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Film 4
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激しいような、急にソラへ抱きついた雨川にソラがたじろぐ、雨川のシャンプーの臭いや、腹あたりで擦られた股間に「痛っ、」と怖くなった。
「ま、」
「お願いだから捨てないでよ真夏、」
「あの、」
すり寄ってくる雨川に「やめ、」と、だけども体温は温くて刺激になる、どうしていいかわからない、最早パニックに「やめて、やめてよ!」と言いながらすりすりしてしまう自分にソラは激しく葛藤する。こんなことは違う、けれども求めていて、だけど雨川が泣いているのに耐えられない。
星も水槽のエビたちと変わらない。喰らうように、くっついてひとつになる宇宙のゴミ。
上手くいかなければ爆発してまたゴミとなり宛もなく宇宙をさ迷って、しまう。
やめて、嫌だと言うソラに、どうして、捨てないでよ、怖くて暗い。頭が真っ暗になってゆく。
あのとき思いは引きちぎられて捨てられてしまった。
ゴミとして、捨てられてしまった。
家のチャイムが鳴った。
はっとしたソラは「ナツエ、」と助けを求めるようにベッドを降り、壁に伝うようにして玄関へ向かう。
そのうちドアが開くような音と、「ソラ?」と言う南沢の声、困惑や色々な雑音ばかりが部屋まで届く。
自由になった雨川は小さな子供のように、身を守るように、丸まる。
ドタドタと足音が近付き「真冬、」と、息を切らす勢いの南沢の声が降り被る。
かさっと、南沢がその場へビニール袋を置く音と、「ひっ、」とソラがしゃくりあげを殺す音まで認識しては、雨川は両耳を塞いだ。
何があったか、南沢が理解するのは早い。過去に、同じような経験を、したことがあるからだ。
「…真冬」
返事はない。
「…ソラ」
ソラは泣いている。
「一体何があったんだ」
ただ立ち尽くすのみとなる南沢に、「…ごめんなさいぃ、」と謝ったのはソラだった。
睨むようにソラを見る南沢だが、予想に反しソラは大泣きで「マフユちゃんが、マフユちゃんがっ!」と壊れたように言うのだから、それが信じられないでいる。
南沢は矛先を変え、ぎこちなくソラへ両手を伸ばし、「おいで、」と震えそうな声で言う。
しかし躊躇うソラに、自分が近付きにいけばソラは大人しく手に収まる。確かに体温は高めだろうが38°はないだろう。
充分、どちらも想像が出来る。雨川は生理を終え無事に生き長らえたがホルモンのせいで体調、心情は爆発的におかしいだろうし、ソラは38°という高熱を出し下げたというのならタイミング的には血行も良くなったのだし、爆発的に精子が生産されたのかもしれない。
どちらも命の危機に迫っていたから共食いを始めてしまった。
触発されたのはフェロモンだった、それが雌雄をはっきりとさせた。
兄のあのときの気持ちは、果たして、喜怒哀楽のどれだったのだろうかと、「…身体は大丈夫かい、ソラ」と口を吐いた。
俺には喜と哀どちらもあるけど、愛の方が強いかもしれない。何故なら、どこかこうなるという想定だってしないわけではないからだ。
「うぅ…どうしよ、ねぇ、ナツエ!」
「…うん」
「そ、ソラは…」
「…そうだねぇ…」
ゴミのようになってしまった雨川を見て「真冬」と、届きもしない声で再び南沢は雨川を呼ぶ。
「…暫くソラを預かるよ。長らく悪かった。俺が、」
何があっても二人とも食いつくしたのは間違いなく自分だと、南沢はここに来て遥かに傷付いているとたじろいだ。
兄がベランダから飛び降りたのは自分の目の前でだったのだから。
「…ソラも真冬も悪くないよ。悪いのは俺なんだ」
