370 / 376
The 36th episode
6
しおりを挟む
淡々と語ってしまう高田創太に対して流星は、それを眺めることしか出来ないでいた。
「そして俺は…軍から失踪し、まぁ、モグリみたいなことをやっていただけあってそれなりに顔が利いた。
一成が慈悲で作った各国の孤児院を薬付けにして人間兵器を作り上げた。そうでもしなけりゃ国の情勢なんて宗教、武器があればやっていける。
これを必要悪にした、これが答えだな。宗教には逆らえない。政治家、警察組織、丸め込めるもんさ、人の道徳なんて」
「…どうして、」
「簡単じゃないか流星。平和には悪役がいるというだけの話だ。俺はそれを痛感したが君はそんなこともわからないの?犬の癖に。
俺のやって来たことを見てごらんよ流星。世界はいつだって平和だった、違うかい?」
そんなことは。
「…そんなことでこんな、…こんなことを、したって言うんですか」
「バカな犬にはわかるまいよ。
俺のしたことは君たちのそれなんかより遥かに、大きくて」
「それだけで祥真や…環や、銀河は、樹実は、雨さんは…、みんな、死んでいったって言うんですか高田さん」
それだけで。
そう、たった、それだけ。
「そういう国だろ」
「あんた、日本人だろ、なぁ!
仲間を悼み続けるしかない、そういう人種じゃないのか」
「知った口利いてんじゃねぇよクソガキ」
殺気立った。
「お前には遠い話かもしれない。この国の平和は俺たちが作った。そこにはシャブや宗教や兵器もある。これは海外の話じゃない、日本だ。俺の愛すべき国はそうやって成り立ってるんだ」
「…だからぁ?」
銃を震わせた流星が歯を食い縛ってそう言った。
それに過去を見るような気がした。
「…俺はどこの誰だか自分で…。
わからなかった、でも、思い出した。スラムの日本人で、新興宗教もよくわからなかった。
まわりで子供は殴られていく、そんな白い箱の中で育った。
もしかしたら俺は見て見ぬふりをしていたのかもしれないのに。
だが、それをぶっ壊しに来たのはサブマシンガンを抱えた…樹実だった。それで日本人だ、それでいい。
それまで俺は、忘れちまうくらい辛かったのかもしれない。だけど、今があるんだよ…、」
「…何が言いたい」
「…単純だよ高田さん。
あんただって本当は辛かったんだと思う、世界が変わっちまったのかもしれない。それを塗り替え塗り替え、気が狂っている。
けど本当にそうなのか?ただ、怖いまま待っている、だから、」
だから、俺に。
誰かに。
「…そんなくだらねぇことに荷担しようだなんて、虫酸が走るんだよ、」
「…あ、そう。
いつまでも誰もなつかないなあ、俺には」
だけど。
「…殺しちまったら死んでも…あんたはそれを墓に入れることになる」
「優しいもんだねぇ」
高田創太はスチェッキン・マシンピストルのスライドを引く。
だけど。
「俺も辛かったんだよ高田さん」
「…だろうね。だから君は俺を殺すべきだろう」
『一人を殺したらもう戻れないんだよ』
「…そうかもしれない」
だけど。
銃声がした。
同時に右腕が折れて裂けるのを感じ、反射的に跪いた。
右腕は持っていかれたに等しかった。
「…っ、」
「…痛いだろう、なぁ、流星」
そのまま椅子から立ち上がり、スライドを引きながら髙田は流星の元へ歩む。
が。
扉が荒々しく空いた。
「動くんじゃねぇクソ野郎、」
背後で声と、カシャッという音がする。
「りゅう、」
「撃つな、潤っ…、」
先輩を遮り流星は痛みに震える声でそう叫んだ。
「撃つな、何があっても撃つな、それは…っ、ダメだ、」
背負ったって。
そんなものはサブマシンガンと変わらないんだ。
「おい、流星、」
腕を押さえ、力尽きるように倒れた流星に「おい、おい、」と寄ろうとする仲間に「うるせえぶっ殺すぞ」と髙田は低く唸り流星に銃口を向けたまま二人を睨み付ける。
傷口を足蹴にされた流星は声なく唸る。
「てめぇ、高田っ…」
「銃を下ろせよ星川。じゃなきゃ撃つぞこいつを」
「…なんだってぇんだよ、おい、お前マジで」
途端に高田の銃を持った利き手が動いたのに流星が反応して足を掴んだ。
ここで死なれては、
ここで死なれてはどうしようもないじゃないか。
体制を崩した髙田は「あっ、」と短く言う。銃は暴発しどこへ弾丸が飛んだかはわからない。だが、這いつくばった高田を見て脳天ではないようだと安堵した。
「こんの、」
前髪をひっ掴まれ、結局拳銃は額に当てられてしまう。それを見て「なにしてんだよ、」と構わず潤が踏み込むが、
「君になら殺されてもいいと本気で思ってんだ、流星」
高田の低い声に、潤は立ち止まってしまった。
そうか。
疲れきった高田の瞳に全ての感情を読み取った気になった。
見た気に、なりたかった。
「そして俺は…軍から失踪し、まぁ、モグリみたいなことをやっていただけあってそれなりに顔が利いた。
一成が慈悲で作った各国の孤児院を薬付けにして人間兵器を作り上げた。そうでもしなけりゃ国の情勢なんて宗教、武器があればやっていける。
これを必要悪にした、これが答えだな。宗教には逆らえない。政治家、警察組織、丸め込めるもんさ、人の道徳なんて」
「…どうして、」
「簡単じゃないか流星。平和には悪役がいるというだけの話だ。俺はそれを痛感したが君はそんなこともわからないの?犬の癖に。
俺のやって来たことを見てごらんよ流星。世界はいつだって平和だった、違うかい?」
そんなことは。
「…そんなことでこんな、…こんなことを、したって言うんですか」
「バカな犬にはわかるまいよ。
俺のしたことは君たちのそれなんかより遥かに、大きくて」
「それだけで祥真や…環や、銀河は、樹実は、雨さんは…、みんな、死んでいったって言うんですか高田さん」
それだけで。
そう、たった、それだけ。
「そういう国だろ」
「あんた、日本人だろ、なぁ!
