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The 34th episode

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 電話が鳴った。
 昼過ぎのことだった。

「…はい」

 支部長室のデスク。業務用の白い電話を取った小柄な眼鏡の中年男は、大変不機嫌そうに掠れた声だった。

『高田部長、ケリー・マクホン氏から 』
「俺は今日、部下の葬式に」

 一瞬回線が途切れた。それから聞こえる『久しぶりやなクソラット』と言う、関西風味のエセ日本語が聞こえた。

「…どなたでしょうか、国際線ハッキングの罪で国際警察に通報いたしますよ」
「私のジェットは到着したか、ファッキンラット野郎」
「……おやおや季節外れににゃーにゃーと、どうしたもんかなぁ盛りがついて。アメリカの陽気に気が狂っちまったんだろうか、サイコパスな猫だ」
「てめえの憎まれ口はどうだってええわ、んな安酒に盛ってる暇はねぇよラット・プロンカー」
「随分気が狂ってるなサイコキャット。何か、猫いらずでも食ったのかい?
 何用だ貴様」
「わかっとんのやろ、てめぇ」
「…ウチの犬が世話になったようで。どうやって手懐けたか聞こうか?まずは」
「…ウチの犬を何故殺したんかも聞こうか、このクソ野郎」

 両者沈黙が流れ、FBI日本支部長、高田創太は溜め息を吐いた。

「…ここはアニマルホスピタルだからね。狂犬病に掛かった犬は安楽死させるのがドクターってもんじゃないかい?君こそいつから保健所なんて御大層なことを始めたんだ、野良猫のクセに」
「アニマルホスピタル?はっ、射殺なら保健所の方が正しくないんかこのドブネズミが」
「まぁ君の怒りはわかったよケリー・マクホン。俺から君に“君が代”を捧げようか、知ってるかいサイコパス。日本の軍国歌だよ、」
「その腹積もりなんか。どっちがサイコパスだか。
 その腹かっ捌いててめえの口に突っ込んでやるよこのゲス野郎」
「はは、
それは俺の台詞だねファッキン野郎」
「……ショウマは返してもらう」
「流星と引き換えだ」
「お前とことんバカやな。
 死人に口なしと言う日本語を知らないんか低俗は。帰してもえーけど決めるのはリュウセイだろう。狂犬病予防しとけよ、保健所から言っとくわ」
「はて、君はどうやって飼い慣らしたんだケリー。日本語も出来ないのに死人に口なしの意味、わかって使ってる?」

 一方的に切れた。
なるほど。

「ふぅ、」

 一息吐いて高田は考える。

「そろそろ終戦かなぁ、一成」

 思いを馳せる。

 あの日の海岸で、焚き火を炊いて夢を語った君の穏やかな表情を忘れることができない。創太、君は帰ったらまず何をしたい?と。
 君は言ったね一成。まずは家族の元に帰りたいな、日本料理…何がいいかなぁ、お好み焼きかなぁ。と、何も疑わなかった君に俺はどんな気持ちだったのだろう。だから俺は君に何も夢を語ることが出来なかったんだよ。

 いまはより、気持ちを理解することができるのか、わからない。
 君が知らない20年以上で俺はもっとたくさんの物を失った。今度は夢を語れるように、また夢を掴みたいなど、君に言えた義理だろうか。

 高田創太はそれから、雨で暗くなった外を眺める。空は今濁っているらしい。

 電話の音がする、またあの野良猫かと「はい」と出てみる。

『警察庁長官 浅瀬辰夫様からお電…』
「警察庁長官?誰だってんだい、そんな」

傀儡は。

「…まぁいい。繋いでください」 

 そんな犬畜生の戯れ言など序章にすぎないだろう。

あぁ…。
『銃声が聞こえるね』
そう、そうなんだよ。

 高田創太は流星を思い浮かべた。
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