33 / 107
D.N.A(die noise amazing)
5
しおりを挟む
でもこれって確かに。
そう、出会いはYouTubeの、パソコンの画面越しだったけど。
胸を貫いたその感覚を恋というのはある意味間違いではない、アーティストとの出会いってそんなものではないのか。
ただやはり、そこに壁が。
薄い、けれども越えられない、越えることがない壁はやはり崇拝である。それは男女同性問わない。
ただこういったハコでやってるようなオルタナバンドはそう、少しだけ、ファンに近い気がしてしまう。確かに俺はあまちゃんが好きだ。しかしそれは、そうじゃなくて。
「共鳴感かなぁ」
「はぁ?」
「ライブの。あれに近いかも」
「と申しますと?」
「なんて言うかな…。ほっとけないけど、多分ほっとかせてくれちゃうんだよなあいつ。本当にほっといたら失神して病院送り。家なくなってもへーき、好きなことやるためとか言っちゃうからなんかその信念はわかる気がする」
「…あんたってさ…なんか少し熱血っぽいとこあるよね」
「うんそうかも」
自分がやりたいことをやれなかったからという押し付けかもしれないけど。
「俺ほら、デザインやりたかったから」
「あぁ」
「パンフレットは配るんじゃなく、プログラミングは計算じゃなく、デザインやりたかった。けど結果はこう。だから憧れもあるかもね」
「その人は夢叶えたの?」
「きっとね」
才能と運は絶対に存在する。努力だってある。
「流されやすいのもよくないよ、絶対に書類は見なきゃ」
「わかってるよ」
「でもだからあまちゃんなんだね古里さん」
お?
なんだそれは。
「あの人の唄はファンを寄せ付けない、と言うよりは自分を寄せ付けない。ファンには実は、どこか希望はあるように私は捉えた」
「予習したね」
「でしょ。そんな感じなのかなってね」
なるほどなぁ。
「けどなんでそれいま出た」
「なんとなく」
「あそう」
北谷はなんだかにやにやしている。
なんだぁ?なんか気持ち悪いぞ。
「食ってるといいね朝ごはん」
「あぁそうねぇ…」
それから北谷は先に、「ごちそうさまでした」と手を合わせ、食い終わった定食の盆を下げ場に下げに行った。そこでも「ごちそうさまでーす」と挨拶をしていた。
俺も例に習って行こうかとしたとき、着信があった。
ケータイの液晶に「福寿園」の文字。嫌だなぁ。
北谷に手を合わせ詫びると、何故だかにやにやしてまた向かいに戻ってきた。取り敢えず電車に出る。
「もしもし」言い終わる前に、「昴?」とばあちゃんの声がした。
またか。
「どうしたのばあちゃん」
『みかんは』
みかん。
「ばあちゃん、それは」
すると電話の向こう側で「古里さん、何してるんですか!」という声。
「やめてください、孫と、話してるんです」と聞こえ、そのうち、『もしもし?』と声が変わった。
「もしもし」
『すみません、あの…』
「あぁ、大丈夫。祖母がお世話になってます。古里サチ子の孫の昴と申します」
『あぁ、すみません、福寿園の田中と申します。お忙しい中急にすみませんでした』
「いえ。また何かありましたら…この電話は仕事用のものですので、出来れば違う方のケータイに着信をください。番号は、090、3×××、7×××」
『あれ?はい、どうもすみませんでした』
「お疲れ様です」
「昴、昴」という声も無視して俺は電話を切った。
大嘘こいた。番号もでたらめだ。これでもう掛かってくることはないだろう。
「…うちの会社ケータイねぇじゃん」
「いいんだようるせぇから。正直困ってたんだよ。一度出たらこれだ」
溜め息しか出ない。なんなんだあのババア。
「そういえば先輩の口から家族行事とか聞かないね、まぁ話すことでもないけどさ」
「あぁ、そりゃそうだ。ばあちゃんしかいないから」
「…はあ」
「親は小さい頃に交通事故でどっちも死んだらしい。ばあちゃんに引き取られて育った。可愛がられたよ多分俺は」
「…へぇ。一人っ子?」
「うーん。叔父夫婦と住んでて、まぁだから従兄弟か。そいつらと育ったな。あんまり会ってないけど」
「下と上にいそうだなってちょっと思った。なんとなく」
「…お前は?」
「あたしは弟が一人」
「あ、ぽいわ」
いかにも姉御っぽいもんな。
「すげぇバカ。言うこと聞かねぇし。けどねぇ、そう、この前でんにじ見てたら興味湧いたらしくて「俺もちょっと見てみようかな」とか言ってさ。あの子どうしよう、なんか勉強しないで部屋いて音楽って典型的なパターンじゃね?」
もしやこれは引きこもりなのか。
なんとなくだけど。
「素質あるねえ」
「だよねぇどうしよ。バカだけどさぁ、実はなんかDJみてえな?なんか音楽いじりまくったりするやつ?あれ出来るんだよヤバくね?」
「なぁ、実は引きこもりだろ」
「バレた?そうそう。あっ!でもねぇ、あいつさ、音楽変態の社会不適合なクセにあたしと違ってメチャクチャかわええ。ほら見て」
嬉しそうに見せてくる北谷に、ダルいけどしょうがなく見てやると。
「あぁ確かにね」
凄く嫌そうに映る草食系男子が写ってた。あの、望遠鏡の歌のボーカルみたいなやつ。
でも確かに顔立ちは、目元がくっきりとしてて色白で、長い前髪を気にする指が見えるその袖は萌え袖で。可愛いというよりか美形かもね。
「望遠鏡のボーカルみたいなやつだね」
「あー、髪型だけね!」
「そうそう。でもお前の弟として差し出されたらまあわかるわ。似てる似てる」
「え、それなんだし」
「俺のババアもみる?」
「いやいい。どっちかって言うと同居人見たい」
「あーないねぇ」
俺も皿下げてこよう。
下げ場に持ってて「ごちそうさまでした」と厨房に声を掛け、そのまま二人で喫煙所に向かう。
そしてそれから部署に戻り、追加分も含めて仕事をこなした。
そう、出会いはYouTubeの、パソコンの画面越しだったけど。
胸を貫いたその感覚を恋というのはある意味間違いではない、アーティストとの出会いってそんなものではないのか。
ただやはり、そこに壁が。
薄い、けれども越えられない、越えることがない壁はやはり崇拝である。それは男女同性問わない。
ただこういったハコでやってるようなオルタナバンドはそう、少しだけ、ファンに近い気がしてしまう。確かに俺はあまちゃんが好きだ。しかしそれは、そうじゃなくて。
「共鳴感かなぁ」
「はぁ?」
「ライブの。あれに近いかも」
「と申しますと?」
「なんて言うかな…。ほっとけないけど、多分ほっとかせてくれちゃうんだよなあいつ。本当にほっといたら失神して病院送り。家なくなってもへーき、好きなことやるためとか言っちゃうからなんかその信念はわかる気がする」
「…あんたってさ…なんか少し熱血っぽいとこあるよね」
「うんそうかも」
自分がやりたいことをやれなかったからという押し付けかもしれないけど。
「俺ほら、デザインやりたかったから」
「あぁ」
「パンフレットは配るんじゃなく、プログラミングは計算じゃなく、デザインやりたかった。けど結果はこう。だから憧れもあるかもね」
「その人は夢叶えたの?」
「きっとね」
才能と運は絶対に存在する。努力だってある。
「流されやすいのもよくないよ、絶対に書類は見なきゃ」
「わかってるよ」
「でもだからあまちゃんなんだね古里さん」
お?
