紫陽花

二色燕𠀋

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プール

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「浦賀」

 岸本先輩が少し慌てた様子で屋上のドアを開けた。

「よう、生徒会長」

 緩く右手を挙げた浦賀先輩を見て、岸本先輩は少し肩の力を抜いたのが目に見えた。

「…いつまでサボってんだよ」
「ちょっと小日向さんと盛り上がっちゃったよ」

 あれ。
 いま、名前呼んでくれたかな。

「…そうか」
「そろそろ帰ろうか。寒いでしょ」
「まあ、そうですね」

 3人で屋上から立ち去った。鍵はきっと、先生がいつか閉めてくれる。
 多分、最後の挨拶とか、行くんだろうから。

「よくここだってわかったね」
「渡辺先生から聞いたんだよ」
「そっか」
「なんの話してたんだ?」
「小説の話だよ。俺、小説家になろうかなと思ってさ」

 岸本先輩は凄く真面目な顔をして、「真面目に向いてる」と言った。

「え、そんな真面目に返す?」
「少なくてもスクールカウンセラーよりは」
「あー、浦賀先輩気が短いですからね」
「え?そうかなあ?」
「かなりな。どんな話?」
「捨て猫と幼なじみ」
「は?」
「あー、間違ってはいないですけど…」
「てか内緒。ね?」
「は、はい…」
「なんだよ…、気になるな」

 そんな他愛のない会話をしながら私たちは別れた。岸本先輩は一度生徒会室へ、浦賀先輩は多分カウンセリング教室へ、私は教室へ。
 教室には誰もいなかった。さっきのチャイムはどうやら、下校のチャイムだったようだ。

 机の中を見て今日配られたプリントを鞄の中にしまい、教室を出た。
 今日から新学期だ。クラスは変わらない、相変わらずつまらないところだけど。

 学校は少しずつ楽しくなってきている。

 廊下にはまだ、名残を捨てない生徒が少しだけ溜まっていた。

「おい、」

 下駄箱にまっすぐ向かおうとすると、「無視すんなよ」と、肩を後ろに引っ張られた。振り向くと、いつぞやの先輩4人組が立っていた。

「小日向小夜だろ?」
「はぁ…。お久し振りです」

 そう言えばこの人たち、名前を知らないな。

「お前、浦賀の彼女まだやってんの?」
「元からやってませんけど何か?」
「ちょっと遊んでこうよ」
「すみませんがバイトがあるので」

 面倒臭いな。

 ほっといて歩き出すとついてきて、最終的には階段で取り囲まれてしまった。

「あの、すみませんが通りたいので退いて頂けませんか」
「なぁ、あのさぁ」
「なんですか」

 あぁそうだ、このリーダーっぽい中途半端に制服を着崩した人、この人意外とビビりだったよなぁ。

「知ってる?あいつの弟」
「知りませんけど興味もないです」
「去年そこのプールでぶん殴られて死んだんだぜ」

 …なにそれ。

 一人に急に引っ張られた。抵抗しようにもほぼ羽交い締め。どこに連れて行かれるのかと思いきや、男子トイレ。
 マズイ。これはマズイ。

「離してください!」

 一人に口を押さえられる。これって本気で危機なんじゃないの私。

 どうなってるかわからない。いつの間にか壁に押さえつけられていた。

「その弟をぶっ殺したの、俺なんだよ、実は」

 え、なにそれ。

「しかもさぁ」

 ブレザーのボタンが外され、シャツのボタンに手を掛けられる。

「頼まれたんだよね。でもその頼んだ女もこうして犯してやったわ、最初はね、嫌がるんだよ」

 それどころか下着越しに指が触れて。
 頭の中がパニック。

「最近仲良さそうだよね。お前がこうなったって知ったらあいつ、どんな顔するだろうね」
「楽しそうだね、何してんの?」

 底冷えするような声に一瞬はっとして声の方を見る。
 浦賀先輩がタバコを吸いながらドアに凭れ掛かっていた。

 途端に押さえられていた力が弱まり、逃げようという気が起きたが、それよりも早く浦賀先輩はゆっくりと歩いてきてまず一番近くにいたやつを踏みつけるように蹴飛ばした。

 恐い。

「喧嘩売るわりに誰もなんもしてこないけど、どうしたの?」

 とか言いながら目の前を右ストレート。怖じけ付いたのか、羽交い締めにしていたやつは私を放り投げて逃げようとするが敢えなく失敗。これも踏みつけられていた。
 右ストレートで吹っ飛ばされたリーダーに馬乗りになって髪の毛を鷲掴みにした。その先輩の目は狂気じみていて言葉を掛けられなかった。

「お前、誰?顔も名前も知らないんだけど俺になんの恨みがあるの?」

 そのまま放り投げるように髪の毛を離す。

「中途半端なクソが中途半端なことしてると痛い目みるからやめなよ」

 唖然としているときだった。
 一人、さっき一番最初に踏まれたヤツが、浦賀先輩によろよろと後ろから殴りかかろうと、ほぼ突進という感じで向かっていく。

「危ない!」

 止めようと思ってそいつを押し飛ばそうとしたけど逆に払われてしまって壁に頭を軽くぶつけた。痛い。
 浦賀先輩は取り敢えず振り向くことは出来たらしい。頭突きをしたがもの凄く鈍い音がした。痛そうだ。
 しかし下に寝ていたヤツに腕を少し引っ張られたせいで少し打ち所は悪かったようだ。

「せ…先輩!」
「あー…今のは効いたねぇ」

 やはり打ち所が悪かったのか少し鼻血が出たがそれを手の甲で拭っていた。
 突進したやつは気絶。
 先輩は組み敷いているやつを一発殴って、頭を押さえながら立ち上がった。立ち上がる際にそいつに蹴りを入れたら流石に動かなくなった。

「先輩…!大丈夫ですか!?」
「小日向さん、あんた大丈夫?なんもない?」

 とか言いながら乱れた制服を直してくれた。

 いいから、そんなのいいから。

「こんなのいいから先輩!大丈夫ですか!?」
「うーん、まぁ喧嘩は男の勲章」
「バカですか!思いっきり頭音鳴ってましたけど!」
「軽く脳震盪のうしんとうだね。大丈夫。頭痛薬あれば」
「溢血までいってたらあんた死んでるの!いいかげんにしてよ!」
「え、てかえ、ここにきて泣かないでよマジかよ」
「泣いてない!」
「いや泣いてる泣いてる。あーもー面倒臭いなぁ」

 とか言いながら人の涙拭ってくれちゃって。

「もーなんなの!」
「てかこっちがなんなの。あんたの鞄そこにぶんながってたから声する方にきたら危機一髪ってなにそれ。マジ笑えないから。
てかこいつら誰よ」

 トイレの前に立て掛けられた私の鞄。多分先輩が持ってきてくれたんだろう。

「え?本当に知らないんですか?」
「知らないよなにあのゴミ」

 なかなか先輩もワールドでかいな。
 まぁこーゆー人の扱いは大体慣れたけど。

「先輩と同じクラスでしょ!ジャージ返しに行ったときに初めて絡まれたの!」
「え?あんなのいたかな。てかだいぶ前だね」
「…てかあの人たち大丈夫かな」
「流石にやり過ぎたかな。救急車呼ぶか」

 ケータイを取り出して先輩は救急車を呼んだ。

 多分本当は先に先生を呼ぶべきだと思うんだけど。よくよく考えたら救急車を呼んだ本人がぶん殴ったからダメなのかな。

「これって先に先生じゃないですか?」
「バカだねぇ。
 それはね、あんたのなんか色々にも関わるからね」

 なんだ、そんなの気にしてたのか。

「いやそれは仕方ないって言うか、そんなことより、ですよ」
「…あんた案外強いよね」
「よく言われます。これって先輩は大丈夫なんですか?学校的に」
「正当防衛ですねぇ。あと俺珍しく良い喧嘩したし」
「じゃぁ職員室行ってきます」
「マジで言ってんの?メンタルどうなってんの?
 ちょっとそれは可哀想だから流石に一緒に行くわ」
「え、でもこの人たち逃げたら」
「逃げられたら元気だったってことで。
お前らさ、ちょっと救急車呼んだからマジ逃げんなよ殺すかんな」

 言ってることがちぐはぐな気がする。けど、まぁいいや。   
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