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陽炎
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久しぶりにみんなが集まったのは深刻な雰囲気の休日だった。
それぞれの学校帰りの放課後だった。朝は変わりなく、いつも通りだったはずなのに。
「どういうこと?」
それは、金曜日に理穂が上履きを持って帰って来なかったのだと言う。
「澄くんが隠した」
と、理穂は言った。
「なんで?」
「知らないよ。澄くんが知ってるんじゃないの?」
それで一喜が澄に聞いてみた。
「理穂の上履き、知ってる?」
「…理穂ちゃんの?」
理穂は焦ったように澄に、「どこにやったのよ!気持ち悪いなぁ!」と怒鳴るように言った。
歩は黙って事の成り行きを見ていた。
「理穂、その言い方はないんじゃないの?」
深景も理穂を宥めるが、理穂は聞かない。
そもそも全員は何故集められたのか。
それは交換日記のネタから始まった。
なんとなく、澄に元気がないような気がした。みんなで話し合って、一度みんなで合おうと言うことになった。そしたら、突然理穂が上履きの話を始めたのだ。
「惚けないでよ!」
「理穂ちゃん…?」
「大体あんたなんなのよ…。
知ってるのよ。私のこと、好きなんでしょ?」
「え?」
「理穂、」
「だから学校で私に意地悪するの?」
「澄、それ本当か?」
「本当よお兄ちゃん。助けてよ。意地悪ばっかりする。やめてよ」
一喜は歩を一瞬見た。歩はただ、黙っている。
「待って理穂、そんなわけないじゃない。いくらなんでも酷い…」
「深景ちゃんは黙っててよ!
クラスでも幼馴染みだって言わないでよ!私が苛められるじゃない!」
「理穂、いい加減にしろよ」
「待った、俺がついていけてない。お前苛められてるのか理穂。澄、お前嫌がらせしてんのか理穂に」
澄は俯いて小さく肩を揺らしている。明らかに泣きそうだ。
なのに歩は唯一、何も言わない。いい加減、助けてやらないと。
澄は勇気を振り絞るように顔をあげ、涙を溜めて無理矢理笑って、「ごめんねぇ…」と言った。
「えっ」
「わかんねぇよ澄、どーゆーことだよ」
「理穂ちゃんは悪くないよ、僕が…」
「最低だな」
静かに、よく通る低い声で歩は吐き捨てるように言った。
「…どんな理由であれ俺は嘘吐きと弱い者苛めは人間じゃないと思ってる。この話しは非常に不愉快だ。何の解決にもならないな。なぁ?澄」
今までに見たことのないような冷たい目で歩は澄を見つめている。背筋が凍るような、そんな慈悲も感情もない姿だ。
そんな歩に澄は笑顔を崩し、「ごめんなさい」とだけ言って走ってどこかに行ってしまった。
「…歩」
「…これでよかったんだろ?お前らよ」
突き刺さるような歩の一言。
そんなつもりじゃなかった。
「悪かったね理穂。見つかるといいな」
感情も籠ってないような一言を理穂に浴びせて歩も帰ってしまった。
「なんだよ歩…胸クソ悪ぃ」
一喜のつぶやきにも耳を貸さない。
それから、その夜。
澄は家に帰ってこなかったそうだ。
次の日の朝、一応早めに学校を出た歩が、第一発見者となってしまったのだった。
実際のところ、理穂の上履きはちゃんと次の日、下駄箱にあったようだ。つまり、ただ理穂が学校に忘れてしまっただけかもしれない。今となっては本人が話さないので真相はわからない。
想像をするだけで痛ましい。
予想するに。
多分澄は無実なのだ。
これは俺の勝手な見解にすぎない。
だとしたら澄はただ、理穂のことが好きなだけだった。訳もわからないまま濡れ衣を着せられて。
そのまま死んだ理由はまだわかっていない。
理穂が関わっているかどうかもわからないがその可能性が最近出てきている。
あとは本当に理穂しか知らない。
笹木との関連も見えてきたが、笹木と理穂の関係が見えてこない。
全てがまだ霧状で、断片の端っこをそれぞれ手にはしている状態なのだが…。
繋ぎ合わせるにはまだまだ掛かりそうだ。
理穂は、澄に嫌がらせを受けたとあの場で言った。
澄はずっと理穂が好きだった。
理穂はずっと歩が好きだった。
そして、笹木はずっと深景のストーカーをしている。
一喜の件や、小日向さんにちょっかいを出して結果、歩が入院した件に笹木が関与している。
事件後、一喜が干された手口と最近小日向さんが干された手口が似ている。
理穂は言っていた。
「あんたと幼馴染みだって言わないでよ!私が苛められるじゃない!」と
つまりこれは…。
苛められていたのは、澄の方なんじゃないか?
だとしたら犯人は不特定多数に可能性が広がる。なんなら一喜だって、殺害動機だけでいえば充分可能性はある。理穂と共謀の可能性も捨てきれない。
一喜と歩、互いに何を守ろうとしているのか。多分それは、弟と妹だ。だからこそ噛み合って噛み合わないんだ。
やはり申し訳ないがここで使えるのが深景のストーカーネタしかない。
最後はいつも、みんなを繋ぎ止めてくれるのは深景なんだ。
「深景」
「ん?」
「やっぱり、お前しかいないんだな」
「え?」
「みんなを、繋ぎ止める役は」
玄関のチャイムが鳴った。
深景の親が来たのだろう。
「悪いが、お前のストーカーネタ、使うから」
「いいよ。そのつもりだから」
「うん、ごめん」
「そのかわりちゃんと…今度こそは」
「うん」
もちろん。
失敗はしたくない。
それぞれの学校帰りの放課後だった。朝は変わりなく、いつも通りだったはずなのに。
「どういうこと?」
それは、金曜日に理穂が上履きを持って帰って来なかったのだと言う。
「澄くんが隠した」
と、理穂は言った。
「なんで?」
「知らないよ。澄くんが知ってるんじゃないの?」
それで一喜が澄に聞いてみた。
「理穂の上履き、知ってる?」
「…理穂ちゃんの?」
理穂は焦ったように澄に、「どこにやったのよ!気持ち悪いなぁ!」と怒鳴るように言った。
歩は黙って事の成り行きを見ていた。
「理穂、その言い方はないんじゃないの?」
深景も理穂を宥めるが、理穂は聞かない。
そもそも全員は何故集められたのか。
それは交換日記のネタから始まった。
なんとなく、澄に元気がないような気がした。みんなで話し合って、一度みんなで合おうと言うことになった。そしたら、突然理穂が上履きの話を始めたのだ。
「惚けないでよ!」
「理穂ちゃん…?」
「大体あんたなんなのよ…。
知ってるのよ。私のこと、好きなんでしょ?」
「え?」
「理穂、」
「だから学校で私に意地悪するの?」
「澄、それ本当か?」
「本当よお兄ちゃん。助けてよ。意地悪ばっかりする。やめてよ」
一喜は歩を一瞬見た。歩はただ、黙っている。
「待って理穂、そんなわけないじゃない。いくらなんでも酷い…」
「深景ちゃんは黙っててよ!
クラスでも幼馴染みだって言わないでよ!私が苛められるじゃない!」
「理穂、いい加減にしろよ」
「待った、俺がついていけてない。お前苛められてるのか理穂。澄、お前嫌がらせしてんのか理穂に」
澄は俯いて小さく肩を揺らしている。明らかに泣きそうだ。
なのに歩は唯一、何も言わない。いい加減、助けてやらないと。
澄は勇気を振り絞るように顔をあげ、涙を溜めて無理矢理笑って、「ごめんねぇ…」と言った。
「えっ」
「わかんねぇよ澄、どーゆーことだよ」
「理穂ちゃんは悪くないよ、僕が…」
「最低だな」
静かに、よく通る低い声で歩は吐き捨てるように言った。
「…どんな理由であれ俺は嘘吐きと弱い者苛めは人間じゃないと思ってる。この話しは非常に不愉快だ。何の解決にもならないな。なぁ?澄」
今までに見たことのないような冷たい目で歩は澄を見つめている。背筋が凍るような、そんな慈悲も感情もない姿だ。
そんな歩に澄は笑顔を崩し、「ごめんなさい」とだけ言って走ってどこかに行ってしまった。
「…歩」
「…これでよかったんだろ?お前らよ」
突き刺さるような歩の一言。
そんなつもりじゃなかった。
「悪かったね理穂。見つかるといいな」
感情も籠ってないような一言を理穂に浴びせて歩も帰ってしまった。
「なんだよ歩…胸クソ悪ぃ」
一喜のつぶやきにも耳を貸さない。
それから、その夜。
澄は家に帰ってこなかったそうだ。
次の日の朝、一応早めに学校を出た歩が、第一発見者となってしまったのだった。
実際のところ、理穂の上履きはちゃんと次の日、下駄箱にあったようだ。つまり、ただ理穂が学校に忘れてしまっただけかもしれない。今となっては本人が話さないので真相はわからない。
想像をするだけで痛ましい。
予想するに。
多分澄は無実なのだ。
これは俺の勝手な見解にすぎない。
だとしたら澄はただ、理穂のことが好きなだけだった。訳もわからないまま濡れ衣を着せられて。
そのまま死んだ理由はまだわかっていない。
理穂が関わっているかどうかもわからないがその可能性が最近出てきている。
あとは本当に理穂しか知らない。
笹木との関連も見えてきたが、笹木と理穂の関係が見えてこない。
全てがまだ霧状で、断片の端っこをそれぞれ手にはしている状態なのだが…。
繋ぎ合わせるにはまだまだ掛かりそうだ。
理穂は、澄に嫌がらせを受けたとあの場で言った。
澄はずっと理穂が好きだった。
理穂はずっと歩が好きだった。
そして、笹木はずっと深景のストーカーをしている。
一喜の件や、小日向さんにちょっかいを出して結果、歩が入院した件に笹木が関与している。
事件後、一喜が干された手口と最近小日向さんが干された手口が似ている。
理穂は言っていた。
「あんたと幼馴染みだって言わないでよ!私が苛められるじゃない!」と
つまりこれは…。
苛められていたのは、澄の方なんじゃないか?
だとしたら犯人は不特定多数に可能性が広がる。なんなら一喜だって、殺害動機だけでいえば充分可能性はある。理穂と共謀の可能性も捨てきれない。
一喜と歩、互いに何を守ろうとしているのか。多分それは、弟と妹だ。だからこそ噛み合って噛み合わないんだ。
やはり申し訳ないがここで使えるのが深景のストーカーネタしかない。
最後はいつも、みんなを繋ぎ止めてくれるのは深景なんだ。
「深景」
「ん?」
「やっぱり、お前しかいないんだな」
「え?」
「みんなを、繋ぎ止める役は」
玄関のチャイムが鳴った。
深景の親が来たのだろう。
「悪いが、お前のストーカーネタ、使うから」
「いいよ。そのつもりだから」
「うん、ごめん」
「そのかわりちゃんと…今度こそは」
「うん」
もちろん。
失敗はしたくない。
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