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Film 2
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自然というのは広く豊かで、都会の空気を忘れさせてくれる。
と言うのは少し言い過ぎのような気がしている都会のすきま風の中、何故こんなところに自分は駆り出されたのだろうかとぼんやり考えても、納得はいかなかった。
「全然入らないよ、ナツエ!」
現在、千葉近辺の沼に来ている。
ソラが、川の端に出来た流れから少し外れた水溜まりのような所にしゃがんで水面を眺め、叫ぶ。
同じ学者であるが専門が違う、釣りが趣味な変人、南沢夏江に連れられ、先日この男に押し付けられた子供ソラと共に、雨川真冬は休日を返上したのだった。
「ソラ、そこにずっといたらエビがびっくりしちゃうんだよ、きっと!」
当の南沢は雨川の左側から、雨川の右側にいる不服そうな顔をした子供に話し掛ける。その手には小さな網と側に青いバケツ。その微笑ましいはずの光景に雨川は心底から溜め息を吐いた。
雨川はと言うと、二人の真ん中にレジャーシートを敷いて目の前に置いた、メダカが数匹泳ぐペットボトルを眺めている。
あれ。
てか、メダカ減ったなぁ。
ぼんやりしてみては、じっと眺める。先程まで少なくとも10匹はいたのに、今や3匹。一体どこへ言ったのか。
食べたのかなぁ、と雨川がぼんやりしていれば「いないよマフユちゃん、」と、少しぎこちない日本語で、長い、白に近い綺麗なネイティブ金髪のソラが、何故だか毛先を少し濡らして雨川の元に歩いてきた。
上着は雨川が与えた白いカットシャツだが、下は真っ赤な、南沢の高校だか中学だかわからない体育ジャージを着ているソラに、やはり溜め息を吐きたくなった。
「あ!マフユちゃん!」
そのソラが碧眼を丸くし、驚いたように自分の方を指差して言うので「どうしたのソラ」と怠そうに雨川が声を掛ければ、「フライト!魚!」と言うので疑問。子供の反応にわからず雨川は素直に首を傾げてソラを見るが「凄い凄い!」と笑顔ではしゃいでいるばかり。
何事かなぁ、とふと前を見れば「ん?」
ペットボトルのメダカが一匹減っていた。
「フライト!フライト!」
なんだろう。と、思っていれば、
「うぁっ!」
飛んだ。メダカ。
思わず雨川が後ずさればソラが「あははー!」と凄く楽しそう。
マジかぁ。
メダカって凄いな跳躍力。もう残り一匹になってしまった。
「どしたの二人とも。楽しそうだね」
網から何かをバケツに移しながら南沢は言い、そのままバケツと網を持って歩いてくれば、「ん?」と怪訝な顔をした。
「あれ、」
「凄いよナツエ!フライト!フライト!」
「え、メダカ逃げちゃったの雨川くん」
「わかんないです嫌だこれ何ぃ!?」
「あ、またまた!フライト!」
「へ?」
いなくなっていた。
「あっちゃ~」
大袈裟に、しかし緊張感なく言う南沢は、「逆流用にすればよかったねぇ」とのんびりと言った。
「あ、雨川くん凄くビックリしてる」
「…メダカって」
「うん飛ぶよ。まさかそんなに飛ぶとは…ナメてたなぁ」
と言ってバケツを置き、しゃがみこんで雨川の隣に置いてあった工具箱のような物から、ペットボトルを斬るハサミを取り出し、何もいなくなり川の水だけになったペットボトルの水を捨てて頭部を斬った。
「じゃぁまたメダカ捕ってきてよ雨川くん」
「嫌ですよ」
汚いじゃない。川の水なんて。
「でもさっき良い腕してたじゃないの」
「嫌ですって汚いし」
「何言ってんの、綺麗なとこしかメダカは住めないよ。エビもだけど。
あ、ソラ、エビは?」
「入らないからつまんない!」
「気が短いのね意外と。
よしじゃぁ次はね、はいこれ。あっちでエビ釣ってきて」
南沢はソラに糸のようなものを渡して微笑み、「大丈夫大丈夫。小さいやつ。取れたとき歩いてくるからね」と言ってソラの頭を撫でた。
「歩く?」
「うん、こうね、ソラが持ってる方にてくてくてくって、糸を伝って歩いてくるから。あっちに餌巻いたから」
「え、やるやる!」
楽しそうに、南沢が今来た方へソラが歩いていくので、「あ、ソラ、足まくって!」と雨川が指示するも、
「あしまくる?」
疑問そうに首を傾げてソラは振り向いた。
ちょっと可愛いなと思いながらも至ってクールに雨川は、「ズボンの下、」と言うがソラはわからないらしい。
足元をソラが眺め始めたので、
「よしよし、はいはい」
と南沢がソラのズボンを折り目をつけて上げていた。終わって南沢が見上げて微笑めば、「とってくる!」と行ってしまった。
それを眺めていれば南沢は雨川の隣に腰かけた。自分がまくったズボンは下げないままだ。
「…あの」
「何?」
「休日だったんですけど、俺」
「俺もだよ?」
「なんでこんなことさせられてるんですか」
「何言ってんの。いかにも休日のパパとママと子供っぽいじゃない」
「あんたの趣味ですよねこれ」
「そうだけど?楽しいでしょ」
「全っ然。これっぽっちも」
