36 / 90
ホワイトチョコレート
2
しおりを挟む
結局もやもやしたまま小夜が出勤してきた。なんか目が合わせられない。
しかしだ、よく考えろよ俺。まだ小夜に彼氏ができたと決まったわけではない。これから告白なら今小夜も悩んでいるかもしれない。
「柏原さん!折り入ってお願いがあります!」
いやそもそも友チョコかもしれない。そう、女子共に配るための、あれかもしれない。
「柏原さんお菓子得意ですよね?」
てかなんだってんだ、男出来たからってなんだ。もっとどんと構えろ俺。「ああ、そっか!よかったな!」くらい言えるようになれや俺。
「実はですね…」
おっさんと小夜が何やらこそこそ話してるのが見えた。新メニュー開発かな。
「ふっ…ははははは!あーいいよ!おっさんマジ協力するわ!」
ふとおっさんと目が合う。したらなんか更に爆笑された。なんだ、なんだ?
「絶対俺は、チョコはビター派だね!」
「はぁぁ!?」
聞き捨てならない。
「ビターかぁ…大人ですね柏原さん」
「大人の恋愛は、大体ビターの方がうまくいくの!」
「ちょっと待った!小夜!こっち来なさい!」
「あ!みっちゃんにも聞いてみよう!」
「え、えぇー!?」
何その発想怖いんだけど。
「小夜、ちょっと待って心の準備が…」
「え?どうしたのみっちゃん」
ここは大人。どんと構えろ。
奥でおっさんめっちゃ笑ってる。なんだこの状況。
「小夜!まずは仕事しろ!」
「はい!」
「あんたからも言ってよ光也さん!」
「え、え、マジ待って、え?」
「あれ?光也さん顔色悪い…」
「え?みっちゃん具合悪いの?」
「たんま!キャパ越えた!」
取り敢えずトイレに駆け込んで綺麗さっぱり吐き出した。「ちょっと光也さん!」とか、「大丈夫!?救急車!?」とか「水!水!」とか聞こえるけど待ってくれ、今は一人になりたい。
「ちょっと光也!お前一回休憩!事務所で寝てろ!だから出てこい!」
一通り落ち着いてトイレから出ると総動員。時計を見ると開店50分前。10分はトイレに居たらしい。半ば無理やりおっさんにバックヤードに連れていかれて。
ここにはバックヤードに仮眠室みたいなところがある。たまにおっさんが朝まで残るときに使っているらしい。
「ったく。お前ちょっと女々しいよね」
「姉ちゃんにも言われたことある」
「まぁ寝てろよ。そんなに顔面蒼白だとお客さんまで心配するからさっておぉ…真里がちょっと怖い顔で見てるから俺一回戻るわ」
とか言って店の方に戻っていった。確かに一回落ち着こう。そう思って寝転がったら真里が水を片手に入ってきた。
「おー、悪いな…」
「あんたホンっトふにゃちん」
言葉のわりになんか優しめに頭とか撫でてくる。どうやら相当心配させたらしい。
「あんた最悪パターン考えすぎでしょ。てか考えすぎでしょ」
「すんません」
「あくまでさ、保護者なんだからさ。てかいい年なんだからさ」
「はい、ごもっともです」
「いいじゃん、何かあったらサポートしてやれよ。今までだってそうだったでしょ」
「うん…」
「そんな悪いもんじゃないってか高々チョコレート会社の陰謀行事に何びびってんの」
「うん…そうだけどさ」
「何?」
「友チョコなら嬉しいよ。やっと友達出来たなとか」
「それと一緒じゃん。やっと好きな人出来たのか、いっちょ前に大人になりやがってって」
「いや嬉しいよ?嬉しいけどなんか複雑…」
「世のお父さんの気持ちがわかったね」
「あぁ、そっか」
こんな気持ちなのかな。世のお父さん方は。
「娘を捕られるんじゃないかって躍起になるお父さんみたいだね光也さん」
「うん…」
そっか。なるほど自分の中でも納得した。
俺はなんか、そーゆー気持ちなのか。
真里がいつになく優しく人の頭を撫でて、しかもなんか笑顔も優しい。
「具合よくなったらバリバリ働いてよ?柏原さん一人でカウンターと調理場キツいからね」
「はーい…」
「こら!そこ!イチャイチャしてんなよ!」
噂をすればなんかおっさんの声が聞こえたから。
「うぃっす」
真里はそう返事を返して店に戻ってった。
逆に良いパターンを考えてみよう。相手がもの凄く良いやつで、小夜のことを大切に思ってくれたら。
「それってすっげー幸せじゃねぇか」
俺らから漸く卒業出来たら、それくらいに良いやつを見つけてくれたら。寂しくもあるけどそれより嬉しいかもしれない。
不安定になるより、何かで安定してくれるなら。そのために俺は昔から小夜と一緒にいるんだろう。
その役目を果たしきったとき俺らは、果たしてどんな関係になるんだろうか。多分そこも不安なんだ。けどそれは、保護者として、あまりよくない考えなんだろうな。
いいじゃねぇか。もしそれで小夜と関係が切れても。むしろその方が小夜にはいいはずなんだ。
よし、吹っ切れた。なんか吹っ切れた。
今は今。やれることは大してないけど。取り敢えずあいつが人並みに幸せになれるならそれが一番良い。
つっても高校生だ、まだまだ先は長いかもしれない。それまでは、やれることをやってやるしかないんだから。
何を悩んでいたんだ俺。
ただひとつは、あんま傷付いて欲しくない。傷付いたとしても、いつかその傷が治癒するくらいの人がいたらいいな。それだけはホントに思うんだよ、小夜。
しかしだ、よく考えろよ俺。まだ小夜に彼氏ができたと決まったわけではない。これから告白なら今小夜も悩んでいるかもしれない。
「柏原さん!折り入ってお願いがあります!」
いやそもそも友チョコかもしれない。そう、女子共に配るための、あれかもしれない。
「柏原さんお菓子得意ですよね?」
てかなんだってんだ、男出来たからってなんだ。もっとどんと構えろ俺。「ああ、そっか!よかったな!」くらい言えるようになれや俺。
「実はですね…」
おっさんと小夜が何やらこそこそ話してるのが見えた。新メニュー開発かな。
「ふっ…ははははは!あーいいよ!おっさんマジ協力するわ!」
ふとおっさんと目が合う。したらなんか更に爆笑された。なんだ、なんだ?
「絶対俺は、チョコはビター派だね!」
「はぁぁ!?」
聞き捨てならない。
「ビターかぁ…大人ですね柏原さん」
「大人の恋愛は、大体ビターの方がうまくいくの!」
「ちょっと待った!小夜!こっち来なさい!」
「あ!みっちゃんにも聞いてみよう!」
「え、えぇー!?」
何その発想怖いんだけど。
「小夜、ちょっと待って心の準備が…」
「え?どうしたのみっちゃん」
ここは大人。どんと構えろ。
奥でおっさんめっちゃ笑ってる。なんだこの状況。
「小夜!まずは仕事しろ!」
「はい!」
「あんたからも言ってよ光也さん!」
「え、え、マジ待って、え?」
「あれ?光也さん顔色悪い…」
「え?みっちゃん具合悪いの?」
「たんま!キャパ越えた!」
取り敢えずトイレに駆け込んで綺麗さっぱり吐き出した。「ちょっと光也さん!」とか、「大丈夫!?救急車!?」とか「水!水!」とか聞こえるけど待ってくれ、今は一人になりたい。
「ちょっと光也!お前一回休憩!事務所で寝てろ!だから出てこい!」
一通り落ち着いてトイレから出ると総動員。時計を見ると開店50分前。10分はトイレに居たらしい。半ば無理やりおっさんにバックヤードに連れていかれて。
ここにはバックヤードに仮眠室みたいなところがある。たまにおっさんが朝まで残るときに使っているらしい。
「ったく。お前ちょっと女々しいよね」
「姉ちゃんにも言われたことある」
「まぁ寝てろよ。そんなに顔面蒼白だとお客さんまで心配するからさっておぉ…真里がちょっと怖い顔で見てるから俺一回戻るわ」
とか言って店の方に戻っていった。確かに一回落ち着こう。そう思って寝転がったら真里が水を片手に入ってきた。
「おー、悪いな…」
「あんたホンっトふにゃちん」
言葉のわりになんか優しめに頭とか撫でてくる。どうやら相当心配させたらしい。
「あんた最悪パターン考えすぎでしょ。てか考えすぎでしょ」
「すんません」
「あくまでさ、保護者なんだからさ。てかいい年なんだからさ」
「はい、ごもっともです」
「いいじゃん、何かあったらサポートしてやれよ。今までだってそうだったでしょ」
「うん…」
「そんな悪いもんじゃないってか高々チョコレート会社の陰謀行事に何びびってんの」
「うん…そうだけどさ」
「何?」
「友チョコなら嬉しいよ。やっと友達出来たなとか」
「それと一緒じゃん。やっと好きな人出来たのか、いっちょ前に大人になりやがってって」
「いや嬉しいよ?嬉しいけどなんか複雑…」
「世のお父さんの気持ちがわかったね」
「あぁ、そっか」
こんな気持ちなのかな。世のお父さん方は。
「娘を捕られるんじゃないかって躍起になるお父さんみたいだね光也さん」
「うん…」
そっか。なるほど自分の中でも納得した。
俺はなんか、そーゆー気持ちなのか。
真里がいつになく優しく人の頭を撫でて、しかもなんか笑顔も優しい。
「具合よくなったらバリバリ働いてよ?柏原さん一人でカウンターと調理場キツいからね」
「はーい…」
「こら!そこ!イチャイチャしてんなよ!」
噂をすればなんかおっさんの声が聞こえたから。
「うぃっす」
真里はそう返事を返して店に戻ってった。
逆に良いパターンを考えてみよう。相手がもの凄く良いやつで、小夜のことを大切に思ってくれたら。
「それってすっげー幸せじゃねぇか」
俺らから漸く卒業出来たら、それくらいに良いやつを見つけてくれたら。寂しくもあるけどそれより嬉しいかもしれない。
不安定になるより、何かで安定してくれるなら。そのために俺は昔から小夜と一緒にいるんだろう。
その役目を果たしきったとき俺らは、果たしてどんな関係になるんだろうか。多分そこも不安なんだ。けどそれは、保護者として、あまりよくない考えなんだろうな。
いいじゃねぇか。もしそれで小夜と関係が切れても。むしろその方が小夜にはいいはずなんだ。
よし、吹っ切れた。なんか吹っ切れた。
今は今。やれることは大してないけど。取り敢えずあいつが人並みに幸せになれるならそれが一番良い。
つっても高校生だ、まだまだ先は長いかもしれない。それまでは、やれることをやってやるしかないんだから。
何を悩んでいたんだ俺。
ただひとつは、あんま傷付いて欲しくない。傷付いたとしても、いつかその傷が治癒するくらいの人がいたらいいな。それだけはホントに思うんだよ、小夜。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる