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Film 4
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脂っぽい、甘い臭いがする。
自分より少し高い体温と胸の音を感じて、雨川は朝、目を覚ます。
雨川が目を開けると、ソラが自分と向かい合って寝ているとわかる。
だが、眼前にソラの胸がある。
一気に焦燥感に煽られ寝ぼけることもなくすぐに覚醒出来たした。
「そ、ソラ?」
どうやら、布団に潜り込んできたらしいな。
雨川はとっさにソラから少し離れるが、「んー」と、ソラは起きているのかいないのか、その雨川の頭部をまた戻すように引き寄せるのだから困ってしまう。
いくら、それほど目立つ胸ではないとしても、流石にダイレクトで顔を突っ込んでしまってはならない、雨川は顔を背けようとするが、微かな寝汗、なのだろうか、所謂子供の臭いなのだろうか、落ち着くような、癖になるような臭いがした。
…ちょっと、いいなぁ。
昨日はどうしてこうなっているんだと思い出せば、確か先に自分が寝たはず、というか自分はそうだ、生理の腹痛と眠気でソラに頼りきってしまったのだけれど…多分個別で寝たと思うんだが…。
今日は全くと言って良いほど腹痛もない。いや、少しは、なんだか怪我をしたときのようなむず痒さを下っ腹の…中に感じるような気もするけれど、恐らくこれは、なんとなく、生理は終わったのだろう。
ソラの散らばる金髪は柔らかい。
ソラの頭部に、少しだけ鼻をすんすんしたが、ふと、なんだかソラの体温が高い気がした。
眠るソラの額に手を当てると、若干汗ばんでいるし、よく見れば色白なはずの頬も火照って赤くなっているような気がする。
「…ソラ、おはよう」
眺めてみればはぁはぁ、ソラは少しだけ息も苦しそうだ。
「…ソラ?」
雨川が声を掛ければ「んう…」とソラは起床し、見ればふにゃっと笑い「おはぉ…マフユにゃん…」とモゴモゴふにゃふにゃしている。
「おはよう、ソラ、熱くない?」
「んー…」
体温計どこにあったかな。
身を翻して雨川はベットの真横の引き出しを開ける。
南沢に最近新たに買い与えられた、高性能らしい体温計は1番目の引き出しにあった。
透明なケースから外し、「ソラ、計ろう」と体温計を見せるのだが、ソラはぼーっとしてしまっている。
仕方ないなと、抵抗はありつつも雨川はソラの腕を少しあげ、ソラのシャツの裾から手を入れて脇に挟ませようとするが、「いひゃぁ、くすぐったい」と嫌がられ、手は押しやられてしまった。
「ごめん、自分で計ってよ…」
断念してもう一度計らせようと見せると、「これはなぁに?」と、聞かれる。
「体温計。身体の温度を図るんだよ」
「身体のオンド?」
「ソラ、熱くないの?」
「んー、あつい…」
「これを脇の下に挟んで。ピピッと鳴るまでじっとして」
説明を聞いたソラは言われた通りに脇を締め、「じー」と言う。なんだか元気かな、大丈夫かもしれないと言う気がしてきた。
しかし、ピピッと体温計が鳴りソラから渡され見てみれば、表示は38.3°。ソラの平熱を雨川は知らないが、これは高い。確か人の脳は、38°台は良くないハズだ。
「ソラ、熱あるね。具合悪いでしょ」
「…わかんない」
「ダルかったりとか」
「んー?」
「身体が、なんかうーん、重いとか、頭が痛いとか…くしゃみ」
「くしゅっ、…うしゅっ、………しっ、」
非常に可愛らしく不完全燃焼に似た、最早どうやったらそう出るのだろうというくらいに小さな、ぶりっ子がしそうなくしゃみを3回連発された。
ソラの女子力は非常に良くないな、少なくとも好きじゃないなと雨川は思いつつ、「…寒い?鼻水?」と聞くのが大人の責務だと、苦笑いをしてティッシュ箱をソラへ差し出した。
「うぐぅ~」とソラは言いつつ、しかし鼻水ばかりは豪快に3枚のティッシュを消費したソラに雨川は不思議な感覚を得る。
「…風邪だねきっと。うーんどうしよう」
そもそもソラ、日本の、しかも被保険者なのだろうかとふと、雨川の頭を過る。
そのへんを南沢に聞かなければ、というかそうだ、何故最初に聞かなかったのだろうかと、南沢へ電話しようと考えたが、ちらっと、昨日の診察室でのことを思い出した。
「……」
そんなことを言っても仕方ないのだが、雨川はソラの額と自分の額に手を当てながら、「冷えピタ買おうか」とぼそりと呟いた。
「ヒエピタ?」
「…冷却シート。熱を冷ますやつだよ」
「うん?」
「ソラは今日は寝ていていいよ。ほんのちょっとだけ、病気しちゃったみたいだから」
「ビョーキ?」
そう聞けばソラは少し不安、悲しそうに「ソラは死んじゃうの?」だなんて聞くのだから、堪らなくなる。
「大丈夫だよ、全然死なない、大体は」
「マフユちゃん、お腹ダイジョブ?」
「うん、ありがと。ソラのお陰で治ったよ。無理させちゃってごめんな」
「よかったぁ」
ソラがにへら、と笑うのが可愛らしい。雨川の頭には「母性本能」と言う漢字四文字が頭に浮かんだ。
