白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

文字の大きさ
4 / 52
春塵

3

しおりを挟む
────
年 3月2日

兄が、天文学が好きだと言いました。
やっぱり兄はすごいと思います。ギリシャ神話と天文学は繋がっているんだそうです。

僕にはぜんぜん理解ができなかったけど、例えば冥王星にも月があること、
カラス座という、マイナーな星座が春にはあること

カラスはなんで黒いか知っていますか?

カラスは、元は白い、おしゃべりでキレイな色だったそうです。しかし、嘘をついてしまって、黒く塗りつぶされ、言葉を封じられてしまったのだそうです

兄はとっても物知りです
────

 そっか、そんな話、したかもしれないな。

 急に、涙が出てきた。一粒出てきて初めて、たくさんの涙が零れてきた。

 ああ澄。
 お前はもう、いないのか。

 澄のページだけを見ても、全てが、俺や隆平や一喜や深景や理穂のことばかり書いてあって。

────
年 8月25日

夏休みが終わりそうです。
理穂ちゃんが、宿題がまだ終わらないと言っていました。

途中まで一緒にやったのですが、終わらないので、散歩をしました。

一喜くんとゲームもしました。

一喜くんと二人でゲームをしていたら、理穂ちゃんは不機嫌になってしまいました。

早く終わるといいなぁ、理穂ちゃん

────
年 12月1日

みんなで遊びました。
隆平くんの家でパーティーでした。

楽しかったなぁ。

理穂ちゃんと深景ちゃんは、女の子同士、本当に仲がいいですね

でも、僕ら男の子同士も、仲良しですね

いつまでも友達でいたいです
────

 そして気付けば、最後のページまで読んでいた。

────
年 2月 日

みんな、本当にごめんなさい
────

 それが最後だった。

 そうか。
 この交換日記。
 最後に持っていたのは澄だったんだ。
 でもこれはもう、二度と誰も書くことがないんだろう。

 小さい頃からずっとみんなで続けてきた、もう何冊目だかわからない日記。最期は皮肉にも澄が持っていた。

 どうしてこんなことになったのだろう。

 いつの間にかすれ違っていた。こんなに近くにみんな、いるはずだったのに。

 一人、澄の部屋に居ると、チャイムの音が響いた。
 親は大抵いない。共働きで仕事をしている。

 仕方なく下まで降りてインターフォンのカメラで人物を確認する。
 深景だった。
 受話器を取る。

「深景?」
『歩くん?今大丈夫?』
「別にいいけど…」

 玄関に行き鍵を開ける。
 学校帰りに寄ったんだろう。

「…よっ」
「どうしたの、珍しいね」
「いやぁ、ちょっと伝言を頼まれてね」

 深景はちらっと奥を覗いた。

「まぁ入ったら?」
「うん…。
ちょっと…お線香あげてもいい?」
「どうぞ」

 そう言うと深景は遠慮もなく家に上がり込んだ。相変わらずだ。

 リビングの隣の和室に案内した。元はレストルームだった場所。そこに不自然に置かれた新しい仏壇。

 鞄を置いて線香に火を点け、手を合わせる。深景の、細くてさらさらとした、横の部分だけ後ろでまとめられた綺麗な黒髪がキラキラと夕陽に染まる。小さく結われたおだんご。いかにも清楚系だ。

「わざわざありがとう。伝言って?」
「うん。りゅうちゃんから」

 促せば深景は、鞄からプリントを取り出して俺に渡してきた。

「え?」
「渡してって」
「学校、違うじゃん」
「うん。私が歩くんの顔が見たいって言ったら、じゃぁ…って。新学期のクラス編成だって」
「クラス編成?」
「うん。
 今年は担任もクラスも変わるってりゅうちゃんが言ってたよ」
「あぁ、なるほどね」

 まぁ、あんなことがあったんじゃ仕方ないか。

 学校最大の事件となった澄の自殺。

 中等部は今頃春休みだというのに、登校して苛めに関する調査を行っているそうだ。
 中、高等部共にあの日、全校集会が開かれたらしい。俺は親族であり第一発見者でもあったのでそれどころではなく、参加はしていない。
 学校側は苛めはなかったと、判断した。

 だが、そんな隠蔽じみた理屈が、生徒数2000人を前に通用するわけもなく、瞬く間に、『生徒会長の弟は苛めで殺された』と広まった。

 そこで俺が突然髪を染めて登校し、代理を立てて生徒会長を辞めると言ったらそれはもう即決。元々生徒会書記をやっていた岸本に名乗りを上げさせて俺は春休みの登校日も、これからしばらくほとぼりが冷めるまで学校には行かないつもりでいた。
 ただ、クラスが変わってしまうとなると少し、それは変わってきてしまう。

「進級前に移動した荷物、取りに行かなきゃいけないわけか」
「そうなの?」
「うん。俺たちの高校、基本的にはクラス替えないから。進級出来たら大体もうさ、荷物持ってっちゃうんだよね、春休みの登校日に。1年から2年だったら2年の教室にさ」
「そうなんだ」
「まぁ今回は俺行かなかったから、勝手に岸本がやってくれたみたいだったけど…。これじゃぁ、あいつも忙しいだろうから俺が登校しなきゃね」
「学校、行ってないの?」
「うん。かれこれ一月くらい」
「じゃぁ、一喜くんのこと、知らないの?」
「何かあったの?」
「実は…」

 深景は、とても言いにくそうに言った。

「あれから…。
 理穂が学校に来なくなったみたいで。私が家に行っても会ってくれなくて。
 一喜くんとこの前話したときはなんともなさそうだったんだけど…。りゅうちゃんに聞いたら、一喜くん、学校で干されてるみたいで」
「…なんで?」
「…まぁ、あんまりりゅうちゃんも言わないからわかんない」

 本当は、何か聞いて知っていそうだな。

「でも一喜は、多分俺とは口すら利かないでしょ」
「一喜くんも歩くんも、誤解してる」
「あぁ、じゃぁ教えてあげるよ深景。おいで」

 俺はそう言って深景を二階の、澄の部屋に連れて行く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...