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昨日の今日でか、と南沢の顔が浮かんだけれど、まずは自分の研究室へ休暇の電話を入れねばならないなと「神崎教授」を呼び出した。
ブツっと電話に出た神崎教授は「おはよぅ雨川くん」と非常にむにゃむにゃとした口調。
もしかして何か恒星の特別な観測日だったっけと思いつつ、おはようございますと挨拶をする。
『どうしたんだい?』
「あ、えっと。今日は何かイベントってありましたっけ」
『んー?夜?昼?』
「いやはぁ、眠そうなので…」
『あぁ、そうだねえ。昨日の深夜は月が天王星へ最接近とで最遠の月齢19。特に変わったこともなく』
「あぁそうですか…。ちなみに今日はえっと確か…」
と言いながら雨川が急いでシステム手帳を探そうとするが、「みずがめ座Sの極大とアルゴルが極小だねぇ」と即、答えが返ってきた。
『特に変わったこともなく』
「あぁ…はぁ、」
『そんなことよりどうしたんだい雨川くん』
「…えっと、休暇を頂きたくてお電話しました」
『休暇?』
「すみません忙しいのは重々承知なんですけれども」
『…まぁ確かに今日はチャンスかもしれないけども。明日から3日くらいは泊まって貰うだろうからねぇ』
「えぇっと」
『忘れちゃったの?色々極大極小。明後日はベスタだし』
「あれもうそんな」
『天文単位1.5649、7.0等ベスタが地球大接近だよ?』
「わかりましたとても大変だ」
困ったなぁ、釘を刺されたのか?天体単位ときた。取り敢えず今日は自分も寝なければ絶対に身が持たないだろうけど。
いや、というか。
「いや、ベスタは違うでしょう~…」
そんなJAXAから映像的なやつを使って泊まり込み脅しをするなんて教授はなんの魂胆か。行くのか調布に。
『ロマンじゃないか』
「わかりますけど我々は調布、ということですか」
『そうだね極大極小なんて研修員に任せようかと思ってたんだが君は今日何故休むんだい?』
やっときた本題。
「えっと…実は最近……えっと親戚の子供を預かってまして」
『親戚?南沢くんしか思いつかな』
「はいあいつです。で、熱出しちゃって」
『南沢が?子供が?待って南沢って子供いたの?』
呼び捨てになった。人選も何もないのだが人選を間違えているのかもしれない。
「いや、南沢さんの知り合いの子供というか」
『はぁ?』
ですよね。
甚だおかしいこと、言ってますよね。
『そんなのあの童貞に任せておけばいいんじゃないのか?』
そして微妙に漂う教授からの「勝手に産んで置いていかれた子供を渋々面倒見ている別の愛人」と自分を捉えた空気感。概ね間違っていないが割と間違っている。
「…ベスタの日までそれなら南沢さんに預けてもいいんですが、引き始めって肝心じゃないですか38.3°あって確か人間って38°台が続いたら頭やられちゃうって聞いた気がして」
『あーあー待て待てわかった悪かったよからかって!取り敢えず南沢くんを捕まえてかけ直させた方がいいか?』
「あっ、」
絶賛気まずい最中だが。
確かにその方が色々と面倒でなくていいと瞬時に思い付いた。
「お、願いします、」
『わかったわかった。取り敢えず子供には栄養と氷枕と冷えピタだよ雨川くん。あと医者!』
「はい、はぁい…」
切れた。
というかはっきり休暇が取れたのかいまいちわからないかった。まぁ100%は遅刻OK、98%は休暇OKだろう。
溜め息が出た。たった数分で疲れた。
ソラを見れば潤んだ瞳と赤らんだ顔、少しだけ苦しそうな息遣い。
不安そうな表情でソラは「マフユちゃん…」と切な気に自分を呼ぶ。
風邪は自覚すると、確かに急にがくっと具合が悪くなるものだ。
雨川はベットに座り、ソラの額に手を当ててみる。やはり熱い。
「今日は寝ていようね、ソラ。病院行けるといいんだけど」
「ソラ、死んじゃう?」
「大丈夫だよ、死なない死なない。まずはご飯を食べようか」
「んー…」
「サラダとかにしよう。栄養も取れるし」
「んー…」
「冷たくて気持ちい」と、ソラは雨川の手を頬に持っていきすりすりする。なかなかこれは手を離し辛いのだが、「サラダ作るね」と、もう一回だけ頭を撫でて座ったベットから降りる。
水菜やサラダ用のレタス、あとは何を入れるべきだろうかと冷蔵庫を眺める。あとは玉ねぎ、ニンジン、プチトマト、キャベツ、もやし。
上段にはコーンと豆腐がある。
プチトマトはいましか使えない。キャベツは千切りが出来るかわからないけど、と雨川が野菜を抜粋し、まずは洗うかとザルに野菜をあけようとするも、正直どれくらい必要かいまいちわからない。
キャベツ、千切りって確か量が少ない感じがするよな、と5枚くらい剥いては洗う。レタスも同じくらいだろうか、流石に多いなと2枚剥いては洗う、プチトマトは洗うのか?洗わないかもしれないけど外で育ったから洗おうか、何個?5個くらい?水菜一房は間違いなく多いと考えながらもたもたと準備していると、「鳴ってる!」とソラが寝室から叫んだ。
そうだバイブにしてあったなとまた寝室に戻ると、枕の上に置かれたケータイには「南沢夏江」と表示されている。
「はい、もしもし」
素っ気なく雨川が出ると「もしもし、神崎教授から言われました」と南沢はよそよそしかった。
ブツっと電話に出た神崎教授は「おはよぅ雨川くん」と非常にむにゃむにゃとした口調。
もしかして何か恒星の特別な観測日だったっけと思いつつ、おはようございますと挨拶をする。
『どうしたんだい?』
「あ、えっと。今日は何かイベントってありましたっけ」
『んー?夜?昼?』
「いやはぁ、眠そうなので…」
『あぁ、そうだねえ。昨日の深夜は月が天王星へ最接近とで最遠の月齢19。特に変わったこともなく』
「あぁそうですか…。ちなみに今日はえっと確か…」
と言いながら雨川が急いでシステム手帳を探そうとするが、「みずがめ座Sの極大とアルゴルが極小だねぇ」と即、答えが返ってきた。
『特に変わったこともなく』
「あぁ…はぁ、」
『そんなことよりどうしたんだい雨川くん』
「…えっと、休暇を頂きたくてお電話しました」
『休暇?』
「すみません忙しいのは重々承知なんですけれども」
『…まぁ確かに今日はチャンスかもしれないけども。明日から3日くらいは泊まって貰うだろうからねぇ』
「えぇっと」
『忘れちゃったの?色々極大極小。明後日はベスタだし』
「あれもうそんな」
『天文単位1.5649、7.0等ベスタが地球大接近だよ?』
「わかりましたとても大変だ」
困ったなぁ、釘を刺されたのか?天体単位ときた。取り敢えず今日は自分も寝なければ絶対に身が持たないだろうけど。
いや、というか。
「いや、ベスタは違うでしょう~…」
そんなJAXAから映像的なやつを使って泊まり込み脅しをするなんて教授はなんの魂胆か。行くのか調布に。
『ロマンじゃないか』
「わかりますけど我々は調布、ということですか」
『そうだね極大極小なんて研修員に任せようかと思ってたんだが君は今日何故休むんだい?』
やっときた本題。
「えっと…実は最近……えっと親戚の子供を預かってまして」
『親戚?南沢くんしか思いつかな』
「はいあいつです。で、熱出しちゃって」
『南沢が?子供が?待って南沢って子供いたの?』
呼び捨てになった。人選も何もないのだが人選を間違えているのかもしれない。
「いや、南沢さんの知り合いの子供というか」
『はぁ?』
ですよね。
甚だおかしいこと、言ってますよね。
『そんなのあの童貞に任せておけばいいんじゃないのか?』
そして微妙に漂う教授からの「勝手に産んで置いていかれた子供を渋々面倒見ている別の愛人」と自分を捉えた空気感。概ね間違っていないが割と間違っている。
「…ベスタの日までそれなら南沢さんに預けてもいいんですが、引き始めって肝心じゃないですか38.3°あって確か人間って38°台が続いたら頭やられちゃうって聞いた気がして」
『あーあー待て待てわかった悪かったよからかって!取り敢えず南沢くんを捕まえてかけ直させた方がいいか?』
「あっ、」
絶賛気まずい最中だが。
確かにその方が色々と面倒でなくていいと瞬時に思い付いた。
「お、願いします、」
『わかったわかった。取り敢えず子供には栄養と氷枕と冷えピタだよ雨川くん。あと医者!』
「はい、はぁい…」
切れた。
というかはっきり休暇が取れたのかいまいちわからないかった。まぁ100%は遅刻OK、98%は休暇OKだろう。
溜め息が出た。たった数分で疲れた。
ソラを見れば潤んだ瞳と赤らんだ顔、少しだけ苦しそうな息遣い。
不安そうな表情でソラは「マフユちゃん…」と切な気に自分を呼ぶ。
風邪は自覚すると、確かに急にがくっと具合が悪くなるものだ。
雨川はベットに座り、ソラの額に手を当ててみる。やはり熱い。
「今日は寝ていようね、ソラ。病院行けるといいんだけど」
「ソラ、死んじゃう?」
「大丈夫だよ、死なない死なない。まずはご飯を食べようか」
「んー…」
「サラダとかにしよう。栄養も取れるし」
「んー…」
「冷たくて気持ちい」と、ソラは雨川の手を頬に持っていきすりすりする。なかなかこれは手を離し辛いのだが、「サラダ作るね」と、もう一回だけ頭を撫でて座ったベットから降りる。
水菜やサラダ用のレタス、あとは何を入れるべきだろうかと冷蔵庫を眺める。あとは玉ねぎ、ニンジン、プチトマト、キャベツ、もやし。
上段にはコーンと豆腐がある。
プチトマトはいましか使えない。キャベツは千切りが出来るかわからないけど、と雨川が野菜を抜粋し、まずは洗うかとザルに野菜をあけようとするも、正直どれくらい必要かいまいちわからない。
キャベツ、千切りって確か量が少ない感じがするよな、と5枚くらい剥いては洗う。レタスも同じくらいだろうか、流石に多いなと2枚剥いては洗う、プチトマトは洗うのか?洗わないかもしれないけど外で育ったから洗おうか、何個?5個くらい?水菜一房は間違いなく多いと考えながらもたもたと準備していると、「鳴ってる!」とソラが寝室から叫んだ。
そうだバイブにしてあったなとまた寝室に戻ると、枕の上に置かれたケータイには「南沢夏江」と表示されている。
「はい、もしもし」
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