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寒鴉
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「お人形さんみたいだね」
いつでもそう言われて私は育った。人形みたいに綺麗だと、今になっても言われ続けている。
「誰に似たんだろうね」
「お前は一体、誰の子なんだろうね」
そう、おばあちゃんやおじいちゃんには言われてきた。
そして今年、ついにそのおじいちゃんやおばあちゃんは居なくなった。ママが、どこかへ失踪してしまったのだ。
「あのアバズレ」
「いつかやると思ってたよ」
パパとおばあちゃんは私の前でよくそんな話をする。
私も、そう思っていた。
ママはいつかいなくなると思っていた。
「お嬢、」
ママが失踪してからわかったことがいくつかある。
ママはパパと夫婦ではなかった。
パパは、世間から見たらあまりよくない類いの人間だった。
確かに考えてみれば、私は、パパとは週一でしか会うことがなかった。
「お嬢」
そして、引き取られたパパの家に帰ってくるようになって2ヶ月。まだまだ慣れない。
付き人の拓郎さんが、家の前で私を出迎える。鞄を渡すと、「客人が来てやすぜ」と言った。
「客人?」
こんな時間に客人だなんて、あいつしかいないだろう。
反吐が出る。
「しばらく戻らないとパパに伝えて」
そう拓郎さんに伝言し、離の方に足を向けた。あいつが来る日はいつも、離で密会をする。
「わかりやした」
やはり、予想は当たっていたようだ。
離に行くと、「遅かったな」と、薄ら笑いを浮かべ、行儀悪く胡座をかき、タバコを吹かしたそいつは私を待っていた。
「誰のせいだと思ってんのよ」
ホント、誰のせいで毎日わざわざ遠回りしてここまで帰って来てると思ってんだか。
「そんなにあのゲイ野郎は嫌なのか」
「残念ね。あんたが大っ嫌いな浦賀歩だよ」
「…へぇ」
目の前の男、笹木孝雄は、みるみるうちに表情を変える。
「おかげさまでうまくいきそうよ。多分出会ってから一番良い感じよ」
「バカな女」
そう言うと孝雄はタバコを灰皿で揉み消し、立ち上がって迫ってきた。壁に押し付けられ、無理矢理唇を奪われる。
噛み付くような口付け。
多分、歩くんなら、こんなことしないのに。
だけどいつも、太股を撫でる孝雄の手は何故か優しい。
そこから先、下着の中、奥の方へ滑り込ませる前の愛撫は焦れったいほどに、しつこい。首筋に這われた唇は、たまにある甘噛みが丁度良くて。
あんたは全てが、焦れったい。
「ほらさ、こんなに感じてるお前なんて、あいつは知らないんだよ。知ったら、どんな顔するかな」
「するなら…早く…してよ」
「やだね。俺はお前をじっくり感じたいんだよ、深景」
そもそもの始まりはなんだったのか。
「あっ…」
身体から力が抜けていく。変に、衣服の感触すら快感に変わる。
「深景」
呼ばないで。
「なぁ深景」
胸に顔を埋めて、いやらしく舌を出す男が紡ぐ言葉。
「お人形さんじゃないみたいだ」
『お人形さんみたいだね』
「やめて…!」
「なに?聞こえない」
いつの間にか床に押し倒されてて、孝雄の、胡散臭い欲にまみれた顔の向こうには天井があって。
空気が素肌に触れる面積が、多分先程よりも広い。背中に手が伸びて、ホックが外された。
「みたいな、」
「なんなのよ!」
「ははっ、ホントに綺麗だ」
指が、舌が、全ての罪悪感が支配する。
なのにどうして。
「今日は一段と気持ち良さそうだな」
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
最悪だ。最低なのに。
自分から発せられる声も、熱も、全てが。
「あぁっ…!」
こんなに恍惚に満ちていて。
体位を変えても勝手に動く。
あぁ、私はなんて。
「汚れた女だな」
なんで、こんなに。
いつでもそう言われて私は育った。人形みたいに綺麗だと、今になっても言われ続けている。
「誰に似たんだろうね」
「お前は一体、誰の子なんだろうね」
そう、おばあちゃんやおじいちゃんには言われてきた。
そして今年、ついにそのおじいちゃんやおばあちゃんは居なくなった。ママが、どこかへ失踪してしまったのだ。
「あのアバズレ」
「いつかやると思ってたよ」
パパとおばあちゃんは私の前でよくそんな話をする。
私も、そう思っていた。
ママはいつかいなくなると思っていた。
「お嬢、」
ママが失踪してからわかったことがいくつかある。
ママはパパと夫婦ではなかった。
パパは、世間から見たらあまりよくない類いの人間だった。
確かに考えてみれば、私は、パパとは週一でしか会うことがなかった。
「お嬢」
そして、引き取られたパパの家に帰ってくるようになって2ヶ月。まだまだ慣れない。
付き人の拓郎さんが、家の前で私を出迎える。鞄を渡すと、「客人が来てやすぜ」と言った。
「客人?」
こんな時間に客人だなんて、あいつしかいないだろう。
反吐が出る。
「しばらく戻らないとパパに伝えて」
そう拓郎さんに伝言し、離の方に足を向けた。あいつが来る日はいつも、離で密会をする。
「わかりやした」
やはり、予想は当たっていたようだ。
離に行くと、「遅かったな」と、薄ら笑いを浮かべ、行儀悪く胡座をかき、タバコを吹かしたそいつは私を待っていた。
「誰のせいだと思ってんのよ」
ホント、誰のせいで毎日わざわざ遠回りしてここまで帰って来てると思ってんだか。
「そんなにあのゲイ野郎は嫌なのか」
「残念ね。あんたが大っ嫌いな浦賀歩だよ」
「…へぇ」
目の前の男、笹木孝雄は、みるみるうちに表情を変える。
「おかげさまでうまくいきそうよ。多分出会ってから一番良い感じよ」
「バカな女」
そう言うと孝雄はタバコを灰皿で揉み消し、立ち上がって迫ってきた。壁に押し付けられ、無理矢理唇を奪われる。
噛み付くような口付け。
多分、歩くんなら、こんなことしないのに。
だけどいつも、太股を撫でる孝雄の手は何故か優しい。
そこから先、下着の中、奥の方へ滑り込ませる前の愛撫は焦れったいほどに、しつこい。首筋に這われた唇は、たまにある甘噛みが丁度良くて。
あんたは全てが、焦れったい。
「ほらさ、こんなに感じてるお前なんて、あいつは知らないんだよ。知ったら、どんな顔するかな」
「するなら…早く…してよ」
「やだね。俺はお前をじっくり感じたいんだよ、深景」
そもそもの始まりはなんだったのか。
「あっ…」
身体から力が抜けていく。変に、衣服の感触すら快感に変わる。
「深景」
呼ばないで。
「なぁ深景」
胸に顔を埋めて、いやらしく舌を出す男が紡ぐ言葉。
「お人形さんじゃないみたいだ」
『お人形さんみたいだね』
「やめて…!」
「なに?聞こえない」
いつの間にか床に押し倒されてて、孝雄の、胡散臭い欲にまみれた顔の向こうには天井があって。
空気が素肌に触れる面積が、多分先程よりも広い。背中に手が伸びて、ホックが外された。
「みたいな、」
「なんなのよ!」
「ははっ、ホントに綺麗だ」
指が、舌が、全ての罪悪感が支配する。
なのにどうして。
「今日は一段と気持ち良さそうだな」
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
最悪だ。最低なのに。
自分から発せられる声も、熱も、全てが。
「あぁっ…!」
こんなに恍惚に満ちていて。
体位を変えても勝手に動く。
あぁ、私はなんて。
「汚れた女だな」
なんで、こんなに。
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