仲間を悼み続けるしかない、そういう人種じゃないのか」
「知った口利いてんじゃねぇよクソガキ」
殺気立った。
「お前には遠い話かもしれない。この国の平和は俺たちが作った。そこにはシャブや宗教や兵器もある。これは海外の話じゃない、日本だ。俺の愛すべき国はそうやって成り立ってるんだ」
「…だからぁ?」
銃を震わせた流星が歯を食い縛ってそう言った。
それに過去を見るような気がした。
「…俺はどこの誰だか自分で…。
わからなかった、でも、思い出した。スラムの日本人で、新興宗教もよくわからなかった。
まわりで子供は殴られていく、そんな白い箱の中で育った。
もしかしたら俺は見て見ぬふりをしていたのかもしれないのに。
だが、それをぶっ壊しに来たのはサブマシンガンを抱えた…樹実だった。それで日本人だ、それでいい。
それまで俺は、忘れちまうくらい辛かったのかもしれない。だけど、今があるんだよ…、」
「…何が言いたい」
「…単純だよ高田さん。
あんただって本当は辛かったんだと思う、世界が変わっちまったのかもしれない。それを塗り替え塗り替え、気が狂っている。
けど本当にそうなのか?ただ、怖いまま待っている、だから、」
だから、俺に。
誰かに。
「…そんなくだらねぇことに荷担しようだなんて、虫酸が走るんだよ、」
「…あ、そう。
いつまでも誰もなつかないなあ、俺には」
だけど。
「…殺しちまったら死んでも…あんたはそれを墓に入れることになる」
「優しいもんだねぇ」
高田創太はスチェッキン・マシンピストルのスライドを引く。
だけど。
「俺も辛かったんだよ高田さん」
「…だろうね。だから君は俺を殺すべきだろう」
『一人を殺したらもう戻れないんだよ』
「…そうかもしれない」
だけど。
銃声がした。
同時に右腕が折れて裂けるのを感じ、反射的に跪いた。
右腕は持っていかれたに等しかった。
「…っ、」
「…痛いだろう、なぁ、流星」
そのまま椅子から立ち上がり、スライドを引きながら髙田は流星の元へ歩む。
が。
扉が荒々しく空いた。
「動くんじゃねぇクソ野郎、」
背後で声と、カシャッという音がする。
「りゅう、」
「撃つな、潤っ…、」
先輩を遮り流星は痛みに震える声でそう叫んだ。
「撃つな、何があっても撃つな、それは…っ、ダメだ、」
背負ったって。
そんなものはサブマシンガンと変わらないんだ。
「おい、流星、」
腕を押さえ、力尽きるように倒れた流星に「おい、おい、」と寄ろうとする仲間に「うるせえぶっ殺すぞ」と髙田は低く唸り流星に銃口を向けたまま二人を睨み付ける。
傷口を足蹴にされた流星は声なく唸る。
「てめぇ、高田っ…」
「銃を下ろせよ星川。じゃなきゃ撃つぞこいつを」
「…なんだってぇんだよ、おい、お前マジで」
途端に高田の銃を持った利き手が動いたのに流星が反応して足を掴んだ。
ここで死なれては、
ここで死なれてはどうしようもないじゃないか。
体制を崩した髙田は「あっ、」と短く言う。銃は暴発しどこへ弾丸が飛んだかはわからない。だが、這いつくばった高田を見て脳天ではないようだと安堵した。
「こんの、」
前髪をひっ掴まれ、結局拳銃は額に当てられてしまう。それを見て「なにしてんだよ、」と構わず潤が踏み込むが、
「君になら殺されてもいいと本気で思ってんだ、流星」
高田の低い声に、潤は立ち止まってしまった。
そうか。
疲れきった高田の瞳に全ての感情を読み取った気になった。
見た気に、なりたかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる