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The 30th episode
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警察病院の廊下は、ひんやりしていると感じた。最近、ここには何度も来ているが、この場所はずっと避けていて、初めてだ。
剖検室の外の長椅子。警察庁の法医学者がここに籠ってから、俺はどれ程の時間を過ごしたのだろう。
不審死として真っ先にここへ環を連れ込んだくせに立ち会えずにいる。今やウチの検視官すら、仲間の元に向かわせてしまった。
あの場所で俺がぼんやりと、濁流のように流れ込む感情の中から見つけ出した答えだった。このままでは身元不明の女性の惨殺死体でしかなく、それは無縁仏に付されてしまう。だが俺はじゃぁ、彼女にどんな墓石を建てるのだろうかと、どこか冷えているのも事実だ。
祥真は潤に撃たれて帰ってきた。
潤はどうやら、M92を使うことはなかったようだ。潤らしいといえばそうだ。ご丁寧に弾倉を空にして返してきた。
俺は救うことが出来たのかもしれないと、現実逃避をする。だからこの銃を預けたのに、潤は自分のS&Wで祥真を負傷させたらしい。
生きることは、そう甘くないらしいな。死ぬことも、同じくらいに甘くない。初めて、俺は意識したんだろう。
だから仲間の元へはいまは行けなかった。それは言い訳な事も自覚がある。単純にいま自分を憎み、事実に疑心暗鬼になっているだけだ。そこには強く、環がいる。
視界が悪くなる気がするんだ。
「流星、」
足元に影を落としている。少し汚れた黒の革靴が目に入って。
声に見上げれば、コンビニ袋を持った政宗がいた。案外、すっきりした、しかし心配そうな表情に疲れが見えた。一気に40代くらいに老け込んだのかもしれない。
俺の右側の足元にあった紙袋をチラ見しては、粗忽にコンビニ袋を渡してその、血塗れのシャツが入った紙袋を抱えて座った。
コンビニ袋の中はラキストのソフトとペットボトルの茶だった。
缶コーヒーじゃないらしいな。
「寝てねぇだろ、お前」
「…ユミルはどうしました」
「あぁ。生きてるよ。ここの5階で寝てるわ。
ウチは人数が少ないから、最早明日愛蘭を警視庁の鑑識に滑らせて現場検証かな。まぁ、何人いようが最早やれることもないけどな」
「…それは」
「ユミルは外の…入り口辺りでぶっ倒れてた。厄介にもサブマシンと共にな。
手榴弾を一つだけ手に持ってた。慧さんにはそっちの解析を頼んだよ」
「…は?」
「投げなかったらしいな。多分、その前に気絶したんだろ。ピンも抜いてなかったし。だが、施設の…入り口辺りは全壊してたな。あれは山下の隠蔽かもしれねぇな。お陰で施設の現場検証は無理だ」
「なに、それ」
「…多分、山下なりの気遣いだろうな。
ユミルは多分、過去になんかトラウマがあるらしいな。PTSD診断がくだった。しばらく前まで押さえつけるの大変だった」
それはどういうことだ一体。
「は、え?
待って、ユミルも…祥真もどうなったんだ、」
「んー。
ユミルのうわ言だと、多分あいつ、ヤバ気な組織にいたことあんだろ。そこにあの場所が似ていた。そんな中、山下が連れていき、加えて手榴弾を持たせた。だがユミルはその手榴弾は使っていない。代わりに山下が多分、別の、破壊力があるやつであそこを壊した」
「…なるほど…」
祥真は。
「…全てのトラウマを、ぶっ壊したかったのか…」
ユミルや潤や、俺や…
環のトラウマまで、全てを焼き付くす、冥界王の破壊神で。
「…そうかもな」
だとしたら。
「あそこにあった物が、全てのトラウマに繋がるのかな」
「…お前が山下と何を話したのか、俺には皆目見当がつかない」
「…俺も何を言われているのか、あんまりわからなかった。出生の話を突然しだしたんだが、それは確かに宗教施設の話だった」
「…だとしたら何故国に楯突くんだろうな。…樹実といい、副部長といい」
雨さんを副部長と呼ぶ政宗の心理は。
政宗は政宗で、何か、決めたのかもしれない。
「更に悪い知らせ…いや、いい知らせかもしれないな。
山下と潤がスパイ容疑で懲戒免職を食らった」
「…はぁ?」
まぁ確かに二人とも、そんなんだけど。
「なんでバレたの」
「え、お前そこなの?
そりゃあんな死にかけでここ来たら身バレするよな」
「えっ、」
確かにそうかもしれないけど。よく祥真や潤を追えたなおい。あいつら最早なにやってるかなんて…。
「…もしや、
バレてないのか?」
「は?」
「いや、その…」
「なに、俺の想像以上にお前ら人でなしなのか、もしや」
「え、
いや、どこまで想像されてるかわからんけど」
「高田の犬」
「あってる、けどあってない、てかむかつくわそれ」
わかるわけがない。
だが知ってるハズだ。高田はFBIの名を借りた最早マフィアのボスみたいなもんだ。謎ではあるが。そうやって樹実も、きっと雨さんも、勿論俺も従ってきた。
剖検室の外の長椅子。警察庁の法医学者がここに籠ってから、俺はどれ程の時間を過ごしたのだろう。
不審死として真っ先にここへ環を連れ込んだくせに立ち会えずにいる。今やウチの検視官すら、仲間の元に向かわせてしまった。
あの場所で俺がぼんやりと、濁流のように流れ込む感情の中から見つけ出した答えだった。このままでは身元不明の女性の惨殺死体でしかなく、それは無縁仏に付されてしまう。だが俺はじゃぁ、彼女にどんな墓石を建てるのだろうかと、どこか冷えているのも事実だ。
祥真は潤に撃たれて帰ってきた。
潤はどうやら、M92を使うことはなかったようだ。潤らしいといえばそうだ。ご丁寧に弾倉を空にして返してきた。
俺は救うことが出来たのかもしれないと、現実逃避をする。だからこの銃を預けたのに、潤は自分のS&Wで祥真を負傷させたらしい。
生きることは、そう甘くないらしいな。死ぬことも、同じくらいに甘くない。初めて、俺は意識したんだろう。
だから仲間の元へはいまは行けなかった。それは言い訳な事も自覚がある。単純にいま自分を憎み、事実に疑心暗鬼になっているだけだ。そこには強く、環がいる。
視界が悪くなる気がするんだ。
「流星、」
足元に影を落としている。少し汚れた黒の革靴が目に入って。
声に見上げれば、コンビニ袋を持った政宗がいた。案外、すっきりした、しかし心配そうな表情に疲れが見えた。一気に40代くらいに老け込んだのかもしれない。
俺の右側の足元にあった紙袋をチラ見しては、粗忽にコンビニ袋を渡してその、血塗れのシャツが入った紙袋を抱えて座った。
コンビニ袋の中はラキストのソフトとペットボトルの茶だった。
缶コーヒーじゃないらしいな。
「寝てねぇだろ、お前」
「…ユミルはどうしました」
「あぁ。生きてるよ。ここの5階で寝てるわ。
ウチは人数が少ないから、最早明日愛蘭を警視庁の鑑識に滑らせて現場検証かな。まぁ、何人いようが最早やれることもないけどな」
「…それは」
「ユミルは外の…入り口辺りでぶっ倒れてた。厄介にもサブマシンと共にな。
手榴弾を一つだけ手に持ってた。慧さんにはそっちの解析を頼んだよ」
「…は?」
「投げなかったらしいな。多分、その前に気絶したんだろ。ピンも抜いてなかったし。だが、施設の…入り口辺りは全壊してたな。あれは山下の隠蔽かもしれねぇな。お陰で施設の現場検証は無理だ」
「なに、それ」
「…多分、山下なりの気遣いだろうな。
ユミルは多分、過去になんかトラウマがあるらしいな。PTSD診断がくだった。しばらく前まで押さえつけるの大変だった」
それはどういうことだ一体。
「は、え?
待って、ユミルも…祥真もどうなったんだ、」
「んー。
ユミルのうわ言だと、多分あいつ、ヤバ気な組織にいたことあんだろ。そこにあの場所が似ていた。そんな中、山下が連れていき、加えて手榴弾を持たせた。だがユミルはその手榴弾は使っていない。代わりに山下が多分、別の、破壊力があるやつであそこを壊した」
「…なるほど…」
祥真は。
「…全てのトラウマを、ぶっ壊したかったのか…」
ユミルや潤や、俺や…
環のトラウマまで、全てを焼き付くす、冥界王の破壊神で。
「…そうかもな」
だとしたら。
「あそこにあった物が、全てのトラウマに繋がるのかな」
「…お前が山下と何を話したのか、俺には皆目見当がつかない」
「…俺も何を言われているのか、あんまりわからなかった。出生の話を突然しだしたんだが、それは確かに宗教施設の話だった」
「…だとしたら何故国に楯突くんだろうな。…樹実といい、副部長といい」
雨さんを副部長と呼ぶ政宗の心理は。
政宗は政宗で、何か、決めたのかもしれない。
「更に悪い知らせ…いや、いい知らせかもしれないな。
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「…はぁ?」
まぁ確かに二人とも、そんなんだけど。
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「え、お前そこなの?
そりゃあんな死にかけでここ来たら身バレするよな」
「えっ、」
確かにそうかもしれないけど。よく祥真や潤を追えたなおい。あいつら最早なにやってるかなんて…。
「…もしや、
バレてないのか?」
「は?」
「いや、その…」
「なに、俺の想像以上にお前ら人でなしなのか、もしや」
「え、
いや、どこまで想像されてるかわからんけど」
「高田の犬」
「あってる、けどあってない、てかむかつくわそれ」
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