なんだそれは。
「あの人の唄はファンを寄せ付けない、と言うよりは自分を寄せ付けない。ファンには実は、どこか希望はあるように私は捉えた」
「予習したね」
「でしょ。そんな感じなのかなってね」
なるほどなぁ。
「けどなんでそれいま出た」
「なんとなく」
「あそう」
北谷はなんだかにやにやしている。
なんだぁ?なんか気持ち悪いぞ。
「食ってるといいね朝ごはん」
「あぁそうねぇ…」
それから北谷は先に、「ごちそうさまでした」と手を合わせ、食い終わった定食の盆を下げ場に下げに行った。そこでも「ごちそうさまでーす」と挨拶をしていた。
俺も例に習って行こうかとしたとき、着信があった。
ケータイの液晶に「福寿園」の文字。嫌だなぁ。
北谷に手を合わせ詫びると、何故だかにやにやしてまた向かいに戻ってきた。取り敢えず電車に出る。
「もしもし」言い終わる前に、「昴?」とばあちゃんの声がした。
またか。
「どうしたのばあちゃん」
『みかんは』
みかん。
「ばあちゃん、それは」
すると電話の向こう側で「古里さん、何してるんですか!」という声。
「やめてください、孫と、話してるんです」と聞こえ、そのうち、『もしもし?』と声が変わった。
「もしもし」
『すみません、あの…』
「あぁ、大丈夫。祖母がお世話になってます。古里サチ子の孫の昴と申します」
『あぁ、すみません、福寿園の田中と申します。お忙しい中急にすみませんでした』
「いえ。また何かありましたら…この電話は仕事用のものですので、出来れば違う方のケータイに着信をください。番号は、090、3×××、7×××」
『あれ?はい、どうもすみませんでした』
「お疲れ様です」
「昴、昴」という声も無視して俺は電話を切った。
大嘘こいた。番号もでたらめだ。これでもう掛かってくることはないだろう。
「…うちの会社ケータイねぇじゃん」
「いいんだようるせぇから。正直困ってたんだよ。一度出たらこれだ」
溜め息しか出ない。なんなんだあのババア。
「そういえば先輩の口から家族行事とか聞かないね、まぁ話すことでもないけどさ」
「あぁ、そりゃそうだ。ばあちゃんしかいないから」
「…はあ」
「親は小さい頃に交通事故でどっちも死んだらしい。ばあちゃんに引き取られて育った。可愛がられたよ多分俺は」
「…へぇ。一人っ子?」
「うーん。叔父夫婦と住んでて、まぁだから従兄弟か。そいつらと育ったな。あんまり会ってないけど」
「下と上にいそうだなってちょっと思った。なんとなく」
「…お前は?」
「あたしは弟が一人」
「あ、ぽいわ」
いかにも姉御っぽいもんな。
「すげぇバカ。言うこと聞かねぇし。けどねぇ、そう、この前でんにじ見てたら興味湧いたらしくて「俺もちょっと見てみようかな」とか言ってさ。あの子どうしよう、なんか勉強しないで部屋いて音楽って典型的なパターンじゃね?」
もしやこれは引きこもりなのか。
なんとなくだけど。
「素質あるねえ」
「だよねぇどうしよ。バカだけどさぁ、実はなんかDJみてえな?なんか音楽いじりまくったりするやつ?あれ出来るんだよヤバくね?」
「なぁ、実は引きこもりだろ」
「バレた?そうそう。あっ!でもねぇ、あいつさ、音楽変態の社会不適合なクセにあたしと違ってメチャクチャかわええ。ほら見て」
嬉しそうに見せてくる北谷に、ダルいけどしょうがなく見てやると。
「あぁ確かにね」
凄く嫌そうに映る草食系男子が写ってた。あの、望遠鏡の歌のボーカルみたいなやつ。
でも確かに顔立ちは、目元がくっきりとしてて色白で、長い前髪を気にする指が見えるその袖は萌え袖で。可愛いというよりか美形かもね。
「望遠鏡のボーカルみたいなやつだね」
「あー、髪型だけね!」
「そうそう。でもお前の弟として差し出されたらまあわかるわ。似てる似てる」
「え、それなんだし」
「俺のババアもみる?」
「いやいい。どっちかって言うと同居人見たい」
「あーないねぇ」
俺も皿下げてこよう。
下げ場に持ってて「ごちそうさまでした」と厨房に声を掛け、そのまま二人で喫煙所に向かう。
そしてそれから部署に戻り、追加分も含めて仕事をこなした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる