紫陽花

二色燕𠀋

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アダージョ

9

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 店の前。シャッターが閉まっていたので電話をした。ケータイ画面に不在着信があれから何件か入っているらしいが最早見ないことにした。
 電話してすぐ雪子さんはシャッターを開けてくれた。

「ごめんね…わざわざありがとう」

 見たところ昨日より、顔色は良さそうだ。

「顔色は悪くなさそうでよかった」
「まぁ入って。ご飯食べた?」
「それは俺が聞こうかどうか迷ってましたよ。お邪魔します」

 雪子さんのあとについて店先から、奥の暖簾をくぐって居間にお邪魔する。靴箱どこだろう。

「あ、靴はねぇ…下に引き出しが隠されてるからそこを引っ張って!」

 え?なに?

 よーく探してみると確かに、段差のところに微妙な窪みが。手を入れて引っ張ってみると開いた。

「すげぇ…」

 脱出ゲームなら間違いなくヒントが隠されている場所だ。

 取り敢えずそこに靴を入れて振り返ると、居間の堀炬燵に雪子さんはいない。横の台所で作業をしていた。多分お茶かなんか用意してくれてるんだ。

「雪子さん、ありがとう。大丈夫ですよ」
「喉がちょっと掠れて咳が出るくらいで、あとは大丈夫よ」
「熱は?」
「朝計ったら7.2まで下がってた」
「おぉ、よかった。まだでも微熱かな。雪子さん、飯食いました?」
「まだ…」
「作ってもいい?」
「え、そんな、悪いって!」
「いやいやこんな時は甘えてください。あ、それとも…」
「ん?」
「俺あの時わりと久しぶりにガチで作ったからなぁ…あんまり美味くなかった?」

 ちょっと意地悪を言ってみたくなった。見事に雪子さんは焦って、「いや、美味しかった、うん。それはもう…」とか言ってる。

「よかった。やっぱり料理は美味しいって言われると気持ちが良いね」

 半ば強引に押しきった感は否めないがまぁいいだろう。取り敢えず手洗いうがいをして考える。

「あんかけやきそば!」
「え?」
「いやぁ、朝のはそんなに喉通りが良いもんじゃなかったかなと思って」
「…ありがとう。うん」

 メニュー決定。作っているうちに気付いた。そう言えば昔、真里と住み始めた日、作ってくれたのってこれじゃなかったっけなと。

 意外とちゃちゃっとは出来ない料理。あの時多分真里もちょっと考えながら、こうして作ったんだろうね。

 出来上がって持って行ってみると、「わぁ…」と呟く。なんだろ。

「凄い…」
「え?」
「いただきます!」

 雪子さんは嬉しそうにそして美味しそうに食べてくれた。この調子なら具合は大丈夫かな。

「美味しい!」
「よかった。俺実は初めてなんとなくで作ったから…」
「あら、そうなんだ。光也くんは?」
「俺は大丈夫。いやぁ、上手くいってよかったー」
「なんかホント、ありがとう…」

 ふと、雪子さんは俺が起きっぱにしてしまった荷物をぼんやりと見つめていた。気まずいな。

「食べたら取り敢えず、薬飲んで寝たら治りそうかな?食欲あるんじゃ、大丈夫そう?」
「そうね…。
 実はね、食欲なかったんだけど…久々に光也くんに作ってもらったご飯、凄く嬉しくて、しかも美味しそうで…朝も、こうして昼も、食べてるの」
「そっか」
「人を元気にするご飯、良いわね。私も作ってみたい」
「じゃぁ元気になったら作ってもらおうかなー」
「下手っぴよ?」
「大丈夫。一人で生きてこれた人は大体そこそこ出来るから」
「うーん」
「ダメなら教えますよ」

 少し辛そうだけどやっぱりいつものほっとする笑顔だ。
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