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The 32nd episode
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「あのー…伊緒はどーしてるかなと…」
仕方ねーけど喋りにくいな。喉が胃液に攻撃されてしまったらしい。
『あ?伊緒?』
水を確保してまたソファに寝転んだ。ダルく頭上に置いたペットボトルに頭がひんやりするようだった。
「そう、伊緒」
『…寝てるけど』
「ははっ、ですよね」
ついでに寝タバコしたらやっぱり痰が喉に絡む。『どうしたお前』という政宗の声が真剣味を帯びた。
『飲みすぎたのかお前』
「いぇ…んー、まぁそんなとこです」
『…なんで』
「…さっき帰宅して。伊緒は今頃どうしてるかなって」
『…あっそう』
あー。
なんか無駄に安心する声だなこの先輩。
『俺夜通しは流石に辛いぞ流星』
「んー、まぁ…はい。安否確認が出来ればそれで大丈夫です、今日、仕事は…」
眠くなってきたな。
『ん?流星?』
そうか。
形状的にあの背中のあのライフルは。
もしかするとぼんやりしているが、6発くらいの、アサルトライフルだったかもしれないなぁ…。12くらいの、そう…17年前の記憶なんて、そんなもんなのか、樹実。
少し、安心した気がしてきた。
「ふっ、はは…」
ずっと。
『どうした流星』
「いや…」
やっぱり。
「なんか…」
政宗は黙っている。それもこの部屋には広くて仕方なくて。
「やっぱ、なんか…。
ヒーローも人だったのかなっ…ってさぁ、」
ダメだな。
泣けてくる気がしている。
『…なんかあったかルイジア』
電話を持つ腕を目元に当てた。
情けないことに、これくらいで泣けてくるらしい。スターリング・サブマシンガンだろうとレミントンだろうと。結局俺の世界は変わったというのにさ。
いつでもきっと、側に知らない子供がいた。訳された聖書のような物だったのかもしれない、隅でそれを、体育座りで聞いている子供はきっと、それほどなにも考えていない。
それほど息を潜めて事柄を見守っていたのかもしれない。誰の腕が折れたって、悲鳴が聞こえたって、耳を塞いできた子供なのかもしれない。そんな地獄絵図に、感覚は麻痺を越えて死んでいたのかもしれない。
誰もが優しく平等であり、誰もが等しくゴミと変わらない日常だったのか、幼い少年は頭のどこかで考えただろう。
ある日あの男がやって来た。その瞳は無機質だったと、感じた気がするんだ。同じだろう、ヒーローも、人間で。
気が付けばまわりは薄明かりに照らされていた。ケータイはソファーの下に垂れ下がった右手のすぐ側に転がっていて。通話は切れているようだった。
そうか、夢なのか。けど、ほとんど現実なのかもしれない。
早めに起きたし、さっさと風呂に入って部署に行こうか。あとにも先にもそれしかないなと、ルイジアナからそのままだった喪服は全て脱いでシャワーを浴びた。
それから部署に行く準備をしながら人員配置を考えた。
うーん。
欠員は初期から数えたら4人になるのか。
きっと潤は来るんだろうがやれることが制限されたな。というかあいつは最早どこまでやっていたのか、確かに横溝暁子が言っていたのもわかる、いつの間にか仕事が片付けられてるんだよなあの変態。しかもわりとエグいやつ。
恭太は経理だった。
いなくなりユミルに任せたのは瞬と伊緒と共に大学テロ。そしてユミルは大抵の間取り担当(経理寄り)になったわけで。
この内二人の欠員か…。
となると調書まとめを鑑識のうち一つとしてやっていた愛蘭に延長線としてここを任せたとすれば鑑識が手薄になる。愛蘭的にはここは苦にならないだろうが…。
