92 / 107
CRAVING【短編】
1
しおりを挟む
殺伐としている。
エフェクターにテレキャスターを繋いで、座りこんで捻ったり弦を弾いたりして隣のやつが「あぁそれ」と言うまでなんとなくそれを続けていようというのが俺の身に付いた習慣だったのだが。
「弦次、よくね?今日はもう」
最近はそれ。言うのは左側のこの人で。
タカさん(高安雄仁)は、俺より多分5つは年上で、このバンドでは初期からベースを担当している。
このバンド、売れている。
俺が大学生時代、特に将来やらなにやらを決めずに遊び呆け、趣味のライブ巡りやバンドサークルにのめり込んでいた頃にこのバンドに出会った。
大学に何かの拍子でこのバンドが来たことがある。サークルの部屋で一人、ギターを弾いていた時にボーカルギターの太田剛士は言ったのだ、「俺んとこ来れば?」と。
「お前考えたの?そのパワーコードの流れ」
「はぁ…」
はぁ、しか出てこなかった。
だってこんなよくわからん大学に、あの、わりとフェスとかで活躍している、しかし有名かと言われればまぁまぁ、曲は聴いたことがあって、恐らくバンド好きならちゃんと名前まで行き着くバンドの、つまりは俺や俺のサークルバンド仲間級のやつらが知っている、どちらかと言えば“コア”とか“カリスマ”分類のバンドのボーカルが、まさか大学にサークルの部室に来るなんて、思い付くだろうか、凡才大学生に。
「バンドやってる?」
「え、まぁ、はぁ」
そして俺がやっていたその頃のバンド、実は。
俺が今一人でギターを部室で鳴らしているだけあって、まぁ、解散の危機だったわけだ。
「全員呼び出してよ。聴いてやるよ」
「えっ」
マジかよ。
それしか出てこなかった、心の中で。
それからすぐさまケータイでドラムとギターボーカルとベースを呼び出した。電話で出なければメールをすれば1分以内で返信が返ってきた。
30分以内でサークルバンドメンバーが全員集ると太田から一言、「一番の曲」という、シンプルだが漠然とした要求をされてしまい。
メンバーで顔を見合わせ、話し合いをしてる時点で「はいはいごくろーさん。お前。推しの曲、なんか弾いて」
と、手を叩いて終了宣言から、更にそんな要求をされてしまい。
メンバーの痛い視線を感じながら頭に浮かんだ曲は、ベタすぎるがセックス・ピストルズの『God Save The Queen』の入り出しイントロしかなくて。というか入り出しイントロで他メンバーがアホ面こいてやがって。
「oh, God save the queen!」
おぉ。
すげぇこいつ。てか太田。
この一回目、微妙なoh,つかohとも取れない微妙な呼吸みたいなやつ、入れてきた。流石プロは違う。この時の俺はそう思った。
そう思ったらコードもストロークもカッティング、いやもう単語なんてどうだっていい。身に染みたままに『sexpistols』の、でも俺がいて、ただ、歌った『太田剛士』はいたか、どうか。
ある程度気持ちよく弾いた。
いつの間にか太田は歌い止めていたけど多分、『No,future No,future』の一回目あたりで太田がにやっと笑って左手を差し伸べてきたから。
多分俺も、弾かせてすらもらえなかった他のメンバーと同じアホ面こいて弾き止めてしまったわけで。
「excellent。君、名前は?」
「は、はぁ?」
「あ、俺知ってるかな?ele groundの太田剛士」
「あぁ、はい、そりゃぁ」
「ははっ、そう!」
楽しそうに太田がそう言って。
「…奥田弦次です」
「ふぅん。君、ギターで来ない?ウチ今出来るヤツ欲しいんだけど」
マジか。
メンバーはひたすらにアホ面こいていた。もちろん、俺も。
「お…、俺?」
「君。俺のEnglishに最適。君のGod Saveを俺にくれない?」
「え、マジっすか」
メンバーを見てみれば。
「だって、」
太田はそれに、バカにしたような笑い浴びせる。
「君たち、今の曲を知っているか?世代じゃないとかセンスない、洋楽わかんないとかほざかないよねぇ、まさか、ギター持ってんなら」
メンバー総じて俯いた。
待った。俺の基準はそれなのか。
確かにこいつらは、J-popのバカバンドってかバンドですらないが。
「いやすんません太田さん。
俺他に違うバンドやってるんで」
嘘を吐いてしまった。
それを聞いたメンバーはアホ面を通り越して怒りで間を置いて「はぁ!?」と、なじるように俺に言ってきたが、俺は至極冷静に、「だってお前ら」と告げる。
「俺が何をしたいかなんて知らねぇじゃねぇか。お前らピストルズもニルヴァーナもボン・ジョビだって、
日本人ならキャロルも、清志郎すら知らねぇようなクソバンド、てかバンドじゃねぇんだよ!J-popぅ?んなもんタワレコ行きゃあいくらだって売ってんだよ!」
「なんだとてめえ!」
「俺はてめえらと違って別にモテたくてシャカシャカやってるわけじゃねぇわアホ。んなんマラカスでも振ってキャバクラ行ってろ!」
食いついてきたリーダーに言い放つ。しかし他メンバー、「いやよくわかんねぇ」だの「よくね?」だのほざいてやがる。
あぁそうさ。俺だって偏屈過ぎて、と言うか偏屈かもよくわかってなくて何言ってかわかんねぇよ、このアホ面ギタボにアホ面ベースにアホ面ドラム!
