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ファソラシ
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そんな環境で俺は健全に20歳、日本人の最高終学よりは早い年齢で大学までをケリーの教会で育った。
その頃には遅めの反抗期がやって来て、毎朝のケリーへの挨拶が「Good morning Fuck'n Priest.(目覚めやがったかインチキ神父)」になっていた。
ケリーはケリーで「Good morning Fuck'n cur.(永遠に眠っていろよバカ犬)」と俺に返すようになっていた。
反抗期真っ只中、ファッキン父親からある日聞かされたのは「イツミとアタミがくたばった」という目覚めの悪いニュースだった。
「殺害したのは同じ日本人の…イツミが宗教施設から引き取ってきたガキらしいわ。お前と同じ歳の」
それには結構度肝を抜かれた。
「……は?」
「…飼い犬に噛まれた、と言うところかな」
「…キメちゃってんの?あのイツミ・カヤヌマが犬ごときに」
「しかし真相がいまいち掴めない。イツミは日本の警察庁に立て籠ってヘッドを殺害し、宗教施設を破壊しに行き死体となったそうで、」
「…もう一回聞くけどキマっちゃってんの?ケリー、白髪増えたし」
「……まるで、イッセイの二の舞だとは思わないかショウマ」
こいつはいつでも俺の話を聞く気がない。
…だが、「確かに」。ケリーが言うのもわかるような気がした。
「…ついでだし、そのご主人様を噛み殺した駄犬とアポを取ってみようと…いや、本当を言うとイツミが生前、私に奇妙な手紙を残していて存在を知った」
「…駄犬の?」
「あぁ。
イツミは結構優秀な男なんだよ。そんなイツミがなんで死んだのかってのが…父親のイッセイに繋がってると気付いた」
ケリーはニヤリと笑い俺に言った。
「お前も兄弟に会いたいやろ?初仕事だショウマ。駄犬に会ってこい」
かくして俺の人生初仕事はまさかの、狂犬狩りという非常に危険な物となった。
そしてそのシェパードを殺した狂犬、「壽美田流星」の名を聞いた時点で、俺は壮大な物語にすぐに気付くことになった。
その壽美田流星は、俺が想像していた雑種の犬なんかより、吠えもしない大人しい青年だったのだから、俺は初見から「腹の底が一番わからないな」と言う印象を持った。
「…初めまして。連邦局高田創太の命により君たちと共に仕事をすることになりました、壽美田流星と申します」
…彼は、表情も変わらないような青年だったが。
確かに、右目に泣き黒子があった。一成の面影も、あるような無いような、よくわからないが壽美田一成の息子とは思えない程に暗い印象を受けるヤツだった。
「…連邦捜査局、ケリー・マクホンの部下、ヤマシタ・ショウマと申します」
「よろしく」
そっくりそのまま印象をケリーに伝えれば「なるほどな」と、それだけでケリーはうんうん頷き、「ソウタ・タカダはイッセイの最後の相棒だった」と、さらっと流すように言うのだから聞き流しそうになってしまった。
「は?」
「元は日本の陸軍の端くれで、イッセイとは10年以上共に日本の国事を任されていた男で」
「なんで最初に言わないかな」
「聞かれなかったしまさかその名前が出るとも思ってなかった。しかし…イツミは確かにイッセイの血筋じゃはないが、その子供は何者なのか…」
「…なんだってなんだってぇ?」
「お前の印象は?」
「たまには人の話を聞けよクソ神父。印象はさっき言っただろ、ネクラでクソ真面目そうなお坊っちゃんだったよっ、」
「バカかお前そんなことを聞いてるんじゃねぇ、陰険でガリ勉なんてお前と一緒やろうが」
「Hun!?」
「Sit.
