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圧倒的にこの場所は夜、男が多い。そのわりに女は訳ありでもない限りは大体が異性を連れている。
自分の快情動に違和感を持ったのは多分、結構早かったように思う。
宇賀神夫妻と過ごすようになりさらに強くなる。
興奮したタカシさんを見て、「あぁなるほど」とわかったのに「何か違う」と感じていたのだ。
誰かを寝取るそれとも違う、やはりあのシャワールームの耐え偲んだ、苦しいか気持ちいいか、理性と本能の弛み、歪んだ一線が頭にちらつく。
今日は四日月。アプリの通知をスライドする。
涙目でタカシさんが振り向いた瞬間、俺はやっぱり違うと気付いたのに、あの潜められた表情…マリコさんのそれとも異なっている。
ここにあるものの名前に行き着いた、「支配欲」というものかもしれないと。
それに靄が掛かるなんて。これはCTでもMRIでも写らないもの…疾患かもしれない。
研修期間の忙しさの中薄れそうなものを、どこかがはっきりと、鮮やかに焼き付いて離れなかった。
同時に副作用が酷く、抜いたあとに胸が少しチクりと痛むのだ。
この感覚にウズウズする。
一体俺はどうしたのかと、二週間の研修期間で考えた。なんとなくは見えているが本質かどうかはまだわからない。
背中から注射を刺されぼんやりとし始めたシベリアンハスキーの首元を「よしよし」と撫でながら俺はそんなことを頭のどこかで考えていた。
「望月くん」
はっと我に返った。
ナナちゃんは完全に快眠している。
「あ、ごめんごめん」
「珍しいね」と宝木さんは笑って許してくれる。
ミディアムボブのちょっと結った淡い色。多分もう少しあの人の方が短いけど、ジェンダーレスだったな。
二人でナナちゃんを仰向けにしながら思う。俺、やっぱりあの“りっちゃん”のことを考えすぎかもしれない。
珍しいって、そういえばタカシさんにも言われたな。
ナナちゃんを器具で固定し耳にイヤホンをつけ、円の中に入っていくのを見守る。
「最近溜め息多いね」
「ん?あぁ、まぁ、忙しくて」
「そう?でも講義よりなんか、よくない?こう…字面字面字面~てさ」
「んーまぁ確かに…」
今の状態で普通の講義なんて受けても頭に入らないかもしれないな。
こんなことは初めてだ。
「あー望月くん、宝木さん。休憩どうぞ」
院長はパソコン画面から顔を少しあげ、ニコッと笑った。
開業に10年掛かるとすれば、彼はもう40くらいだろうに、アゴヒゲすらも爽やかで若く見える。多分、ちょっと鍛えてるだろう。
「他の子にも会ったら伝えといて、俺も会ったら伝えるけれども。
午後イチで手術が一件あるから、その時間にこれは解説させるよ」
「わかりました。失礼します」
テキトーに廊下で見かけた子には声を掛ける。どうやら俺と宝木さんが休憩一番乗りだ。
男の獣医看護師はあまりいないらしい、研修も男は俺だけだった。
宝木さんはこうやって、休憩が被るせいかタバコを吸うのにも着いてくる。
望月くんって動物の扱いうまいよねとか、私ポジショナー付けるの苦手、だとか他愛のないことを話してくるのだけど、ふと、
「悩みは彼女?」
と聞いてきたのに灰を落としてしまった。
「あ、図星?」
「いや…いまはいないけど…」
「好きな人?」
「いや…」
瞬時に“りっちゃん”の表情が浮かんでしまう。
…ついにこんな思考と直結したか、と驚いた。
「あ、そーなの?」
宝木さんは少し声の温度をあげ「溜め息多いからさ」と笑う。
「てっきりそういうのかと思ったよーっ!」
「いや、まぁ色々…家のこともあるし」
追い出されそうでさ、とペラっと喋りそうになってやめた。いくらなんでもこんなことを宝木さんに言ったって、良い話じゃない。
「家?」
「あ、うん。親父とあんま口利いてなくて」
「そっか、家族思いだね」
予想外な反応でやっぱり、あまり意味もない話だなと、「いや、そうでもないよ」と俺もテキトーに返した。
タバコを消し先に控え室へ戻るのを、彼女は着いてくる。
聞いてもいないのだから「私もお父さんと全っ然話してないよ」というのも相槌程度で良いと、それから全然話は入ってこない。
流石にイヤホンをするのは悪いか、とケータイの音を切って寝転び、試しにテキトーなアダルト動画を探してぼんやりと眺めた。
至って普通そうなやつ。
天井の中にあるその行為の非現実性にカメラはフォーカスする。
女はぐずぐずだ。胸が揺れて動いている。たまに濡れた結合部も見えるのだけど、これはよく見る視点。
抜く気もないから騎乗位やバックは飛ばす。自分の快情動に違和感を持ったのはあの場所だった。
抱く側の女の視線は、ゲイビデオのネコ専の正常位ともまた違う。これは女に抱かれる男の顔が見えないし、バックは双方抱かれる側の顔が見えない。
タカシさんのそれで、少しだけそう、近付いた。
俺はいつもAVで、男も女も「いまこいつはどんな表情なんだ」と見えないものを追っているようだ。
だからタカシさんのも少し違うのかもしれない。
この性癖は一言で「見たい欲」なのか。
いや、ならばハプバーに手を出さなくても良いはずだけど。