霞と諒斗をそのまま継続でホストクラブに置く、これもOK。ここに政宗が噛んでいたのか…。そうするとやはりこのままでは鑑識が辛いな。
汗臭いな今日の俺。
政宗をやはり完璧に鑑識へまわしたとして。
うーん、完璧に潤のポジションのうちの一つ、大使館テロがいなくなったな。
ここで俺がそれを引き受けると、鮫島関連もいなくなり、また、各ポジションに依頼を出す部長としての俺の仕事がおざなりになるなぁ…。
やっぱ司令塔のうち一人の仕事が制限されるのは痛いな。潤が来るとしてもいまのまま仕事を任せるにしたら完璧なるスパイ容疑だな。うーん、経理関係のみを潤に依頼したとして…
逆上せそうだ。
シャワーなのに。
ダメだもう上がろう。
ヤバいなぁ。円滑になる気がしなくなってきた。
ワイシャツやらズボンやらを着ても頭は止まらない。
そもそも単品で仕事がある後輩たちはなんとか、合理的に済みそうな気がするなウチの部署。
そうなると俺と政宗で司令塔の中心を二分割する考えがいいのか?いやいや、ほとんどの洗い出しは政宗が中心だったからな…。
潤がどこにどこまで節操なくどの範囲で仕事を拡大していたか最早わかんねぇしな…。あいつからホテルテロ、會澤組からの鮫島、大学、…長官、の洗い出しが出てきたんだもんなぁ…。つまりみんなをまとめて「原点」になってきたんだよなぁ…、政宗と俺と潤のなんとな~くな雰囲気で
「まぁこいつが言うならそうなんだろう」
があったわけで!
あぁぁ~…潤の根拠、政宗の根拠って別に聞いたことなかったよ。てか俺はどうなんだただそのなかで疑問が湧いたら現地って、外回り営業じみてる?実は。
まぁ…もう行って決めるしかない?なんとなく雰囲気でみんな動く?また労働が死にかけてみんなで目が血走る?
仕事のことを考えていたら歯を磨くことすら、と言うか髪を乾かすことすら忘れそうだった。
ちゃっちゃと済ませ、まだ早すぎるが部署に向かうことにした。
仕方ねーけど喋りにくいな。喉が胃液に攻撃されてしまったらしい。
『あ?伊緒?』
水を確保してまたソファに寝転んだ。ダルく頭上に置いたペットボトルに頭がひんやりするようだった。
「そう、伊緒」
『…寝てるけど』
「ははっ、ですよね」
ついでに寝タバコしたらやっぱり痰が喉に絡む。『どうしたお前』という政宗の声が真剣味を帯びた。
『飲みすぎたのかお前』
「いぇ…んー、まぁそんなとこです」
『…なんで』
「…さっき帰宅して。伊緒は今頃どうしてるかなって」
『…あっそう』
あー。
なんか無駄に安心する声だなこの先輩。
『俺夜通しは流石に辛いぞ流星』
「んー、まぁ…はい。安否確認が出来ればそれで大丈夫です、今日、仕事は…」
眠くなってきたな。
『ん?流星?』
そうか。
形状的にあの背中のあのライフルは。
もしかするとぼんやりしているが、6発くらいの、アサルトライフルだったかもしれないなぁ…。12くらいの、そう…17年前の記憶なんて、そんなもんなのか、樹実。
少し、安心した気がしてきた。
「ふっ、はは…」
ずっと。
『どうした流星』
「いや…」
やっぱり。
「なんか…」
政宗は黙っている。それもこの部屋には広くて仕方なくて。
「やっぱ、なんか…。
ヒーローも人だったのかなっ…ってさぁ、」
ダメだな。
泣けてくる気がしている。
『…なんかあったかルイジア』
電話を持つ腕を目元に当てた。
情けないことに、これくらいで泣けてくるらしい。スターリング・サブマシンガンだろうとレミントンだろうと。結局俺の世界は変わったというのにさ。
いつでもきっと、側に知らない子供がいた。訳された聖書のような物だったのかもしれない、隅でそれを、体育座りで聞いている子供はきっと、それほどなにも考えていない。
