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The 30th episode
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つか、
「免職ぅ!?」
「あぁ。最早危ない一般市民だ」
「マジかよ、え、なんで突然…」
「高田とお前連絡取れないだろ」
「あっ、」
「俺もだ」
なんでここまで来て?
「…てか、あんたのは取れない以前に取らないだろ」
「…確かに、そうとも言うけど。『オカケニナッタ』パターンだよ」
「マジか」
「え、お前は?」
「あ、今回の一件は掛けてねぇけど…」
ケータイを眺めれば「お前いま誰の電波も受信しねぇだろ」と言われた。
「俺が何百回掛けたと思ってんだよ」
「え?」
あそっか。
「地下だからか!」
「そーだよ。わざわざクソ山下の病室に乗り込んで潤に聞いてきたわ」
「え、なに凄いわかんない」
「山下は生きてるっつーことだよ。あいつといいお前といい潤といいユミルといい、お前らの心臓マジで何で出来てんだよ、毛が生えてるレベルじゃねぇよ」
うわ、ねちねちタイム始まる。嫌だなぁ。タバコ…
まだ吸いに行けねぇか…。
「いやちょっとわかるけど…」
「まぁ、いいけど。これでてめぇら看取ることはないって身を持ってわかったからねっ」
「…うーん、はーい…」
「だがな、」
政宗は急に真面目、というかやっぱり疲労感のある哀愁で下を見る。癖でタバコを取り出すも、気付いて持つだけになった。
「知らないことだらけで正直参ってるよ」
「…まぁ、俺だって…」
そうだけど。
不意に左手の中指に嵌められたリングが目に入った。
そうか。
これもう、意味ないのか。
だが、そこに政宗の、リングは嵌めたままの左手が重なった。
見上げたら煌々とした目が、揺らぎなかった。
「確か婚約だったよな」
「…多分」
「曖昧だなぁ。お前ってどこまで行っても。シベリア辺りの内戦にぶち込まれてこいよ」
「…それ前も言ってましたよね。行きましたけど」
「俺は行ったことねぇけどな。普通に嫌だわ」
「でしょうね」
「それでもまぁ、妻も子供も亡くしたけどな」
そうか。
政宗の手が離れる。何かを思い出すようでも、何も考えてないようでもある表情だが、ふと、笑った。
「ビビったわ、知らんかったがユミル、37歳だったんだけど」
「え、えぇっ」
マジか。
どうみても10代の少年だけど。
「な、ビックリだよな。これを期に知ったわ。俺より年上とかあり得るかあいつ」
「詐称書類じゃないのそれ」
「可能性あるよな~。
ユミル・レスタン37歳、男、AB-型、フランスと日本のハーフ。身長163センチ48キロ、視力両眼2.6、赤色弱とか、レアすぎて笑っちまうんだけど。インチキくせぇよな。
けどわかってここまでだな。お前知ってた?」
「全く。なんだそのネタ感。けど…」
あり得なくもないな。
政宗は穏やかな表情で、やり場のなくなったタバコを癖のようにしまいながら立ち上がり、俺を促すような視線だった。
「悪いが俺はもう勝手にやる。お前のことも調べる。決めたわ。正直俺O+型の立派などこにでもいる日本人だから、そう言うの気持ち悪いんだわ」
「あ、あぁ」
内容のわりには柔和な表情だった。政宗は、いつも普通の先を行くんだな、俺たちのケツを蹴っ飛ばして。
「…そうしてください。
俺も助かる。俺、12歳で樹実にあった以前の記憶が曖昧みたいなんで」
黙って思慮深い。
「今更ですけどね。疑問にすら思わなかった。世界は…、
今更ながら樹実が作ってきたから。それでよかったはずだったんですよ」
「流星…」
「母親も父親も知らない。少し記憶にあるのは、樹実が焼き払った、どこかの施設。多分、嫌悪感はあったと思う」
「…マジ?」
多分マジ。
祥真に言われたことを思い返してみて、思い出したこともあった。
真っ暗な箱のような部屋と、チャペルと、悲鳴と。そんな事しか出てこなかった。いつも、友達か何か、そんなようなものはまわりにいたような、いなかったような気がする。
身体を抱き抱えるように掴んでいたシャツのその手が、震えていると気が付いた。気付いたらより震えてくるもんで。
急な焦燥感に胸が襲われ、どうにかしようと手を離し、項垂れたらその手を噛もうとしていたらしい。然り気無く政宗の左手が視界に入り、「タバコ吸いに行くか」と何事もなく言われた。
「ヤニギレすげぇなまったく」
笑って言う政宗に、
「あぁは、うん…」
声が震えた。
政宗、こうやって。
こうやって樹実の不安も解消してきたんだろうな、多分。
足まできていた震えを何とかするように立ち上がる。ごめん先輩、俺もなにも知らなかった。樹実のことも、自分のことですら。
樹実、なんであんたは俺を連れてきたんだ。けど、なんとなく。
先輩の背中についていく。広くて、でも寂しそうなそれに、命を託す、よりも寄りかかりたかったという傲慢な気持ちはわかるような気がする。だとしたらそれはそれで、ヒーローの弱さを知るんだ。
「免職ぅ!?」
「あぁ。最早危ない一般市民だ」
「マジかよ、え、なんで突然…」
「高田とお前連絡取れないだろ」
「あっ、」
「俺もだ」
なんでここまで来て?