これはそう、「育児休暇」のようなものだろうか。そううっすらと考えて雨川はケータイを卓上の充電器から外し、電話をしようと考えた。
自分より少し高い体温と胸の音を感じて、雨川は朝、目を覚ます。
雨川が目を開けると、ソラが自分と向かい合って寝ているとわかる。
だが、眼前にソラの胸がある。
一気に焦燥感に煽られ寝ぼけることもなくすぐに覚醒出来たした。
「そ、ソラ?」
どうやら、布団に潜り込んできたらしいな。
雨川はとっさにソラから少し離れるが、「んー」と、ソラは起きているのかいないのか、その雨川の頭部をまた戻すように引き寄せるのだから困ってしまう。
いくら、それほど目立つ胸ではないとしても、流石にダイレクトで顔を突っ込んでしまってはならない、雨川は顔を背けようとするが、微かな寝汗、なのだろうか、所謂子供の臭いなのだろうか、落ち着くような、癖になるような臭いがした。
…ちょっと、いいなぁ。
昨日はどうしてこうなっているんだと思い出せば、確か先に自分が寝たはず、というか自分はそうだ、生理の腹痛と眠気でソラに頼りきってしまったのだけれど…多分個別で寝たと思うんだが…。
今日は全くと言って良いほど腹痛もない。いや、少しは、なんだか怪我をしたときのようなむず痒さを下っ腹の…中に感じるような気もするけれど、恐らくこれは、なんとなく、生理は終わったのだろう。
ソラの散らばる金髪は柔らかい。
ソラの頭部に、少しだけ鼻をすんすんしたが、ふと、なんだかソラの体温が高い気がした。
眠るソラの額に手を当てると、若干汗ばんでいるし、よく見れば色白なはずの頬も火照って赤くなっているような気がする。
「…ソラ、おはよう」
眺めてみればはぁはぁ、ソラは少しだけ息も苦しそうだ。
「…ソラ?」
雨川が声を掛ければ「んう…」とソラは起床し、見ればふにゃっと笑い「おはぉ…マフユにゃん…」とモゴモゴふにゃふにゃしている。
「おはよう、ソラ、熱くない?」
「んー…」
体温計どこにあったかな。
身を翻して雨川はベットの真横の引き出しを開ける。
南沢に最近新たに買い与えられた、高性能らしい体温計は1番目の引き出しにあった。
透明なケースから外し、「ソラ、計ろう」と体温計を見せるのだが、ソラはぼーっとしてしまっている。
仕方ないなと、抵抗はありつつも雨川はソラの腕を少しあげ、ソラのシャツの裾から手を入れて脇に挟ませようとするが、「いひゃぁ、くすぐったい」と嫌がられ、手は押しやられてしまった。
「ごめん、自分で計ってよ…」
断念してもう一度計らせようと見せると、「これはなぁに?」と、聞かれる。
「体温計。身体の温度を図るんだよ」
「身体のオンド?」
「ソラ、熱くないの?」
「んー、あつい…」
「これを脇の下に挟んで。ピピッと鳴るまでじっとして」
説明を聞いたソラは言われた通りに脇を締め、「じー」と言う。なんだか元気かな、大丈夫かもしれないと言う気がしてきた。
しかし、ピピッと体温計が鳴りソラから渡され見てみれば、表示は38.3°。ソラの平熱を雨川は知らないが、これは高い。確か人の脳は、38°台は良くないハズだ。
「ソラ、熱あるね。具合悪いでしょ」
「…わかんない」
「ダルかったりとか」
「んー?」
「身体が、なんかうーん、重いとか、頭が痛いとか…くしゃみ」
「くしゅっ、…うしゅっ、………しっ、」
非常に可愛らしく不完全燃焼に似た、最早どうやったらそう出るのだろうというくらいに小さな、ぶりっ子がしそうなくしゃみを3回連発された。
ソラの女子力は非常に良くないな、少なくとも好きじゃないなと雨川は思いつつ、「…寒い?鼻水?」と聞くのが大人の責務だと、苦笑いをしてティッシュ箱をソラへ差し出した。
「うぐぅ~」とソラは言いつつ、しかし鼻水ばかりは豪快に3枚のティッシュを消費したソラに雨川は不思議な感覚を得る。
「…風邪だねきっと。うーんどうしよう」
そもそもソラ、日本の、しかも被保険者なのだろうかとふと、雨川の頭を過る。
そのへんを南沢に聞かなければ、というかそうだ、何故最初に聞かなかったのだろうかと、南沢へ電話しようと考えたが、ちらっと、昨日の診察室でのことを思い出した。
「……」
そんなことを言っても仕方ないのだが、雨川はソラの額と自分の額に手を当てながら、「冷えピタ買おうか」とぼそりと呟いた。
「ヒエピタ?」
「…冷却シート。熱を冷ますやつだよ」
「うん?」
「ソラは今日は寝ていていいよ。ほんのちょっとだけ、病気しちゃったみたいだから」
「ビョーキ?」
そう聞けばソラは少し不安、悲しそうに「ソラは死んじゃうの?」だなんて聞くのだから、堪らなくなる。
「大丈夫だよ、全然死なない、大体は」
「マフユちゃん、お腹ダイジョブ?」
「うん、ありがと。ソラのお陰で治ったよ。無理させちゃってごめんな」
「よかったぁ」
ソラがにへら、と笑うのが可愛らしい。雨川の頭には「母性本能」と言う漢字四文字が頭に浮かんだ。
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