碧の透水

二色燕𠀋

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「しかしウチは15%から交渉して下げましたよね」
「…知り合いの不動産に聞いたらこんなとこ、20が相場だって」
「じゃぁ、20なら払えるんですか?」

 勿論そんな交渉には乗らないがこれで一通りは黙ると陽一は踏んでいる。一度だけ黙ってくれたら良いのだ。
 案の定、一瞬考えたように田野倉が黙ったところで「じゃぁ…」と畳み掛ける。

「リースで20万でどうでしょう。賃料を下げたとしたらこれは払えますか?」
「…はっ、」
「お宅、リースも値切ったようですがここは戻してもらうとして」
「…だから、」
「噂によるとこの店、客から別途料金巻き上げてるそうじゃないですか」

 完全に田野倉は言葉を失った。何か、言い訳を思案する表情に移り変わる。

「…家賃は35にして15%の5万と…2,500円でどうでしょう。リースはそのまま15で結構なんで」

 田野倉は突如、驚いたような表情を浮かべる。どちらかと言えば、歓喜に近い表情だ。

「…ホントに?」
「ええ」
「そんなに…」

 そういうことか。
 どいつもこいつもピンハネしていたわけだ。不動産がいくらと提示したかは知らないが、10万くらいはそちらに流れていそうだ。

 陽一は漸く田野倉に笑みを見せ言い放つ。

「…ピンハネって言いませんかこれ。あんた、払えない訳じゃないんでしょ。青柳に同じこと言えます?
 まあいいでしょう。で、どうしますか?
 このまま継続か変更案か…よほど不満であれば我々は車で来ている。青柳のところにお送りしますが」
「…変更で…」
 
 田野倉は露骨にしめたという表情をしたが、特に陽一は気にしない。好きなだけナメれば良い。

 陽一は溜め息を吐いてボイスレコーダーを中ポケットから田野倉に見えるように出し、電源を切った。

 唖然と見ている田野倉を前にし漸くパイプ椅子に座り、「言った言わないは面倒なので」とボイスレコーダーを投げ出す。
 ついでにタバコを咥えれば「灰皿あります?」と坂上が田野倉へダルそうに命じた。

 灰皿を取りに一瞬奥へ田野倉が入ったタイミングでケータイを手にし、陽一は青柳に電話を掛けた。

「もしもし?青柳さんですか。田野倉さんと話つきましたけど書類、ファックスお願い出来ますか?」

 田野倉が急いだように戻ってきて灰皿を渡してきたので「電話番号は?」と訪ねる。そのまま田野倉が答えた番号を電話先に伝える。

「…変更条件としては家賃を35まで下げ公益料を15%にアップの52,500円でリースは継続で15万。これなら、払えるそうですので」

 青柳が「ふっ、」と笑ったのが電話から漏れる。

 結果的にこちらが一月12,500円儲かった。いつまで続くかわからないが、結果いくらか支払いがガクンと下がっているのなら、次はリース代金を5万ほど徴収出来るかもしれない。

「…ファックス3部で判子と直筆貰ってここから不動産、…このビルですよね。直行します」

 それだけ言って陽一は電話を切る。すぐに暖簾の奥からファックスの音がした。
 随分早い。
 青柳は見越して陽一を寄越したのだろう。

 送られてきた3部それぞれ、田野倉に名前の直筆と本印鑑を押させる。

 どうやら田野倉は嬉々としているようだが恐らく、それは検討違いだろうなと陽一は田野倉を哀れに思った。こちらが騙されたとでも、ヒーローとなりこのまま不動産を懲らしめに行くとでも思っているのだろうか。

 そんな金にならないことをヤクザがするわけがない。どうせやるなら金になることをするに決まっているだろう。

 それも幸せかもなと陽一は渡された書類に目を通した。
 しかしふと、ここに当たり前なものがないことに陽一は気が付いた。

「田野倉さん。不動産行くんで賃貸契約書見せて貰えます?」
「えっ、」

 陽一が睨むように書類から田野倉を見れば気まずそうだった。

 なるほど。両者手を組んでハネていた、というところだろうか。

 どちらにしても儲けたと思っていたが、なるほど、もう一段階田野倉からは踏んだくれそうだなと睨んだ。
 しかし、これは後日でもまあ良いだろう。

「…場所がわからないなら坂上、手伝って」
「いや、わかります、けど…」
「けど?」
「いや…」
「まぁ、いいんですけどね、今から行くんで。余裕が出たらリース、もう少し頂きに伺いますんで」
「はぁ!?」
「そこは互いに協力していきましょうよ。まだ、俺でよかったですよね。別のが来たら今頃即持っていかれてましたよ、多分」
「…何が…」
「金のないところから取ったって仕方がないって話です」

 一旦は引いてやるよ。まずは不動産の方が確実に取れそうだ。

 結局ここのフロントビル自体が青柳の物だ。下手に企業舎弟が足掻けると思われているあたり、バカが多いのか青柳の衰退を意味しているのが。

 どちらにしても陽一はこれだけで2件貸しを作った。頭を張れというのならこれ以上でなければならない。

 …靡く気がないのなら力で押さえつけろ、そういう魂胆も青柳にはあったのだろうか。
 多分、この田野倉という男は反対派なのだ。
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