぶちぶち音がしそうだ。

「ナマやってんじゃねぇよ、このバーカ」

 本気なるひそひそ低音。
 マジでそろそろ止めようかと思えば「まぁ、」と政宗が言った。

「お前が一番今日は耐えたからな。
辻井、わかったら護送ついでに原田に土下座してこい。お前、今日の潤の精神と言ったら…。
 そんなヤツにぶん殴られる重みを重々知れ。勇気は買うがそれっぽっちだ」

 それを聞いた潤が漸く辻井の前髪を離し、耐えるように息を整えて「ふん、」と辻井に背を向けた。

「…瞬も諒斗もご苦労様」

 とだけ言い、Artemisの方へ向く。

「いや、お前は良い、潤」
「なんで」
「まずは落ち着け。
 護送したらまずうーんと、瞬は中曽根の取り調べ、諒斗は帰ってこい。
 流星と潤は事務所待機。諒斗と瞬が戻り次第、伊緒を帰宅させる。どうだ流星」
「…ありがとうございます。
 潤、一回帰ろう。そのクソ前髪の今回の始末書、お前、ウチの分を二人の代わりに纏めろ」
「…部長さん、」
「今後君はウチに関わらないでくれ。こっちはおかげで従業員一人の連絡が着かないんだ。
 悔しければまずお宅の部長に洗いざらい話して謝罪文やら誓約書を持ってこい」

 俺もわりと冷ために言ったが。
 潤と辻井に向けよう。

「まぁ、俺も監督不行き届きだった。正直お前らには感心したのは事実だ。
 潤、わかったか。その上で3日、自宅謹慎だ。今日中に纏めろ。
 お前の指揮があったから今こうしてこちらは無事にすんだ。易々職を手離せると思うなよ」

 返事をせず俯いたまま潤は、一足先に、覆面を止めたパーキングの方へ足を向けた。

 それから俺たち二人は部署へ戻る。

 画像解析やら政宗からの報告、本日の潤に命じた結果報告、瞬の取り調べを、俺は待った。

 中曽根は黙秘をしているが、録画までした画像が決め手となり、わりとすぐに勾留まで済んだ。

 ユミルは見つからない。

 潤はそれを含めて纏め、その頃には20時を過ぎていて。
 俺はユミルの結果を待つしかなく、潤も、提出してから連絡を待っていた。

「…悪かった」

 柄にもなく謝る潤には、「別に」と返事を返す。

「正直、無事に済めばいいだろうと、俺としては部下にまずはそう言いたいね」
「…そうかもだけど」
「皆全力だ。理不尽にもお前がこうなったから尚のこととは思ってるだろうが、俺はそうは済まさない」
「…まぁ、そりゃそうだな」
「これを踏まえて正直辞めるなんてほざくなら、お前のあだ名を“辻井”にしてやる」
「…なんだよ、それ」

まぁ。

 高くは評価出来ないが、まずまずだったよと言いたいが、言わない。
 お前の捨て身が招いた結果だろう。

しかし、まぁ。
俺だって捨て身だ、どちらかと言えば。

「…まぁ、ホントに悪かったって」

 潤が話してる最中だった。
 ケータイが鳴る。それには緊張が走る。
 見れば伊緒からだった。

帰宅したはずだった。
やはり、ユミルが心配なのだろうか。

「もしもし」

 出てみれば伊緒は切迫したように『流星さん、』と言った。

「…すまない、まだユミルは」
たまきさんが…』

…え?

『出て、行っちゃったんです』
「は…?」

 予想していた内容ではなく、一瞬頭がついていかなかった。
 思考が真っ白になりそうな頃、『ごめんなさい…っ』と泣いている伊緒の声が聞こえた。
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