憎しみを込めて雨川が言うも南沢はまた立ち上がり、「あっちだよね、メダカいたの」と、ソラがさっきいた付近を指した。
話聞いてねぇ、こいつ。
と言うのは少し言い過ぎのような気がしている都会のすきま風の中、何故こんなところに自分は駆り出されたのだろうかとぼんやり考えても、納得はいかなかった。
「全然入らないよ、ナツエ!」
現在、千葉近辺の沼に来ている。
ソラが、川の端に出来た流れから少し外れた水溜まりのような所にしゃがんで水面を眺め、叫ぶ。
同じ学者であるが専門が違う、釣りが趣味な変人、南沢夏江に連れられ、先日この男に押し付けられた子供ソラと共に、雨川真冬は休日を返上したのだった。
「ソラ、そこにずっといたらエビがびっくりしちゃうんだよ、きっと!」
当の南沢は雨川の左側から、雨川の右側にいる不服そうな顔をした子供に話し掛ける。その手には小さな網と側に青いバケツ。その微笑ましいはずの光景に雨川は心底から溜め息を吐いた。
雨川はと言うと、二人の真ん中にレジャーシートを敷いて目の前に置いた、メダカが数匹泳ぐペットボトルを眺めている。
あれ。
てか、メダカ減ったなぁ。
ぼんやりしてみては、じっと眺める。先程まで少なくとも10匹はいたのに、今や3匹。一体どこへ言ったのか。
食べたのかなぁ、と雨川がぼんやりしていれば「いないよマフユちゃん、」と、少しぎこちない日本語で、長い、白に近い綺麗なネイティブ金髪のソラが、何故だか毛先を少し濡らして雨川の元に歩いてきた。
上着は雨川が与えた白いカットシャツだが、下は真っ赤な、南沢の高校だか中学だかわからない体育ジャージを着ているソラに、やはり溜め息を吐きたくなった。
「あ!マフユちゃん!」
そのソラが碧眼を丸くし、驚いたように自分の方を指差して言うので「どうしたのソラ」と怠そうに雨川が声を掛ければ、「フライト!魚!」と言うので疑問。子供の反応にわからず雨川は素直に首を傾げてソラを見るが「凄い凄い!」と笑顔ではしゃいでいるばかり。
何事かなぁ、とふと前を見れば「ん?」
ペットボトルのメダカが一匹減っていた。
「フライト!フライト!」
なんだろう。と、思っていれば、
「うぁっ!」
飛んだ。メダカ。
思わず雨川が後ずさればソラが「あははー!」と凄く楽しそう。
マジかぁ。
メダカって凄いな跳躍力。もう残り一匹になってしまった。
「どしたの二人とも。楽しそうだね」
網から何かをバケツに移しながら南沢は言い、そのままバケツと網を持って歩いてくれば、「ん?」と怪訝な顔をした。
「あれ、」
「凄いよナツエ!フライト!フライト!」
「え、メダカ逃げちゃったの雨川くん」
「わかんないです嫌だこれ何ぃ!?」
「あ、またまた!フライト!」
「へ?」
いなくなっていた。
「あっちゃ~」
大袈裟に、しかし緊張感なく言う南沢は、「逆流用にすればよかったねぇ」とのんびりと言った。
「あ、雨川くん凄くビックリしてる」
「…メダカって」
「うん飛ぶよ。まさかそんなに飛ぶとは…ナメてたなぁ」
と言ってバケツを置き、しゃがみこんで雨川の隣に置いてあった工具箱のような物から、ペットボトルを斬るハサミを取り出し、何もいなくなり川の水だけになったペットボトルの水を捨てて頭部を斬った。
「じゃぁまたメダカ捕ってきてよ雨川くん」
「嫌ですよ」
汚いじゃない。川の水なんて。
「でもさっき良い腕してたじゃないの」
「嫌ですって汚いし」
「何言ってんの、綺麗なとこしかメダカは住めないよ。エビもだけど。
あ、ソラ、エビは?」
「入らないからつまんない!」
「気が短いのね意外と。
よしじゃぁ次はね、はいこれ。あっちでエビ釣ってきて」
南沢はソラに糸のようなものを渡して微笑み、「大丈夫大丈夫。小さいやつ。取れたとき歩いてくるからね」と言ってソラの頭を撫でた。
「歩く?」
「うん、こうね、ソラが持ってる方にてくてくてくって、糸を伝って歩いてくるから。あっちに餌巻いたから」
「え、やるやる!」
楽しそうに、南沢が今来た方へソラが歩いていくので、「あ、ソラ、足まくって!」と雨川が指示するも、
「あしまくる?」
疑問そうに首を傾げてソラは振り向いた。
ちょっと可愛いなと思いながらも至ってクールに雨川は、「ズボンの下、」と言うがソラはわからないらしい。
足元をソラが眺め始めたので、
「よしよし、はいはい」
と南沢がソラのズボンを折り目をつけて上げていた。終わって南沢が見上げて微笑めば、「とってくる!」と行ってしまった。
それを眺めていれば南沢は雨川の隣に腰かけた。自分がまくったズボンは下げないままだ。
「…あの」
「何?」
「休日だったんですけど、俺」
「俺もだよ?」
「なんでこんなことさせられてるんですか」
「何言ってんの。いかにも休日のパパとママと子供っぽいじゃない」
「あんたの趣味ですよねこれ」
「そうだけど?楽しいでしょ」
「全っ然。これっぽっちも」
憎しみを込めて雨川が言うも南沢はまた立ち上がり、「あっちだよね、メダカいたの」と、ソラがさっきいた付近を指した。
話聞いてねぇ、こいつ。
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