「話済んだ?行こ」
「はぁ?」
だが太田。
俺の予想以上に恐ろしくマイペース、外国人並みの神経だった。
エフェクターにテレキャスターを繋いで、座りこんで捻ったり弦を弾いたりして隣のやつが「あぁそれ」と言うまでなんとなくそれを続けていようというのが俺の身に付いた習慣だったのだが。
「弦次、よくね?今日はもう」
最近はそれ。言うのは左側のこの人で。
タカさん(高安雄仁)は、俺より多分5つは年上で、このバンドでは初期からベースを担当している。
このバンド、売れている。
俺が大学生時代、特に将来やらなにやらを決めずに遊び呆け、趣味のライブ巡りやバンドサークルにのめり込んでいた頃にこのバンドに出会った。
大学に何かの拍子でこのバンドが来たことがある。サークルの部屋で一人、ギターを弾いていた時にボーカルギターの太田剛士は言ったのだ、「俺んとこ来れば?」と。
「お前考えたの?そのパワーコードの流れ」
「はぁ…」
はぁ、しか出てこなかった。
だってこんなよくわからん大学に、あの、わりとフェスとかで活躍している、しかし有名かと言われればまぁまぁ、曲は聴いたことがあって、恐らくバンド好きならちゃんと名前まで行き着くバンドの、つまりは俺や俺のサークルバンド仲間級のやつらが知っている、どちらかと言えば“コア”とか“カリスマ”分類のバンドのボーカルが、まさか大学にサークルの部室に来るなんて、思い付くだろうか、凡才大学生に。
「バンドやってる?」
「え、まぁ、はぁ」
そして俺がやっていたその頃のバンド、実は。
俺が今一人でギターを部室で鳴らしているだけあって、まぁ、解散の危機だったわけだ。
「全員呼び出してよ。聴いてやるよ」
「えっ」
マジかよ。
それしか出てこなかった、心の中で。
それからすぐさまケータイでドラムとギターボーカルとベースを呼び出した。電話で出なければメールをすれば1分以内で返信が返ってきた。
30分以内でサークルバンドメンバーが全員集ると太田から一言、「一番の曲」という、シンプルだが漠然とした要求をされてしまい。
メンバーで顔を見合わせ、話し合いをしてる時点で「はいはいごくろーさん。お前。推しの曲、なんか弾いて」
と、手を叩いて終了宣言から、更にそんな要求をされてしまい。
メンバーの痛い視線を感じながら頭に浮かんだ曲は、ベタすぎるがセックス・ピストルズの『God Save The Queen』の入り出しイントロしかなくて。というか入り出しイントロで他メンバーがアホ面こいてやがって。
「oh, God save the queen!」
おぉ。
すげぇこいつ。てか太田。
この一回目、微妙なoh,つかohとも取れない微妙な呼吸みたいなやつ、入れてきた。流石プロは違う。この時の俺はそう思った。
そう思ったらコードもストロークもカッティング、いやもう単語なんてどうだっていい。身に染みたままに『sexpistols』の、でも俺がいて、ただ、歌った『太田剛士』はいたか、どうか。
ある程度気持ちよく弾いた。
いつの間にか太田は歌い止めていたけど多分、『No,future No,future』の一回目あたりで太田がにやっと笑って左手を差し伸べてきたから。
多分俺も、弾かせてすらもらえなかった他のメンバーと同じアホ面こいて弾き止めてしまったわけで。
「excellent。君、名前は?」
「は、はぁ?」
「あ、俺知ってるかな?ele groundの太田剛士」
「あぁ、はい、そりゃぁ」
「ははっ、そう!」
楽しそうに太田がそう言って。
「…奥田弦次です」
「ふぅん。君、ギターで来ない?ウチ今出来るヤツ欲しいんだけど」
マジか。
メンバーはひたすらにアホ面こいていた。もちろん、俺も。
「お…、俺?」
「君。俺のEnglishに最適。君のGod Saveを俺にくれない?」
「え、マジっすか」
メンバーを見てみれば。
「だって、」
太田はそれに、バカにしたような笑い浴びせる。
「君たち、今の曲を知っているか?世代じゃないとかセンスない、洋楽わかんないとかほざかないよねぇ、まさか、ギター持ってんなら」
メンバー総じて俯いた。
待った。俺の基準はそれなのか。
確かにこいつらは、J-popのバカバンドってかバンドですらないが。
「いやすんません太田さん。
俺他に違うバンドやってるんで」
嘘を吐いてしまった。
それを聞いたメンバーはアホ面を通り越して怒りで間を置いて「はぁ!?」と、なじるように俺に言ってきたが、俺は至極冷静に、「だってお前ら」と告げる。
「俺が何をしたいかなんて知らねぇじゃねぇか。お前らピストルズもニルヴァーナもボン・ジョビだって、
日本人ならキャロルも、清志郎すら知らねぇようなクソバンド、てかバンドじゃねぇんだよ!J-popぅ?んなもんタワレコ行きゃあいくらだって売ってんだよ!」
「なんだとてめえ!」
「俺はてめえらと違って別にモテたくてシャカシャカやってるわけじゃねぇわアホ。んなんマラカスでも振ってキャバクラ行ってろ!」
食いついてきたリーダーに言い放つ。しかし他メンバー、「いやよくわかんねぇ」だの「よくね?」だのほざいてやがる。
あぁそうさ。俺だって偏屈過ぎて、と言うか偏屈かもよくわかってなくて何言ってかわかんねぇよ、このアホ面ギタボにアホ面ベースにアホ面ドラム!
「話済んだ?行こ」
「はぁ?」
だが太田。
俺の予想以上に恐ろしくマイペース、外国人並みの神経だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる