Eccentric Late Show

二色燕𠀋

文字の大きさ
16 / 107
ドリームランド

5

しおりを挟む
 いやわかってるけどね。
 本当は自分が何が言いたいかなんてことは。

「…仲間とかは知らないんだね?」
「知ってるんじゃない?」
「え?」
「ただ、踏み込まない。げんちゃんは違うけどふみととハゲは、そーゆーことされると俺、なんも出来なくなるの知ってるから。
 いや、流石に家なき子は知らないか。でもまぁよくあることだから。バレる前に家探すよ」
「なんで?」
「ロックンローラーはさすらうのさ」

 なにそれ。

「かっけぇけど、大丈夫?」
「うん。
 仕方ないねぇ。大体こんなとき彼女ん家に転がり込むんだけど、いま無理だね作れないわなんとなく。なんかそーゆーんやる気なぁい」
「もしかしてあまちゃんさ、わりと、捨て身なの?」
「読心術っぽいね。わかんないや、へへっ」

 しかしそう言って笑うあまちゃんの笑顔とか。
 今喋ってる感じとか。
 昨日のあれとはなんか違う。なんかすっ飛んでる感ゼロ。舌も足りている。

 やっぱあれってライブ特有なのかしらとか、ぼんやり考えた。でも、なんとなく、それとも違う気がする。

 二重人格?と言うよりは、昨日よりもう少し輪郭がはっきりしているというか。あぁ、あれか、躁病感が抜けてんのか。

 ガチで薬でもやってたりして。でも、それにしちゃなんか、いや、わかんねぇけどイメージ的に危険度低い気がする。

「あまちゃん」
「ん?なぁに?」
「もしも、もしもだよ?俺がいま、一緒に住んでいいよって言ったら、君どうする?嫌がる?嬉しい?どっち?」
「え、」

 あまちゃんは、硬直してじっと俺を見つめた。
 それだけはどうやら変わらないらしい。

「まぁ純粋にさ。
 君をほっとく道徳が俺の中にねぇっていうエゴ」
「エゴ…」
「それだけだよ」

 本当はそうじゃない。
 君に興味が沸いた。
 しかしこういう人種は。多分こういう壁を作るタイプは、それを言ったら今すぐ出て行って路頭に迷ってでも拒否するんだろうから。

「うん、そっか…うん、でも…。
 合鍵でいい?俺、ちょっと…」
「うんいいよ。来たくなったら来れば?」
「スバルくん」
「なんだい」
「君は…多分、変だと思う」

 そう言いながら。
 硬直を解いてにっこりぎこちなく笑った顔が最早少女のように可愛らしくて。なんだろう不思議。これって最早おかんのような感覚。

「取り敢えずは土曜までね」
「あいよ。さぁて…。
あまちゃん、飯食おう。俺いま凄くうどん食いたいんだけどうどんでいい?」
「いいよ。スバルくん作れんの?」
「そりゃぁ一人暮らし長いからね」
「へぇ。まぁ器用そうだよね。
 俺手伝えないからギター弾いてていい?」

 それは是非とも弾いてくださいよ。
 しかし俺ってわりとツンデレ。

「まぁ好きにしな。アンプ繋いだら強制退去ね」
「はぁい。ありがと」

 可愛いよぅ。
 彼女にしたい、女に生まれてこいよあまちゃん。

 昨日こいつゲロ吐いてたし、行った居酒屋でも記憶が正しければなんも食ってねぇな。

 あんまなんも食ってねぇかもな、わからんけど。

「ねぇあまちゃん」
「なに」
「あれからなに食ったの」
「んー、コーヒー」

 やっぱりな。

「うどんでよかったね」
「ん?うん、そうなの?」

 取り敢えず栄養が取れそうな野菜を入れよう。大根とかあったし。ネギもあったし。取り敢えず野菜を入れよう。

 なんとなくそう決めて立ち上がり、キッチンに立って冷蔵庫を開けて考え、なんとなく野菜を切っていった。

 玄関からギターを運ぶと、「そいえばさ」と話し掛けてくる。

「スバルくん清志郎きよしろうさんの葬式出たぁ?」

 何故そうなる。
 というか何故知っているファンだったのを。

「漁ったな、CD」
「ずっと夢ぇ~を見て~」
「今も~見てる~僕はぁ」
「でぃどりぃ、びりばーぁ」
「そんで?漁ったんだね」

 あぁ、なんて甘く掠れているのセブンアンドアイ。清志郎とはまた違う。

「漁ったって人聞き悪い。拝見したの」

 あまちゃんはそれからギターを取り出して眺めていた。話題にあがったGibson Les Paulの青いやつ。見た感じブラックビューティーのあれっぽい。

 ふと弾き始めたフレーズはセブンアンドアイのそれだったり、チバさんだったり、俺が知らない曲だったり。

 その事情に、野菜に火を通す間見入ってしまった。

 なんだよ上手いじゃん。なんでソロの時だけあんなにボロクソになっちゃうの。チバさんとかのだいぶ高度なやつ弾けてんじゃん。

 たまに聞こえるような気がする鼻唄がまた甘く切ない。ねぇねぇでんにじ弾かないの?いやしかし俺ってそーゆーの言える奴じゃない。さっきあんだけ下手クソって言っちゃったし。気のない素振りしとこう。

 とか思ったらこの前聴いたような聴いてないようなワンフレーズが鼓膜を叩いて。

 心地いい鼻唄と相乗効果。昨日より掠れてるけど。そうか、アーティストって、こうやって出来てるんだと知る。

 甘ったるい陶酔に似ている。掠れが不思議な世界観。こいつの唄は、メロディーは、痺れと甘さ。それがいま俺の家、手を伸ばせば届く位置にあるなんて。

 なんて微睡んで酔いしれる。ふんふんふんふん、I hate music everything.

 そんな意識をつんざいたのは、無機質で電子的な電話の呼び出し音。ピタッとギターも唄もやめ、あまちゃんはソファーにぶん投げてあった白いスマホを横目で見て溜め息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...