紫陽花

二色燕𠀋

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For Someone

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 放課後にはもう、今朝のことなんてどうでもよくなっていた。
 そしてよくよく考えたら、三者面談の相手は厄介だ。

 ケータイを見たらみっちゃんからメールが入っていた。少し遅れるらしい。
 これはラッキーだ。

 面談は丁度、私が今日の一番最後。
 私は面談時間に一人で教室に行った。荏田先生は、「あれ?」と困惑。

「みっちゃ…お兄さん、遅れるらしいです、すみません」
「あぁ、そうなんだ」
「あの、先生、お願いがあります…」
「なんだい?」
「えっとですね…。
 今日のこと…。お兄さんに黙っていてくださいませんか?」
「え?」
「私は最早全く持って気にしていないんですがその…。
 前回の二人、覚えてますよね?
 あの二人じゃない人が今回は来るんです」
「はぁ…」
「はっきり言ってあの二人よりかはまともな人が来ます。お父さんとも連絡を取っている人なんですが…。
 彼、一番まともですが一番厄介なんです!」
「え、と言うと?」
「うーん。
 例えばですけど、前回の件、あったじゃないですか。
 あれ、あの二人とあの後話してたんですよねー。二人とも口を揃えて言いました、『マジあいついなくてよかったわ』って。
 今日来る人、その人がもし、私がその…そんなことされたなんて知ったら、ホント、卒倒するっていうか、通り越して、関係者全員殺しに来るんじゃないかって、二人とも言ってました」
「え、なにそれ」
「嘘だと思うでしょ?
 その人ね、むちゃくちゃメンタル弱いんです!いや、ある意味強いけど弱いんです!だから、朝のことなんて話したらホント、私のこと心配しすぎてマジメに不眠が加速して吐いちゃうかもしれない」

 ちょっとくらい大袈裟に言ってもいいよね、みっちゃん。半分くらい事実っぽいし。

「わ、わかった、落ち着こう、うん」
「私はどうでもいいんです、ただお兄さんに何かあったら私…」
「わかった、わかったから!」

 我ながら、なかなか役者である。

「あっ」
「な、なに!」

 ケータイのバイブが鳴ったので見てみる。

「着いたそうです」
「あ、そう…」
「ちょっと迎えに行ってきます」

 どうやら下駄箱にいるらしい。下駄箱付近まで行くと、女の子たちの黄色い声が聞こえて来てすぐに場所がわかった。

 声の方に行くと、愛想良くしながらも少し面倒臭そうなみっちゃんを発見。一応スーツを着てきたらしい。

「みっちゃん!」

 そう呼ぶとみっちゃんは、待ってましたと言わんばかりに「おぉ、小夜!」と言って手を上げた。靴を脱いで今にも駆けて来そうなので、私が小走りでみっちゃんの元へ向かった。

 改めて見ると、みっちゃんってちょっとやっぱり学校から浮いてるなぁ。仕方のないことなんだけどこれじゃぁ真面目なホストというかなんだろう、最早職業不詳だ。ちゃんとビジネススーツだから、より胡散臭いんだろうな。

 さっきの女の子たちに物凄く睨まれている気がするが気にしないことにしよう。

「靴は取り敢えず…」

 と言って靴を見たらなんだ、いつもは違和感なんてなかったけど、これ、バーカウンターで履いてる安全靴だ。一応ローファーに見えるけどさ…。

「靴、空いてるところに入れて」

 一番下の下駄箱に靴を入れた。一瞬、スリッパどうしようかと思ったが、みっちゃんはどうやら持参していたらしい。鞄からスリッパを出した。

 女の子の間を通って教室まで向かう。

「みっちゃん、スーツ…」
「おっさんと真里にすっげー笑われた。なんかインチキ営業マンみたいだって」
「うん。まさかこんな時にイケメンが損するなんてね」
「え、そんな変?」
「うんかなり。ホスト?いや、それにしてはちゃんとした格好してる、これはなんだ?って感じ」
「いやきっと見慣れてないだけだよ。
 てかさ、JKなんなの?怖いんだけど」
「あー、仕方ないよ」
「カツアゲされるかと思ったわ」

 その一言に思わず笑ってしまった。

「どうせならウチの広告でも持ってきたらよかったんじゃない?」
「ダメだよみんな未成年だもん」
「あそっか」

 教室の前まで来ると、みっちゃんは少し背筋を伸ばして深呼吸をした。

「そんなに緊張しなくてもいいんじゃない?」
「いやぁ…」
「開けるよ」
「あっ、まっ」

 構わず教室のドアを開けた。みっちゃんは一礼して、「遅うなってしまって申し訳ありません」と先生に普通に謝っていた。

 先生も立ち上がってお辞儀をしながら、「いえいえ。お忙しい中わざわざお越しいただき、すみません」と挨拶をしている。

 なんだか、商談みたいだ。

「うちの妹がいつもお世話になっております。保護者の志摩しま光也みつやと申します」

 少し緊張しているのか、若干京都訛りが出ている気がする。

「担任の荏田えだ崇人たかひとと申します。まぁ、お掛けください」

 荏田先生に促され、みっちゃんと私は席に座る。向かいに荏田先生が座った。

 明らかに先生も緊張している。
 まぁ前回のことがあって、さらに今回来たのがこんな胡散臭い人だったら、ちょっと先生、可哀想だ。

「先生大丈夫です。この人正真正銘の保護者です」
「え?」
「あ、そう言えば先生」
「はい?」
「俺の連絡先とか、学校側、知りませんよね?」

 しかもその保護者、マイペース。

「はぁ、そう言えば…」
「一応教えといた方がいいですよね?
 まぁこの子ちょっと複雑なんで…いまは俺が父親から預かってるんですけど…。父親の連絡先も一応教えておいた方がいいですか?
 とはいっても三重にいるので、ほとんどなんて言うんですかね…。
 多分何かあったとき、俺が父親に連絡をして、と言う方が面倒ではないと思います。
 けど、一応」
「あぁ、三重のお父様からは、確かに、親戚に預けたと言う連絡は受けました。で、最初は寮にいたんだけど…ってやつですよね?多分その時に連絡先聞いた気がするけど…」
「はい、そうです。あ、そうなんだ」
「一応確認のため…」

 と言って荏田先生は書類を見せた。確認すると「はい、合ってます」と言って頷いた。

「いやぁ、なんかよく店の方に小夜から連絡があるようなんで。もしかして知らんかったら一大事やなぁと思いまして。
 確認出来てよかったです」

 うわぁ、これがいわゆる京都の人の嫌味というやつか。これは直訳すると『学校の人が何故保護者に連絡を入れず生徒が保護者の職場に連絡してんだよ』という嫌味だろうな。凄く気さくな笑顔でさくっと本当に言うもんなんだなぁ。

「いえいえこちらこそ、よかったです」

 荏田先生、案外それには気付かず肩の力を抜いたようだ。危ないぞ、先生。みっちゃんのこの笑顔は偽物です。
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