「何観てるの?」と聞いてきた宝木さんを適当に誤魔化した。
自分の快情動に違和感を持ったのは多分、結構早かったように思う。
宇賀神夫妻と過ごすようになりさらに強くなる。
興奮したタカシさんを見て、「あぁなるほど」とわかったのに「何か違う」と感じていたのだ。
誰かを寝取るそれとも違う、やはりあのシャワールームの耐え偲んだ、苦しいか気持ちいいか、理性と本能の弛み、歪んだ一線が頭にちらつく。
今日は四日月。アプリの通知をスライドする。
涙目でタカシさんが振り向いた瞬間、俺はやっぱり違うと気付いたのに、あの潜められた表情…マリコさんのそれとも異なっている。
ここにあるものの名前に行き着いた、「支配欲」というものかもしれないと。
それに靄が掛かるなんて。これはCTでもMRIでも写らないもの…疾患かもしれない。
研修期間の忙しさの中薄れそうなものを、どこかがはっきりと、鮮やかに焼き付いて離れなかった。
同時に副作用が酷く、抜いたあとに胸が少しチクりと痛むのだ。
この感覚にウズウズする。
一体俺はどうしたのかと、二週間の研修期間で考えた。なんとなくは見えているが本質かどうかはまだわからない。
背中から注射を刺されぼんやりとし始めたシベリアンハスキーの首元を「よしよし」と撫でながら俺はそんなことを頭のどこかで考えていた。
「望月くん」
はっと我に返った。
ナナちゃんは完全に快眠している。
「あ、ごめんごめん」
「珍しいね」と宝木さんは笑って許してくれる。
ミディアムボブのちょっと結った淡い色。多分もう少しあの人の方が短いけど、ジェンダーレスだったな。
二人でナナちゃんを仰向けにしながら思う。俺、やっぱりあの“りっちゃん”のことを考えすぎかもしれない。
珍しいって、そういえばタカシさんにも言われたな。
ナナちゃんを器具で固定し耳にイヤホンをつけ、円の中に入っていくのを見守る。
「最近溜め息多いね」
「ん?あぁ、まぁ、忙しくて」
「そう?でも講義よりなんか、よくない?こう…字面字面字面~てさ」
「んーまぁ確かに…」
今の状態で普通の講義なんて受けても頭に入らないかもしれないな。
こんなことは初めてだ。
「あー望月くん、宝木さん。休憩どうぞ」
院長はパソコン画面から顔を少しあげ、ニコッと笑った。
開業に10年掛かるとすれば、彼はもう40くらいだろうに、アゴヒゲすらも爽やかで若く見える。多分、ちょっと鍛えてるだろう。
「他の子にも会ったら伝えといて、俺も会ったら伝えるけれども。
午後イチで手術が一件あるから、その時間にこれは解説させるよ」
「わかりました。失礼します」
テキトーに廊下で見かけた子には声を掛ける。どうやら俺と宝木さんが休憩一番乗りだ。
男の獣医看護師はあまりいないらしい、研修も男は俺だけだった。
宝木さんはこうやって、休憩が被るせいかタバコを吸うのにも着いてくる。
望月くんって動物の扱いうまいよねとか、私ポジショナー付けるの苦手、だとか他愛のないことを話してくるのだけど、ふと、
「悩みは彼女?」
と聞いてきたのに灰を落としてしまった。
「あ、図星?」
「いや…いまはいないけど…」
「好きな人?」
「いや…」
瞬時に“りっちゃん”の表情が浮かんでしまう。
…ついにこんな思考と直結したか、と驚いた。
「あ、そーなの?」
宝木さんは少し声の温度をあげ「溜め息多いからさ」と笑う。
「てっきりそういうのかと思ったよーっ!」
「いや、まぁ色々…家のこともあるし」
追い出されそうでさ、とペラっと喋りそうになってやめた。いくらなんでもこんなことを宝木さんに言ったって、良い話じゃない。
「家?」
「あ、うん。親父とあんま口利いてなくて」
「そっか、家族思いだね」
予想外な反応でやっぱり、あまり意味もない話だなと、「いや、そうでもないよ」と俺もテキトーに返した。
タバコを消し先に控え室へ戻るのを、彼女は着いてくる。
聞いてもいないのだから「私もお父さんと全っ然話してないよ」というのも相槌程度で良いと、それから全然話は入ってこない。
流石にイヤホンをするのは悪いか、とケータイの音を切って寝転び、試しにテキトーなアダルト動画を探してぼんやりと眺めた。
至って普通そうなやつ。
天井の中にあるその行為の非現実性にカメラはフォーカスする。
女はぐずぐずだ。胸が揺れて動いている。たまに濡れた結合部も見えるのだけど、これはよく見る視点。
抜く気もないから騎乗位やバックは飛ばす。自分の快情動に違和感を持ったのはあの場所だった。
抱く側の女の視線は、ゲイビデオのネコ専の正常位ともまた違う。これは女に抱かれる男の顔が見えないし、バックは双方抱かれる側の顔が見えない。
タカシさんのそれで、少しだけそう、近付いた。
俺はいつもAVで、男も女も「いまこいつはどんな表情なんだ」と見えないものを追っているようだ。
だからタカシさんのも少し違うのかもしれない。
この性癖は一言で「見たい欲」なのか。
いや、ならばハプバーに手を出さなくても良いはずだけど。
「何観てるの?」と聞いてきた宝木さんを適当に誤魔化した。
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