それほど息を潜めて事柄を見守っていたのかもしれない。誰の腕が折れたって、悲鳴が聞こえたって、耳を塞いできた子供なのかもしれない。そんな地獄絵図に、感覚は麻痺を越えて死んでいたのかもしれない。
誰もが優しく平等であり、誰もが等しくゴミと変わらない日常だったのか、幼い少年は頭のどこかで考えただろう。
ある日あの男がやって来た。その瞳は無機質だったと、感じた気がするんだ。同じだろう、ヒーローも、人間で。
気が付けばまわりは薄明かりに照らされていた。ケータイはソファーの下に垂れ下がった右手のすぐ側に転がっていて。通話は切れているようだった。
そうか、夢なのか。けど、ほとんど現実なのかもしれない。
早めに起きたし、さっさと風呂に入って部署に行こうか。あとにも先にもそれしかないなと、ルイジアナからそのままだった喪服は全て脱いでシャワーを浴びた。
それから部署に行く準備をしながら人員配置を考えた。
うーん。
欠員は初期から数えたら4人になるのか。
きっと潤は来るんだろうがやれることが制限されたな。というかあいつは最早どこまでやっていたのか、確かに横溝暁子が言っていたのもわかる、いつの間にか仕事が片付けられてるんだよなあの変態。しかもわりとエグいやつ。
恭太は経理だった。
いなくなりユミルに任せたのは瞬と伊緒と共に大学テロ。そしてユミルは大抵の間取り担当(経理寄り)になったわけで。
この内二人の欠員か…。
となると調書まとめを鑑識のうち一つとしてやっていた愛蘭に延長線としてここを任せたとすれば鑑識が手薄になる。愛蘭的にはここは苦にならないだろうが…。
霞と諒斗をそのまま継続でホストクラブに置く、これもOK。ここに政宗が噛んでいたのか…。そうするとやはりこのままでは鑑識が辛いな。
汗臭いな今日の俺。
政宗をやはり完璧に鑑識へまわしたとして。
うーん、完璧に潤のポジションのうちの一つ、大使館テロがいなくなったな。
ここで俺がそれを引き受けると、鮫島関連もいなくなり、また、各ポジションに依頼を出す部長としての俺の仕事がおざなりになるなぁ…。
やっぱ司令塔のうち一人の仕事が制限されるのは痛いな。潤が来るとしてもいまのまま仕事を任せるにしたら完璧なるスパイ容疑だな。うーん、経理関係のみを潤に依頼したとして…
逆上せそうだ。
シャワーなのに。
ダメだもう上がろう。
ヤバいなぁ。円滑になる気がしなくなってきた。
ワイシャツやらズボンやらを着ても頭は止まらない。
そもそも単品で仕事がある後輩たちはなんとか、合理的に済みそうな気がするなウチの部署。
そうなると俺と政宗で司令塔の中心を二分割する考えがいいのか?いやいや、ほとんどの洗い出しは政宗が中心だったからな…。
潤がどこにどこまで節操なくどの範囲で仕事を拡大していたか最早わかんねぇしな…。あいつからホテルテロ、會澤組からの鮫島、大学、…長官、の洗い出しが出てきたんだもんなぁ…。つまりみんなをまとめて「原点」になってきたんだよなぁ…、政宗と俺と潤のなんとな~くな雰囲気で
「まぁこいつが言うならそうなんだろう」
があったわけで!
あぁぁ~…潤の根拠、政宗の根拠って別に聞いたことなかったよ。てか俺はどうなんだただそのなかで疑問が湧いたら現地って、外回り営業じみてる?実は。
まぁ…もう行って決めるしかない?なんとなく雰囲気でみんな動く?また労働が死にかけてみんなで目が血走る?
仕事のことを考えていたら歯を磨くことすら、と言うか髪を乾かすことすら忘れそうだった。
ちゃっちゃと済ませ、まだ早すぎるが部署に向かうことにした。
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