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狭間
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一週間を思い浮かべる。
漸く気付いた、いまこいつ試しやがってるな、俺を。
「…お前わかってるような雰囲気出してんだろそれ」
「まぁ、はい」
「何」
「それは探した方が、人生の一端っぽくないでしょうか」
そんな生意気を言われてしまえば当たり前、自然の流れで「ふっはっは!」と笑える。
「クソ生意気だな」
「それでもいいです」
「ホントに」
「好奇心ってやつじゃないです?」
「違うんだろ?」
「違うような気がするだけで」
「あーあ、勿体ぶりやがって。なんなんだか。俺は案外気が短いぞ」
「そうでしょうか?」
「うん」
どこかから「寂しい」と言うのが漂着してきて、それはまた流されていく。自分はただただ、留まることしかしないのに、と妻の背中を思い出した。
でも、そこに残ったのは最後、後ろめたそうに顔を歪めた表情だけで、実は妻の顔なんてもう、覚えていないような気がして。
「…不思議だな」
「はい?」
「そんなことでチラつくのは元嫁か…いや、違うのかも。母さんに絶縁告げたときの強烈な表情なのかもしれんし…」
「…そう、」
「母は自殺未遂の名人でな。サブリミナルってすげぇ。なんで思い出すかはわからんけど」
「…そーゆー感覚はわからなくないような」
「まぁ、取り敢えず漂着した、なんも関連はなくとも。本音はスッキリしたよ」
何も言わずともそれから瑠璃は俺を見続けている。これはきっと熱だと思う。
狭間だ。こんな角の泥溜まりに辿り着くなんて。
「…一回帰るのやめるか」
「相変わらず…」
「意味わかんないか?」
「いや、」
「そ。良い?」
痛い狭間。何者にもなれない。
この使い古した刺激を更に知りたくなった。
ただただぼんやりなような気もするけど、頷いた瑠璃は結構ハッキリしていた。
多分、新しいものなんてない。
聞き古したカーステレオの音量を久々に入れた。
新しくはない景色。目に移るものは全てもうそこにあるはず、異性関係にしても、人間関係にしても。
基本的には苦し紛れでいつでも。手に余るだろうから。
そう思いながら俺はホテルで瑠璃を抱いた。流れか、そう、自然だ。
考えてみたらじゃない方がおかしいし気持ち悪いだろうだなんてくだらないこと言う意味すらない。
瑠璃はこういうのは初めてだったらしい。ホテルというだけで初に照れていた。
「…っはぁ…、」
思っていたよりも大人な表情、仕草、体型。若々しく充分張りのある白い肌、小さな吐息、微かな声。
暖かい、いや、熱い。
刻み付けるような光が射して、鮮やかに見える。
好奇心、確かにそれとは程遠いくせに、心が、身体が、道徳が、理念が首根を掴まれ締め付けられる。まだ、まだ、でも、抗えない。
これは、暗い考えなんだろうか。
どこかやり切れなさを漸く感じてきたのは事実で、じゃあ何故、早くしたい、でもまだ終わりにしたくない、あと一線が見えているのになと感じるのは、性なのかもしれない。
きっと満たされないのに満ち溢れている。
「千秋さん、」
呼んで手を背に回した彼女は切れそうに「よかった、」と息を切らす。これにすらまだ終わらせたくないなだなんて思うのに気持ちが痛い。
「…少し、休憩」
…歳かもしれない。
彼女は疲れたように抱き締めてくれた。
それだけ。
滑らかで、求められていて。心臓が早まるのを抑えなければ急に溢れて、すり抜けていって、きっと寂しくなるからだろうだなんて。
逃げるな微睡み。
髪を遊ぶように撫でる、それは、ぎこちなくとも気に入った。
ゆっくり、ゆっくりと満たされると、その分同時に寂しくなるだなんて、人間上手くは出来ていないようだ。
最後、ぼんやりそう思って眺めた窓を、瑠璃がどう見たかは聞けなかった。
ただただ、一生懸命当たり前に生きているだけ。それにどんな罪があるんだろう。
ぼんやりしそう。
多分、それだけでたくさんあると、当たり前に俺より小さな身体を眺めてそう思った。
気付けば瑠璃は眠ったようだった。
漸く気付いた、いまこいつ試しやがってるな、俺を。
「…お前わかってるような雰囲気出してんだろそれ」
「まぁ、はい」
「何」
「それは探した方が、人生の一端っぽくないでしょうか」
そんな生意気を言われてしまえば当たり前、自然の流れで「ふっはっは!」と笑える。
「クソ生意気だな」
「それでもいいです」
「ホントに」
「好奇心ってやつじゃないです?」
「違うんだろ?」
「違うような気がするだけで」
「あーあ、勿体ぶりやがって。なんなんだか。俺は案外気が短いぞ」
「そうでしょうか?」
「うん」
どこかから「寂しい」と言うのが漂着してきて、それはまた流されていく。自分はただただ、留まることしかしないのに、と妻の背中を思い出した。
でも、そこに残ったのは最後、後ろめたそうに顔を歪めた表情だけで、実は妻の顔なんてもう、覚えていないような気がして。
「…不思議だな」
「はい?」
「そんなことでチラつくのは元嫁か…いや、違うのかも。母さんに絶縁告げたときの強烈な表情なのかもしれんし…」
「…そう、」
「母は自殺未遂の名人でな。サブリミナルってすげぇ。なんで思い出すかはわからんけど」
「…そーゆー感覚はわからなくないような」
「まぁ、取り敢えず漂着した、なんも関連はなくとも。本音はスッキリしたよ」
何も言わずともそれから瑠璃は俺を見続けている。これはきっと熱だと思う。
狭間だ。こんな角の泥溜まりに辿り着くなんて。
「…一回帰るのやめるか」
「相変わらず…」
「意味わかんないか?」
「いや、」
「そ。良い?」
痛い狭間。何者にもなれない。
この使い古した刺激を更に知りたくなった。
ただただぼんやりなような気もするけど、頷いた瑠璃は結構ハッキリしていた。
多分、新しいものなんてない。
聞き古したカーステレオの音量を久々に入れた。
新しくはない景色。目に移るものは全てもうそこにあるはず、異性関係にしても、人間関係にしても。
基本的には苦し紛れでいつでも。手に余るだろうから。
そう思いながら俺はホテルで瑠璃を抱いた。流れか、そう、自然だ。
考えてみたらじゃない方がおかしいし気持ち悪いだろうだなんてくだらないこと言う意味すらない。
瑠璃はこういうのは初めてだったらしい。ホテルというだけで初に照れていた。
「…っはぁ…、」
思っていたよりも大人な表情、仕草、体型。若々しく充分張りのある白い肌、小さな吐息、微かな声。
暖かい、いや、熱い。
刻み付けるような光が射して、鮮やかに見える。
好奇心、確かにそれとは程遠いくせに、心が、身体が、道徳が、理念が首根を掴まれ締め付けられる。まだ、まだ、でも、抗えない。
これは、暗い考えなんだろうか。
どこかやり切れなさを漸く感じてきたのは事実で、じゃあ何故、早くしたい、でもまだ終わりにしたくない、あと一線が見えているのになと感じるのは、性なのかもしれない。
きっと満たされないのに満ち溢れている。
「千秋さん、」
呼んで手を背に回した彼女は切れそうに「よかった、」と息を切らす。これにすらまだ終わらせたくないなだなんて思うのに気持ちが痛い。
「…少し、休憩」
…歳かもしれない。
彼女は疲れたように抱き締めてくれた。
それだけ。
滑らかで、求められていて。心臓が早まるのを抑えなければ急に溢れて、すり抜けていって、きっと寂しくなるからだろうだなんて。
逃げるな微睡み。
髪を遊ぶように撫でる、それは、ぎこちなくとも気に入った。
ゆっくり、ゆっくりと満たされると、その分同時に寂しくなるだなんて、人間上手くは出来ていないようだ。
最後、ぼんやりそう思って眺めた窓を、瑠璃がどう見たかは聞けなかった。
ただただ、一生懸命当たり前に生きているだけ。それにどんな罪があるんだろう。
ぼんやりしそう。
多分、それだけでたくさんあると、当たり前に俺より小さな身体を眺めてそう思った。
気付けば瑠璃は眠ったようだった。
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