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二、
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さてこれをどう言おうか、いや、別に二人は怒らないだろうけどと、由紀子は亜里沙を意識しつつ、南口で待っていた春夏と修介に「お待たせ!」と手を振った。
春夏と修介は確かに、自分の後ろから着いて来る妹の方を見ている。
「よぉ、」
「ごめんね、電車が」
休日の昼にして遅延。
というか、駅で待ち合わせというのが珍しい。事前連絡はしたが今日も真夏日、待たせたことに申し訳がない気分になる。
「熱い中ご苦労さん、災難だったなぁ。痴漢だろ?」
「人立ち入り?」
「痴漢かな。まぁ仕方ないよ。
えっと、妹?」
修介は、まるで由紀子と初めて会ったときのような、少し距離のある態度を取り始める。
「はじめましてぇ、亜里沙でぇすっ」
妹の亜里沙はデカい数字のプリントされたTシャツに足出し厚底靴といった、水色ワンピースの由紀子とは全く違う雰囲気で来ている。
「これが妹?」と言いたそうな二人の表情は予想通りだった。
「はじめまして瀬戸です…」
やはりそうだ、妹と目を合わせられない修介が無駄に名字なんかで自己紹介している。
「系列が違うな」とボソッと言った春夏にそれは決定付けられた。
「瀬戸さんですね、そっちのお兄さん、お名前は?」
しかし亜里沙はどうやら初めから修介よりも春夏に気がいくようで、最早修介のことは見ていないと言いたげな食い付き方をする。
「あぁどうも篠田でーす」と、恐らくふざけ半分で名乗った春夏へ「あはは!何歳ですか?篠田さんでいいですか?」と、妹は瞬時に懐いた。
由紀子と修介は目を合わせたが、修介は無礼よりか、少なからず安心したように見えた。
「ごめんねしゅうちゃん…」
「いや、別に」
まぁそうだ、多分慣れているだろう。
春夏も自然と「27」と、素っ気なく引き受けてくれたのだからそれを筆頭とすることになった。
「電車大丈夫だった?」
「うん、学校は電車だから」
普段ならば車でちょっと行く距離。昨晩、どうしてもと妹にせがまれこうなった。
「ちょっと歩くけど、お前ら飲み物ある?コンビニ寄るか」
「あぁそうか」
いつもと違う段取り、やはり感じが変わってくる。
「あ、さっき買ったよー、ハルちゃん」
「ん?あぁまぁ買っとけ。てか、俺の用事に付き合わせて悪いな。なんか食いたいもん考えとけ」
「わぁ!やった!私もハルちゃんでいいですかぁ?」
「別にいいけど」
素っ気ない態度をされても、妹は春夏に懐いている。
「いいよなぁハルは」とぼやいた修介に、同じことを思ったのかと感心する。
「……なんか、意外だわ」
「似てないって言われると思った…」
「うん、全然違うな」
亜里沙はこんな後ろのことに気付きもしないだろう。
「昨日も急に言い出しちゃってさ」
「ん、まぁ良いんだけど、俺…面白くないんじゃねーかな…」
「ごめんね、気を遣わなくていいからね」
そういうわけにもいかないだろう。言われはしないがわかる。
亜里沙は飽きも途切れもせずに、春夏へポンポンと話を振っている。よくそれほど話題があるもんだと、きっと修介も感心しているだろう。
春夏は亜里沙に無難な対応をしているのだが、端から見れば完全に「脈なし」「空気が読めない」というくらいの温度差だった。
やっぱり止めておけばよかったな…。
どうやらその憂鬱は伝わったらしく「まぁさ、」と修介は少し声を変えてきた。
「由紀子、何食う?パンケーキとか食う?」
「あー…うん、あそこで一回食べたよね、あれ美味しかったね」
「うん、衝撃だったよなあのふわふわ。妹ちゃんも喜ぶかな」
「あまりよくわかってないんだ、妹の趣味とか」
「そっかい。
ハルー、なぁ」
ピタッと話を止めて振り向いた亜里沙が春夏の腕を掴む勢い。
先程より無表情になりつつあった春夏が「何」と無愛想ながら「助かった…」と言わんばかりに光を取り戻し始めた。
「前にさ、流行り偵察したときのパンケーキ食わね?妹ちゃんはパンケーキ好き?」
「え、あ、ハイ、超好きですヤバいです」
「あーいいよ。俺も若干食欲もねぇしな…」
同意を得てはまた「夏バテですかぁ?」と結局は春夏の気休めにもならない話題だったようだ。
「歳食うと果物って食うようになるんだよ」
「歳って!ハルちゃん若く見えますよ、かっこいいし!」
ハルちゃん凄い。そしてごめんね。
最早諦めたらしい修介は「すげーなぁ」と一気に他人事になり始めた。
「やっぱモテるヤツって違うよな、扱いが慣れてる」
「…凄く嫌そうで申し訳ないんだけど……」
「まー由紀子は関係ないよね、あいつのせいというか才能な気がしてきたわ。あいつ器用貧乏だ」
「メガネ、でっけぇ一人言サンキュ」
語尾にムカつきマークが付きそうな春夏の返答、妹はそれをスルーしている。
「役割だ役割」と、小さめに返した修介に返事は返ってこなかった。
「陰キャオタクには一生無縁だなアレ」
そういえば春夏と修介も、結構違うタイプのような気がする。
「しゅうちゃん、ハルちゃんのどんなところがいいの?」
