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The 36th episode
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「…っざけんなっ…、」
ふざけるな。
「…ふざけてないけど」
「…んなんでぇ…、楽に死ねると…、本気で思ってんのかこのクソ野郎っ、」
「楽だったと思ってんのか、」
血液が止まらない。
頭はくらくらしてきたが、スチェッキンを掴んで捨てるくらいの体力はあった。
「…思ってねぇよ、
俺があんたを殺したらの話だ、頭悪っ、そんなんで、そんなんで終わったら、いままでなんていらねぇんだよっ、
どれだけ、どれだけ俺も苦しんだと思ってる、てめぇ、本気で、ぶっ殺しても足りねぇけどてめぇごときで、」
声が震える。
血液なんて足りねぇつうのに。
「夢見てんじゃねえよっ!んな軽くねぇっての、この野郎、起こしてやるっつってんだよっ!」
息も上がっている。
それに一瞬髙田は泣きそうなような、そんな表情をした気がする。
見た気になりたいがそれは夢でしかないんだ。
血液は感覚を持っていなかった。
だが、気は済まない。
高田が流星の目元に触れてただ、「そうだな」と言い、感覚のない流星の右腕に握られたM92を奪って蟀谷に当てるのは早かった。
いい加減にしろ。
全ての感情が渦巻いて潤はやはりそれを止めようと、二人の先にある机に威嚇射撃をし、捉えようと近付くのだけど。
「どうして」
その流星の声に一同はぴたりと、止まった。
「…せめて。
どうして樹実を拾ったんですか。
俺を…拾ったんですか」
沈黙が流れた。
髙田は表情を無にし、それから「さぁ…」と続けた。
「一成を、…忘れていなかったなんて、陳腐な答えでは許してもらえそうにないか」
「…いや、」
「樹実は一成が…、曽田から引き取り、手塩にかけた子供だったんだ。一成に良く似た、胸糞悪いほど明るく純粋なやつで…」
そうか。
あいつはいつも、心に残る。それが、多分ヒーローというやつだ。
「…どこかでずっと、忘れられていないんだ。俺だって、純粋に、失いたくなかった、ヒーローになりたかったよ、本当は」
それは。
「…あんたのせいじゃないか、なぁ、高田さん」
それでもあんたはいま生きているんだ。
やり直せる?違う、やり直さなくたって、それを見つめることは可能なはずだ。
なんて、甘いだろうかと流星の頭に過る。
甘くたっていい。それほど人間は単純に出来ていないのだから。
「…君の父に言っといてくれ、
大嫌いだったよクソ野郎と」
だけど。
別の発砲音に潤は止まるしかなかったし、流星も返り血と、弱まりするっと落ちた高田の腕、体に押し倒されたように寝転ぶしかなかった。
「はっ、」
息を吐く。
「…高田さん?」
呼び掛ける。
「…高田、さん、」
それはもう。
「高田さんって、おい、コラ、」
一瞬にして、
死んでいた。
唖然として潤も、政宗も。
動くことが出来なかった。
「…なに、それ」
なにそれ。
勢いに任せて流星から剥いだ高田の死に顔は思ったより、
銃弾に耐えるためか歯を食い縛り苦しそうだった。
「…なに…?」
潤が拳銃を下げ、へたり込んで高田を眺めて、流星はぼんやりと思う。
政宗も「おい!」と声を荒げて駆け寄ってきた。
「…ははっ、」
やはり、そうだ。
ヒーローになろうなんていう概念が間違いだったが。
違うな。
体温が下がる。
「流星…?」
相方の声が近くか、遠くかで聞こえる。
初めからヒーローなんていない。
だが、自分はいたのだな。ずっと昔から、変わらず側に、離れることはなく。
漸く銃を下ろすときが来たようだ。
「流星、おい、流星!」
誰しもそう、銃を携えている。
銃はいつでも敵に向けるための道具でしかなく。
『一人を殺したらもう戻れないんだよ』
本当にその通りだった。
己を殺すまで、永遠に、安息なんてなかった。だが、安息を望むために人は誰かも自分も傷付けていくはずだろう。
片付けられない感情は、弾詰ってしまうことがあるらしいけど、と。
流星、流星と煽るような声が聞こえる気がする。
やっと見つけたよ、樹実。
みんな、本当は真っ直ぐなんかじゃなかったんだね。けど、あんたはどうだったかな。
ただただ、その背中は寂しそうに見えた気がしていたんだ。
ただの我儘だって、誰かを守り傷付けるんだよ。世界は、それほど綺麗じゃないらしい。
ねぇ。
これでいいかい?みんな。
遠くに、海の先に。