今更何を言っても欺瞞でしかないけれど、この姿を見たくなかった、理想論や夢ばかりだったくせに、俺はエビやゴミと一緒だと、立場にないくせに自己嫌悪ばかりで埋め尽くされそうだった。
どうして自分はいつも、そうやって遠くにいようとするのだろう。
訳も大して聞いていないけれど、ソラから離れ雨川に触れようか、いや、出来ないかも知れないけれど、と、丸まった肩に手を置き無理矢理にでもこちらへ向かせれば、雨川はただただ無感情に涙を流している脱け殻のように見えた。
「真冬」
すぐに手を離してはいけない気がして、なんて傲慢なんだと吐き気がするほどの嫌悪でひきつった笑いになる。
「君を捨てた男は俺の兄で、兄はもう死んでしまったんだよ、真冬」
まだ自分は何かにすがりたがっている。ふざけるな、と頭で自己否定をするくせに雨川の涙を拭うのは卑怯でしかない。
その手をばしっと払った雨川に南沢は現実に引き戻された気がした。
「…触らないで頂けますか南沢さん」
顔を歪めて淡々と言う雨川のそれには、戻ってきたと言う安心と、尚更と言う残酷さにより南沢の心は刺される。
「…ソラとは何もありませんよ。これ以上はソラだって傷付くでしょう」
「…まぁ、」
「これが望みならあんたは死んでも治らないよ」
完璧なる拒絶だと気付いた。
それは却って、自分の手もなく歩んでくれている、とも思えば、俺は勝手に手放してしまったと後悔もする。
「ソラ、」
雨川はダルそうに手を伸ばして、悲しそうに言うのだった。
「…ここから逃げた方がいい」
それは。
いくらでも勝手だ。誰も幼い雨川に言わなかったことだと、南沢まで苦しくなった。
「…早く。逃げて一人で遠くまで」
「…マフユちゃん、それは」
「その方が」
「マフユちゃんは捨てないでって言ってたのに」
言葉を失った。
…どこまでも勝手なのはいつの時代も大人なんだ。
「マフユちゃん」
「でもごめん」
「だって、」
「俺はそんなにまともな人間なんかじゃないんだよ、ソラ」
「もっと考えてよ!」
その一言に、言葉に詰まった。
「ま、」
「お願いだから捨てないでよ真夏、」
「あの、」
すり寄ってくる雨川に「やめ、」と、だけども体温は温くて刺激になる、どうしていいかわからない、最早パニックに「やめて、やめてよ!」と言いながらすりすりしてしまう自分にソラは激しく葛藤する。こんなことは違う、けれども求めていて、だけど雨川が泣いているのに耐えられない。
星も水槽のエビたちと変わらない。喰らうように、くっついてひとつになる宇宙のゴミ。
上手くいかなければ爆発してまたゴミとなり宛もなく宇宙をさ迷って、しまう。
やめて、嫌だと言うソラに、どうして、捨てないでよ、怖くて暗い。頭が真っ暗になってゆく。
あのとき思いは引きちぎられて捨てられてしまった。
ゴミとして、捨てられてしまった。
家のチャイムが鳴った。
はっとしたソラは「ナツエ、」と助けを求めるようにベッドを降り、壁に伝うようにして玄関へ向かう。
そのうちドアが開くような音と、「ソラ?」と言う南沢の声、困惑や色々な雑音ばかりが部屋まで届く。
自由になった雨川は小さな子供のように、身を守るように、丸まる。
ドタドタと足音が近付き「真冬、」と、息を切らす勢いの南沢の声が降り被る。
かさっと、南沢がその場へビニール袋を置く音と、「ひっ、」とソラがしゃくりあげを殺す音まで認識しては、雨川は両耳を塞いだ。
何があったか、南沢が理解するのは早い。過去に、同じような経験を、したことがあるからだ。
「…真冬」
返事はない。
「…ソラ」
ソラは泣いている。
「一体何があったんだ」
ただ立ち尽くすのみとなる南沢に、「…ごめんなさいぃ、」と謝ったのはソラだった。
