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「…それは慧が、頑張って、人を無理にでも許そうとしている、ただそれだけだ。
そんなに人に物を与えられる慧は…ちょっと、カッコいいけど、心配かも。全部を、擲たなくたって、いいじゃんって」
「…そう、なのかな、」
「んーもうダメだな、言うや。
俺、お前のことかなり好きだよ、かなり」
「ん、ありがと。俺も」
「多分そんな綺麗なものじゃなくて、もっと、汚いやつだけど…でも、温かかったりもするやつで」
「…うん」
「所謂…恋とか、そっち系」
「恋とかそっち系」
「うーん、精子って綺麗じゃないじゃん?粘っこくて」
「…うん」
「そういうやつで…その…慧が言った、母ちゃんのさ、」
「…なるほど」
「ごめん、なんか」
「いや、ううん」
なんか、わかってはあげられなかったけれども。
「…俺はそんなにちゃんとした人間じゃないから、」
「そんなことない、」
「でも、一緒でしょ?」
「全然違うよ。慧は、絶対そういうんじゃない、」
どうしてだろう。俺すら自分のことなんてよく、わかっていないのに。
ごちゃごちゃで、なのに平らになってしまった大地を見てから、特にそうなのだ。
すると、石丸くんは急に俺に抱き付いてきた。
…これはどういう好きかわからないけど、石丸くんの胸の音が早いというのは感じられた。
「…少しずつ、自分の心を…解いたらどうだろうか」
「解く?」
「そ。解いて、少しずつ外にも出した方が良い気がする。あの日もいきなり泣いただろ?」
「あれは…」
なんだか恥ずかしいな。
でも、そういうことなのかな?
「なんだか恥ずかしいな…」
「それそれ!」
「あ、やっぱりこういうことなんだ」
「そう。そしたらこっちも理解して「恥ずかしいことじゃないよ」って言えるじゃん?」
「うん…」
「そしてじゃあ俺は…慧に「ごめん」って謝ったくせに、いまどうやら「でも、何か慧に与えてあげたい」いや、「とても嫌われたくない」と思ったんだ。どうだろう?」
「……そうだなぁ、嫌いにはならないけど、与えてあげたいは、なんなのかわからない。ごめんってことは何か悪いことだと思ったんだろうけどわからなかった、何が悪いと思ったの?」
「…慧は、きっと痛い思いをして、それを嫌だなと思ったんだろうけど、俺はそれをしたいと思い、それを例えば「いいことなんだよ」と押し付けようとしていることへの葛藤…かな?」
「…福島の話に似ているのかもね。いいよ、別に。石丸くんが良いと思ったなら」
「そして俺は傲慢であいつらとも変わらないと思った、だって、俺にとっては「優しくしたいな」ってことでも、慧にとっては全然優しくないかもしれないじゃん?それを「優しいことだ」と押さえ付けるのは、おかしい」
「…なるほど、俺の気持ちも一緒にしたいんだ」
「…うん、それが少し怖いかも…。なんか…なんて言って良いかわからないけど…慧に合わせたいのも、慧は俺に合わされたくないかもしれないし」
「…意味がわかった。確かにそれなら、俺の言葉は必要だね」
「ただ、無理は」
「いや、なんかそれ、どう伝えて良いかわからないけど、わかったよ。俺がじいちゃんやばあちゃんに思ったやつと一緒なんだ。
俺は、いまはばあちゃんのためになりたいと思ったけど、ばあちゃんは俺のためになりたいと言う。俺よりも、ばあちゃんが嬉しいなら、それが一番いいのになって」
「……わかんないけど、多分そんな感じ」
「わかった。じゃあ、俺はもう少し頑張って、俺が思っている…いがいがを、言葉に出来るようにまずは、するね」
「…それがいいね」
石丸くんの生理現象はちゃんと直っていた。
石丸くんは少し笑って、「でも多分ね、慧と同じ考えなんだよ、ばあさんも俺も」と言った。
「慧が良い思いならいいのになっていう」
「…なるほど」
なんでなんだろうと考えたが、同じなのかもしれない。大切な人だから、そんな感じの。
「…つまり、石丸くんは俺のことを大切な人って、思ってるのかな」
「…恥ずかしいけど、そういうこと」
「だけど、別に自分のことは大切な人だと思ってくれなくて良くて、自分がいいようになって、欲しい、みたいな?」
「慧は自分をそう思ってるんだね。わかった」
その話は一度終わり、「慧が練習してるやつ聴かせて」と言われた。
「難しくて、なかなか」と答えると、「じゃあ一緒に聞こうよ」と言ってくれた。
大好きな歌を聴いてもられるのがちょっとだけ、嬉しいような気持ちになった。
「石丸くんは好きな歌はないの?」
「俺は結構ミーハーだから、でもギターはねぇ、家族のやつの唄」
あの、声が低い国民的イケメン…俳優だと思っていたけど、そういえばギター持ってたかも。
「その唄聴いてみるね」とその日は終わり、帰って検索したら良い唄だった。「ばあちゃぁん!」と思わず部屋から飛び出すほどに。
「わぁどうしたんだ!」と一緒に歌詞を見て聴いた。
タイムリー過ぎて二人で泣いてしまった。
「こん人ぉ、男前でえー唄歌うな~」
「ホントだよねぇっ。友達の推しなの~っ!」
「惚れちまうだ~」
「惚れちまうね~」
「さとちゃんは」
「唄えないね~っ!声良すぎる~っ!」
石丸くんの推しフィーバーは暫く続いた。
ばあちゃんはそれからこの歌をずっと口ずさむようになった。
おじいちゃんみたいな無口な強さ、おばあちゃんみたいな可愛い笑顔。きっとこうして二人は、出会ったんだ。
そんなに人に物を与えられる慧は…ちょっと、カッコいいけど、心配かも。全部を、擲たなくたって、いいじゃんって」
「…そう、なのかな、」
「んーもうダメだな、言うや。
俺、お前のことかなり好きだよ、かなり」
「ん、ありがと。俺も」
「多分そんな綺麗なものじゃなくて、もっと、汚いやつだけど…でも、温かかったりもするやつで」
「…うん」
「所謂…恋とか、そっち系」
「恋とかそっち系」
「うーん、精子って綺麗じゃないじゃん?粘っこくて」
「…うん」
「そういうやつで…その…慧が言った、母ちゃんのさ、」
「…なるほど」
「ごめん、なんか」
「いや、ううん」
なんか、わかってはあげられなかったけれども。
「…俺はそんなにちゃんとした人間じゃないから、」
「そんなことない、」
「でも、一緒でしょ?」
「全然違うよ。慧は、絶対そういうんじゃない、」
どうしてだろう。俺すら自分のことなんてよく、わかっていないのに。
ごちゃごちゃで、なのに平らになってしまった大地を見てから、特にそうなのだ。
すると、石丸くんは急に俺に抱き付いてきた。
…これはどういう好きかわからないけど、石丸くんの胸の音が早いというのは感じられた。
「…少しずつ、自分の心を…解いたらどうだろうか」
「解く?」
「そ。解いて、少しずつ外にも出した方が良い気がする。あの日もいきなり泣いただろ?」
「あれは…」
なんだか恥ずかしいな。
でも、そういうことなのかな?
