白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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春塵

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 さっきまで俺が一人で見ていた交換日記。机に出たままだった。

「これ…」
「さっき見つけた。最後に持ってたの、澄だったよ」

 深景は震える手で交換日記に手を伸ばす。その深景の手を、容赦なく俺が後ろから右手で包むと、深景は硬直して振り向いた。

「懐かしいよね。ほら、このノートですら、一番古いのは…2年も前だよ」

 左手でページを捲る。深景はちらちらと、ノートと俺を交互に見る。

「そう、だね…」
「あ、ほら。
 大体交換日記溜めるの、理穂だったよね」
「うん…」

 深景の耳朶に唇を当てる。恐怖で、深景が縮こまるのがわかった。

「大体深景は、理穂と仲良しだったから、早かったよね」

 深景の首筋辺りに唇を当て甘噛みすると、震える声で深景は、「ぁ、歩くん!」と叫ぶように言い、次の瞬間、鳩尾あたりに軽く衝撃が走った。

 少し離れて睨まれる。逃げようとした深景のその手を乱暴に掴み、澄のベットに押し倒した。

「お前もバカだね深景」
「やめてよ、なんなの…!?」
「幼馴染みとはいえ、普通一人で男の家に来ないよ。お前は男として俺を見ていなかったとしても、俺はお前とは違う生き物だから」

 逃げようとする、暴れる深景の足に跨がって動きを封じる。叩かれる手の力なんて微力で。
 首筋に舌を這わせれば怯えて抵抗力が弱まる。内腿が滑らかだ。
 息を殺す深景の挑戦的な目も、意外とドーパミンの材料になる。

 それでも尚、俺がボタンに掛けた手首を、深景が制すように掴んでくるから。

「理穂もね、最初はそんなんだったよ。
けどさ、やっぱり欲望に身体は勝てないんだよ、女も男も」

 布越しに深景の性器をなぞるように触れる。手首を掴んだ深景の手の力が緩んだ隙に、ブラウスのボタンを何個か外した。思ったよりも白い肌。今朝のアバズレなんかより断然良い。歪む顔。深景の眼差しは俺への軽蔑でしかなかった。

「もしかして初めて?御愁傷様。大丈夫、優しくするからさ」
「…歩くん…」

 絞り出すような震える声。今にも泣きそうだった。

「いいよ、好きにしてよ」

 深景は、急に抵抗をやめた。そして一言、

「どうしてそんなに悪者になりたがるの?」

 そう言って涙を流した。
 なんだかそれが、とても綺麗に見えてしまって。

「あー…」

 全部、手を離した。力が抜けた。
 見上げる深景が恐ろしく感じて。

「…歩くん…」
「もういい。萎えた」

 深景の涙を一粒拭う。生暖かい。舐めてみたらしょっぱかった。

「用事が済んだならさっさと帰って」

 深景から退いて俺は向かい側の自分の部屋に籠った。深景が澄の部屋から出てきた音がする。
 そして消え入りそうな声でドア越しに「歩くん…」と呼ぶので、うざったくなって何かをぶつけた。多分、時計だ。

 そのうち深景が階段を降りる音と、玄関の開閉音が響いた。

 何もしたくない。

 いつまで一人、暗闇の中そうしていたかはわからない。
 ケータイのバイブが鳴った。画面を見ると、岸本だった。

「もしもし」
『歩?久しぶり』
「久しぶり。どうしたの?」
『いや、今日さ、深景がお前の家に行くって言ってたからさ、行ったかなぁって』
「あぁ、さっき帰ったよ」
『そっか。会いたがってたからさ。クラス編成の用紙、見た?』
「いや、見てない」
『そっか。
 深景、元気そうだったろ』
「うん。あいつは…相変わらず良い奴だね」
『うん。俺もこれから会う予定なんだ。学校の予定も終わったし』
「そう。ご苦労さん。
 あ、そうそう。深景に言いそびれた。礼を言っといてくれる?」
『ん?あぁ…わかったよ』

 ケータイを切って力なくその場に放り投げるように。
 ほっといてくれたらいいのに。

 お前らは俺をわかっていない。けど俺も、お前らなんてわかりたくもない。
 本当にそうなんだ。
 深景の中途半端な優しさも岸本の絆も一喜の強さも、理穂の、俺への思いも。

 わかってしまったら。
 俺は澄を守れなくなってしまうから。

 澄、俺はお前に言っていなかったことが山程あるんだ。
 けどそれはもういい。お前はもうどこにもいないんだから。

 お前のことなんてずっと嫌いだった。
 純粋で思いやりがあっていつでも誰にでも優しく出来るお前なんて。

 本当に大嫌いだったんだ。
 こんな時しか泣けない自分は大好きだ。
 誰にも知られなくていいんだから。

 歯を食い縛れば食い縛るほど涙が溢れてきて。笑えるほどだった。

『どうしてそんなに悪者になりたがるの?』

 知った口を利きやがって。
 もともと俺は良い奴なんかじゃなかったんだよ。

 一喜。
 お前は理想の兄貴だな。
 いつでも理穂のことを考えて、先走ったりすることもあるけど。
 それでも強く優しく出来るんだから。

 俺には出来ない。
 お前が少しだけ羨ましい。
 見えないものは、見なくて良いから。

 心に穴が開いたとき、埋めるものは結局、自分の憎しみや悲しみでしかないのだと、このときに気付いた。
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