ハデスを殺せそうなガキだったか?」
「…知らねぇよ」
「じゃ、ユミルと暫く、行ってこい。一個丁度任せたい事件がある。鎮圧に1年ほどは時間をやるよ」
「は?何言って」
「まぁ狂犬が神に楯突く理由もついでに知りたいだけだ。
シベリアの政治政党。方針は任せる」
「な、」
「人員についてはそうだな、そいつに会って話そうか。以上」
たったその一声で俺は一年掛けて壽美田流星と、兄である千種ユミルと共に、シベリアの政治抗争について調査したのだ。
壽美田流星は確かに、非常に頭もよく、仕事は捗ったが時折、まるで何かをキメたかのようにキレてしまうことがあった。頭のキレの良さというのとも違う。
壽美田流星と過ごすうちに俺は、宗教施設にいたときのことを思い出すことが増えていった。彼のキレ方はそう、あのときの俺と大差なく、突っ込んでいくのは良いが見境がなくなってしまうことがあって。
…こいつは少し似ているなと思えば、自分でもわかっていた、同族嫌悪に近い感情が湧いてくるのだ。
何が敵か見方かなど、関係がないような孤独に立っている。
そんなものの成の果ては呆然と「殺してくれ」になるとわかっているのだから、こちらが冷静にならなければ…ならなくて。
自然と考える。
ではあの日の茅沼樹実は果たしてどんな心境で俺を生かし、この壽美田流星を助けたと言うのだろうか、と。
また、何を言っても壽美田流星は「そうか」と受け身なのだから、ならばと却ってこちらが肯定ばかりしては、勝手に抱え込み破裂したようにキレるというのもわかってくれば、こいつはいけ好かないし何より面倒だなと思うばかりで。
ケリーには「多分間違って殺したんだよ」くらいのテキトーな報告をするが、今度はユミルが「そうかなぁ」と異を申し立てるのだ。
「多分、リュウはリュウでヘタクソなだけで、許せないものにばかり噛みつくんだヨ」
そうユミルが言ったときには驚いたものだった。
「…ケリー。リュウは今、違和感を抱えていて何度もきっと自問自答をしている。犬ってなんだろう、僕には彼は人間に見えるヨ。それはショウだって一緒だと思う」
「…あっそ、」
この一件で俺はユミルの意外な面を見た。
ユミルと刺し違えるほどの兄弟喧嘩をしたのもこの件だけだった。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
そう言ってレミントンを向けたユミルに何があったか。
何を考えどう受け止めていたのかと、その初めての敗北に胸が痛いまま暫くはユミルに会う勇気なんて、俺にはなかった。
その頃には遅めの反抗期がやって来て、毎朝のケリーへの挨拶が「Good morning Fuck'n Priest.(目覚めやがったかインチキ神父)」になっていた。
ケリーはケリーで「Good morning Fuck'n cur.(永遠に眠っていろよバカ犬)」と俺に返すようになっていた。
反抗期真っ只中、ファッキン父親からある日聞かされたのは「イツミとアタミがくたばった」という目覚めの悪いニュースだった。
「殺害したのは同じ日本人の…イツミが宗教施設から引き取ってきたガキらしいわ。お前と同じ歳の」
それには結構度肝を抜かれた。
「……は?」
「…飼い犬に噛まれた、と言うところかな」
「…キメちゃってんの?あのイツミ・カヤヌマが犬ごときに」
「しかし真相がいまいち掴めない。イツミは日本の警察庁に立て籠ってヘッドを殺害し、宗教施設を破壊しに行き死体となったそうで、」
「…もう一回聞くけどキマっちゃってんの?ケリー、白髪増えたし」
「……まるで、イッセイの二の舞だとは思わないかショウマ」
こいつはいつでも俺の話を聞く気がない。
…だが、「確かに」。ケリーが言うのもわかるような気がした。
「…ついでだし、そのご主人様を噛み殺した駄犬とアポを取ってみようと…いや、本当を言うとイツミが生前、私に奇妙な手紙を残していて存在を知った」
「…駄犬の?」
「あぁ。
イツミは結構優秀な男なんだよ。そんなイツミがなんで死んだのかってのが…父親のイッセイに繋がってると気付いた」
ケリーはニヤリと笑い俺に言った。
「お前も兄弟に会いたいやろ?初仕事だショウマ。駄犬に会ってこい」
かくして俺の人生初仕事はまさかの、狂犬狩りという非常に危険な物となった。