「……え?急に悪口?」
「違う違う」
「あ、ビックリした。俺多分今かなりキョドってんのかも」
「うん…」
話している間にコンビニに寄った。
春夏と修介は確かに、自分の後ろから着いて来る妹の方を見ている。
「よぉ、」
「ごめんね、電車が」
休日の昼にして遅延。
というか、駅で待ち合わせというのが珍しい。事前連絡はしたが今日も真夏日、待たせたことに申し訳がない気分になる。
「熱い中ご苦労さん、災難だったなぁ。痴漢だろ?」
「人立ち入り?」
「痴漢かな。まぁ仕方ないよ。
えっと、妹?」
修介は、まるで由紀子と初めて会ったときのような、少し距離のある態度を取り始める。
「はじめましてぇ、亜里沙でぇすっ」
妹の亜里沙はデカい数字のプリントされたTシャツに足出し厚底靴といった、水色ワンピースの由紀子とは全く違う雰囲気で来ている。
「これが妹?」と言いたそうな二人の表情は予想通りだった。
「はじめまして瀬戸です…」
やはりそうだ、妹と目を合わせられない修介が無駄に名字なんかで自己紹介している。
「系列が違うな」とボソッと言った春夏にそれは決定付けられた。
「瀬戸さんですね、そっちのお兄さん、お名前は?」
しかし亜里沙はどうやら初めから修介よりも春夏に気がいくようで、最早修介のことは見ていないと言いたげな食い付き方をする。
「あぁどうも篠田でーす」と、恐らくふざけ半分で名乗った春夏へ「あはは!何歳ですか?篠田さんでいいですか?」と、妹は瞬時に懐いた。
由紀子と修介は目を合わせたが、修介は無礼よりか、少なからず安心したように見えた。
「ごめんねしゅうちゃん…」
「いや、別に」
まぁそうだ、多分慣れているだろう。
春夏も自然と「27」と、素っ気なく引き受けてくれたのだからそれを筆頭とすることになった。
「電車大丈夫だった?」
「うん、学校は電車だから」
普段ならば車でちょっと行く距離。昨晩、どうしてもと妹にせがまれこうなった。
「ちょっと歩くけど、お前ら飲み物ある?コンビニ寄るか」
「あぁそうか」
いつもと違う段取り、やはり感じが変わってくる。
「あ、さっき買ったよー、ハルちゃん」
「ん?あぁまぁ買っとけ。てか、俺の用事に付き合わせて悪いな。なんか食いたいもん考えとけ」
「わぁ!やった!私もハルちゃんでいいですかぁ?」
「別にいいけど」
素っ気ない態度をされても、妹は春夏に懐いている。
「いいよなぁハルは」とぼやいた修介に、同じことを思ったのかと感心する。
「……なんか、意外だわ」
「似てないって言われると思った…」
「うん、全然違うな」
亜里沙はこんな後ろのことに気付きもしないだろう。
「昨日も急に言い出しちゃってさ」
「ん、まぁ良いんだけど、俺…面白くないんじゃねーかな…」
「ごめんね、気を遣わなくていいからね」
そういうわけにもいかないだろう。言われはしないがわかる。
亜里沙は飽きも途切れもせずに、春夏へポンポンと話を振っている。よくそれほど話題があるもんだと、きっと修介も感心しているだろう。
春夏は亜里沙に無難な対応をしているのだが、端から見れば完全に「脈なし」「空気が読めない」というくらいの温度差だった。
やっぱり止めておけばよかったな…。
どうやらその憂鬱は伝わったらしく「まぁさ、」と修介は少し声を変えてきた。
「由紀子、何食う?パンケーキとか食う?」
「あー…うん、あそこで一回食べたよね、あれ美味しかったね」
「うん、衝撃だったよなあのふわふわ。妹ちゃんも喜ぶかな」
「あまりよくわかってないんだ、妹の趣味とか」
「そっかい。
ハルー、なぁ」
ピタッと話を止めて振り向いた亜里沙が春夏の腕を掴む勢い。
先程より無表情になりつつあった春夏が「何」と無愛想ながら「助かった…」と言わんばかりに光を取り戻し始めた。
「前にさ、流行り偵察したときのパンケーキ食わね?妹ちゃんはパンケーキ好き?」
「え、あ、ハイ、超好きですヤバいです」
「あーいいよ。俺も若干食欲もねぇしな…」
同意を得てはまた「夏バテですかぁ?」と結局は春夏の気休めにもならない話題だったようだ。
「歳食うと果物って食うようになるんだよ」
「歳って!ハルちゃん若く見えますよ、かっこいいし!」
ハルちゃん凄い。そしてごめんね。
最早諦めたらしい修介は「すげーなぁ」と一気に他人事になり始めた。
「やっぱモテるヤツって違うよな、扱いが慣れてる」
「…凄く嫌そうで申し訳ないんだけど……」
「まー由紀子は関係ないよね、あいつのせいというか才能な気がしてきたわ。あいつ器用貧乏だ」
「メガネ、でっけぇ一人言サンキュ」
語尾にムカつきマークが付きそうな春夏の返答、妹はそれをスルーしている。
「役割だ役割」と、小さめに返した修介に返事は返ってこなかった。
「陰キャオタクには一生無縁だなアレ」
そういえば春夏と修介も、結構違うタイプのような気がする。
「しゅうちゃん、ハルちゃんのどんなところがいいの?」
「……え?急に悪口?」
「違う違う」
「あ、ビックリした。俺多分今かなりキョドってんのかも」
「うん…」
話している間にコンビニに寄った。
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