「…てか、あんたのは取れない以前に取らないだろ」
「…確かに、そうとも言うけど。『オカケニナッタ』パターンだよ」
「マジか」
「え、お前は?」
「あ、今回の一件は掛けてねぇけど…」
ケータイを眺めれば「お前いま誰の電波も受信しねぇだろ」と言われた。
「俺が何百回掛けたと思ってんだよ」
「え?」
あそっか。
「地下だからか!」
「そーだよ。わざわざクソ山下の病室に乗り込んで潤に聞いてきたわ」
「え、なに凄いわかんない」
「山下は生きてるっつーことだよ。あいつといいお前といい潤といいユミルといい、お前らの心臓マジで何で出来てんだよ、毛が生えてるレベルじゃねぇよ」
うわ、ねちねちタイム始まる。嫌だなぁ。タバコ…
まだ吸いに行けねぇか…。
「いやちょっとわかるけど…」
「まぁ、いいけど。これでてめぇら看取ることはないって身を持ってわかったからねっ」
「…うーん、はーい…」
「だがな、」
政宗は急に真面目、というかやっぱり疲労感のある哀愁で下を見る。癖でタバコを取り出すも、気付いて持つだけになった。
「知らないことだらけで正直参ってるよ」
「…まぁ、俺だって…」
そうだけど。
不意に左手の中指に嵌められたリングが目に入った。
そうか。
これもう、意味ないのか。
だが、そこに政宗の、リングは嵌めたままの左手が重なった。
見上げたら煌々とした目が、揺らぎなかった。
「確か婚約だったよな」
「…多分」
「曖昧だなぁ。お前ってどこまで行っても。シベリア辺りの内戦にぶち込まれてこいよ」
「…それ前も言ってましたよね。行きましたけど」
「俺は行ったことねぇけどな。普通に嫌だわ」
「でしょうね」
「それでもまぁ、妻も子供も亡くしたけどな」
そうか。
政宗の手が離れる。何かを思い出すようでも、何も考えてないようでもある表情だが、ふと、笑った。
「ビビったわ、知らんかったがユミル、37歳だったんだけど」
「え、えぇっ」
マジか。
どうみても10代の少年だけど。
「な、ビックリだよな。これを期に知ったわ。俺より年上とかあり得るかあいつ」
「詐称書類じゃないのそれ」
「可能性あるよな~。
ユミル・レスタン37歳、男、AB-型、フランスと日本のハーフ。身長163センチ48キロ、視力両眼2.6、赤色弱とか、レアすぎて笑っちまうんだけど。インチキくせぇよな。
けどわかってここまでだな。お前知ってた?」
「全く。なんだそのネタ感。けど…」
あり得なくもないな。
政宗は穏やかな表情で、やり場のなくなったタバコを癖のようにしまいながら立ち上がり、俺を促すような視線だった。
「悪いが俺はもう勝手にやる。お前のことも調べる。決めたわ。正直俺O+型の立派などこにでもいる日本人だから、そう言うの気持ち悪いんだわ」
「あ、あぁ」
内容のわりには柔和な表情だった。政宗は、いつも普通の先を行くんだな、俺たちのケツを蹴っ飛ばして。
「…そうしてください。
俺も助かる。俺、12歳で樹実にあった以前の記憶が曖昧みたいなんで」
黙って思慮深い。
「今更ですけどね。疑問にすら思わなかった。世界は…、
今更ながら樹実が作ってきたから。それでよかったはずだったんですよ」
「流星…」
「母親も父親も知らない。少し記憶にあるのは、樹実が焼き払った、どこかの施設。多分、嫌悪感はあったと思う」
「…マジ?」
多分マジ。
祥真に言われたことを思い返してみて、思い出したこともあった。
真っ暗な箱のような部屋と、チャペルと、悲鳴と。そんな事しか出てこなかった。いつも、友達か何か、そんなようなものはまわりにいたような、いなかったような気がする。
身体を抱き抱えるように掴んでいたシャツのその手が、震えていると気が付いた。気付いたらより震えてくるもんで。
急な焦燥感に胸が襲われ、どうにかしようと手を離し、項垂れたらその手を噛もうとしていたらしい。然り気無く政宗の左手が視界に入り、「タバコ吸いに行くか」と何事もなく言われた。
「ヤニギレすげぇなまったく」
笑って言う政宗に、
「あぁは、うん…」
声が震えた。
政宗、こうやって。
こうやって樹実の不安も解消してきたんだろうな、多分。
足まできていた震えを何とかするように立ち上がる。ごめん先輩、俺もなにも知らなかった。樹実のことも、自分のことですら。
樹実、なんであんたは俺を連れてきたんだ。けど、なんとなく。
先輩の背中についていく。広くて、でも寂しそうなそれに、命を託す、よりも寄りかかりたかったという傲慢な気持ちはわかるような気がする。だとしたらそれはそれで、ヒーローの弱さを知るんだ。
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