水に澄む色

二色燕𠀋

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 リュージはぼんやりとパッケージを眺め、「PREMIUM MENTHOL OPTION PURPLE 1」について、咥えながらケータイで調べてみる。

 クソ不味ぃタバコ、つーか薬臭っ。桝の野郎、こんなサイケデリックな気持ち悪ぃ色したタバコで「100's SUPER SLIME」とかインポじゃねぇのか、勃たなくなりそう、とぐるぐるしていれば、「あれ?タバコ吸ってたっけ」と亀田に聞かれた。

 スタジオ終わり。

「あーいや、」
「うわ臭っ。なにそれセンスなっ」
「だよな、そう思う」

 亀田は鼻の前でわざとらしく手を振った。

 各々のタバコに火をつけながら、「あれ?始めた?」だの、「確かにダントツで臭いな」だのと言ってくる。

「あーなんか後で噛むらしいっすけど、」

 噛む。
 細くて噛み切れそう。

 亀田が「うわっ、より臭っ」と言う。
 確かにこれ、歯みがき粉気持ち悪いバージョンだわ、とか思いつつ。

「あーこんなん吸ってたらラリってインポになりそうっすよねマジ。つか、一ミリって空気っすね味。なのに臭いとか悪質なファブリーズだわ」
「あー、俺ら世代ではそのメーカー、インポになるって都市伝説があったぞ」
「あーやっぱり。こんなん吸ってる奴はサイコだって知ってる俺」
「…なに?因縁ありそうなんだけど」
「ありまくりっすね、怨念の方。これ吸ってるインポ野郎のチンポをちょっと前まで彼女が吸わされてたとかホントぶち殺したい」
「やっぱりそーゆー話か…」
「好きっすよね?ノリトさん。ドエロの彼女は俺の彼女になったけど断ち切ったサイコのチンコを俺はぶち切りたい」
「…そーいやリュージにはソクバッキーって噂が」
「みたいっすね。確かに彼女の鞄からたまたま見つけたタバコの銘柄調べて陰口叩くくらいには陰湿」
「病んでんなー、リュージ病んでんなー、驚くくらい品がなくなるほど病んでんなー」
「当たり前だよマジヤツのせいで2日セク禁だぜ?お陰で彼女になったけど。吸ってんのやんなってきた、なんかフェラしてやってるみてぇでサイコじみててホント腹立つ」

 細いタバコはすぐなくなり、ついでに亀田に「いる?これ」と言えば「いらねぇよナメてんのか」と怒られてしまった。ナメてねぇけど「すんません」と死んだ一定音で謝る。

「…いやぁマジ浮気相手のタバコとか吸っちゃダメなやつだと思うけど俺のいる?マルメン」
「よく見るやつっすね。あざーす」

 曽根原にタバコを貰えば「ふぅ、」と漸く一息吐けた。

「…まぁ、俺も3?4?年セフレやるくらいのインポ精神ですけど、だから言及しませんけどって男らしく言いたいもんで」
「腰据えるには良い言い分だね」
「いや、タイミングが合った…だけ。この時期にサポの話なければ俺はまだまだ陰浮気ギターでしたよ。感謝です」
「陰キャだけまだ取れてないね見事に」
「…まぁ、陽気を吸わせて頂いてます」
「ん、そうだね。言うて俺もどっちかっていえば暗い奴だよ多分。これしかないとかいう意味とか…まぁ、そういうのぶっ壊してやりたいのがある。俺もリュージスタイルは考えたもんだし」
「…初期歌詞にありましたよねって、語るのは野暮ですが」
「あ?知ってた?ははは~」
「…彼女、ファンなんで」
「…マジ?」
「ええ、言いませんでしたっけ。言ってないか。昔からの」
「マジ?」
「はい、まぁ」
「ははは、じゃぁリュージの破壊衝動も叩きつけられるな、ライブ。品あるやつにしよ」

 そう言われてみて「なるほど」と、思わず口にしてしまう。だからそれほど明るくて、でも爽やかなんだ、それはどこか、確かに明るい物じゃない。
 人は腹に何を飼っているか、わからないものだ。

 2本目のタバコをそれぞれ揉み消して、「さぁ今日は帰るか」とスッキリ言ったところで。

「…あ、曽根原さん。そういや、彼女、ライブ来たいって言ってました。サードセフレだった先輩と」
「…は?」

 皆一様に固まったが、宇宙人貰お、と、「今は普通に会社の良い先輩で、何故か俺とも良い友人…?みたいになりましたけど」と言ったのに「リュージってゲイじゃないよね」と亀田が突っ込んだ。

「あ、やめて。マジそういうんじゃない、パイプ繋がった兄弟なのは事実だけど」
「複雑…」
「取っ替え引っ替えだなぁ」
「うんまぁ、そこは割り切りとか」
「あーね。マジでセフレスタイルだったんだね。うん、2枚でいい?」
「あざーす。金は預かってきてるんで今払えますよ」
「そこは払ってやらんの?男らしく」

 ノリトが言うのににやりと、「そんなんデートチケット買ってやるみたいで腹立つじゃないっすか」と返す。

「当て付けっぽいのもある気がしちゃうし」
「あ、確かに。鷹峯って何気にそーゆーの、真面目だよなぁ」
「そうっすか?」
「女はティファニーがいいぞ」

 そう言ったノリトに一同、間があったが、すぐに曽根原が「うふっ、ふふふ…」と笑いを露骨に堪え、亀田が「まだ…重いっしょそれ、同姓愛者ですらなかなか…」と言うなか、「てぃふぁにーって何?」なリュージについに曽根原が決壊した。

「ふっ…ははははは!いや、笑っちゃいけないけどノリト、」
「俺はティファニーですよ。20万くらいの」
「ははは!まぁ、まぁりゅーちゃん焦らんで!金も後ででいい取っとくチケっ…」
「りゅーちゃん…、まぁはぁ、あざーす」

 20万。ストラト用に貯めてる額くらい……?女はそれがいい、とは…?鞄かなんか?

 「男ってめんどい」と言う亀田に総出で「いいもんよ」だの「女には確かにわからんな」、リュージとしては「女の方がわからん」に至るのだが。

「楽しみだなー、全部」

 素直に先輩に、これでよかったなとひっそり噛み締める。 
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