「なんだか恥ずかしいな…」
「それそれ!」
「あ、やっぱりこういうことなんだ」
「そう。そしたらこっちも理解して「恥ずかしいことじゃないよ」って言えるじゃん?」
「うん…」
「そしてじゃあ俺は…慧に「ごめん」って謝ったくせに、いまどうやら「でも、何か慧に与えてあげたい」いや、「とても嫌われたくない」と思ったんだ。どうだろう?」
「……そうだなぁ、嫌いにはならないけど、与えてあげたいは、なんなのかわからない。ごめんってことは何か悪いことだと思ったんだろうけどわからなかった、何が悪いと思ったの?」
「…慧は、きっと痛い思いをして、それを嫌だなと思ったんだろうけど、俺はそれをしたいと思い、それを例えば「いいことなんだよ」と押し付けようとしていることへの葛藤…かな?」
「…福島の話に似ているのかもね。いいよ、別に。石丸くんが良いと思ったなら」
「そして俺は傲慢であいつらとも変わらないと思った、だって、俺にとっては「優しくしたいな」ってことでも、慧にとっては全然優しくないかもしれないじゃん?それを「優しいことだ」と押さえ付けるのは、おかしい」
「…なるほど、俺の気持ちも一緒にしたいんだ」
「…うん、それが少し怖いかも…。なんか…なんて言って良いかわからないけど…慧に合わせたいのも、慧は俺に合わされたくないかもしれないし」
「…意味がわかった。確かにそれなら、俺の言葉は必要だね」
「ただ、無理は」
「いや、なんかそれ、どう伝えて良いかわからないけど、わかったよ。俺がじいちゃんやばあちゃんに思ったやつと一緒なんだ。
俺は、いまはばあちゃんのためになりたいと思ったけど、ばあちゃんは俺のためになりたいと言う。俺よりも、ばあちゃんが嬉しいなら、それが一番いいのになって」
「……わかんないけど、多分そんな感じ」
「わかった。じゃあ、俺はもう少し頑張って、俺が思っている…いがいがを、言葉に出来るようにまずは、するね」
「…それがいいね」
石丸くんの生理現象はちゃんと直っていた。
石丸くんは少し笑って、「でも多分ね、慧と同じ考えなんだよ、ばあさんも俺も」と言った。
「慧が良い思いならいいのになっていう」
「…なるほど」
なんでなんだろうと考えたが、同じなのかもしれない。大切な人だから、そんな感じの。
「…つまり、石丸くんは俺のことを大切な人って、思ってるのかな」
「…恥ずかしいけど、そういうこと」
「だけど、別に自分のことは大切な人だと思ってくれなくて良くて、自分がいいようになって、欲しい、みたいな?」
「慧は自分をそう思ってるんだね。わかった」
その話は一度終わり、「慧が練習してるやつ聴かせて」と言われた。
「難しくて、なかなか」と答えると、「じゃあ一緒に聞こうよ」と言ってくれた。
大好きな歌を聴いてもられるのがちょっとだけ、嬉しいような気持ちになった。
「石丸くんは好きな歌はないの?」
「俺は結構ミーハーだから、でもギターはねぇ、家族のやつの唄」
あの、声が低い国民的イケメン…俳優だと思っていたけど、そういえばギター持ってたかも。
「その唄聴いてみるね」とその日は終わり、帰って検索したら良い唄だった。「ばあちゃぁん!」と思わず部屋から飛び出すほどに。
「わぁどうしたんだ!」と一緒に歌詞を見て聴いた。
タイムリー過ぎて二人で泣いてしまった。
「こん人ぉ、男前でえー唄歌うな~」
「ホントだよねぇっ。友達の推しなの~っ!」
「惚れちまうだ~」
「惚れちまうね~」
「さとちゃんは」
「唄えないね~っ!声良すぎる~っ!」
石丸くんの推しフィーバーは暫く続いた。
ばあちゃんはそれからこの歌をずっと口ずさむようになった。
おじいちゃんみたいな無口な強さ、おばあちゃんみたいな可愛い笑顔。きっとこうして二人は、出会ったんだ。
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