ポラリスの箱舟

二色燕𠀋

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シリウスに黄昏【企画外伝】

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「どうやって嗅ぎ付けたか知りませんがまぁ教授に俺の居場所を聞いたとして、ならわかるでしょ」
「え?確かにお宅の神崎さんに聞いたけどそれって問診バックれする理由には」
「俺6日から張り込みですよ、夜から朝方にかけて」
「は!?」
「今日が接近の最大日ってだけで」
「何、え、毎日?まさかないよね」
「ありますね。なので昼は帰って寝てるんです」
「ナニソレ、学会でもあんの?」
「年明けにあると言えばありますが関係ないです。これはどちらかと言えば趣味です」

 は?
 学会がなくただ写真撮ってるの?

「あんたのエビと変わらないでしょ」
「それを言われるとそうだねぇ…」

 一瞬「変態なの?」と言おうか、よぎった矢先に塞がれた言葉。走馬灯というか流星レベルだ。どこに終着しようかと思えば、

「なんで、明後日まで無理です」

 バッサリ切られた。

「明後日ぇ!?」
「はい」
「待って毎日水星と木星はくっついてるわけ?」
「今回は長いやつですね」
「え、よくわかんない」
「宇宙に聞いてください」

 宇宙に聞いてください。
 なにそれ学者に聞くのは違うの?

「うーん…」

 腰をわりと強めに拳で叩きながらも雨川はカメラの電源を落とし、「じゃ、そんなわけで」と立ち上がった。

「ソラが起きる前に帰ります」
「いやいやそれ俺が来た意味」
「え?なんで来たんですか?じゃ」
「冷たくない?だからいまからね」
「眠いんで」
「うーんもう寝てていいからさぁ」
「大体何故」
「君生理来るでしょそれ」

 …確かに。
 こんなことまで知られるのはなんだか羞恥しかない。

「…さぁ」
「いや、」
「ソラもいますし」
「…二人ともウチにいたら?」
「ん?」
「言ったけど君のは死んじゃうかもしれないし。最悪動けなかったらまぁ、俺の家星なんてよく見えるじゃない」
「さらっとうぜー」

 けどまぁ。

「まぁ、はい。わかりました」
「…へ?」

 意外と素直な反応に、提案した南沢が何故だか面食らってしまった。
 「へ?って」とやはり突っ込まれてしまうがそれは「い、いやぁ…」と尻込みするしかない。

「えっと…」
「南沢さんが言ったんですけど」
「そうだね、いや、あまりに素直だから動揺が…」
「何故?」
「何故ってそりゃぁ…」

 明確なんだけど。
 今更そうか、俺いま意中の相手に然り気無く家へ来いと言ってしまったが全然そういう感じじゃなかったと気付いた。のに可能性が広がったことに「あれ、あれ?」と変になってきてしまったよ雨川くん!と雨川を眺めれば疑問顔をされてしまっている。より「あれ?」が募ってしまった。

「…いいの?」
「何がですか」
「いやぁ…」
「ソラも一緒にだと思うんで、車お願いします」
「あ、はい、そうです、はい」
「なんかどうしたんですか急に」

 チャンス到来?
 いや、却って遠退き中?

「…ですねですね。はい、ではいきましょうか雨川くん」
「はい」

 プラスそうだ、自分はわざわざ神崎教授に、「ストーカーのようだねぇ…」と言われるくらいには雨川の居場所を尋ねてここに来た、白髪にシワのおじいちゃん教授が目に浮かぶようだ。
 「雨川くん絶対一人がいいんだよ?邪魔しないであげてね」と、あの老眼鏡の向こうは完全に呆れていたよなぁ、神崎のおじいちゃん。
 なのになぁ。

 ストーブを切って雨川が構わずに、ちょこっとカメラを見つめながら先に出て行こうとする。
 だがふと、「あ、」と振り向いたのでどうしたものかと思えば横を通りすぎてまた望遠鏡を弄るのだった。

「南沢さん」

 望遠鏡を外して言う。

「…貴方の家星くらい見えるって」

 言いましたよねと、さらに望遠鏡と三脚を繋いでいた部分の、なんという名称かは不明であるそれを外そうとし、「ペンチ…」と呟いてうろうろし始めて。

「…見えるけど…」
「じゃあこれ持っていきますんで」
「いいけど…」

 角度合わせたのにな、だとか、やはり不本意を見せる雨川に「雨川くん?」と、なんだか呆れたような、諦めたような心境で南沢は呼び掛けた。

 微塵も恋煩いがないのね、君。

「なんですか?置けないとか」
「いえ、置いていいです…。まずはじゃぁ…問診から始めませんか」

 友達からお願いしますと申し出るような心境だった。

「…あぁ、それはなくなってなかったんですね」
「…君、俺の目的忘れないでよ。いきなり囲ってやろうなんて段階すっ飛ばしてるでしょ」
「は?」
「いやもうなんでもないです。俺の童貞精神が悪かったです。一回研究室に来ていただけますか」

 互いの妥協案を甘んじて受け入れる結果になった。
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