誰しも、下ろせなかった銃を下ろして純粋にそう、問いかけてみようと思えた。
下ろす場所、見つけたんだよ。
ふざけるな。
「…ふざけてないけど」
「…んなんでぇ…、楽に死ねると…、本気で思ってんのかこのクソ野郎っ、」
「楽だったと思ってんのか、」
血液が止まらない。
頭はくらくらしてきたが、スチェッキンを掴んで捨てるくらいの体力はあった。
「…思ってねぇよ、
俺があんたを殺したらの話だ、頭悪っ、そんなんで、そんなんで終わったら、いままでなんていらねぇんだよっ、
どれだけ、どれだけ俺も苦しんだと思ってる、てめぇ、本気で、ぶっ殺しても足りねぇけどてめぇごときで、」
声が震える。
血液なんて足りねぇつうのに。
「夢見てんじゃねえよっ!んな軽くねぇっての、この野郎、起こしてやるっつってんだよっ!」
息も上がっている。
それに一瞬髙田は泣きそうなような、そんな表情をした気がする。
見た気になりたいがそれは夢でしかないんだ。
血液は感覚を持っていなかった。
だが、気は済まない。
高田が流星の目元に触れてただ、「そうだな」と言い、感覚のない流星の右腕に握られたM92を奪って蟀谷に当てるのは早かった。
いい加減にしろ。
全ての感情が渦巻いて潤はやはりそれを止めようと、二人の先にある机に威嚇射撃をし、捉えようと近付くのだけど。
「どうして」
その流星の声に一同はぴたりと、止まった。
「…せめて。
どうして樹実を拾ったんですか。
俺を…拾ったんですか」
沈黙が流れた。
髙田は表情を無にし、それから「さぁ…」と続けた。
「一成を、…忘れていなかったなんて、陳腐な答えでは許してもらえそうにないか」
「…いや、」
「樹実は一成が…、曽田から引き取り、手塩にかけた子供だったんだ。一成に良く似た、胸糞悪いほど明るく純粋なやつで…」
そうか。
あいつはいつも、心に残る。それが、多分ヒーローというやつだ。
「…どこかでずっと、忘れられていないんだ。俺だって、純粋に、失いたくなかった、ヒーローになりたかったよ、本当は」
それは。
「…あんたのせいじゃないか、なぁ、高田さん」
それでもあんたはいま生きているんだ。
やり直せる?違う、やり直さなくたって、それを見つめることは可能なはずだ。
なんて、甘いだろうかと流星の頭に過る。
甘くたっていい。それほど人間は単純に出来ていないのだから。
「…君の父に言っといてくれ、
大嫌いだったよクソ野郎と」
だけど。
別の発砲音に潤は止まるしかなかったし、流星も返り血と、弱まりするっと落ちた高田の腕、体に押し倒されたように寝転ぶしかなかった。
「はっ、」
息を吐く。
「…高田さん?」
呼び掛ける。
「…高田、さん、」
それはもう。
「高田さんって、おい、コラ、」
一瞬にして、
死んでいた。
唖然として潤も、政宗も。
動くことが出来なかった。
「…なに、それ」
なにそれ。
勢いに任せて流星から剥いだ高田の死に顔は思ったより、
銃弾に耐えるためか歯を食い縛り苦しそうだった。
「…なに…?」
潤が拳銃を下げ、へたり込んで高田を眺めて、流星はぼんやりと思う。
政宗も「おい!」と声を荒げて駆け寄ってきた。
「…ははっ、」
やはり、そうだ。
ヒーローになろうなんていう概念が間違いだったが。
違うな。
体温が下がる。
「流星…?」
相方の声が近くか、遠くかで聞こえる。
初めからヒーローなんていない。
だが、自分はいたのだな。ずっと昔から、変わらず側に、離れることはなく。
漸く銃を下ろすときが来たようだ。
「流星、おい、流星!」
誰しもそう、銃を携えている。
銃はいつでも敵に向けるための道具でしかなく。
『一人を殺したらもう戻れないんだよ』
本当にその通りだった。
己を殺すまで、永遠に、安息なんてなかった。だが、安息を望むために人は誰かも自分も傷付けていくはずだろう。
片付けられない感情は、弾詰ってしまうことがあるらしいけど、と。
流星、流星と煽るような声が聞こえる気がする。
やっと見つけたよ、樹実。
みんな、本当は真っ直ぐなんかじゃなかったんだね。けど、あんたはどうだったかな。
ただただ、その背中は寂しそうに見えた気がしていたんだ。
ただの我儘だって、誰かを守り傷付けるんだよ。世界は、それほど綺麗じゃないらしい。
ねぇ。
これでいいかい?みんな。
遠くに、海の先に。
誰しも、下ろせなかった銃を下ろして純粋にそう、問いかけてみようと思えた。
下ろす場所、見つけたんだよ。
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