5 / 32
一
5
しおりを挟む
仕事は着実にこなした。
金曜日の癖にあの妙なダルさもなく、何故か身体に軽さを感じる。
己が冷静であるかは定かでない。
定時で珍しく帰宅する自分を社長は怪訝そうに見ていた気も、今ならする。
心にどっと何かが押し寄せてきたのは、ホテルの部屋を見た瞬間だった。
やはり、完全なるラブホテル。目がチカチカしそう。
さっき通ったあの、独特な受付ですら何も感じなかったのにここへ来て、と、脱力しそうになっていく。
無駄にふかふかしたベッドの側のソファに座れば「ふかふかだな……」と、無駄に一人言を吐くくらいには非現実的に思えて。
なんだこれは。
……そうだ、ざっと説明された中に
「60分コースだと、お待ちの時間にさっくりとシャワーなどを浴びておいた方がうんちゃらかんちゃらで90分でしたらボーイが着いてから一緒に入浴して、が大半なんで初めてでしたらそちらの方がうんちゃらかんちゃらですよ」
と、あの電話番に捲し立てられたな。
シャワー、浴びとくべき?
物凄く汗かいてきたけど、それはなんだか如何にも待ってましたよ、みたいになる?
若干自分の知能が低下しているように感じる。
いや……。
一緒に入浴して、とは?
今更になって全てが降り掛かる。なんだそれ。
それって、言っていた「オプションなんちゃらかんちゃら」なのか?
あ、いや、一連の流れは聞いた気がする。だから多分違うのだが、大して料金も掛からないから取り敢えずオプションをみたいな話をしたような…。
なんせ未だにまだ恐怖も羞恥も道徳も捨てていない。
これは怖いな、と、特に飲みたくはないが喉は乾いていたのでフロントにビールを頼んだ。テンパって3本ほど。
大丈夫なんだろうか自分は。何気に色々ハードルを走り幅跳びですっ飛ばして跳んだような気がする……。
昔からそうだ。
だが、そういえば社長に「辻元さんってたまにトばすのがいいところだよね」なんて、言われたことがあるような気がしてきた。言われてないかもしれない。
あーだこーだ、なんやかんやとビールを1本丸飲みし、2本目を開けたころ、コンコンと、ついにドアが叩かれた。
『…オリオンから参りました、アカリです』
…少々聞き取りにくい、細い声。
はい、と返事をし思い出した。こちらは顔を見て指名したわけではなく、あの電話番がここまで話を進めてきたのだ。
女性デリヘルにはチェンジがある。
なんとなく自分は何かを伝え、「それでしたら」と薦められたのだから、例えばそう、名前に反し凄く強そうな方が現れたらビビってそれどころじゃなくなるかもしれない。
ドアスコープを覗いた。
そこには、予想していた筋肉ゴリラはいなくて。
「あ…はい…」
ぱっちり目元…あと鼻元しか見えないが、天使か何かがいるように見えた。
間違えてしまってないかとまず、ドアを開ける。
「……お、」
そのアカリなる人物は、どうやらかなりの美形男子だった。
思い出せばそうだ、そういう店を選んだんだ自分は…と、アカリの頭から足の爪先までを眺める。
性別がわからない。が、男ならかっこいいのだろうし女なら綺麗なのだろうし、そして身長も高いとも低いとも言えないが、喉仏があって胸はなかった。
あぁ男の子だ、20とか…へたすればこういうのはわからない、息子と同じ19歳だったりして…。それってOKなんだっけ、OKだったような。
だとしたら息子より細身だ。ちょっと心配になる。
ヤケに大きなスポーツバッグを下げているその肩は、若干撫で肩。
そんなアカリが少しだけ眉を潜め「辻元さんでお間違いはないでしょうか?」と聞いてきたので、我に返った。
「あ、いや、」
「…えっと、すみませんでした。帰った方がよろしいでしょうか」
「あ、いや違うんだ、」
「そうですか、よかったです」と、彼は手を合わせ頭を下げる。
神か、神かもしれない、例えば観世音菩薩とか、あれって確か両性具有だよなと更に稚拙になった頭で「すまん、失礼した、どうぞどうぞ」と、アカリを部屋にあげていた。
「失礼します。よろしくお願いしますね」
確かに…声は低かった。
彼は部屋に入るとまず、スポーツバッグを肩からおろし、「すみません前払いなんですよ」と断った。
アカリはスポーツバッグでズレてしまったカーディガンを直している。
「あ、はい」
「延長もありますが、90分と聞きました。取り敢えずは18,000円と、オプションが1,000円になります」
「あぁ、はい、すみません」
そもそもオプションってなんだっけと思っていると、ふと彼が「ふふふ、」と柔らかく笑った。
あれ、可愛らしいかも、この子。同姓に可愛いは変かもしれないが。
「初めてなんですか?」
「え、はぁ、」
財布からパパっと2枚ほど金を出すと、彼は丁寧な所作で受け取り、「はい、2,000円」と、手に手を添えて返してくれた。
金曜日の癖にあの妙なダルさもなく、何故か身体に軽さを感じる。
己が冷静であるかは定かでない。
定時で珍しく帰宅する自分を社長は怪訝そうに見ていた気も、今ならする。
心にどっと何かが押し寄せてきたのは、ホテルの部屋を見た瞬間だった。
やはり、完全なるラブホテル。目がチカチカしそう。
さっき通ったあの、独特な受付ですら何も感じなかったのにここへ来て、と、脱力しそうになっていく。
無駄にふかふかしたベッドの側のソファに座れば「ふかふかだな……」と、無駄に一人言を吐くくらいには非現実的に思えて。
なんだこれは。
……そうだ、ざっと説明された中に
「60分コースだと、お待ちの時間にさっくりとシャワーなどを浴びておいた方がうんちゃらかんちゃらで90分でしたらボーイが着いてから一緒に入浴して、が大半なんで初めてでしたらそちらの方がうんちゃらかんちゃらですよ」
と、あの電話番に捲し立てられたな。
シャワー、浴びとくべき?
物凄く汗かいてきたけど、それはなんだか如何にも待ってましたよ、みたいになる?
若干自分の知能が低下しているように感じる。
いや……。
一緒に入浴して、とは?
今更になって全てが降り掛かる。なんだそれ。
それって、言っていた「オプションなんちゃらかんちゃら」なのか?
あ、いや、一連の流れは聞いた気がする。だから多分違うのだが、大して料金も掛からないから取り敢えずオプションをみたいな話をしたような…。
なんせ未だにまだ恐怖も羞恥も道徳も捨てていない。
これは怖いな、と、特に飲みたくはないが喉は乾いていたのでフロントにビールを頼んだ。テンパって3本ほど。
大丈夫なんだろうか自分は。何気に色々ハードルを走り幅跳びですっ飛ばして跳んだような気がする……。
昔からそうだ。
だが、そういえば社長に「辻元さんってたまにトばすのがいいところだよね」なんて、言われたことがあるような気がしてきた。言われてないかもしれない。
あーだこーだ、なんやかんやとビールを1本丸飲みし、2本目を開けたころ、コンコンと、ついにドアが叩かれた。
『…オリオンから参りました、アカリです』
…少々聞き取りにくい、細い声。
はい、と返事をし思い出した。こちらは顔を見て指名したわけではなく、あの電話番がここまで話を進めてきたのだ。
女性デリヘルにはチェンジがある。
なんとなく自分は何かを伝え、「それでしたら」と薦められたのだから、例えばそう、名前に反し凄く強そうな方が現れたらビビってそれどころじゃなくなるかもしれない。
ドアスコープを覗いた。
そこには、予想していた筋肉ゴリラはいなくて。
「あ…はい…」
ぱっちり目元…あと鼻元しか見えないが、天使か何かがいるように見えた。
間違えてしまってないかとまず、ドアを開ける。
「……お、」
そのアカリなる人物は、どうやらかなりの美形男子だった。
思い出せばそうだ、そういう店を選んだんだ自分は…と、アカリの頭から足の爪先までを眺める。
性別がわからない。が、男ならかっこいいのだろうし女なら綺麗なのだろうし、そして身長も高いとも低いとも言えないが、喉仏があって胸はなかった。
あぁ男の子だ、20とか…へたすればこういうのはわからない、息子と同じ19歳だったりして…。それってOKなんだっけ、OKだったような。
だとしたら息子より細身だ。ちょっと心配になる。
ヤケに大きなスポーツバッグを下げているその肩は、若干撫で肩。
そんなアカリが少しだけ眉を潜め「辻元さんでお間違いはないでしょうか?」と聞いてきたので、我に返った。
「あ、いや、」
「…えっと、すみませんでした。帰った方がよろしいでしょうか」
「あ、いや違うんだ、」
「そうですか、よかったです」と、彼は手を合わせ頭を下げる。
神か、神かもしれない、例えば観世音菩薩とか、あれって確か両性具有だよなと更に稚拙になった頭で「すまん、失礼した、どうぞどうぞ」と、アカリを部屋にあげていた。
「失礼します。よろしくお願いしますね」
確かに…声は低かった。
彼は部屋に入るとまず、スポーツバッグを肩からおろし、「すみません前払いなんですよ」と断った。
アカリはスポーツバッグでズレてしまったカーディガンを直している。
「あ、はい」
「延長もありますが、90分と聞きました。取り敢えずは18,000円と、オプションが1,000円になります」
「あぁ、はい、すみません」
そもそもオプションってなんだっけと思っていると、ふと彼が「ふふふ、」と柔らかく笑った。
あれ、可愛らしいかも、この子。同姓に可愛いは変かもしれないが。
「初めてなんですか?」
「え、はぁ、」
財布からパパっと2枚ほど金を出すと、彼は丁寧な所作で受け取り、「はい、2,000円」と、手に手を添えて返してくれた。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる