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俺はあれから、J-Rockの、グレッチギターの女の人のアルバムにハマったりした。
日本語は、頭にそのまま入ってきてしまう。
それがたまに、嫌になることがあった。
英詞ならば、脊髄反射では意味が理解に直結しない。俺がハマった女の人の歌詞は、日本語なのにまるで文学チックだった。いや、詞なのだから詩なのかもしれないけども。
Em D E♭
Cm DConD DCD
いつかの、「こんなとこ、まだ大丈夫じゃない」と吠えた母の衝撃や「福島から逃げてきたんだろ?」という衝撃。
わかるからこそ、心の裏側が薬のようにまわってくる、それを隠す心を考えてしまうと…怖くなる。
俺はどっち付かずな人間で、言葉を解くことが難しい。
どうしても一歩足りないような気がするけれども、彼女の唄で、こうして延々と物を考えるのが少し楽しいような気にもなったのだ。
「俺にとって優しくしたいことが、慧にとってはされたくないかもしれない」
言葉に出来ないけれどしようとしてくれた石丸くんは…立派だと思う。
その裏側は「綺麗じゃないよ」と言うけれど、考えても不快になることがないような気がした。
そんなことを話したら、石丸くんは笑って、「いやぁ、俺はただ慧に好かれたいだけだ」と言った。
「…どうして?」
「…慧は良いヤツだし、俺にこうやってギターを教えてくれてさ、あと、優しいし、絶対嘘も吐かないし、可愛らしいし」
「…うーん、ギターは楽しいからだよ。優しくもなく普通だし」
「…えー、でも俺ばあちゃんにジョンをやってあげるのとか、良いと思うけどなぁ。だって、本当は好きじゃないんだろ?その唄」
「んーでも…ばあちゃんには言わないよ?」
「そういうところだよ」
「…そういう、ところ…」
「だって、別に言ったっていいわけじゃん?学校の奴らだってそうだった」
「ばあちゃんが楽しいならいいなってだけで…」
「そう思うよ、俺も。でも、誰かを…こう、楽しませたいって思うの、それは酷い心じゃ出来ないわけでさ」
「…まぁ、確かにそうだね。俺、ばあちゃんに酷く出来ない」
「…聞いてみたんでしょ?家族のやつ」
ふと石丸くんはギターを突っ伏すように抱え、「慧の最近の推しは何?」と聞いてきた。
「ん?
あーね、ちょっと難しいんだけどさ…」
うーんと、Dと…1弦3フレッド2弦2フレッドで3弦1フレッド…とまごつく手に「出たー!オンコードだー!」と、石丸くんは楽しそうに笑った。
「分母とか分子とか、まさかギターで出ると思わなかったよな~」
「わかる~、しかも次がね、えっとここからDに戻して…うーんと5弦を親指で押さえて…」
…指吊りそうだけどじゃらーん。
「ん?ん?」と石丸くんも押さえるので「DonF#」と答える。
「この歌最近の推し?」
「うん。ここからCでG」
弾きながら「I wanna be with you~」と口ずさむと、石丸くんが「あ!知ってる!」と言うのがちょっと嬉しくて「ホントに!?」と盛り上がる。
「てゆうか慧すげぇ、その声まんま出るの…」
「あ、解説とかの人は大体下げて唄ってたから石丸くんも」
「めっちゃ萌えたんだけど今~」
石丸くんはあれからよく、家では抱き付いてくるようになった。
しかしふと、「あ!そうだ!」と石丸くんはがばっと立ち上がり、棚から1枚のCDを持ってきた。
「これ最近の俺の推し。慧洋楽聞いてたからさ~」
それは、見たことはあるCDジャケットだった。というか…。
「…カートだ」
「あ、知ってたか」
「唄に出てくる、カート」
調べたことがあった。歌詞の意味を知りたくて。
「あ、そうなの?」と言う彼に、ウォークマンを貸してみた。
ふんふんふんと暫く聞いて見つけたらしい、「あ、ホントだ!」と、石丸くんはニコニコした。
「履修要項なのかなニルヴァーナ…」
「どうだろうねぇ」
「リンゴはばあちゃんには唄ってないの?」
「ん?うん、そうだね」
「たまには慧の推しも聴かせてみたらどうかなぁ。結構声綺麗だと思う」
それが、グランジロックに足を突っ込んだ最初だった。
彼はギターを「死んだ木」と称したらしい。
薬物中毒の末、ピストル自殺をした。
コードも簡単だが、カート・コバーンは薬中だったせいか、ぶっちゃけビートルズより綺麗に音符は弾けていないし、ビートルズの後に入ったせいか、何を言っているのか発音も聴き取れない。
けれども少し、面白いと思った。
和訳を調べたりした。たくさんあった。
どれも、ちょっとだけ共感出来たり出来なかったり、それくらい、和訳もよく意味がわからない。それが凄く…よかった。
日本語は、頭にそのまま入ってきてしまう。
それがたまに、嫌になることがあった。
英詞ならば、脊髄反射では意味が理解に直結しない。俺がハマった女の人の歌詞は、日本語なのにまるで文学チックだった。いや、詞なのだから詩なのかもしれないけども。
Em D E♭
Cm DConD DCD
いつかの、「こんなとこ、まだ大丈夫じゃない」と吠えた母の衝撃や「福島から逃げてきたんだろ?」という衝撃。
わかるからこそ、心の裏側が薬のようにまわってくる、それを隠す心を考えてしまうと…怖くなる。
俺はどっち付かずな人間で、言葉を解くことが難しい。
どうしても一歩足りないような気がするけれども、彼女の唄で、こうして延々と物を考えるのが少し楽しいような気にもなったのだ。
「俺にとって優しくしたいことが、慧にとってはされたくないかもしれない」
言葉に出来ないけれどしようとしてくれた石丸くんは…立派だと思う。
その裏側は「綺麗じゃないよ」と言うけれど、考えても不快になることがないような気がした。
そんなことを話したら、石丸くんは笑って、「いやぁ、俺はただ慧に好かれたいだけだ」と言った。
「…どうして?」
「…慧は良いヤツだし、俺にこうやってギターを教えてくれてさ、あと、優しいし、絶対嘘も吐かないし、可愛らしいし」
「…うーん、ギターは楽しいからだよ。優しくもなく普通だし」
「…えー、でも俺ばあちゃんにジョンをやってあげるのとか、良いと思うけどなぁ。だって、本当は好きじゃないんだろ?その唄」
「んーでも…ばあちゃんには言わないよ?」
「そういうところだよ」
「…そういう、ところ…」
「だって、別に言ったっていいわけじゃん?学校の奴らだってそうだった」
「ばあちゃんが楽しいならいいなってだけで…」
「そう思うよ、俺も。でも、誰かを…こう、楽しませたいって思うの、それは酷い心じゃ出来ないわけでさ」
「…まぁ、確かにそうだね。俺、ばあちゃんに酷く出来ない」
「…聞いてみたんでしょ?家族のやつ」
ふと石丸くんはギターを突っ伏すように抱え、「慧の最近の推しは何?」と聞いてきた。
「ん?
あーね、ちょっと難しいんだけどさ…」
うーんと、Dと…1弦3フレッド2弦2フレッドで3弦1フレッド…とまごつく手に「出たー!オンコードだー!」と、石丸くんは楽しそうに笑った。
「分母とか分子とか、まさかギターで出ると思わなかったよな~」
「わかる~、しかも次がね、えっとここからDに戻して…うーんと5弦を親指で押さえて…」
…指吊りそうだけどじゃらーん。
「ん?ん?」と石丸くんも押さえるので「DonF#」と答える。
「この歌最近の推し?」
「うん。ここからCでG」
弾きながら「I wanna be with you~」と口ずさむと、石丸くんが「あ!知ってる!」と言うのがちょっと嬉しくて「ホントに!?」と盛り上がる。
「てゆうか慧すげぇ、その声まんま出るの…」
「あ、解説とかの人は大体下げて唄ってたから石丸くんも」
「めっちゃ萌えたんだけど今~」
石丸くんはあれからよく、家では抱き付いてくるようになった。
しかしふと、「あ!そうだ!」と石丸くんはがばっと立ち上がり、棚から1枚のCDを持ってきた。
「これ最近の俺の推し。慧洋楽聞いてたからさ~」
それは、見たことはあるCDジャケットだった。というか…。
「…カートだ」
「あ、知ってたか」
「唄に出てくる、カート」
調べたことがあった。歌詞の意味を知りたくて。
「あ、そうなの?」と言う彼に、ウォークマンを貸してみた。
ふんふんふんと暫く聞いて見つけたらしい、「あ、ホントだ!」と、石丸くんはニコニコした。
「履修要項なのかなニルヴァーナ…」
「どうだろうねぇ」
「リンゴはばあちゃんには唄ってないの?」
「ん?うん、そうだね」
「たまには慧の推しも聴かせてみたらどうかなぁ。結構声綺麗だと思う」
それが、グランジロックに足を突っ込んだ最初だった。
彼はギターを「死んだ木」と称したらしい。
薬物中毒の末、ピストル自殺をした。
コードも簡単だが、カート・コバーンは薬中だったせいか、ぶっちゃけビートルズより綺麗に音符は弾けていないし、ビートルズの後に入ったせいか、何を言っているのか発音も聴き取れない。
けれども少し、面白いと思った。
和訳を調べたりした。たくさんあった。
どれも、ちょっとだけ共感出来たり出来なかったり、それくらい、和訳もよく意味がわからない。それが凄く…よかった。
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