白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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春塵

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 目を開けると今日は、朝日が昇っていなかった。白い天井とライト。腕に感じる生々しい温さと重み。

 隣に寝ている裸の、黒髪の女が誰だかわからない。ベットの下を見ると、ウチよりも遥かに偏差値の低い高校の女子の制服が脱ぎ捨てられてる。

 そういえば駅で声を掛けられて、親がいないと言うのでそのまま女の家に上がり込んで…。

 初めてと言うわりに、遊び慣れた女だった。お陰さまでこちらの要望の大抵は聞いて頂いたが、物足りないのは多分、所謂遊び慣れている・・・・・・・・から、だろう。きっと誰にでも股を開いてきたはずだ。

 タバコを吸おうと女から離れようとしたら、その女に腕をがっつり掴まれた。
 それが妙に暖かくて、生きた心地が甦る。

「ねぇねぇ」
「んー?」
「起きてよ」

 てか君、いま起きてたよね。

 抱きついてくるのと、股を俺の手の甲に擦り付けてくるのが同じ動作で。
 まだまだこの女はイケるらしい。俺も、この暖かさは嫌いじゃない。
 触れる指先からいちいち返される反応。

「あんた、しつこいタイプだね」

 こーゆー女は嫌いだ。
 けど別に良い。男は欲望さえ吐き出せればいいんだから。

「上に乗って」

 人の重さ、それが好きだ。
 けどこうして嬉々として乗られると。

「やっぱ、やめた」

 うざったいんだよね。

「えっ」
「萎えた。
 退いてくれる?風呂入って帰るから」

 そのまま上下に動かれても何もない。面倒だから半ば強引に退けて風呂場に向かうと、金切り声のような罵声。

 構わない。

「ごめんね、もう少し力入れてくれた方がよかった」

 多分俺は最低だ。

 そのまま風呂を借りて制服を着て何事もなく家に帰った。母親とも父親とも口を利かなかった。

 セックスは感情ではない。
 これは自然の摂理だ。

 なぜ生理現象に感情を求めるのか、理解に苦しむ。結局最後は子孫繁栄、コンドームなど、必要ないではないか。
 だがもし俺がこんな生活を続けていたらどうする。俺は自分の子孫を果たして愛せるのだろうか。
 そう考えると仕方なくコンドームを使う。俺は多分それを愛せないからだ。

 人を愛するとは何か、それは恐ろしい原理と論理が成り立つ。
 人に愛されるとは何か、それは単純な迷宮が鎮座する。

 だから俺はけして人を否定はしない。自分も、他人も愛することが未だに出来ていないからだ。
 生きていて唯一の光は欲望だ。それ以外に人は何も求めない。
 ただ時に、無条件の欲望が存在することもある。それは大体、コントロールが利かないのだ。

 取り敢えず今日は昼くらいまで寝ていよう。身体が疲れた。

『てめぇが死んじまえばよかったんだ』

 一喜の言葉が今更ながらに甦る。

 ふと思い出してみて、俺はまだ名残のある澄の部屋に入ってみた。
 生きた心地がしない部屋。

 あの日あの場所で一体何が起きたのか、俺は知らない。
 事実としてあるのは、弟の澄が死んだこと。
 それによって壊れかけていた絆と言うものが完全に全て、木っ端微塵になってしまったこと。

 そして、それぞれにいくつかの食い違いがそれぞれにあるということ。

 この部屋は少し前まで澄が使っていた。
 毎日机に向かい、澄は勉強ばかりしていた。

「兄さんに早く追い付きたいんだ」

 俺が澄の部屋のベットで本を読んでいても、一人こつこつと勉強をしていた。

「勉強ばっかしててもつまんなくない?」
「兄さんは、勉強嫌い?」
「物によるかな。数学は嫌い。地理も嫌い。でも歴史と国語は好き」
「文系ってやつだね」
「澄は?」
「僕は逆に理系かもしれないね。数学も好きだし地理も好きだし。理科も好き。でも社会と国語は苦手なんだ」
「よく聞いてくるもんね」
「うん」
「あ、理科って言うか…。
 天文学?って言うのかな?俺、あーゆーの好き。ギリシャ神話とか読んだら興味持った」
「ギリシャ神話と天文学?」
「そう。なんて言うかさ、星座神話って結構ギリシャ神話からきててさ、そっから星に興味を持って、そのうち宇宙全体に興味を持った」
「なるほどね」
「けどさ、勉強ってそーゆーもんじゃない?何かからだんだん派生していく。
 まぁ俺のはさ、あんま役に立たないもんばっかり。りゅうちゃんによく言われるよ。雑学ばっかだって」
「兄さん、なんでも知ってるもんね」

 そんな、澄との会話をふと思い出した。

 机の中を漁ってみる。あれはいつぐらいのことだっただろう。
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