睨むようにソラを見る南沢だが、予想に反しソラは大泣きで「マフユちゃんが、マフユちゃんがっ!」と壊れたように言うのだから、それが信じられないでいる。
南沢は矛先を変え、ぎこちなくソラへ両手を伸ばし、「おいで、」と震えそうな声で言う。
しかし躊躇うソラに、自分が近付きにいけばソラは大人しく手に収まる。確かに体温は高めだろうが38°はないだろう。
充分、どちらも想像が出来る。雨川は生理を終え無事に生き長らえたがホルモンのせいで体調、心情は爆発的におかしいだろうし、ソラは38°という高熱を出し下げたというのならタイミング的には血行も良くなったのだし、爆発的に精子が生産されたのかもしれない。
どちらも命の危機に迫っていたから共食いを始めてしまった。
触発されたのはフェロモンだった、それが雌雄をはっきりとさせた。
兄のあのときの気持ちは、果たして、喜怒哀楽のどれだったのだろうかと、「…身体は大丈夫かい、ソラ」と口を吐いた。
俺には喜と哀どちらもあるけど、愛の方が強いかもしれない。何故なら、どこかこうなるという想定だってしないわけではないからだ。
「うぅ…どうしよ、ねぇ、ナツエ!」
「…うん」
「そ、ソラは…」
「…そうだねぇ…」
ゴミのようになってしまった雨川を見て「真冬」と、届きもしない声で再び南沢は雨川を呼ぶ。
「…暫くソラを預かるよ。長らく悪かった。俺が、」
何があっても二人とも食いつくしたのは間違いなく自分だと、南沢はここに来て遥かに傷付いているとたじろいだ。
兄がベランダから飛び降りたのは自分の目の前でだったのだから。
「…ソラも真冬も悪くないよ。悪いのは俺なんだ」
今更何を言っても欺瞞でしかないけれど、この姿を見たくなかった、理想論や夢ばかりだったくせに、俺はエビやゴミと一緒だと、立場にないくせに自己嫌悪ばかりで埋め尽くされそうだった。
どうして自分はいつも、そうやって遠くにいようとするのだろう。
訳も大して聞いていないけれど、ソラから離れ雨川に触れようか、いや、出来ないかも知れないけれど、と、丸まった肩に手を置き無理矢理にでもこちらへ向かせれば、雨川はただただ無感情に涙を流している脱け殻のように見えた。
「真冬」
すぐに手を離してはいけない気がして、なんて傲慢なんだと吐き気がするほどの嫌悪でひきつった笑いになる。
「君を捨てた男は俺の兄で、兄はもう死んでしまったんだよ、真冬」
まだ自分は何かにすがりたがっている。ふざけるな、と頭で自己否定をするくせに雨川の涙を拭うのは卑怯でしかない。
その手をばしっと払った雨川に南沢は現実に引き戻された気がした。
「…触らないで頂けますか南沢さん」
顔を歪めて淡々と言う雨川のそれには、戻ってきたと言う安心と、尚更と言う残酷さにより南沢の心は刺される。
「…ソラとは何もありませんよ。これ以上はソラだって傷付くでしょう」
「…まぁ、」
「これが望みならあんたは死んでも治らないよ」
完璧なる拒絶だと気付いた。
それは却って、自分の手もなく歩んでくれている、とも思えば、俺は勝手に手放してしまったと後悔もする。
「ソラ、」
雨川はダルそうに手を伸ばして、悲しそうに言うのだった。
「…ここから逃げた方がいい」
それは。
いくらでも勝手だ。誰も幼い雨川に言わなかったことだと、南沢まで苦しくなった。
「…早く。逃げて一人で遠くまで」
「…マフユちゃん、それは」
「その方が」
「マフユちゃんは捨てないでって言ってたのに」
言葉を失った。
…どこまでも勝手なのはいつの時代も大人なんだ。
「マフユちゃん」
「でもごめん」
「だって、」
「俺はそんなにまともな人間なんかじゃないんだよ、ソラ」
「もっと考えてよ!」
その一言に、言葉に詰まった。
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