そしてそのシェパードを殺した狂犬、「壽美田流星」の名を聞いた時点で、俺は壮大な物語にすぐに気付くことになった。
その壽美田流星は、俺が想像していた雑種の犬なんかより、吠えもしない大人しい青年だったのだから、俺は初見から「腹の底が一番わからないな」と言う印象を持った。
「…初めまして。連邦局高田創太の命により君たちと共に仕事をすることになりました、壽美田流星と申します」
…彼は、表情も変わらないような青年だったが。
確かに、右目に泣き黒子があった。一成の面影も、あるような無いような、よくわからないが壽美田一成の息子とは思えない程に暗い印象を受けるヤツだった。
「…連邦捜査局、ケリー・マクホンの部下、ヤマシタ・ショウマと申します」
「よろしく」
そっくりそのまま印象をケリーに伝えれば「なるほどな」と、それだけでケリーはうんうん頷き、「ソウタ・タカダはイッセイの最後の相棒だった」と、さらっと流すように言うのだから聞き流しそうになってしまった。
「は?」
「元は日本の陸軍の端くれで、イッセイとは10年以上共に日本の国事を任されていた男で」
「なんで最初に言わないかな」
「聞かれなかったしまさかその名前が出るとも思ってなかった。しかし…イツミは確かにイッセイの血筋じゃはないが、その子供は何者なのか…」
「…なんだってなんだってぇ?」
「お前の印象は?」
「たまには人の話を聞けよクソ神父。印象はさっき言っただろ、ネクラでクソ真面目そうなお坊っちゃんだったよっ、」
「バカかお前そんなことを聞いてるんじゃねぇ、陰険でガリ勉なんてお前と一緒やろうが」
「Hun!?」
「Sit.
ハデスを殺せそうなガキだったか?」
「…知らねぇよ」
「じゃ、ユミルと暫く、行ってこい。一個丁度任せたい事件がある。鎮圧に1年ほどは時間をやるよ」
「は?何言って」
「まぁ狂犬が神に楯突く理由もついでに知りたいだけだ。
シベリアの政治政党。方針は任せる」
「な、」
「人員についてはそうだな、そいつに会って話そうか。以上」
たったその一声で俺は一年掛けて壽美田流星と、兄である千種ユミルと共に、シベリアの政治抗争について調査したのだ。
壽美田流星は確かに、非常に頭もよく、仕事は捗ったが時折、まるで何かをキメたかのようにキレてしまうことがあった。頭のキレの良さというのとも違う。
壽美田流星と過ごすうちに俺は、宗教施設にいたときのことを思い出すことが増えていった。彼のキレ方はそう、あのときの俺と大差なく、突っ込んでいくのは良いが見境がなくなってしまうことがあって。
…こいつは少し似ているなと思えば、自分でもわかっていた、同族嫌悪に近い感情が湧いてくるのだ。
何が敵か見方かなど、関係がないような孤独に立っている。
そんなものの成の果ては呆然と「殺してくれ」になるとわかっているのだから、こちらが冷静にならなければ…ならなくて。
自然と考える。
ではあの日の茅沼樹実は果たしてどんな心境で俺を生かし、この壽美田流星を助けたと言うのだろうか、と。
また、何を言っても壽美田流星は「そうか」と受け身なのだから、ならばと却ってこちらが肯定ばかりしては、勝手に抱え込み破裂したようにキレるというのもわかってくれば、こいつはいけ好かないし何より面倒だなと思うばかりで。
ケリーには「多分間違って殺したんだよ」くらいのテキトーな報告をするが、今度はユミルが「そうかなぁ」と異を申し立てるのだ。
「多分、リュウはリュウでヘタクソなだけで、許せないものにばかり噛みつくんだヨ」
そうユミルが言ったときには驚いたものだった。
「…ケリー。リュウは今、違和感を抱えていて何度もきっと自問自答をしている。犬ってなんだろう、僕には彼は人間に見えるヨ。それはショウだって一緒だと思う」
「…あっそ、」
この一件で俺はユミルの意外な面を見た。
ユミルと刺し違えるほどの兄弟喧嘩をしたのもこの件だけだった。
「命を賭して守れない正義なら、そんなもの、結局はエゴじゃないか。君がいま…死を持って悔いたいのなら殺してやる」
そう言ってレミントンを向けたユミルに何があったか。
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